第7学区、第34警備員出張所の活動記録   作:あきとし

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 皆さんこんにちは。前回「仲間と戦友(なかま)」では、カエル先生から様々なことを教えられた芝浦先生は恵のボディーガードをすることを決めましたね。そして更には同居まですることになってしまいました。果たして新居はどんなところなのか。しかしその前に、今回は普通の日常回となりそうです。
 それではお待たせしました。ごゆるりとお楽しみください。


第13話「始まることと始まってしまったこと」

 ―俺はヒリヒリと痛む頬をさすりながら、恵に声をかける。

 

 「なぁ恵、これは俺からの提案なんだが、一緒に暮らしてみるってのはどうだ?」

 

 恵はその言葉の意味が分からず、ぽかんと口を開ける。しかし直後、冷たい視線を送りつつこう言ってきた。

 

 「・・・芝浦先生、ついに頭イカれちゃいました?はっ!?まさかさっき芝浦先生の頭を思いっきりひっぱたいたせいで・・・!?」

 

 「ちげぇよ!さっきカエル先生から頼まれたんだよ!恵のボディーガードになってくれって!それで一番いい方法が、同居生活ってだけだよ!」

 

 それを聞いた恵は納得したようだが、何やらニヤけ顔でからかってきた。

 

 「へぇ~?でも芝浦先生と一緒に暮らして大丈夫かなぁ。もしかしたら私の貞操が危ないかもしれないしぃ~。」

 

 それはどっちの意味で言っているのか分からなかったが、少しだけ頭にきた俺は仕返しをすることにした。

 

 「ああそうかよ、だったらもういい。今からカエル先生のとこに行って取り消してくる!」

 

 そして病室を出ていこうとする俺を、恵が捕まえてきた。

 

 「ちょ、ちょっと待ってよ芝浦先生!嘘ですごめんなさい!一緒に暮らしたいですっ!!」

 

 先ほどまでの余裕はどこへやら。予想以上に必死にお願いしてくる恵を見て、俺は仕返しをやめる。

 

 「まったく・・・、ほら、もう時間もないし、早く着替えな?」

 

 優しく声をかけてくる俺に安心したのか、恵は腕に込めていた力を緩めて、自分の寝ていたベッドサイドで着替え始める。

 

 「あのー、恵さん?つかぬことをお聞きしますけどカーテンは閉めないので?」

 

 俺が指摘すると、恵は病院服を脱ぎかけていた手を止め、恥ずかしそうに顔を赤らめながらカーテンを閉めたのだった。俺はそれをやれやれといった風に見届けると、自分のベッドサイドのカーテンを閉めて着替え始めた。

 

 しかし着替えというものは、どうしてこうも想像力を無駄に掻き立てられてしまうのだろうか。カーテンという布一枚で遮られた視界の向こうから聞こえてくる、衣服の擦れ合ったりする音が耳に入るたびに余計な妄想をしてしまいそうになる。すると、何やら向こうの方から恵の声が聞こえてきた。

 

 「芝浦先生と同居かぁ・・・、ふふふ、むふふふふ、えへへへへ・・・・・・。」

 

 ・・・一体、何を想像しているのかは知らないが、あまりよろしくないことを考えているだろうことは手に取るようにわかるな・・・。

 そして着替え終わり、総合エントランスへと向かおうとした時、恵が俺の服の裾を摘まみ、小さな声でこう言ってきた。

 

 「・・・手、繋いでください・・・。」

 

 潤んだ瞳で言ってくる恵を前にし、その願いを断る理由もない俺は優しく恵の手を掴む。しかし次に、恵の方から指を絡めてきた。俗にいう『恋人繋ぎ』というやつだ。そして恵は俺に笑顔を向けてきた。俺はそれを見て、しっかりと握り返して恵に笑い返す。そして一緒に総合エントランスへと降りて行った。

 

 

 「―先生?芝浦先生ってば、聞いてる?って、なんかニヤけてるし・・・。」

 

 まだまだ7月の初夏ということもあり、若干16時半では太陽はまだ頭上高く、容赦ない紫外線と熱を送ってくる。俺と恵はその下を、ファミレスのJoseph’sに向かって歩いていた。

 

 「ん?ああ、ごめん、ちょっと考え事をな。」

 

 俺がそう言うと、恵が不思議そうな顔で聞き返してくる。

 

