やはり奉仕部にくる依頼はどこか間違っている。   作:クルル

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三話【七不思議】

車が走る揺れを感じられないほど八幡は固まっていた。夜の9時を過ぎた頃に母さんが雪ノ下のマンションまで迎えに来てくれたお陰で歩いて帰るという恐怖を味わう事なく帰れているが、先程から両肩に当たっている重みに意識が向く度に心臓が跳ね上がっていた。正直心臓に悪いので無心になりたかったのだがこうなった原因を作った一人である由比ヶ浜が話しかけてくるものだから無心にもなれなかった。恥ずかしさを紛らわそうとしているのだろうが、されている方は冗談じゃなかった。もう一人は、もう一人で無心。かちこちに固まっている雪ノ下なんてレアだが、それなら何故八幡を真ん中に座らせたのか不思議に思っていた。窓際なら、窓際に寄ることも出来るのだが二人に挟まれていては、寄ることも出来ない。強いて言えば若干雪ノ下の方に余裕があるので雪ノ下の方に寄っているというくらいか。

 

車を現在運転しているのは、母さんである。そして母さんの隣でニコニコしながら此方を見ているのは世界一可愛い小町だ。何が楽しいのか先程からずっと見ている。本来なら八幡が助手席に座ろうとしたところで小町が乗っていたのでこんな乗り方になってしまったのだ。

 

そもそも...。

 

「どうして小町まで連れてきたんだ?」

 

「お母さん!お兄ちゃんが冷たいよ!小町は邪魔なんだって!」

 

そんなことは言ってないだろ!?そういう前に八幡の言葉は母さんによって区切られる。

 

「そりゃあんた小町も連れてくるに決まってるでしょ?不審者がもしうちに来たらどうすんのよ?」

 

そう言われるとなにも言い返せない。雪ノ下と由比ヶ浜は、八幡が電話している最中に隣から電話を無理矢理奪い取り何かを母さんに話していた。何かとは、恐らく不審者に付きまとわれている、等だろう。だからか、何故か二人ともうちに泊まるらしい。どうしてこうなった?雪ノ下に聞けば、小町さんの家に泊まりに行くだけよ?別に貴方の家に泊まりに行くわけでは無いのだけれど。と言われ。由比ヶ浜には、えーと、ほら!怖いじゃん?である。意味が分からない。

 

兎も角、小町の家は俺の家ではないらしい。何それ悲しくなる。

 

「それに、あんたが守るなら一緒にいなさいな。折角頼ってくれてるんだから、男だったらシャキッとしなさい」

 

「そうだよお兄ちゃん。結衣さんと雪乃さんには、お世話になってるんだから。こんなときくらいお返ししなきゃだよ!」

 

女所帯の車の中で、八幡に味方はいない。それに母さんと小町に嫌われたら家の居場所は無くなるだろう。今日も帰ってきていない親父も喜んで送り出すことだろう。

 

「その、不躾なお願いを本当にすいませんでした。こんな夜分遅くなのに」

 

「あ、あの!すいませんでした」

 

雪ノ下に続いて由比ヶ浜も母さんと小町に謝罪する。

 

「良いのよ。それにストーカーだなんて許せないし。ね?小町」

 

「うん!お兄ちゃんだけじゃ心配だしね」

 

そんな話をしながら女だけで盛り上がっている。三人集まれば姦とは良く言ったものだ。話の中で何故か弄られたりされているが気にしたところでどうにもならないだろう。

 

家に着くと自然に周囲を確認してしまう。それは雪ノ下も由比ヶ浜も同じ気持ちなのだろう。一様に外を見ている。静まり返った景色に息を呑み込んだのは誰だったか緊張が母さんにも伝わったのか中々降りようとしない様子を見て最初に降りる。

 

「ほら、三人とも大丈夫だから。降りなさい」

 

優しく声をかけられ開けられたドアから三人とも出ていく。鍵を開けた母さんに置いていかれないように速足で着いていく。

 

安心できたのは、家に入ってリビングに入った時だった。三人とも張り巡らせていた緊張の糸が切れたように座り込む。

 

「こりゃ重症ね。三人はここで休んでなさい。あと少しでご飯の仕度終わるからね。小町、手伝って?」

 

「はーい!あ、お兄ちゃん。結衣さんと雪乃さんと手だけ洗っちゃってね!」

 

それだけ言うと二人は料理を途中で迎えに来てくれたらしく、包丁の音と鍋で煮込む音と匂いが部屋を満たしていた。

 

ぐぅ...。と可愛い音が由比ヶ浜から聞こえる。

 

