不定期連載とはつまり、二日後に書くのも二週間後に書くのも自由ということ。
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見たけりゃ見せてやるよ(震え声)
いつもの酒場。
いつもの朝食。
いつも座る席。
だが今日は、そこに見慣れぬ珍客が居る。
「おっはようございます!
ヒューゴさんに貰ったお金のおかげで、中々良い剣が買えたんすよ。
おかげさまで無事探索者登録も出来ましたっす。
ありがとうございます!」
「おう、そいつぁ良かったな…。
でもよ、俺防具買えっつったよな。命粗末にすんなっつったよな。
なんで!武器しか!買ってないんだよ!」
「はっはっは。朝から元気だなぁ、ヒューゴ。」
「おう、ザック。火酒のおかげでとても良く寝れたからな…!」
二日酔いで叫んだ際で、頭がガンガンと痛む。
奪った身で言うのもなんだが、間違いなくあの酒はヤバイ。
本当に人が飲んでも大丈夫な代物なのか?
「んで?嬢ちゃんは何しに来たんだ?」
「何しにって…そりゃ、迷宮探索っす!」
「そりゃそうだろうが、それならギルドの方でパーティの斡旋なり新人登録なりしてくれんだろ。
俺のとこに来たってしょうがないだろうに。」
あるいは、探索経験者である俺にアドバイスでも貰いに来たのだろうか。
それならば良い。
そうした姿勢は大事だ。情報こそが、探索者の生命線なのだから。
変形し日々新しくなっていく迷宮に挑み、生まれる宝物を見つけ出す。
それが探索者だ。
迷宮は日々形を変え、探索者を苦しめる。
それは初心者用の滑石迷宮であっても、そこは変わらない。
出て来る敵、最近確認された罠、そして発見されうる宝物。
その情報を収集するのは、探索者の一番大切な仕事である。
欲や名誉、華やかな冒険譚への憧れのためにそうした地味な準備を軽視する新人は多い。
それに実際、滑石迷宮程度ならば敵の種類も一定で、罠も大したことがない。
情報にかける手間や金を他に回せる分、昇級も早い。
そしてより良い宝物が眠る上位の迷宮に、同じように準備不足で挑む。
その結果痛い目に遭うのが新人探索者の通過儀礼みたいなものだった。
「おいおい、何言ってんだよヒューゴ。冷静に考えてもみろ。
お前が新人探索者だとして、嬢ちゃんをパーティ入れたいと思うか?」
「そりゃあ………。」
仮に、夢見る新人探索者だった場合。
そういった手合いは、将来性や人間性よりも職業や役割分担などを重視する。
早く迷宮に行きたがるためだ。
長い付き合いになるかも知れないパーティメンバーを、割とサクサク決めていく。
仮に、堅実な新人探索者だった場合。
そういった手合いは、自身の能力、相手の性格や習得したいスキルなどを鑑みる。
無論、その慎重さ故に時間はかかる。
そしてパーティ間の集散離合や分離独立を繰り返していく。
本来ならば、そうした需要から常に求人ないしパーティ参加のチャンスがあるはずだが…。
嬢ちゃんを見る。
細い体。
布の服。
短い手足。
ほへーっとした緩い面構え。
挙句その上、身の丈に合わぬ大剣での前衛職アピール。
「その、嬢ちゃん。お前さん、魔法の心得とかは…。」
「ああ~…。ないっすねぇ…。」
「仮にあっても、この年齢の探索者とパーティ組もうってやつはそう多くねぇだろうなぁ。」
HAHAHAHAとザックは笑う。
相変わらず声がデカイ。
頭に響く。
とりあえず、事情は分かった。
メイファが持ってきたいつもの朝飯を受け取る。
何故か三つ。
「なんだ、お前らも飯まだだったのか?」
「お前を待ってたんだよ。そんぐらい察しろ。」
「一緒に食べましょう!」
「…まぁ良いけどよ。」
鴉の止まり木亭の飯は美味い上に安い。
俺がかれこれ五年近く贔屓にしている理由だ。
また他所では見ないような酒類も置いている。
ナクタの火酒なんざ、まず他では見ない品だ。
ザックの他にもそうした珍酒目当ての連中が居て、宿のランクに比してベテランが居着いているため情報収集にも便利なのだ。
昔は高ランク迷宮の情報収集のため、高級宿に居たこともあったが中々に出費がきつかった。
ベッドの硬さを気にするような性質でもないので、ここで十分というのもある。
「お、今日のスープは当たりっすね。美味。」
「確かに。…おーい、メイファ。スープおかわり。あと炭酸水。」
二日酔いの身に温かいスープが染み渡る。
あのまま寝てしまったせいで喉がカラカラだ。
多分二日酔いがひどいのはその所為もあるだろう。
「どうぞ、ヒューゴさん。でも、大丈夫なの?」
「何がだ?」
「お金、今あるの?」
「…あ。」
そうだ。
財布はまるっと渡してしまったのだった。
倉庫の方には換金できる物を色々と預けているものの、手持ちがない。
…流石に、あの流れで渡した金を嬢ちゃんから返してもらうってのはダサすぎる。
「ツケにしといてくれ。」
「駄目です。」
「…見逃してくれよ。今日ちゃちゃっと稼いでくるからよ。探索なり鑑定請負なりで…。」
「鑑定請負、なんて言ってもヒューゴさん酒代くらいしか貰ってないじゃない。探索だって、固定のパーティじゃないし。そんな人のツケは認めません。」
「むぐっ…。」
「でももう既にお金のないヒューゴさんはご飯を食べてしまいました…。困っちゃったなぁ~。」
「………何をしたら、見逃してもらえますか?」
「実はね、ウチの酒場から依頼があるの!