 「えー、何考えてたの?・・・あ、もしかしてまたいやらしいこと考えてたんでしょー。」

 

 しかし直後にいたずらな笑みを浮かべて、俺をからかってきた。

 

 「なぜそうなる・・・。それよりも、―あっ!」

 

 俺はふと、重要なことを思い出す。恵が再び不思議そうな顔になる。そして俺は携帯電話を取り出し、恵に断りを入れる。

 

 「ちょっとだけ電話しても大丈夫?暑いと思うから、そこの日陰になってるベンチで休んでて。」

 

 恵はそれを聞くと、頷いてベンチに座った。俺はJoseph’sへと電話をかける。今日の朝一で電話しようと思っていたのをすっかり忘れていた。しばらくしてJoseph’sにつながり、女性店員が電話口に出る。

 

 「・・・あ、もしもし、先日バイクのヘルメットなどを預けた芝浦と申しますが・・・、はい、はい、あ、そうです。ちょっと入院してしまいまして・・・。・・・いえ、今日退院して、今からそちらに向かいますので、はい、はい、・・・失礼します。」

 

 うん、普通に優しい店員さんで助かったな。それにどうやらあの事件はニュースにもなっていたらしく、その甲斐もあって事なきを得た。しかし迷惑をかけたことに変わりはない。なにかお詫びでも持っていこう。そして俺はベンチに座っている恵のもとへと向かう。

 

 「お待たせ、ちょっとこの後に百貨店に行こうと思うんだけど、疲れてない?」

 

 俺がそう聞くと、恵は笑顔でこう言うのだった。

 

 「うん、大丈夫だよ。疲れたら芝浦先生にお姫様抱っこしてもらうから。」

 

 

 ――まさか本当にお姫様抱っこをすることになるとは・・・。俺は今、猛烈な恥ずかしさと恵の体温を含む暑さと戦っていた。道行く人が俺と恵の姿を見て、クスクスと笑っているのが先ほどから目に入る。

 あの後はしばらく歩いていたが案の定、恵が疲れてきてしまい、そして冗談だと思っていた『お姫様抱っこ』はこうして実行に移されているのである。もちろん単純に疲労しただけならこんな事をする必要はない。なぜ俺がこの方法を取っているか、それは単純明快かつ、簡単な理由である。

 恵が疲れてよろけてしまったときに、軽く右足首をねん挫したのだ。だったら「集中治療」で治せばいいじゃないかと思うだろうが、昨日の今日で再び能力を使うわけにもいかず、とりあえず百貨店で包帯や湿布などを買うまでの間はこうして悪化を防ぐことにしたのである。最初は恥ずかしがっていた恵も今となっては「お姫様」そのものである。

 

 「ほらほら、先生ガンバレっ、先生ガンバレっ、あとでジュース買ってあげるから♪」

 

 恵がハンカチで俺の汗を拭いながら応援してくる。俺はもう何も考えずに歩みを進めることにした。百貨店まではまだ、恐らく10分くらいはかかるだろう。それまでに熱中症にならなければいいが・・・。

 

 

 「つ、着いたぁ・・・。」

 

 ようやく百貨店に到着し、店内のベンチに恵を座らせる。

 

 「お疲れさまー芝浦先生。それじゃあ約束通りジュースを奢ってあげよう~。」

 

 恵はそう言うと、俺に120円を渡してきた。

 

 「これで好きなの買ってきて良いよ、あ、私は黒豆サイダーね。」

 

 結局はプラマイゼロじゃねぇか・・・。と思いつつ、俺は答える。

 

 「良いよ、どうせこの後に包帯とか買って応急処置するんだし。それはとっときな。」

 

 そして俺は自販機で黒豆サイダーとSURVIVAL+1を買った。それらを手に恵のもとへと戻る。そして恵に黒豆サイダーを手渡すと、俺はSURVIVAL+1を一気に流し込んだ。火照って乾ききった体に冷たいスポーツドリンク風味が沁みわたっていくのを感じる。それを見ていた恵が俺を自分の隣に呼ぶ。

 

 俺は恵の隣に座り、どうしたのかと聞いてみるが何故かこっちを向いてくれない。俺が不思議に思っていると、恵は黒豆サイダーを一口。そして―。

 

 「んむっ!?」

 

 俺の口内に広がる黒豆サイダーの炭酸と風味。そして唇に伝わってくる柔らかな感触と、黒豆サイダーでもSURVIVAL+1の風味でもないまた別の甘み。それらのブレンドされた『味』が、俺の脳内回路を支配していく。当然のごとく訳も分からず体が固まる。