「あはは、お腹すいちゃった」

 

照れながら言ったその顔を見ないように顔をそらし手を洗いに行くぞ、と二人に伝える。

 

「あ!あたしママに帰らないって言ってなかった!ちょっと電話するね!」

 

由比ヶ浜が電話を終えるのを待っていると何故か八幡に対して電話を渡してきた。

 

「その...ママが代わってってヒッキーに」

 

「は?え?...うちに泊まること話したのか?」

 

「うん...」

 

雪の下はこめかみを手でおさえ、八幡は今から言われるだろう言葉に嫌だと思いつつも、何だかんだでうちに泊まることを否定できなかった自分に原因があると諦めて由比ヶ浜から電話を受けとる。

 

「あーもしもし。比企谷です」

 

《ヒッキー君。ね?》

 

「あ、えーと...はい」

 

この状況で違います。とは言えず、肯定してしまう。

 

《話すのは二度目になるかしら~?》

 

「は、はあ...」

 

思っていたよりもテンションが高い。というより、初めて由比ヶ浜の家に行ったときと然程変わらないテンションの高さに驚いてしまう。

 

《結衣がお泊まりだなんて、またゆきのんちゃんの家かな?って思ったらヒッキー君の家って言って驚いたわ~♪》

 

「あはは」

 

それは八幡が一番驚きました、と隣で心配そうに見ている由比ヶ浜を睨む。

 

「うう、ゆきのん。ヒッキーが怖いよ...」

 

「由比ヶ浜さん...今回のは完全に貴女が悪いわ」

 

《一度ちゃんとお話してみたかったのよ。こんな機会でもないとあの子話させてくれないから》

 

《あ、先ずはそうね。遅れてしまいましたが。あの子を結衣とサブレを助けてくれてありがとうございます》

 

「...悪い。雪ノ下、由比ヶ浜と一緒に小町と母さんの所に行ってくれるか?すいません。少し場所変えます」

 

「分かったわ、由比ヶ浜さん。行きましょ」

 

「う、うん。ごめんね、ヒッキー」

 

《あら、ゆきのんちゃんもいるのね?ふふ、モテモテね、結衣も大変ね~》

 

「....そんなんじゃないですよ。それより俺の部屋まで来ましたので言いますが、あれは体が勝手に動いただけです。別に由比ヶ浜のペットだと知ってて助けたとかじゃないんで。気にしないでください。それに由比ヶ浜からお礼ちゃんと貰いましたから」

 

《ふふ、結衣の言って通り優しいのね》

 

「由比ヶ浜がどう言ったのか知りませんが、俺は優しくなんてありませんよ。ただ自分が一番好きなだけです」

 

そう、あの時も自分が後々しなかったから、やっていれば、そう思うのが嫌だったからやっただけだ。自分の為にやったことだ、誉められたくてやったわけじゃない。

 

《それでもよ。それにあの子のクッキー食べてくれたんでしょ~?最初から、あれを食べられるなんて凄いと思うわよ?私は、まだ止めておきなさいって言ったんだけどね》

 

「...勿体無いから食べただけですよ。それに、無理すれば食べられる味でしたから」

 

《あの子も努力してたわ。きっとヒッキー君のおかげでね》

 

「それは違いますよ。俺じゃなくて雪ノ下のおかげです。あいつらは友達ですから」

 

《ゆきのんちゃんね?確かにあの子にも感謝してるわ。泊まりに来てくれたときに何度か話したけど良い子ね。ほんと、結衣はいい友達を持ったわ》

 

「そっすね」

 

《ヒッキー君もよ?》

 

「....」

 

俺は違います。とは言えなかった。由比ヶ浜の母親だからか?分からない。でも、きっと三人で水族館に行ったとき、八幡の中で何かが変わったのは確かだった。

 

《ふふ、結衣の事お願いね。何か怯えているみたいだったから》

 

「...男の家に泊めても良いんですか?」

 

《ヒッキー君なら構わないわよ?なんなら押し倒してくれちゃっても良いわよ?》

 

「冗談でも言っていいことがありますよ?」

 

《ふふ、責任取ってくれるのなら構わないと思うけど、まだ早いかしらね?》

 

「俺には荷が重すぎますね」

 

《そう、でも。結衣の事よろしくお願いしますね。きっとヒッキー君の近くにいた方があの子も安心だと思うから》

 

「...何も出来ませんよ、俺は」

 

《何かしてくれようと思ってくれるだけで十分よ。結衣も嬉しいはず。それじゃあ、結衣によろしくね~♪》

 

