町内鎖鎌大会で六位のお兄様に転生したおっさんのはなし   作:藤林 雅

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おためしばん
とらいあるばーじょん


 俺の名前は村雨。

 

 今から二十ニ年前に『この世界』に転生したという記憶を持つ男だ。

 

 前の世界では、両親からネグレクト(育児放棄)を受け、中卒で就職するも正社員にはなれず、派遣や日雇いで食いつないで生きていた過去がある。

 

 正直、青春も謳歌できず、異性と恋人になったり、結婚を経験した事もなく日々ただ生きるために過ごしていた。友人や知人も少なく、趣味は、週一の休みにネットカフェやマンガ喫茶で過ごし、たくさんの漫画や小説を読み漁る事だった。

 

 だが、そんな怠惰な生活をしていたせいか、四十才をこえた頃に身体を患い病に倒れてしまう。

 

 原因は不規則な食生活と慢性的なストレスと医者に言われた。

 

 そして、貯金もなく長期入院も出来ず、日銭を稼ぐ日々に戻るが当然の如く、病魔は身体を容赦なく蝕み、やがて住処のボロアパートで寝たきりになってしまった。

 

 寝たきりになったまま『輪廻転生っていうのが本当にあるならば今度は少しだけでもマシな人生を……』と願い目を閉じ――

 

 ――そして、次に意識が戻った時、自分は赤ん坊になっていた。

 

 新たな生を受け、『村雨』と名を貰った俺は、この世界では転生前の貧乏な境遇とは違い、鳳凰財閥という日本屈指のお金持ちの男児として生まれたのだ。

 

 前の世界でよく見たアニメやライトノベルでは、こういった転生モノ主人公は、チート知識で「ヒャッハー」して可愛いヒロインとラブロマンスを楽しむ作品が多かった記憶がある。

 

 だが、無駄に四十年を過ごした俺には知識も経験も乏しい。

 

 何より、恵まれた環境を与えられたのだから今度は悔いのないようにと考えた。

 

 そんな風に考えて慎重になっていたのだが、それは杞憂となる。

 

 恥ずかしい話、前世でどこにも安らげる場所が無かった俺は、幼稚園や学校で友達と精一杯、学んでクタクタになるまで遊んだ。よく転生モノで見られる神童のように振舞ったり、あえて同年代と合わせるといった事もせず、前の人生と合わせると五十年程の経験がある人間のやる事ではないと思いながらも、皆と学び遊ぶ環境が、本当に楽しいという感情は抑えられなかった。

 

 家に帰っても財団の運営で国内外問わず東奔西走する両親が、多忙でもあるに関わらず、仕事の合間に俺とコミュニケーションをはかる時間をとってくれている。

 

 そんな毎日、幸せを享受出来る生活を送っている中、俺は前の世界とこの世界での『差異』を知る事になる。

 

 この世界では『忍者』が存在するのだ。

 

 そう。ジャパニーズニンジャである。

 

 そして俺の生家である一族も忍者として深い関わりがあり、嫡男で財団の後継者である俺にも忍者の修行が課せられた。

 

 ファンタジーな展開に「ひゃっほう!」と忍者としての修行を喜んで受ける俺であった――が。

 

 鳳凰一族の忍衆の頭領としての才は無く、それどころか「もっとがんばりましょう」的な結果であった。

 

 親父は、俺の才の無さに落胆し、俺を廃嫡する事になる。母がこの件に関して親父に考え直すように諫めたが、俺はそれを素直に受け入れた。

 

 前世の記憶が無く本当の幼子であったらショックを受けていただろうが、前世で辛い生活をしていた俺にしてみれば許容範囲であったし、何より自分の忍者としての最高の成績が『町内鎖鎌大会で六位』では、財団を束ねる次期頭領としては恥ずかしい。

 

 それに親父だって、俺が憎くて廃嫡する訳ではなく鳳凰一族の頭領として苦渋の決断だった事がよく理解できたからである。

 

 そうして鳳凰一族の次期頭領の候補から外された俺の代わりに遠い親戚からひとりの少女が養女としてやってきた。

 

