東京喰種:re cinderella   作:瀬本製作所 小説部

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お久しぶりです、瀬本です。

長らくお待たせしました。

前の話からだいぶ期間が空いてしまいましたが、無事に投稿ができました。

かなり期間が空いてしまったため、前回のお話を見返していただければありがたいです。


破局通知

夜に繁華街が眩しく輝く夜。

志希が住んでいるアパートに向かった、アタシ・城ヶ崎美嘉。

本当なら仕事の疲れを抱えながら家に帰る予定だったけど、ちょうど事務所から出た直後、志希からの電話があった。

その電話はただ『あたしの家に来て』と言う返事だけだった。

 

(また変なことをしているなぁ...志希は)

 

アタシは電話を切るとため息をし、疲れ切った体をなんとか動かしながら志希が住んでいる家に向かった。

志希の家に行くの言い過ぎかもしれないけど、半年ぶりな気がする。

前は毎週行っていたのだけど(ほとんどはあっちが呼んでいた)、今ではなぜか急に連絡が途絶えた。

志希が住んでいるアパートに行くと、他の部屋はきっちりとドアが閉まっているのに、一つだけ半開きのドアがあった。

その部屋は明らかに志希の部屋だった。

ああ、やっぱりと確信をした瞬間ため息をしたアタシは、志希の部屋へと入った。

玄関を見ると志希が自信が体をひきづりながら家に上がったかのように床に敷いてあったマットがぐにゃりと曲がっており、靴は廊下に放り出されていた。

また、いつものめんどくさいことに絡まれるのだろうと、アタシは志希がいるであろう部屋に向かうと。

 

「...どうしたの、志希?」

 

アタシは思わずそう言いたくなるなるような状況に出会ってしまった。

 

「やぁ、美嘉ちゃん」

 

それは志希の部屋が散らかっていたのだ。

ただ散らかっていたのではなく、一人でやったのかと疑ってしまうほど部屋がめちゃくちゃになっていた。

本棚が地震で倒れたかのように倒れ、フラスコやシリンダが一つ残らず破壊され、そしていくつかの写真が“特定の人物”にボールペンで書かれた黒い丸で顔を隠されていた。

そして志希本人は机ではなく床で一人で黒いラベルが貼っているウィスキーをロックで飲んでいた。

 

「....美嘉ちゃんはもしかして、仕事帰り?」

 

「...あ、当たり前でしょ?志希はアタシの予定は知ってるでしょ?」

 

「...ああ、そうだったね。忘れてた」

 

志希はアタシの返事に少し間を置いて、「ああ、そうだった」と何度も呟いた。

反応は鈍く、おそらく飲んでいるお酒で酔っている。

志希は基本ネガティブなことがあっても自分で解決をするのだけど(たまにアタシに愚痴として話す)、今の志希の様子を見る限り、何か特別嫌なことにあったみたい。

 

「それで、なんでアタシを呼んーーー」

 

「文香ちゃんと絶縁した」

 

「...はっ?」

 

酒で酔っていた志希の口から言い渡された言葉に、その時のアタシは理解が追いつかなかった。

その時の志希の声は一瞬、冷静になっていた気がした。

 

「文香さんと絶縁って...」

 

「うん、そのまま意味だよ。人間関係を切ったんだよ」

 

志希はそういうとアタシに振り向くことなく、ただ何もない真っ白な天井を見ていた。

いつも志希から聞く冗談はまったく感じ取れない。

明らかに本当のようだ。

 

「な、なんで、文香さんの縁をーーー」

 

「美香ちゃんも薄々感じてたでしょ?特にクリスマス会の後のあたしと文香ちゃんの関係を」

 

「ーーーっ」

 

アタシは志希のその言葉に思わず言葉を止めてしまった。

図星だ。

 

「あの時のあたしと文香ちゃんはお互い直接口論だったり喧嘩はしなかったけど、空気からして争っている感じだと認識していたよね?」

 

「え...そ、それは...」

 

「多分、文香ちゃんからも同じ言うかもね。あの人とは関係を切ったとね」

 

