第7学区、第34警備員出張所の活動記録   作:あきとし

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 皆さんこんにちは。前回から少し、間が開いてしまいましたね。楽しみにしていた方には申し訳なかったです。ごめんなさい。
 さて、前回「始まることと始まってしまったこと」は普通の日常回でしたね。はい。ただただ芝浦先生と恵がイチャラブしただけで終わりました。ですが今回は、そんな甘ったるいものではない!・・・と言いたいですが、果たしてどうなるのでしょうか。
 それではお待たせしました。ごゆるりとお楽しみください。


第14話「『今まで』と『これから』」

 「・・・よっし、こんなもんかな。」

 

 初めは今日中に片付けるのは無理かと思っていた無数の段ボールとの戦いに、ようやく終わりが見えてきた。しかし俺ができるのはあくまでも自分の荷物と、プライバシーに触れない範囲での恵の荷物であるため、俺はリビングでくつろいでいる恵に声をかける。

 

 「恵―、一応ある程度は片付けといたから、個人的なものは頼んだぞ。」

 

 しかし恵は、俺にこう答える。

 

 「えー・・・、今日はもう疲れちゃったし、明日でもいい?」

 

 俺は早く段ボールをまとめたかったので、毅然とした態度で応える。

 

 「いーや、今からやりなさい。」

 

 それを聞くと、恵は少しだけ頬を膨らませて自分の荷物に手を付ける。そこで俺は、ある交換条件を提示した。

 

 「ふふん、今日の晩御飯、俺が手作りしてやろうか?」

 

 それを聞いた恵は、一瞬フリーズしたのちに目を輝かせる。そして猛烈な速さで片付け始めた。

 

 「おいおい、あんまり無理すると、足に響くぞ?」

 

 俺は半分心配になりつつも、しかし浮かれた気持ちでキッチンへと向かう。

 

 

 この家に来て、そして一通り見て分かったことは、まず地下1階、地上2階建ての洋式一軒家である事、生活スペースは地上2階に集約されていて、1階にはリビング、システムキッチン、バスルーム、トイレ等があり、2階には俺と恵の部屋、ベランダ、トイレ、簡易セキュリティコンソールがある。

 そして地下1階に関しては、この家の最重要区域であり、心臓部ともいえるエリアだった。まず、そもそも地下へ行く扉自体が圧延鋼板(あつえんこうばん)製の防弾ドア。そのドアにも物理、指紋、網膜、セキュリティコードによるロックが、内と外の両方からかけられる。更に内側のハッチをロックすれば、爆発にも耐えることができる。そして中に入るとそこは対爆シェルターとなっており、銃弾とほとんどの爆発に耐える事ができるため、非常時の避難に用いることができる。

 地下室の中には、セキュリティ管理用デスク、武器庫、非常時用生活スペース、救難信号発信機などがあり、まるで秘密基地のようである。食料なども備蓄されており、この部屋だけで成人2名が最大1週間、電気、水道、ガス等のライフラインが途絶えた状態でも生活が可能だ。武器庫には警備員に支給されている防弾装備、武装、弾薬が一式そろっており、それとは別に、恵が非常時に着用するためのボディーアーマーと防弾ヘルメット、救急キットが用意されていた。

 さらにセキュリティ管理用デスクは、この家の全てのセキュリティシステムを管理することができ、逆に言えばここを制圧されると、かなりまずい状況になる。しかしこの部屋の電子的ロックに関しては2階にある簡易セキュリティコンソールで管理できるため、離れていてもロックは掛けられる。

 ちなみにこの家のセキュリティシステムは、それこそ万全を通り越して、もはや要塞レベルにあることも分かったことである。まず第一にこの家の全ての外壁は防弾素材で造られていること。ガラスに関しても拳銃弾程度ではあるが防弾可能であり、非常時には防弾シャッターを降ろすことができること。そして地下へ行くためのドア以外のセキュリティを管理するのは、コンソールや管理センターでももちろん可能であるが、自律型AIによる管理もされており、声紋を登録した人であればそのAIに指示を出すことができる。ただしこの登録は最大2名であるため、俺と恵の声紋を既に登録済みだ。更にはこの家の外周、半径30mのエリアは全ての動的物体を自動的に監視、補足することが可能で、必要があれば外周4箇所に設置されている12.7mmタレットで迎撃できる。そしてそれをサポートする自律飛行型ドローンも4機(うち1機は医療用)配備されており、必要があれば自宅上空から監視、あるいは負傷者の救護に用いることができる。