 名を『斑鳩』といい、俺に妹が出来たという嬉しい出来事でもあったが、次期頭領と廃嫡された身分の差で迂闊に関わりを持っては、両親や信頼のおける家宰は兎も角、財団で少しでも権威に縋り、上に立ちたい者達にはあまりよい顔はされないだろう事に思い至った。このままでは俺も妹もきっとお互い不幸になってしまう。

 

 だから俺は自分から申し出て、本家から籍を外し分家に預かって貰う提案をした。

 

 親父は渋い表情ながらも一族の事を考えて了承してくれたが、母が親父を責め立て挙句の果てに俺を連れて離婚すると騒ぎだしたのである。

 

 親父に罵詈雑言を浴びせる母の腕に抱かれながら、俺はこの世界に転生した幸せを感じる事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、そんな紆余曲折もあり、妹となった斑鳩とも最初は色々あったが、それなりに人生を楽しみながらその後十数年を過ごし、大学を卒業。非才の身で鳳凰財団に所属するのも気疲れしてしまうので、昔から何かとお世話になっている寿司職人の半蔵爺さんの伝手で『秘立蛇女子学園』という忍者養成学校の教師として就職する事が出来た。

 

 もちろん忍の才はこれっぽちも無い俺だが、この世界での忍者の任務は、政府や財界人の要人警護やライバル企業への情報収集や工作など多岐に渡り、人とは異なる『化生』達からの侵略に立ち向かわなければならない事もある。

 

 要は忍たるもの脳筋一筋では困るのだ。

 

 そんな訳で蛇女で一般教養として政治、経済、歴史なんかの授業を複数担当している。

 

 まあ、強い者が正しいという蛇女では俺の授業は人気が無い。

 

 だが、そんな彼女達の中にも俺の授業を真面目に受けてくれる生徒も少なからずいる。

 

 一般教養を受け持つ教師が少ない為、色々と大変ではあるが、それなりに充実した生活を送っていると思う。

 

 唯一の不満が、二十三になっても女性との縁が中々結べず、未だお付き合いした事さえ無いというもの。将来が少し気がかりである……まあ、財団のパーティーとかに参加する事もあるが、廃嫡された身ではウケが良くない。それに大体、斑鳩が傍に居る。本人曰く、言い寄ってくる男共を避けるためだとか……俺と違ってモテモテで羨ましい限りである。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事を思い出しながら俺は、就職を機に本家を出て一人暮らしを満喫しているアパートにたどり着く。

 

 とりあえず、戻ったら着替えてからコンビニに行って夕飯を買おうと考えながら部屋の鍵をまわす―― が、鍵が開いている事に気づいた。

 すわ泥棒に入られたかと驚きながらドアを勢いよく開けると、玄関と一繋がりになっているキッチンの前に、見慣れた蛇女の制服の上からエプロンを着けた少女が居た。

 

「あっ先生おかえりー」

 

 俺が帰った事に気づいた少女は明るい笑顔で挨拶をしてくる。

 

「両備が先生の夕飯作らせて貰っているから、ちょっとまっててね」

 

 以前、彼女の亡き姉と友人であった事もあり知己を得た両備ちゃんが俺に何かを差し出してくる。

 

 彼女の好きな棒付きキャンディーであった。

 

「両備の作る料理楽しみにしながらソレ舐めて待っててね」

 

 俺は、可愛くウインクする両備ちゃんの姿に自分の頬が熱で赤く染まるのを自覚する。

 

「イヤイヤ! そうじゃなくて! 両備ちゃんなんでここに居るの!」

 

「? 両備と先生の仲じゃない。何を遠慮する事があるのかしら?」

 

 わからないとばかりに首を傾げる両備ちゃん。

 

「いや、夜に現役JKが、男の家に居るなんて事、アパートの他の住人に知れたらマズイでしょ! それにどうやってここに入ったのさ!」

 

 後ろ手でドアを閉めながら、両備ちゃんに問い詰める。

 

「大家のおばあ様に『妹』ですって伝えたら快く鍵を開けてくれたわよ……ほら、コート脱いで」

 

 両備ちゃんは俺の言葉を気にするでもなく、俺の着ていたコートを自然に脱がして部屋の奥へと消えていった。

 

