それではお待たせしました。ごゆるりとお楽しみください。
―急行する車内の無線機から、新たな情報が続々と入ってくる。林と鈴木も向かっていること、「見学ツアー」の子供たちがふれあい広場にいること、犯人は3人であることなどだが、その中にひときわ気になる情報が一つあった。「柵川中学の生徒が現場にいる可能性あり」というものだった。俺はそれを聞き、焦燥感に駆られる。
現場まであと5分ちょっとというところでその情報は入ってきた。「柵川中学の女子生徒一名が犯人による暴行を受け負傷した」という内容だった。俺はそれを聞き、テーザーガン、睡眠ガススプレー、催涙ガススプレーの点検を行い、そして実弾を装填してある弾倉の確認と、既に弾倉を装填済みの拳銃の薬室に初弾を装填、安全装置をかけホルスターにしまった。
そして、正面を見据えたまま、「・・・古賀、今日に限ってはお前の本気を出していいぞ!」というと、古賀は二ヤリと笑って「了解です隊長!」と言い、一気にアクセルを踏み込んだ。
タコメーターが一気にレッドゾーンまで回り、サイレンを掻き消す勢いでエンジンがうなりを上げる。タイヤに動力を伝えるゴムベルトが焼ける匂いが鼻先をくすぐる。
そして、緊急走行でも5分とかかる道のりを、3分ほどで到着し、広場横の道路にパトロールカーを停め車外に飛び出した。どうやら最初に現着したらしい。現場には爆破された銀行の防犯シャッター、破壊された警備ロボ、なぜかフロントから地面に突き刺さっている白い車などとんでもない状況だったが、そんなことはお構いなしに俺はいつも見ているセーラー服を探す。そして男の子と一緒に道路脇に座っている女子生徒と、その女子生徒を心配そうにしている風紀委員腕章をつけた特徴的な髪飾りが目に入った。
「初春!佐天!二人とも大丈夫だったか!?」
俺はそこに駆け寄りながら大声でそう言うと、二人はそろってこちらを見てくる。
「芝浦先生!私は大丈夫です!でも佐天さんが・・・!」と初春。
そして俺は佐天の前にかがみ、様子を窺う。佐天の肩は若干震えていた。そして右の頬に蹴られた跡があるのを見つけ、俺は持ってきた救急キットを取り出す。
「佐天、もう大丈夫だ。俺が来たからもう心配ない。・・・ほら、とりあえず傷の手当だけしちゃうからちょっと我慢しててな。」と、とにかく佐天を安心させるために優しく声をかけつつ傷の手当てを行う。
そして傷の手当てを終え、改めて佐天の方に向き直ると、やはり少しだけ肩を震わせている。隣に立っている男の子が不思議そうな目で佐天を見つめている。俺はそれとなく初春に目配せし、初春に男の子を連れて行ってもらうように促すと初春は気を利かせて男の子をバスガイドの方へと連れて行ってくれた。
俺はそれを確認すると佐天の手を取り、何も言わずパトロールカーへと向かう。佐天は若干驚きはしたものの、何も言わずについてくる。そして佐天に落ち着くまでパトロールカーの中に居れば良いと言い、佐天をパトロールカーの後部座席に乗せる。佐天は少し安心したのか、若干ではあるが緊張がほぐれたようだ。しかしそれが引き金となったのだろう。自然と佐天の目から涙が零れ始めた。
「えっ、私、なんで泣いて・・・?」
佐天は自分でもなんで泣いているのか理解が追い付いていないらしい。俺は佐天の隣に座ると、ドアを閉めて佐天の肩を抱き寄せる。
佐天は涙目になりながらも驚いた顔でこちらを見上げてきたが、俺は真正面を向いたまま一言、「佐天が無事でよかった。本当に。無事でよかったよ。」と言うと、佐天はまるで
そして「うっ・・・うぅっ・・・、芝浦センセ・・・、怖かった、怖かったよぉ・・・。」と聞こえてきたので、俺は佐天の肩に置いていた手で頭をなで、同じ空間を共有していた。
それを傍目に見ていた古賀はと言うと、「さってと、現場の確保と状況整理でも始めますかねぇー、あーあ、林と鈴木の奴ら早く来ないかなぁ。実質俺一人なんだけど・・・。」とか言いながら軽い足取りで仕事に向かっていった。
―しばらく佐天は泣いていたが、いつの間にか泣き声は止み、佐天は安心しきった顔で俺に体を預けてきていた。そして、佐天は静かに口を開きこんなことを聞いてきたのである。
「先生、私にできることって、何なのかな・・・?」
俺は逡巡したのちに、ゆっくりと口を開く。
「佐天、今回のことは誇りに思っていい。佐天はあの男の子を強盗から守ったんだ。自分の身を危険にさらしてまで誰かを守れる人は、そうそう居ない。それが赤の他人ならなおさらだ。その強さは、成績や能力の強度なんかよりもよっぽど大切で、一番強い