 極めつけは庭に設置されている電磁フェンスであり、展開すると高さ10mの範囲までをカバーでき、そのフェンスに触れた場合は24時間、身体機能がマヒして動けなくなる。

 

 しかしこれらを見て、ここまでのセキュリティを敷かなければならないほどに俺の仕事・・・、恵のボディーガードという仕事には責任が伴い、またそれだけ重要であるともいえるだろう。はっきりとしたビジョンの見えない敵との戦いに、俺はどう立ち向かっていけばいいのか。その答えはすぐには出せそうにない。

 

 しかしそんなことを言っていても仕方がないので、今はできることをするしかない。そう、例えば今、俺が晩御飯を作ろうとしているように―。

 

 「あれ?」

 

 何か材料は無いものかと冷蔵庫を開けたが、しかし中身は空っぽだった。今になってそれも当然だと思い知る。ここは新しく引っ越してきたため、冷蔵庫には何一つとして食材は入っていなかったのだ。しかし調味料などは一式揃っている。ということは、保存などの兼ね合いから食材はすべて廃棄処分されたと考えていいだろう。

 さて困った。恵は自室で段ボールと絶賛格闘中だ。今から買いに行くとしても、恵が家で一人になってしまう。しかし買いに行かなければ今夜のご飯は抜きだ。俺はしばらく考えたのちに、セキュリティ管理AI「REX」を呼び出す。

 

 「REX、ちょっといいか?」

 

 男声の電子音声が答える。

 

 「はい、お呼びでしょうかマスター?」

 

 「今から買い物に出かけたいんだが、恵の安全を最大限、確保しておいてほしいんだ。出来るか?」

 

 俺がそう聞くと、抑揚はあまりないはずの電子音声が、どこか自慢げに答えてきた。

 

 「はい、マスターと恵さまの安全を確保するためのプログラムは、最大で100通りございます。様々な状況に完璧に対応して見せましょう。」

 

 俺はそれを聞くと、頼もしく感じた。彼ならうまくやってくれるだろう。

 

 「よし、それじゃあ頼んだぞ。あ、それと恵に何かあったらすぐに連絡を。俺が帰ってくるまでは、絶対に家の鍵を開けるな。そして危険がせまったら容赦せずに排除しろ。いいな?」

 

 「お任せください。恵さまとこの家は、私が守って見せますよ。お帰りをお待ちしています。」

 

 相変わらず頼もしいイケボで答えるREXにセキュリティを任せた俺は、2階にいる恵に声をかける。

 

 「恵ー?ちょっと今から出かけてくるけど、すぐに帰ってくる帰ってくるから留守番頼んだぞー。」

 

 「えっ!?ちょっと待って!私も一緒に行く!」

 

 「駄目だ、足を怪我してるんだから大人しくしてなさい。家のセキュリティはREXが管理してくれるから、大丈夫だよ。」

 

 それを聞いた恵は2階から降りてくると、俺の顔を見上げてきた。

 

 「ねぇ、じゃあさ、お出かけ前のキス、して?」

 

 そして悪戯(いたずら)っぽく笑いながらそう言ってきた。俺はそれを聞き、ごく自然に恵の唇を奪った。まるで恵が予想していなかったかのように。そして軽いキスを終える。

 

 「それじゃあ行ってくる。すぐに帰ってくるから。」

 

 恵の頭を撫でながらそう言うと、俺は今日の食材を買い出しに行った。恵は顔を真っ赤にさせて、俺の言葉は届いていなかったように思えた。

 

 

 そして俺は徒歩で、自宅から数十分の距離にあるスーパーへと向かった。今日の晩御飯の献立を考えながら、俺は歩みを進めていく。時刻は18時半を回っていた。いよいよ太陽も夕闇の向こうへと沈もうとしている。すると、携帯の着信が鳴った。発信者は・・・「REX」。俺はすぐに電話に出る。

 

 「どうした!何があった!?」

 

 そして抑揚のない声で応える電子音声。

 

 「テスト通話を実行しました。結果は成功です。」

 

 俺はそれを聞き、呆気にとられる。テスト通話・・・だと?