 昔から気が強く強引な所もあるが、両備ちゃんの双子の姉である両奈ちゃんの事もあり、人一倍常識的な性格をしていると思っていたんだが、こういった大胆な行動をする事もあるんだなと俺は溜息を吐く。

 

「そういえば、両奈ちゃんはどうしたんだい?」

 

 両備ちゃんの後に続いて部屋の中に入り、鞄を置きながら気になった彼女の双子の姉の事をたずねる。

 

「両奈なら縄で縛って置いて来たわよ」

 

 ハンガーに俺のコートをかけてくれながら何でもないようにそう答える両備ちゃん。

 

 普通に考えれば異常な発言であるが、両奈ちゃんは、いわゆるガチのマゾヒストかつ、両備ちゃん大好きお姉ちゃんなのでご褒美にしかならない。

 

 頭の中で荒縄に縛られている両奈ちゃんを想像して――

 

「今、両備以外の女の事考えているでしょ?」

 

 いつの間にか鼻と鼻がくっつくぐらいの距離に近づいた不満げな両備ちゃんに俺は驚く。さすが蛇女学園で選抜生に選ばれる忍実力者である。

 

「まあ、先生も男なんだし、女性に対して浮ついた心があるのは許してあげる。――でも、今は両備が傍に居るんだからね」

 

 両備ちゃんが発育の乏しい小さな胸をそらしながらエッヘンとしている可愛らしい姿に和む俺であったが、突如、来客を告げるインタホーンの音が部屋の中に響いた。

 

「あら、お客さんかしら?」と玄関に向かおうとする両備ちゃんの肩を慌てて抑える。

 

 他人にJK通い妻を囲っているという醜聞を広める訳にはいかない俺は、自分で対応すべく玄関のドアを開けた。

 

「お兄ちゃん! こんばんは! 遊びにきたよ!」

 

 目の前に現れたのは片方の眼に眼帯をした黒髪の小柄な少女こと未来ちゃんが満面の笑顔で居た。

 

「今夜、みんなアルバイトや用事とかで居ないから春花様が、あたしの事を心配してお兄ちゃんの所に行ってきなさいって」

 

 俺は未来ちゃんのその言葉に驚きながらポケットに入っていたスマホを確認すると、確かに春花ちゃんから『未来の事よろしく。今日は泊めてあげてね♡』とLI〇Eが入っていた。

 

 一緒に添付されていたぼっきゅっぼんで美人な春花ちゃんの投げキッスセクシーポーズの自撮り写真を保存する。俺だって健全な男の子ですから。

 

 未来ちゃん達はいわゆる『抜忍』であり、彼女の仲間達が、未来ちゃんをアジトでひとりにするのは気が引けたのであろう。蛇女で教師をしており、かつ『忍』では無い俺が、彼女達から頼られるのも教師としては嬉しくもある。

 

 未来ちゃんに至っては、彼女の趣味であるWeb小説の執筆から知己を得て、ライトノベルが大好きな俺は教師と生徒をこえて趣味を語り合った経緯もあり、お兄ちゃんと呼ばれるまで懐かれてしまった。

 

 そんな事もあり、また彼女の幼い外見が、昔の斑鳩を思い出させてしまい、俺も未来ちゃんの「お兄ちゃん」呼びをついつい許してしまっている。

 

「先生、誰が来たの――って未来じゃない!」

 

「あー! 両備じゃない! なんでお兄ちゃんのウチにいるのよ!」

 

 部屋の奥から現れた両備ちゃんがは未来ちゃんの姿を見て驚きの声をあげ、また未来の方も両備を指さしながら大声をあげる。

 

「先生! これはどういうことかしら!」

 

「お兄ちゃん! どういうことなの!」

 

 ふたりは、俺の片腕を取りつつ互いに「がるるる~」牽制しながら俺を問い詰める。ナイチチーズに挟まれながらコレはコレで役得と思う。

 

 そうこうしている間に、玄関先でバサリッと何かが落ちた音が耳に届いたので視線をそちらに向けると――

 