それを聞いた佐天は小さな声で「・・・ありがと。」と言い、それから「・・・ごめんなさい。」とも言った。
俺はそれを聞き、佐天の頭をなでながらやさしい声で「お前なぁ・・・、ごめんなさいって思うくらいならもうちょっと慎重に行動しなきゃ。自分が怪我しててどうするんだ?」と言った。
すると佐天がムッとした顔で「えー、でもセンセ―さっき『私は強い』って言ってくれたじゃんかー!」といつもの調子に戻った声で言ってきた。
それを聞いた俺は内心「もうこれなら平気そうだな。」と思いつつ、「いーや、その強さってのは『自分も相手も守れて』初めて強いって言えるからな。佐天はまだまだ半人前だ。」と冗談半分で言ってみる。
すると佐天は「それって私が弱いって事じゃんかー!」と俺が先生であることも忘れて言い寄ってくる。
それに対し俺は笑顔で「いやまあ、だからこそ佐天や他の皆がどうにもできないことは俺たちに任せろ。ついでに皆を必ず守ってやる。もちろん、佐天も大事な生徒だからな、何があっても護り抜くつもりだ。」と答える。
それを聞いた佐天は急に恥ずかしくなったのか、俺を「先生」だと再認識したからかは分からないが、体を離して照れ笑いを浮かべている。俺はそれに対して肩の力を抜いた笑顔で応えるのだった。
外では御坂が古賀から状況聴取を受けており、初春と白井とうちの出張所から来た警備員らが現場の状況整理などにあたっている。隣では何やら、佐天が一人でホクホクしながらニヤけていた。
―しばらくして本部やほかの支部からも応援の警備員が到着し、本格的な現場検証が始まると同時に犯人らへの事情聴取が始まった。俺は古賀のもとへと向かい、現場検証に加わる。その姿を認めた古賀が、おもむろにこんなことを言ってきた。
「隊長、やっぱりイケメンっすねぇ~。今日の昼に聞いた答え、期待しちゃってますからきちんと答えてくださいね~?」と、盛大に冷やかしながら。
俺はそれを無視して古賀に状況説明を求める。古賀は若干つまらなさそうにしたがそれも束の間、すぐに警備員の顔になると説明を始めた。
「今回の現場は見ての通り、銀行強盗です。犯人は3人で、金庫を無理やりこじ開けて金を強奪したようです。ただ、一つ気になることがあって、初春ちゃんの話だと既に防犯シャッターは下りていたらしいんですが、そうなると警備員に警報が伝わるはずですが、今回はどうやらその回線をすでに切断されていたらしく事前に計画された犯行であることが伺えます。」
「ちょっと待て、事前に切断って、この銀行のセキュリティシステムはどうなってたんだ?警備ロボは?」
俺がそう聞くと、古賀は頭を掻きながら「いやぁ、それがここの銀行、セキュリティシステムがかなり古かったらしくて未だに配線を通していたらしいんですよ。警備ロボに至っては起動はしたらしいんですが、ログが消えてしまうほどの大ダメージを受けていたのでほんの数秒で無力化されたんでしょうね。民間の負傷者が居なかったのが奇跡ですよ。」と答える。
しかし俺は「・・・佐天は蹴られてケガしたけどな。」と言うと、古賀は「やっぱりその事で『個人的に』犯人と話したいんじゃないんですか?」と分かったような口を聞いてくる。
俺は若干迷ったものの、「まぁ確かにな。」と答えると、古賀が「やっぱりね。んじゃまぁ現場は俺たちに任せて、白馬の王子様はあちらにいらっしゃる悪魔の戦士との面談でもしてきてください。」と護送車の一台を指さしながら言ってきた。
俺は古賀に礼を伝え、速足で護送車まで向かうとそこにいる警備員に「事情聴取をする」という名目のもと護送車に乗り込んだ。護送車に入ってきた俺を見て、犯人は「またか」といった雰囲気を放ちつつ舌打ちをした。俺はあくまでも冷静さを保って犯人の正面に座ると、口を開いた。
「俺が来たのは事件とは関係ない、しかしとても重要なことを君に聞きたかったからだ。」
犯人はそれを聞き、不思議そうな顔になる。俺は話を続けた。
「君は小さい男の子を無理やり連れて行こうとしたうえに、女の子を思い切り蹴り飛ばしたよな?」
そういうと犯人は「なんだそんなことか」といった雰囲気で、「それが何だってんだよ。」と答えた。
俺はそれに対し頭にきたが、努めて冷静に言い返す。
「君はあの二人に対してなんとも思わないのか?特に君は男だし、女の子の顔を蹴るだなんてとんでもないことだとは思わないのか?」