 

 「えっと・・・、つまり家では何も起こってないんだな?」

 

 「はい。自宅は至って平穏かつ良好な環境を保っております。恵さまの安全は100%確保しております。」

 

 「そ、そうか・・・、それならいいんだ。わざわざありがとう。」

 

 「はい。それでは通話を終了します。」

 

 そして電話を切り、俺は一人で苦笑する。その後は特に何もなく、予定していた買い出しを終えて帰路についた。家では恵がお腹を空かせて待っていることだろう。足早に家に向かう。

 ―しばらく歩いていると、ふと聞き覚えのある声が俺の耳に入った。

 

 「おやおや、これはこれは芝浦先生。お買い物の帰りですかな?」

 

 俺はその声が耳に入った瞬間、背筋を寒気が走り抜けるような感覚に襲われた。そして後ろを振り返る。この声は―!

 

 「何の用だ、坂上!」

 

 そこに立っていたのは、病院で恵に言い寄ってきた、小太りの40半ばであろうあの男であった。あの時と同じように、その視線には不気味な色が宿っている。俺が声をかけると、坂上は再び口を開く。

 

 「いえいえいえ、特に用と言うほどのものでもないのですがね、強いて言うなれば、『警告』しに来たとでも言えばいいですかねぇ。近いうちに貴方は死ぬことになるでしょうからねぇ。ヒェッ、ヒェッ、ヒェッ。」

 

 気味の悪い笑いと共に告げられた言葉は、それこそ寒気を通り越して、悪寒を感じるほどに真実味を帯びていた。ついに実力行使に出るということだろうか・・・。しかし俺はどうなっても構わない。恵が無事ならばそれでいい。そんなことを想っていると、坂上は薄ら笑いを浮かべ、こう告げるのだった。

 

 「―ま、貴方を勝手に殺すのも忍びないのでねぇ、まずは私の大事な大事なお姫様(実験体)を、私の根城へとご招待させていただきましたよぉ。既に彼らは仕事をしているでしょうねぇ。」

 

 俺はそれを聞き、一気に心臓が跳ねた。そして携帯の着信が鳴る。発信者は、「REX」。

 俺は坂上を一瞥すると、(きびす)を返して家へと走った。全力で。それと同時に携帯に出る。

 

 「どうした!状況を教えろ!」

 

 そして抑揚のないはずの電子音声が、どこか焦った雰囲気でこう言うのだった。

 

 「非常事態が発生しました。接近者を6名補足。いずれも能力者のようです。現在、レベル4の警戒態勢を敷き、迎撃態勢に入っています。実力行使の許可をお願いします。」

 

 どうやら非常にまずい状況になっているようだ。俺は即答する。

 

 「遠慮するな!相手を全員、無力化しろ!」

 

 それを聞いたREXは、待ってましたと言わんばかりに答える。

 

 「了解、電磁フェンスを最大出力で展開、警備ドローン展開、タレット発射準備完了、全ドアのロック及び、防弾シャッター展開。戦闘準備、完了しました。」

 

 「よし!俺が行くまで時間稼ぎを頼む!」

 

 そして俺は電話を切り、とにかく走った。頼む、間に合ってくれっ!