「なんで絶縁することになったのよ!?」

 

「言えない」

 

「....はぁ?」

 

「お願いだから、聞かないで。これはあたしと文香ちゃんの問題なのよ。美嘉ちゃんは何も聞かないで」

 

「聞かないでって...」

 

理由はわからないけど、志希の様子をみる限りかなり深くこじれているように見える。

 

「...美嘉ちゃんはわかるよね。今の文香ちゃんのことは?」

 

「今の文香さんは....」

 

アタシは言おうとしたが、何かを拒絶するかのようにいつのまにか口が動かなくなった。

自分の胸の奥底にある触れてはいけない気持ちに触れそうだったのだ。

これを口に出していいのかそう迷った時、志希はわざとらしくため息をし、アタシの言葉を待たずに口を開いた。

 

「美嘉ちゃんはこう言いたいでしょ。文香ちゃんはカネケンさんが消えたことで心が病んで、雰囲気も暗くなり、そして自ら孤立という道を歩んでいった」

 

アタシが答える前に志希が早口で答え、そして最後に『ねぇ、これで合っているでしょ?』と自分を失笑するようにわらった。

志希の言葉をきいたアタシは何も言えなかった。

志希が言っていたことは、ほとんどと言ってもいいほど間違っていなかったからだ。

 

「やっぱり、美嘉ちゃんも思っている」

 

「い、いや...それは」

 

「否定したって、もう遅いよ。他人事のようにしないで。ほら、友達の会話にもあるよね?上手くいくはずがない恋愛を、誰も否定せずに上手くいくと言う流れみたいのと同じじゃない?」

 

「そ、そうかもしれないど...志希も同じじゃないの?」

 

「じゃあ、どうしろと言うの?片方しか手に入らない状況に、どうしたら両方を持つの?キミは知っているの?」

 

「っ」

 

「大体、あたしの苦労はわからないよね、キミは?両方大切な存在なのに、どちらか片方を切り捨てなければならない状況を。今、あたしはついさっき苦境に立っていて、その後に出てきた後悔を酒で浸している状態だよ?ねぇ?わかーーー」

 

「ちょっと、志希!!」

 

志希の詰め寄った問いにアタシはついカッとなってしまった。

普段プライベートで感情的になることがないアタシが声を上げたのだ。

 

「いくらアタシに問い詰めても、何も変わらない。アタシを問い詰めたら、事が治るとでも?何バカなことをしているのよ!!」

 

「....」

 

どこから聞いたことだけど、志希がやっていることはまるで誰かを責めれば事が治るようという思い込みが存在している。

良い例え方じゃないけど、政治家を叩けばなんとかなるとかのように。

 

先ほどアタシを問いただした志希は数分ほど黙り込むと、静まった空気にしらけたかのようにため息をし。

 

「...おっと、感情を入れすぎた。まったく落ちぶれたよ、あたし。危うくもう一つ、大切な存在をぶち壊すところだったよ」

 

志希はそういうと、哀れな自分をまた嘲笑った。

 

「それで、志希はこれからどうするの?」

 

「...どうするって?」

 

「文香さんだよ。本当にもう話さないの?」

 

「おそらくこれからあたしは文香ちゃんとは声を交わすことはないよ。仮にあの子と会った時は、赤の他人のように扱うだろうね」

 

「..ああ、わかった」

 

アタシは志希が文香さんと会うことを想像したら、すぐに理解した。

今の文香さんだったら、志希を空気のように無視するだろう。

 

「これからは文香ちゃんのことは、頼んだよ。美嘉ちゃん」

 

「...頼んだ?」

 

「そう、頼むよ。文香ちゃんはおそらくまだ美嘉ちゃんを敵として見ていないよ」

 

「まだ?」

 

「そう、美嘉ちゃんが文香ちゃんに変なことをしない限り」

 

「...わ、わかったよ」

 