 一体どれくらい続いたのか、時間感覚が曖昧なままその感触は無くなり、そして目の前には耳まで赤くなって黒豆サイダーを手に持っている恵の姿があった。俺が声をかけるべきかどうか迷っていると、恵が静かに口を開いた。

 

 「・・・今のが、さっき言ってた『ジュース』だから・・・。」

 

 その声は少しだけ震えていた。俺はその姿がたまらなく愛おしくなり、そして恵を抱きしめ―、たくなったがそれをやめる。なぜなら百貨店という場所柄、人目の多い場所であるために、先ほどの光景は不特定多数の見知らぬ客に見られてしまっていたからだ。現に今、数人のギャルっぽい女学生がこちらに携帯のカメラを向けている。

 

 「め、恵っ!さっさと買い物終わらせるぞ!」

 

 俺の反応で恵も気付いたのだろう。慌てて立ち上がる。

 

 「そっ、そうですねっ!そうしまっ―。」

 

 『グキッ』という音とともに、恵はその場に崩れ落ちたのだった。

 

 

 買い物を終え、俺は恵の足首に応急処置を施していた。先ほどよりも腫れが強まり、明らかに悪化している。恵は半分涙目になりながら手当てを受けていた。

 

 「・・・これでよしっと、後は家に帰ってからしっかり冷やさないとなぁ。今はこれしかできないから、早く帰るぞ?」

 

 そして俺は恵に背を向け、そこにしゃがむ。

 

 「芝浦先生?」

 

 「ほら、おぶってやるから早く乗れ。さっきみたいなお姫様抱っこはこの荷物じゃ無理だからな。」

 

 俺の手には、先ほど買ったお菓子の詰め合わせの入っている紙袋と、薬局のレジ袋が握られている。そして背中に感じる心地よい重量感を確かめると、俺は立ち上がってJoseph’sへと向かい始める。

 

 「ねぇ、芝浦先生?」

 

 恵が俺に話しかけてくる。

 

 「どうした?」

 

 「なんかその・・・、ごめんね?いろいろ迷惑かけちゃって・・・。」

 

 恵は唐突に謝ってきた。俺はそれを聞くと、明るい声で答える。

 

 「何言ってんだ、しょうがないだろ。足首を怪我したのもそうだし、それに坂上の事だって恵のせいじゃない。そこに勝手に首を突っ込んだのは俺の方だよ。だから恵は何も悪くない。大丈夫。俺が護ってやるから安心しろ。こう見えて警備員の分隊長なんだからな?」

 

 恵はそれを聞くと、俺の首元に息を吹きかけてきた。ゾワッとした感触に俺は変な声を上げそうになる。

 

 「―っ!!!おいっ!やめろって!」

 

 「ふっふっふっ、既にマウントは取っているのだよ芝浦くん?」

 

 そして繰り返される連続攻撃。恵を振り落とすわけにもいかず、かと言って防御策もない俺はJoseph’sに着くまでの間、その『攻撃』に耐えるしかなかった・・・。

 

 

 ようやくJoseph’sに着いた俺は、まだ首の後ろに違和感を感じつつも、店員にお詫びの詰め合わせを渡してバイクの元へと戻る。そこには恵がバイクを興味深そうに眺める光景があった。

 

 「よう、お待たせ。」

 

 俺が声をかけると恵が振り返って笑顔を見せる。そして、バイク乗りならとても嬉しい一言を放った。

 

 「ね、芝浦先生、このバイクカッコいいね!」

 

 俺はそれを聞き、満面の笑みで恵に答える。

 

 「おうよ、カッケェだろ?今からこれに乗って一緒に帰るんだからな。」

 

 そして恵に、本来なら初春に貸すはずだったヘルメットを手渡す。

 

 「えっ!?今から一緒に乗るの!?ちょっと怖いかも・・・。」

 

 しかし恵は不安そうだ。

 

 「大丈夫だよ。ゆっくり走るから。絶対に怖い走り方はしない。」

 

 俺は恵の目をまっすぐに見据えてそう言い切った。それを聞き、恵はヘルメットを被る。俺もヘルメットを被り、そしてバイクの指紋認証を行う。そしてバイクのAI音声が起動する。

 