そう俺が問いただすと、男は「へっ、あんなガキなんぞどうだっていいわ。あーでも、あの女の子は可愛かったかな。あの時は慌てて蹴っちまったけど、まぁ仕方なくね?不可抗力ってやつ?俺の彼女になってくれるんなら話は別だけどよ、別に俺の知ったことじゃねぇしやっぱどうでもいいや。」と答えた。
それを聞いた俺は立ち上がると犯人の顔面を一発、思い切り殴り飛ばした。
そしてその後は――詳細は言えないが――犯人との「面談」を2時間ほどした後に護送車から出てくると、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。犯人はというと護送車の隅に体育座りになったまま放心状態になっている。まぁ「どうでもいい」が。
どうやら御坂が佐天の為に活躍してくれたことも分かったので、ヤシの実サイダーを買って御坂のもとへと向かい、ヤシの実サイダーを手渡して改めてお礼を言った。御坂は警備員である俺がそれを知っていることに若干気まずそうにしていたが、しかし俺は言及するつもりは無かったので、お礼だけを言うと古賀の元に戻った。
古賀が「良い面談はできました?」と聞いてきたので、俺はさわやかな笑顔で「うん、そりゃもうバッチリだよ。」と答えると、古賀は若干顔を引きつらせて乾いた笑い声を出した。
―陽はだんだんと傾き始めており、夕焼け色に学園都市は染まり始めていた。ふと佐天の方を見るとどうやら先ほどの男の子と、そのお母さんと何やら話しているらしい。すると、男の子の元気な声で「お姉ちゃんありがとう!」と聞こえてきて、それを聞いた佐天は照れくさそうに、しかし柔らかく笑っていた。それを見て俺もまた笑顔になるのだった。
現場検証は本部から来た応援の警備員に引き継ぎ、俺と古賀は「見学ツアー」の参加者たちをバスガイド、運転手と共に確認し、そして全員いることを確認したのちに観光バスを見送った。それからしばらくは現場近辺の安全確認と、再度被害状況の確認をしていたがそれも終わり、撤収の準備をしているとなにやら心配そうな声が聞こえてきた。そちらの方を見ると御坂、白井、初春、佐天の4人が集まっており、初春は相変わらず佐天のことを心配しているようだった。そして白井はというと、御坂の背中に抱きついており・・・これ以上は言及するまい。しかし佐天はそれを見て再び柔らかく笑っていた。俺はそれを見て安心して撤収作業に集中できたのだった。
―俺は必ず守らなければならない。この学園都市の平穏と日常を。そして護らねばならない。この笑顔と楽しい時間、皆と過ごした思い出を。
ちなみに、古賀の言っていた「ロリコン教師」のレッテルは、出張所に帰り着いた後に自主鍛錬をするための道場で、古賀を一揉みして返上させてもらった。ただ、俺が佐天や初春のことを好きなのに変わりはない。その点に関しては古賀も「冗談だった」と後で謝ってきたので不問とした。もちろん「好き」とは言っても異性としてではなく、生徒として。二人ともかわいい生徒であり、大切な存在であり、護るべき存在である。そのためにも俺は、愛銃の手入れを欠かさず行い、自分の腕を磨き、そして何より出張所の皆を信頼して学園都市のパトロールに出かけるのである。
明日もこの平穏が続くことを祈って―。
まずはここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか。是非皆さんの意見・感想などを教えていただけたら幸いです。また、誤っている点などありましたら遠慮なく教えていただけると助かります。
さて、今回のお話ではアニメ版「とある科学の超電磁砲」第1話の銀行強盗が発生したシーンから、ラストまでを書いてみました。ようやく第1話が完結し、なんとなく書くペースを掴めたような気がします。次回以降はより深い部分のストーリーも書いていきたいと思っているので、今後ともどうぞよろしくお願いします。
また、「書庫」のオリジナル設定資料に関して、読者の皆さんの疑問点や改善点などを教えてくださるとうれしいです。私も十二分に配慮して編集しているつもりではありますが、それが至らず意味の分からない単語や設定をそのままにしていることもあるかと思いますので、読者の皆さんとそういった点を解消していけたらと思っています。
次回、第5話「音楽プレーヤーとスキルアウト」また読んでくだされば嬉しいです。ではまたいつか。
2018.11.27追記
細かい部分の修正を行いました。