最近登録した探索者が、パーティ組めなくて困ってるみたいでね?フラフラフラフラ他のパーティの助っ人稼業ばかりしてる便利屋さんに、その子を助けて欲しいなって思います!」
「分かった分かった。で、その新人ってのは…。」
「あの子。」
指さす先には、口一杯にパンを詰め込む嬢ちゃん。
まぁ、そうだよな。
やっぱ、慣れないことをするもんじゃねぇなぁ…。
酔ってやったこととは言え、責任はとらにゃあなるまい。
「…とりあえず、嬢ちゃん。その剣、どこで買ったか覚えてるか?」
「ふぁい。ふぉるふぇんふぉうりふぇす。」
「食べきってから喋ってくれ…。」
どうせ、長い付き合いになるみたいだからよ…。
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「うー…返品っすか…。」
「当たり前だ、バカ。防具も何もなく、武器だけ買う奴があるか。
アイテム類ケチらなかったのは良い判断だがな。このポーチ、結構良いのだが中古品か?」
「まぁ、似たようなもんっす。」
どうにか謝り倒して大剣を返品、嬢ちゃんの装備を整える。
買ったのは大剣だけかと思っていたが、意外にも上質のアイテムポーチを持っていた。
内容量を拡大する魔法付き。しかも衝撃吸収のミニポケットもある実用的な品だ。
サイズの合わない男物のようだが、そこはまぁご愛嬌ってものだろう。
中身も中々ツボを押さえたラインナップ。足りないところは俺が補うとして、防具だ。
「はえ~すっごいおっきい…。」
「流石にこの子のサイズは、ないですねぇ…。」
「そうですか…。」
冷静に考えりゃ、ちびっ子サイズの鎧や脚甲なぞあるはずもない。
皮鎧やハードコートの類も探してみたが、どうもサイズが合わないようだ。
だからと言って、魔法繊維の品は高い。
高いが…。
「毎度ありがとうございますー!」
「ヒューゴさん、ありがとうございます!」
「…言ったろ、あの金は俺のじゃねえって。気にすんな…。」
たっけぇ。
相変わらず、ふんだくる店だった。
だがその分仕事は確か。あとあと微調整も請け負う、良い店だ。
防具の干渉や邪魔になる部分は、一度使ってみないと分かりづらい。
使った後でも、補修と調整できるというのはこの上ない利点だ。
まぁその分、一着が高いんだがな…。
それに初心者の頃からこんな良いもん付けるというのも善し悪し。
「♪~♪~
新しい装備ってのは何であれテンション上がるっすねえ!」
「…コケるなよ。」
「ははは、子供じゃあないんすから。」
子供だよ。
お前はどう見ても新しいおもちゃではしゃぐ子供だよ。
さっきから着いてくる嬢ちゃんは、なんだかフラフラ歩いていた。
コケたりしないか気が気じゃない。
…なんだか自分の体で歩くことに慣れてないような印象。
傷一つない掌といい、何処かの令嬢だったりしないだろうな。
どの道鎧や防具を支える膂力があるようには見えない。
これは必要経費として飲み込む他あるまい。
結局全額、剣の代わりに服に注ぎ込む形になってしまった。
武器は、俺のお下がりのメイスでいいだろう。
自分の刃物で怪我するよりゃ良いだろうしな…。
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「3、2、1。はい。
3、2、1。はい。
うーん、相変わらず、わんこはワンパターンっすねぇ。」
「…マジかよ。」
「あ、いや今のはダジャレではないです。」
「別にギャグのクオリティに呆れたわけじゃない。
…手慣れた対処だな。」
「まぁワンコの飛びかかり動作、分かりやすいっすし。
タイミングは一定っすから、後はそれに合わせてフルスイングするだけっす。
…3、2、1。
ね、簡単でしょ?」
風切音と共に振るわれたメイスが、飛びかかるテンダーウルフにクリティカルヒット。
一撃で
迷宮の魔物は生物ではなく、魔法的に構築された幻影にすぎないため血を流さない。
そして強度的にも大したことはなく、骨格への大損害で消滅する。
とはいえ一撃で撃破するというのは中々どうしてたいしたものだ。