 「指紋認証・・・照合を確認。おかえりなさい芝浦さん。エンジン正常、タイヤの空気圧は適正値。ガソリン残量は65%。オイル温度は若干低めですが、問題ありません。前後ブレーキによるタイヤロックを解除します。Enjoy for you’re Driving!」

 

それを聞いた恵は「ふおぉぉぉおお!!」とか言ってワクワクしていた。それを見て俺も顔が緩む。

 「カチンッ」という音と共にロックが解除される。サイドスタンドを蹴り上げてバイクのセルボタンを押し、エンジンを始動すると、「ブォンッ」というエンジンの音が鳴り、再びAIが自己診断を行う。

 

 「エンジン始動。回転数正常。ギアニュートラル。発進準備、完了しました。」

 

 そして俺は恵に乗り方を指示していく。

 

 「よし、それじゃあまずは俺の肩に手をかけて、そこのステップに足を乗せて、・・・そう、それでいい。そしたらそのまま乗っちゃって。よし、それじゃあ腕を腰に回して、しっかりつかまってて。」

 

 そして恵が乗ったことを確認した俺は、ギアを入れてスロットルをひねる。ゆっくりと走り出したバイクは、そのまま学園都市のオレンジ色に消えていった。

 

 

 そして新しい家へと到着。無駄に広い車庫へとバイクを止め、エンジンを切る。

 

 「よし、やっと着いたな。恵、自分で降りれそうか?」

 

 恵は首を横に振る。ねん挫している足首を降りる際、最初に地面につかなければいけないので、自力では降りられないようだ。

 

 「んー、ちょっと待っててな。」

 

 俺はサイドスタンドを出し、バイクを安定させる。そして背負っていたリュックを地面に捨てて、恵に声をかける。

 

 「よし、そのまま俺の背中に乗っかれるか?」

 

 そして再び恵の体重を感じる。そして俺は恵を背負ったままバイクから降り、リュックを拾うと玄関へと向かった。

 

 

 「なんていうか・・・。」

 

 「すごいね、この家・・・?」

 

 俺と恵は玄関に来ただけで圧倒されていた。それもそのはず、玄関を開けるためには指紋認証、網膜認証、声紋認証、物理的2重ロックの解除、セキュリティコードの入力が必要だったからだ。流石に警備員の施設でもここまでのセキュリティはあまり見ない。そのセキュリティ端末を目の当たりにして、果たして今日中に家に入れるのかと不安になってくる。

 

 「あ、そういえば・・・。ちょっと降りれるか?」

 

 俺はそう言うと恵を降ろし、カエル先生にもらったメモを広げる。

 

 「えーと、なになに?『玄関の開け方は見てもらうと分かると思うが、かなりセキュリティは厳重でね。だけど一番最初にかかっているのは物理的2重ロックだけだから、それを鍵で開けて入ってもらえるかな。鍵は君のバイク用ポーチに入っているはずだよ。』・・・マジか、鍵・・・鍵・・・、あった、これか!」

 

 そして2本の鍵をそれぞれの鍵穴にさし、ロックを解除する。ようやく玄関が開き、家の中へと入る。

 

 「ふぅ・・・、恵、とりあえず休んでな。いろいろ準備しちゃうから。」

 

 家の中は段ボールでいっぱいだった。今からこれらを片付けていかなければならない。恵は靴を脱ぎ、リビングに向かうとさっそく備え付けてあるエアコンで涼み始めた。それを見て俺は日常が返ってきたことを実感すると同時に、これから始まる新たな生活には期待と不安の入り混じっている気持ちでいっぱいだった。

 

 

 果たして警備員の仕事をしながら、俺はこの少女を護り抜くことができるのだろうか―。




 まずはここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか。是非皆さんの意見・感想などを教えていただけたら幸いです。また、誤っている点などありましたら遠慮なく教えていただけると助かります。
 さて、今回もアニメの方では前回と同様の時間軸のお話となります。うん、普通の日常回でしたね。つか芝浦先生と恵がイチャイチャしすぎて、そろそろ本質的なところを書いていかないと読者の皆さんから怒りを買いそうで怖いですね・・・。
 そして次回、ようやく新居に着いた二人の新たな生活がスタートしていきます。どんな生活になるのでしょうか。そしてもちろん何も起きないわけもなく・・・!?
 次回、第14話「『今まで』と『これから』」また読んでくだされば嬉しいです。ではまたいつか。
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