通話は途絶え、重い足取りのままリビングに戻ると皆席についていた。料理は並んでるので待っててくれたのだろう。

 

「ひ、ヒッキー...どうだった?」

 

「ん?ああ、よろしくお願いします。だとさ、良くわからんが任された」

 

「ママ...アリガトウ」

 

由比ヶ浜に携帯を返すと聞き取れなかったが何か言っていた気がするが小町の隣に座る。

 

「さて!お腹空いたと思うからじゃんじゃん食べてね!」

 

「お兄ちゃん遅いから、お腹空いちゃったよ!」

 

「いや、待っててくれなくても良かったんだぞ?」

 

「由比ヶ浜さんが比企谷君が来るまで食べないって言うから待ってたのよ」

 

その言葉に焦り出す由比ヶ浜だが、適当に答えて料理を口に運ぶ。普段は小町と二人の夕食だからか、賑やかな食事も悪くないと思ってしまうのは。

 

ご飯も食べ終わり、母さんは寝室に。雪ノ下と由比ヶ浜は小町の部屋に行って眠る筈だったのだが。

 

「俺今から寝るところだったんだけど?」

 

現在は夜の10時だ。寝るには少し速いが疲れたので瞼も重かったのである。そんななか、何故か小町と由比ヶ浜と雪ノ下が部屋に入ってきたのだ。小町の部屋には鍵が付いているが俺の部屋には付いておらずプライバシーも何もあったものではない。

 

「寝る前にすることがあるでしょ?」

 

「は?いや何もないだろ?」

 

「今日の依頼の事だよ」 

 

いや、その話するなら小町いたら不味いだろ?そう思ったが小町は既に内容を半分知ってるのか七不思議ーとか念仏の如く唱えている。

 

「あれは受けないんだろ?」

 

そもそも、雪ノ下のマンションで起きたことを鑑みれば完全にヤバイ奴である。受けないのが普通だ。というより、学校側に相談した方がいいだろう。

 

「その話でね。気になったからあたし、いろはちゃんにどんな子なのか聞こうとしてメール送ってたんだけど....いろはちゃん、そんな子知らないって」

 

その言葉で背筋が寒くなるが、一色が知らなかっただけで、いる可能性はある。それに本当に一色と同じクラスだという証拠はない。なんせ名前すら知らないのだ。容姿だけでは探しようがない。

 

「女子生徒が嘘をついた可能性もあるだろ?」

 

「それは...そうかもだけど」

 

「でも、そうね。気になるというのが本音かしら」

 

「気になる、ね...かなり危険だと思うが」

 

七不思議を知ることが危険というより、関わって何をされるか分からない。という意味で危険だと思う。だが女子生徒が奉仕部から出ていく時に言った『見付けてくれることを期待していますよ』言葉が気にはなっていた。

 

「それでね、学校の裏掲示板に何か無いかと思って探したらあったの。七不思議。勿論全部ってわけじゃないんだけど...」

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃん。今回の事だけどね。小町も嫌な予感がするんだ」

 

嫌な予感はしている。きっと、雪ノ下達も同じ気持ちだろう。だから何かをしないでこのままにはしたくないのだろう。例え、調べて何も起こらないとしても。

 

「分かった...調べれば良いんだろ?」

 

「うん!」

 

「それでは、纏めましょうか」

 

「あ、小町。紙とペン用意しますね!」

 

 

 

--------七不思議★纏め★--------

 

1  トイレの花子さん。

 

2  歩く二宮金次郎像。

 

3 四時四十四分四十四秒の鏡。

 

4 踊る人体標本。

 

5 カナコさん。

 

「....一つ聞いていいか?」

 

「何?ヒッキー」

 

「うちの高校に二ノ宮金次郎像なんてあったか?」

 

「無いわね。トイレの花子さんの噂も聞いたことが無いけれど」

 

「なんかこれぞ定番って感じがしますね~」

 

だが、この中で一つだけ。異彩を放っている七不思議があった。

 

「カナコさんって誰だ?」

 

「んーあたしも分かんないけど。掲示板には書き込みされてたから、誰かがしたんだと思うけど」

 

「私も聞いたことがないわね...。それに一般的には無いようよ。調べてもカナコさん、なんて出てこないわ」

 

明日は丁度土曜日で学校は休みだ。

 

「明日1日各々で、カナコさんについて調べてみるか」

 

「そうね、何かわかるかも知れないわ」

 

「うん!」

 

「小町も頑張ってみます!」 

 

今日はここで解散になり各々思うこともあるだろうが目を閉じる。忘れられない一日を忘れられるように動くために。


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