「あわわっ、村雨さんがっ、我の村雨さんがっ! 両備さんと未来さんに襲われていますっ!」

 

 そこにはサイドポ二ーの髪型に般若の面を横顔に着けた長身の女の子が居た。灰色を主とした死塾月閃女学館の制服を纏ったその子の名前は叢ちゃんだ。

 

 俺の実家である鳳凰財閥のライバルである大狼財閥の跡取り娘のお嬢様で俺の古くからの友人で所謂、幼馴染でもある。

 

 叢ちゃんは普段、般若の面をしていないとまともに喋れない極度の恥ずかしがり屋だ。

 

 まだ小学生の時にお互い仲良くなったきっかけは、実家の主催するパーティーなどで俺は立場上、廃嫡された身であり、彼女はその難儀な性格の為、互いに壁の花となっていたが、暇を持て余していた俺は、彼女に話しかけるようになり、叢ちゃんもはじめは無愛想な感じで「ああ」「そうか」としか答えてくれなかったが、何気なしにマンガやライトノベルの話をしたらスゴイ食いついてきて、般若の面を外し、可愛らしい顔をキラキラさせながらマシンガントークで色々話してくれるようになったのである。

 

 その後もパーティーの席上で会えば、良く話すようになったのだが、叢ちゃんと仲良くしていると斑鳩が不機嫌になる。まあ、ライバル財団のお嬢様と仲良くしていれば、次期頭首である斑鳩の面子に関わるだろうと思っていたが、後日、親父から「大狼財団の頭首からお前の事を聞かれたんだが、何かしたのか?」と聞かれた。何もやましい事はしていないので、素直に叢ちゃんと友人関係にある事を伝えると「ふむ……実は向こうからお前を婿にという話をいただいてな」という言葉に俺は驚いた。そして、その言葉を発した刹那、母と斑鳩から親父はフルボッコにされてた事に俺はさらに驚く。(大事な事だから二回)

 

 まあそんな経緯もあり、叢ちゃんとはそれなりに仲良くしている。彼女の描く創作マンガや差し入れで持ってきてくれるマンガはどれもおもしろくて、俺もいつも楽しみにしている程だ。

 

 が、両備ちゃんと未来ちゃんに挟まれた俺を見てショックだったのか、叢ちゃんはその場で屈み両手で顔を覆う。

 

「所詮、我なんかが、村雨さんと仲良くしているという事が、我の妄想にすぎなかっただけの事。こんな我を哀れんで声を掛けてくれる村雨さんが他の女の子と親しくしているなど常識的に考えて当然の事。でもでも、我も村雨さんともっと仲良くしたいのは偽りのない気持ち。醜悪な面をしている我でありますが、お情けでも構いませんので、せめて愛人に……いやいや我では到底、そんなポジションは得られるハズもありませんっ。でもでも、四季さんが『今日はカレシをモノにするチャンスじゃん頑張ってね』と応援された以上、我も覚悟を決めてココに来たハズ。せめて、せめて、村雨さんに女の子として見られる努力をしなければ、いつものように我の描いた漫画を読んでもらって、好機をうかがい、村雨さんの手をこう取り合って恋人つなぎなんかしたり……ああ、でもペンだこがある我の手なんか失礼にあたりますよね。だったら思い切って奇襲で接吻なんかで既成事実をつくれば……デュフフフッ」

 

 よく聞こえないが、叢ちゃんがマシンガントークを繰り出して、最後にはニヤケはじめた。

 

「と、ともかく、こんな場所で騒いでいたら他の人たちに迷惑がかかるからみんな入った、入った!」

 

 とりあえず、この状況を収めるために叢ちゃんを立ち上がらせ背を押して部屋に入れる。「ちょっと先生!」「うきゅ」「あわわっ」三者三様の言葉を漏らすが、世間体にマズイこの状況をご近所さんに見られる訳には行かないと俺は躊躇なくグイグイと彼女達を部屋の中へと押し込む。

 

 が、スマホの着信が鳴り出す。両備ちゃんが「今度はダレよ」と言わんばかりに険しい表情を向けてきたので、おそるおそるディスプレイを見ると『非通知』の表示が。無視しようにも着信が鳴りやまない為、俺は意を決して通話ボタンを押すと――