アタシは文香さんには失礼なことはしないが、志希の言葉を聞いて文香さんに接するときはさらに慎重にならなければならないと考えてしまった。

別に気を遣って会うような人じゃないのに、今後もそのように接しないと逆鱗に触れるんじゃないと。

 

「じゃあ、そういうことで美嘉ちゃん。あたしが話したいことはもう話したよ。まだあたしと一緒にいる?」

 

「いや....アタシはもう流石に帰るよ」

 

今の志希の様子を見る限り、しばらく一人にさせた方がいい。

絶対静かな空気をただ聞く時間が過ぎるだけだ。

 

「良い判断だよ。あたしと酒を飲んだって、大して美味しくないし、美嘉ちゃんは明日も仕事だよね。明後日の写真撮影の」

 

アタシから言ったつもりはないが、なぜ志希はアタシのスケジュールを知っているんだよ、と心の中でツッコんだ。

 

「じゃあ、アタシは帰るね。あと、そろそろ仕事に戻りなよ。もう半年も仕事をしていないのに」

 

「....考えとく」

 

アタシはその志希の言葉を最後に聞くと、家に出た。

そしてガタンっと志希の家のドアを閉めた時、アタシはしばらく足が動かず、志希の家のドアの前に立っていた。

 

「....」

 

アタシの胸の中にずっと隠れていた無力さが現れたのだ。

恐れていたことが。

誰も解決策も出さず、放置していた問題が表に出てしまった。

 

(...どうすればいいのよ)

 

これは指摘しなかったアタシも悪いが、自分だけではなく周りも責任がある。

暗くなりつつある文香さんを、触れなかったことを。

だけどそう考えた時、頭の中にぐるぐると回り続ける言葉がある。

 

どうすればいい?

 

次は何をすればいいの?

 

具体的な解決策は?

 

なぜ防げなかった?

 

次は"誰を嫌う"?

 

アタシは文香さんから嫌われるの?

 

 

自分を責めているように、アタシは考えてしまう。

 

答えがない、問題に。

 

 


 

 

夜中・都内某所

 

 

冬を告げる風が微小に吹く中、一人の男がとあるビルの屋上にいた。

 

俺の名は霧島絢都。

人間ではなく、喰種だ。

 

そこらの人間がこんな真夜中にビルに立つやつなんていない。

いるのは喰種ぐらいだ。

 

いつも俺はビルの屋上にいる時は大体一人で考える時に立つ場所だが、今回は"ある人物"を待っていた。

 

その人物の特徴は何も特色もない白い仮面にお偉いさんが着そうな綺麗なスーツを着ていたヤツで、体つきと声は小柄な女だった。

 

(...本当に来るのか?)

 

ヤツとの出会いは突然だった。

ヤツは何もないところから現れ、そして最初から存在しなかったように消える謎があるヤツだ。

そんなやつになぜ俺が再び会う約束をしたのか?

それはヤツから"ある提案"を受けたからだ。

 

(...まさか嘘の約束?)

 

他のビルにあるデジタル時計を見ると、あと1分で12時になる。

ヤツとの約束では夜の12時に会う予定なのだが、一向して来る気配がない。

 

俺はよくわからないやつに騙されてしまったか、と呆れたため息をしようとした瞬間だった。

 

「ラビット、だな」

 

声がしたに振り向くと、ずっとそこにいたかのようにヤツが現れていた。

ちょうど北と東の間に現れ、ずっとそこにいたかのように立っていた。

 

「....本当に来たんだな」

 

「時間通りだ。お前は時計の見方がわからないのか?」

 

デジタル時計に指を刺した。

確かにヤツの言う通り、予定時刻12時ぴったりだった。

 

「本当に取引をするんだな」

 

「ああ、その通りだ。約束通り、"取引"をしよう」

 

ヤツはそう言うと俺が求めている"例の物"をスーツの内ポケットから取り出した。

 

こうして、俺とヤツとの取引が始まった。 

 

味方なのか、敵なのかわからないヤツとの。

 

 




次回の投稿は明確にはお伝えすることはできませんが、話を完結する意思はございますので、今後も応援をお願いします。

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