 

 

 

 家が見えてきたというところで、俺はとんでもない光景を目にする。既に電磁フェンスは突破され、タレットによる乾いた連射音が鳴り響いていたのだ。しかしそこで、マニュアルにも載っていなかったセキュリティが発動していることに気付く。それは、電磁フェンスの内側に、薄く光る赤い壁を展開していた。高さは・・・3mくらいだろうか。そしてそれに触れた相手の一人の腕が、まるで元々そこから先が繋がっていなかったかのように、少し湯気を出したかと思えば音もなく落ちていった。そしてその後に響いたのは、魂切(たまぎ)る絶叫。なるほど、あれはどうやら殺傷性の超高温レーザー防壁らしい。

 しかし、その光景を目にしたにも関わらず、他の仲間と思しき連中は引く気配はない。そして一人がその防壁へと突っ込んでいった。そして、その防壁を『すり抜けた』ように見えた。しかし疑問は直後に解消される。REXは防壁を突破され、次いで12.7mm弾の豪雨を浴びせたものの、そいつは平然と立っていた。恐らくは、体表面に何らかの強力なバリアをまとっているのだろう。俺はその光景を前に、思わず怖気づいてしまう。

 

 「まさか・・・、あれは・・・!?」

 

 噂には聞いたことがある。確か圧縮した窒素の塊を生成して、体表面に堅いバリアを形成できる能力があると。確か能力名は・・・。

 

 「・・・窒素装甲・・・だと!?」

 

 

 俺のその声が聞こえたのだろう。その仲間と思しき男が襲い掛かってきた。俺はレジ袋を置き、特殊警棒で応戦する。

 

 「くっ・・・!貴様ら、一体何者だ!?」

 

 男に問う。しかし男は無言のまま、能力を発動してきた。これは、発火系能力!?

 辛くも攻撃をかわした俺は、一瞬の隙をついて反撃に転じる。そして男の鳩尾(みぞおち)に一突き。次いで足を取り転倒させ、後ろ手に拘束すると手錠をかける。男は痛みで気絶し、動かなくなった。

 

 「くそっ、あと何人いるんだ!?」

 

 見る限りでは、おそらくリーダーであろう『窒素装甲』を使っている能力者が一人、腕を無くした男が一人、そして銃で援護をしている男が3人である。しかしそこで、俺は疑問を抱く。

 

 「(銃?能力者なのに銃を使ってるってことは、戦闘向きじゃないのか或いは、強度が低いのか・・・?)」

 

 しかし考えていても仕方がない。手始めに俺は、腕をなくした男のもとへと走り寄る。それに気づいた男はこちらを一瞥したが、戦意喪失しており抵抗はしてこなかった。

 

 「警備員だ!抵抗はよせ。傷に障るぞ。」

 

 俺はそう言うと、予備のハンドカフで片腕を近くにあったポールに拘束、もう片方の腕に応急手当を施し、そして銃を持っている男たちのもとへと向かう。

 

 

 「せあっ!!」

 

 警棒による不意打ち。右腕を殴られた男は驚いた表情を見せ、直後に顔が歪む。腕は変な方向に曲がり、完全に折れていた。続いて連撃を加える。左わき腹を殴られた男はうめき声をあげ、その場に倒れこんだ。しかしそれにより気付かれてしまい、こちらに弾丸の雨が襲い来る。俺はとっさに物陰に隠れ、その銃弾を(かわ)す。

 

 「(クソッ、このままじゃ(らち)が明かない!仕方ない、こうなったら・・・!)」

 

 銃撃が止んだ一瞬、相手が弾倉を交換した隙をついて、俺は男の持っていた銃を取りに走る。そしてローリングしながらアサルトライフルを手に取り、3連射。一人の右肩、右太もも、左わき腹に銃弾を撃ち込み無力化した。しかしもう一人が猛烈な弾幕を張ってくる。俺は先ほど警棒で無力化した男を物陰に引っ張ってくると、脈を確認する。

 

 「(・・・よし、生きてるな。すまないが、これを借りてくぞ。)」

 

 意識のない男の装備していたタクティカルベストを着用し、そして予備の弾倉へと交換する。そして撃ち込み続けている男へと向かって威嚇射撃。それによってひるんだ隙を狙い、顔を出して相手の右ひざと右肩に銃弾を撃ち込み、無力化した。

 そしてその二人の男のもとへと駆け寄り、銃を蹴り飛ばすと彼らの持っていた救急キットで応急手当てを施す。

 

 