 

「……お兄様? 可愛らしい女の子たちを囲って楽しそうですね」

 

 実家に居るはずの義妹からの恐ろしい声に俺は、反射的に通話を切った。

 

 だが、俺の後方からおどろおどろしい殺気を感じ、そちらに背を向けると――

 

 玄関のドアが斜めにスパッと斬られた。

 

 そして、ドアの向こうに立っていたのは前髪を切りそろえた長い黒髪が印象的な俺の義妹こと斑鳩が、国立半蔵学院の制服姿で実家伝来の宝刀飛燕を構えていた。

 

「……お兄様?」

 

 本当に心臓をわし掴みされたような冷徹な表情を浮かべる斑鳩に俺は、文字通り恐怖した。

 

 とりあえず、両備ちゃん、未来ちゃん、叢ちゃん、最後に斑鳩の四人を部屋に居れる。

 

 さすがに独り暮らしのアパートの広さでは狭い。

 

 ベッドの上に避難して、胡坐をかいている俺の目の前には、ちゃぶ台の四方にそれぞれ座った少女達。

 

 何やらお互いを牽制しあっている。

 

「へうっ……」

 

 あっ、ひとりだけみんなの圧力に耐えている天使こと叢ちゃんがいた。

 

「……コホン。お兄様、コレは一体どういう状況ですか?」

 

 斑鳩が咳ばらいをして俺に問う。

 

「いやまあ、何だろうね?」

 

 本当に身に覚えがない。

 

「両備は、帰りの遅い先生の為に夕食を作ってあげようとしていただけよ」

 

 斑鳩の問いに俺が困っている様子を見て両備ちゃんがそう答える。

 

「他人の貴女がですか?」

 

「先生と両備はアカの他人じゃないわよ!」

 

 両備ちゃんが斑鳩の言葉に反論し、うがーっと抗議の声をあげる。

 

 そんな両備ちゃんの態度に斑鳩はヤレヤレと首を横に振り、溜息を吐く。そして様子を見守っていた俺に視線を合わすとニコリと微笑み、立ち上がって、ベッドに腰をかけて俺の腕を取り肩に頭を預けてくる。

 

 突然の斑鳩の行動に俺は驚き、腕を外そうとするが、斑鳩の体術により、腕が極められて外せない。

 

「お兄様は、いずれ私と共に鳳凰財閥を継ぐ大切な身です」

 

「えっ?」

 

 実家はお前が継ぐんじゃないのか? と言いかけたが、斑鳩は俺の態度が気にくわなかったのか、腕の関節をさらに極めてくる。

 

「ですから、交友関係に誤解を生むようなことがあってはならないのです。ですが、お兄様も若い男性である以上は、色々と溜まったものを吐き出さないといけない事は、私も承知しています」

 

 そう言いながら、俺の頭を自分の豊満な双丘に抱きかかえる斑鳩。

 

 やわらかっ! ――ではなく、義妹に己の欲情を解消してもらうなど、もっと誤解を受けるわっ! 特に親父からは半殺しにされる!

 

「ふふふっ。この私、斑鳩がお兄様にとって世界で一番愛おしい女性ですから……」

 

 いや、大切な義理の妹だ。両親と一緒で斑鳩の事は愛しているが、あくまで家族愛だから。

 

「私ならきっとお兄様をイロイロと満足させる事が出来ます」

 

 いや、斑鳩は、確かに美人な上、たわわに育った胸、忍術を極めるために鍛え上げられ引き締まった腰にすらりとした手足。正直、家族じゃなけりゃってのも確かである。

 

「そ、そういう事ならい、斑鳩さんだけじゃなくて我もきっと村雨さんを満足させる事が出来ますっ!」

 

 叢ちゃんが顔を真っ赤にさせながら俺の身体を斑鳩から引き離す。

 

 そして斑鳩がさっきまでしていたように俺の頭を抱きかかえる。

 

 おぼれてまうっ! 俺は、斑鳩とはまた違う感触のやわらかバストに包み込まれ叢ちゃんの甘い香りに溺れかけてしまう。

 