「良いっすねぇ、このヒューゴさんのメイス!軽いのに威力は高い打撃武器って、なんだか妙な気分っす。付与魔法すごいですね。」
言って、嬢ちゃんはビュンビュンとメイスを素振りする。
白状すると、あのメイスには付与魔法は付与されていない。
俺のお下がりといっても、新人時代の頑丈なだけの武器だ。
ぶっちゃけ「こんなんじゃ商品にならないよ~」と買い取りを拒否されただけの、倉庫の肥やしだったものだ。
武器も防具も最初から良いものじゃ経験蓄積的によろしくないだろうと考えたためである。
代わりに、嬢ちゃん自身へ支援魔術を掛けた。
腕力強化。
筋力値を二割上げる支援魔術の一つ。倍率強化式の加味魔術だ。
その性質上、元々の筋力値が高くないと効果が下がる。
はず、なのだが…。
「3、2、1。はい。
3、2、1。はい。
うーん、パターン化出来る雑魚は良い雑魚っす。」
「………。」
眼の前でメイスを棒切れのように振り回す嬢ちゃんを見る。
俺は
明らかに、過剰である。
…あの見た目で、筋力値が元々高かったというのだろうか?
「…おっと。トラップっすね。」
「『罠解除』」
「おお!」
トラップへの警戒も問題なし。
この迷宮は洞窟状で足場も岩場になっているが、足取りも問題なし。
というか下手すると、町中よりも歩き慣れているように見えるほど。
予想外に、嬢ちゃんが強い。
対複数戦でも淀みなく対処。
一撃一殺。
一応、それが可能な迷宮を選んだつもりではあった。
テンダーウルフは骨格の強度が低く物理攻撃に弱い。
また連携を考えず、一体ずつ飛びかかる習性を持つ。
とはいえ機動力、接敵から攻撃までの素早さ、そして「飛びかかってくる獣」が持つ威圧感。
そうした強みも併せ持つ、獣系魔物の練習台として最適な魔物だ。
被弾の一つや二つはさせるつもりで、あの防具を買った。
本来、新人がここまで一方的に鏖殺できる雑魚ではない。
「階層突破っと。次行きましょー!」
「ああ。」
早い。
早すぎると言って良い。
迷宮に慣れすぎている。
迷宮に行ったことがある、などと言っていたが、なるほどあれは真実だったのだろう。
だがギルドの目を盗み、そう何度も迷宮に潜れるとは思えない。
それに、あの細腕であの筋力。
…真人間ではあるまい。
竜人、鬼人、あるいは異種族とのハーフ。
嫌な可能性ばかり思い浮かび、肝が冷える。
これならどこぞの令嬢の酔狂である方が何倍もマシだった。
とんだ大仕事である。
「…しばらく、禁酒でもするかな。」
呟く。
酒は飲んでも飲まれるな。
よく聞く警句だが、人はいつも失敗からしか学ばない。
そういった意味では、嬢ちゃんをこのまま初心者向け滑石迷宮に行かせ続けるのも問題だ。
この実力では練習にすらなるまい。
もう少し難しい迷宮に行くべきだ。
俺が補助としてついてる内に、多少は痛い目を見て貰う必要がある。
死なない程度に。
いずれ、上位の迷宮で死なないように。
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今日の幼女
◆会話イベントだけで金をせしめる
◆それを全額装備品にぶっこむ
◆強いパーティメンバーゲット
◆わらしべイベントで防具入手
◆ついでに武器も無料でゲット
◆その武器で確殺できる迷宮に行く
◆迷宮短時間クリアで、より上位の迷宮侵入イベント発生フラグを建てる
TAS?何のこったよ(すっとぼけ)
迷宮&探索者のランク付けは十段階。
滑石、石膏、方解石、蛍石、燐灰石、正長石、石英、黄玉(トパーズ)、鋼玉(コランダム)、金剛石(ダイヤ)の十種です。
なぜモース硬度かと言うと、モースさんも異世界転生したからです(強弁)
金銀銅を十段階まで増やすのキツイからね、しょうがないね。
迷宮踏破実績でランク上昇(滑石→石膏)、同ランクの迷宮に侵入できるようになります。(石膏解禁)
ちなみにパーティメンバーの半数以上が条件を満たしていればOK。
次回、「パワーレベリング:異世界迷宮ヒモ稼業」はそのうち書きます。
そのうちTASさんに「お前の事が好きだったんだよ!」させるんで気長にお待ち下さい。