 しかしその時、家のタレットによる銃撃が止んだ。いや、違う。あの「窒素装甲」を使っていた能力者によって、全て破壊されたのだ。応急手当を終わらせた俺は、弾倉を交換しつつ駆け寄り、そして警告を発する。

 

 「警備員だ!お前の仲間はすべて無力化した!無駄な抵抗はやめて、降伏しろ!」

 

 その声を聞いた相手は、果たして―。

 

 「それは、超ありえないですね。それに、降伏する状況にあるのは、あなたの方に超言えるんじゃないですか?」

 

 響いた声は女声だった。俺は驚きのあまり固まる。そして彼女はこちらに近付いてきた。俺は銃の引き金に指をかける。しかし相手は女の子だ。俺は心の中で葛藤する。

 

 「どうしたんです?撃たないんですか?超まぬけな判断ですね。」

 

 そして、すぐそこにまで迫ってくる彼女に対して、俺は――。

 

 「ああ、撃たない。」

 

 そう言うと、持っていた銃と警棒を投げ捨てた。それを見た少女は、呆気にとられる。そして俺は口を開く。

 

 「君に攻撃する気はない。」

 

 そして俺は、自分から彼女に歩み寄る。彼女は警戒を強め、身構える。

 

 「君の能力は、『窒素装甲』。空気中に存在する窒素を圧縮し、それを体表面に張り巡らせることで防御している。そうだろ?」

 

 それを聞いた少女は、それがどうしたのかといった顔で黙って聞いている。俺はさらに続ける。

 

 「しかし・・・、防御はできても攻撃は?格闘戦での足運びや動体視力、攻撃する手数などは俺よりも上だと言えるのかな。」

 

 歩み寄りつつ語る俺を前に、少女は動じない。俺は彼女の目の前に立ち、そしてタクティカルベストを脱ぎ捨てる。それを不思議な目で見上げる少女に、俺は最後の言葉をかける。

 

 「確かに防御で圧倒的に勝っている君に、拳で勝つことは俺にはできないだろう。だがいくら『鎧』が強かったとしても、それで『拘束を解く』ことはできない。」

 

 そして俺は彼女の腕を掴み、地面に倒すと後ろ手に拘束する。そしてその上にまたがると彼女の腕をそのまま抑え込む。

 

 少女は何が起こったのか分からないといった風に目を瞬いていた。

 

 「ほら、『鎧』が強くても『剣』が弱いとこうなるんだよ。」

 

 そして力を緩め、抑えていた腕を離す。少女は理解に苦しんでいるようだったが、しかし戦意を削ぐことはできたようだ。

 

 「今回は見逃してやる。というより、早くこいつらを連行して警備員に引き渡したいんだが、君は引き渡す気はないよ。まぁもっとも、『器物損壊』で連行しようと思えばできるんだが、あいにくと女の子を捕まえるのは苦手でね。」

 

 俺はそう言った後に、彼女にニッと笑うと、こう付け加えた。

 

 「でも、次にもし会う機会があったら、仲良くなれたら嬉しいかな。まぁ、それが平穏な状況じゃないこともあるんだろうけどさ。戦うような状況だったら、その時は思いっきりかかってこい。返り討ちにして拘束してやるよ。」

 

 

 そして彼女は、特に何を言うこともなくどこかへと消えていった。それを見届けた俺は、REXへと声をかける。

 

 「REX、医療用ドローンを使って応急処置を頼む。それと警備員への連絡を。」

 

 庭にあるスピーカーから電子音声が聞こえてくる。

 

 「了解。直ちに実行します。」

 

 そして1機のドローンが男たちのもとへと向かい、応急処置を開始した。すると家の玄関から恵が駆け寄ってきた。

 

 「芝浦先生!大丈夫!?ケガしてない!?」

 

 俺はそれに対し、笑顔で応える。

 

 「ああ、大丈夫だよ。逆に返り討ちにしてやったから。」

 

 そして倒れている5人の男を見た恵は、血相を変えて彼らに駆け寄る。

 

 「芝浦先生!救急キット持ってきて!この人、かなり出血してる!」

 