「む、村雨さんは、わ、我の実家である大狼財閥と鳳凰財閥公認の許嫁の仲ですからっ、他人じゃありせん!」

 

「えっ? 俺、初耳なんですけど……」

 

 本当に覚えのない叢ちゃんの言葉に俺は真意を確かめる為に斑鳩に視線を向ける。

 

「……私の方でその話は、潰したと思っていたのに……お父様、後で折檻です」

 

 何やらマズイ事をつぶやいている斑鳩から俺は視線を外す。

 

 と、今度は未来ちゃんが俺の腕を抱きかかえ、叢ちゃんから引き離す。

 

「この牛女共! お兄ちゃんが困っているでしょ!」

 

 未来ちゃんの言葉に俺は、彼女の気遣いに感動する。

 

「お兄ちゃんは、あたしのような小柄な女の子が好みなの!」

 

 ――やっぱ、違った。

 

「はいはい。みんな落ち着きなさいな」

 

 そんなやりとりにを不毛だと言わんばかりに未来ちゃんから俺を引きはがす両備ちゃん。

 

 やっぱり、両備ちゃんはしっかり者で頼りになるなと思った。

 

 が、両備ちゃんは俺の手を取ると、そのまま自分の臀部――プリンプリンなお尻に俺の手を持っていく。桃尻――いや、桃源郷とは正にこの事か! 俺は新たな境地に――

 

「先生は、ふしだらな胸や、お子様じゃなくて両備のお尻が一番好きなのよっ!」

 

 いや、確かに両備ちゃんのヒップラインは極上だけど……

 

「お兄様っ!」

 

「村雨さんっ!」

 

「お兄ちゃん!」

 

「先生っ!」

 

 そして俺は、みんなに詰め寄られる。

 

「「「「誰が一番なのっ!(なんですか!)」」」」

 

 ……俺は観念し、言葉を紡ぐ。

 

「……両姫かな?」

 

 初恋でもあり、一番仲が良かった両備ちゃんの姉の名前を出す。

 

 そして、俺の目の前には四人の修羅が……

 

「ふふふっお兄様ったら、冗談が上手いですね……今の発言、本当ならお兄様を斬らないといけません。そして私も後を追います。そうすれば、お兄様はワタシダケノモノニ」

 

 光を消失させ、ただひたすらに黒く黒く染まる瞳を浮かべ、愛刀飛燕に手を添える斑鳩。

 

「あははっ、うそよ! ウソ! お兄ちゃんがあたしを捨てるはずないものっ!」

 

 狂気に満ちた表情で俺の発言を嘘と認識しようとしている未来ちゃんの手にはいつの間にかガトリング砲が。

 

「……」

 

 叢ちゃんは横顔に付けていた般若の面を正面に戻し、無言で槍と大包丁を手にしている。表情がうかがえない分、怖い。

 

 そして、両目に涙をためてプルプルと身を震わせている両備ちゃん。

 

 彼女の手にしたスナイパーライフルの先端に光が収束しているのが見える。

 

「――どうしてそこで、両姫姉さんが出てくるのよっ! 先生のバカァー!」

 

 そして、俺は一筋の光となる。

 

 ――どうして、こうなった。

 

 

 

 

 




へびのあしという名のオマケ


 夜の星空が浮かぶ中、一人の少女が、駆けながら目的地に向かう。
 
「えへへ。じっちゃんの作った太巻きをたくさん貰ったから村雨お兄ちゃんにおすそ分けしてあげよっと」

 ポニーテイルに快活な笑顔を浮かべた少女飛鳥は、お世話になっている兄貴分の許へ向かっていた。

 そして、彼女の視線に流れ星が映る。

「あっ、流れ星。良いことがあるといいな」

 彼女の目に映った流れ星が、両備達に吹っ飛ばされた村雨である事を少女はまだ知らない。

 そして、両備、斑鳩、未来、叢の居るであろう村雨のアパートに飛鳥がたどり着いたとき物語はさらに加速するのであった――

 

やめてっ! 町内鎖鎌大会で六位のお兄様のライフはもうゼロよっ!



 おしまい

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