 俺は若干驚いたが、しかし恵だったら敵とか味方とか、そんなの関係ないんだろうなと思い直して家に走る。そして救急キットを持ち、恵の元へと戻る。その後は警備員と救急隊が来るまで、恵と共に応急処置に奔走したのだった。

 

 

 ―騒動もひと段落し、ようやく家の中へと入れた俺と恵は、二人して安堵のため息をついた。俺は恵に声をかける。

 

 「恵、怖い思いさせてごめん。これからはもっとよく考えて行動しなきゃだな・・・。」

 

 しかしそれを聞いた恵は、俺の頭をそっと撫でてくるとこう言った。

 

 「ううん、芝浦先生は立派に私を護ってくれたよ。だから怖くなかったし、芝浦先生が来てくれた時はまるで、白馬に乗った王子様が現れた気持ちになったから、だからあんまり自分を責めないで。ね?」

 

 俺は恵に気を遣わせていることに気付き、苦笑する。そして本来の目的を思い出す。

 

 「あっ、そういえば。恵、今からご飯作るからちょっと待っててくれ!」

 

 そして急いでキッチンへと向かい、料理に取り掛かる。今夜のメニューは和風おろしハンバーグだ。

 

 「えっ、でも私も手伝うよ?」

 

 恵がこちらをのぞき込みながらそう言ってきたが、俺はそれを制する。

 

 「いや、大丈夫。リビングでテレビでも見てて。それより足の治療に専念・・・って、足はもう痛くないのか?」

 

 俺がそう聞くと、恵はバツの悪そうな顔をしながら答える。

 

 「あ~・・・、えっと、さっきの人たちが来たときにね、すぐに逃げられるようにしなくちゃって思って『集中治療』で治しちゃったんだよね・・・。ごめんね?心配かけちゃったよね。」

 

 俺はそれを聞き、確かに心配にはなったがしかし、見る限りでは大丈夫そうなので優しく声をかける。

 

 「そうだったのか。まぁそういうことなら仕方がない。それにほら、疲れてるんだからさっさと休んだ休んだ。ご飯はそっちに持ってくから、適当にくつろいでなよ。」

 

 恵はそれを聞くと、申し訳なさそうにしながらもリビングのソファに腰掛けた。そして俺は料理を進めていく。

 

 

 

 しばらくして、出来立ての和風おろしハンバーグとみそ汁、サラダ、白米を持っていき、恵と一緒に食べる初めてのご飯の準備を整えた。そして両手を合わせ、二人の「いただきます」を皮切りに、少し遅めの晩御飯が始まった。しかしその時、包丁で切った指のケガを恵に見つけられてしまい、晩御飯よりも先に俺の指が、恵に『食べられた』のはあまりにもくすぐったくて恥ずかしかったのは秘密である。

 だが、今日のご飯が人生で一番楽しい時間になったのは言うまでもないだろう。食べ終わるまで、二人の楽しそうな声が響いていた。

 

 

 

 ―そして食べ終わり、二人でくつろいでいると家の固定電話が鳴り響いた。




 まずはここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか。是非皆さんの意見・感想などを教えていただけたら幸いです。また、誤っている点などありましたら遠慮なく教えていただけると助かります。
 さて、今回もアニメでの時間軸は前回、前々回と同じお話となります。まぁ同じ日のお話なので当たり前と言えば当たり前ですが。
 そして!ついに!アイツが!出てきてしまいました!はぁーキモい。自分で書いてても「キモっ!?」ってなりましたよ。そして「窒素装甲」を使う謎の少女。彼女はいったい何者なのでしょうか。更に、不吉に鳴り響く固定電話の着信音。その相手は一体―!?次回に続きます。
 とりあえず前書きで話した「甘ったるいものではない!」というのは達成できた・・・と信じたいですね。甘々展開を欲していた方には少し物足りなかったとは思いますが、そこは我慢です。はい。
 次回、第15話「視えるものと視えないもの」また読んでくだされば嬉しいです。ではまたいつか。

2018.12.12追記
細かい部分の修正を行いました。

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