「おなか減ったから、何か作ってよ」
家に上がって、のどかの第一声はこれだ。
急に押し掛けてきたうえにご飯までねだるとは、なんとも図々しい。
「俺もご飯まだだからちょうどいいや、作るね」
メニューを考えながら、冷蔵庫の扉を開ける。
「あ・・・」
「どうかしたの?」
空っぽだった。
バイトの帰りにスーパーに寄ろうと思っていたのに、すっかり忘れてしまっていた。
「買い物しなきゃいけないの忘れてた・・・・。買い置きのカップ麺でもいい?」
「はぁ?現役アイドルの晩御飯がそんな栄養のないもので良いと思ってんの?」
そう思うなら、突然押し掛けることなんてしなければいい。
「分かったよ、今から買いに行ってくるね」
「しょうがないからアタシもついて行ってあげる」
「いや、いいよ。必要ないものまで買わされそうだし」
「いいから、さっさと行く!」
わがままお嬢様、もとい姉の理不尽は相変わらずだなとため息をこぼす愛斗。
「のどか、これはもちろん自分でお金出すんだよね?」
愛斗の知らぬ間にカートには大量のオレンジジュースが積み込まれていた。
「あんたの家に財布置いてきた」
「はぁ!?なら、このジュース返してきてよ」
「一度カートに入れたものを戻すのはマナー違反」
「どの口が言ってるのさ。まったく・・・。さすがに、持つのは手伝ってね?」
「分かってるっつの」
なぜオレンジジュースばかりなのか聞いたら「ジュースはオレンジ!これ常識だから」と答えてくれた。
「最近の常識って難しいなぁ」
買い物を済ませた帰り道、のどかの手には食材とジュースの入った袋、それに対して愛斗はのどかの倍の数のジュースと食材を持たせられていた。
ちなみに、愛斗のほうは量が多いので段ボールに詰めてある。
「ねぇ、あれって・・・」
愛斗の家の前に立っている人物をのどかが見つけた。
「あ・・・姉さんだ」
愛斗とのどかに気が付き、こちらに向かってくる。
「ずいぶんとたくさん買ったのね」
「半分以上は俺の買い物じゃないけどね」
少し居心地が悪そうにのどかが口を開く。
「麻衣さん、こんばんわ」
彼女は桜島愛斗の姉で元国民的人気子役(現在は活動休止中)の桜島麻衣だ。
「こんばんわ、のどか。愛斗、夕食に作ったハンバーグが余ったからお裾分け」
そう言って麻衣はタッパーを渡してくれた。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「うん、ハンバーグありがとね。おやすみ」
麻衣に会ったからか、家に帰ってからののどかは少し元気がない。
「・・・」
でも、愛斗が晩御飯を作り終え食卓に並べる頃にはすっかり元通りののどかになっていた。
「美味しそう!! アンタは料理の腕はほんと一流よね」
母親と麻衣が忙しく、昔から晩御飯を一人で作って食べる機会が多かったため、愛斗の料理の腕は今ではプロ顔負けレベルだ。
「ん~!!美味しい! 愛斗の料理がこれから毎日食べられるなんて最高」
「同棲は良いけど、俺はのどかとは結婚しないからね」
「そーゆー意味じゃないっつの! バカ愛斗!」
そんなやり取りもしながら、のどかのおかげで久しぶりににぎやかな晩御飯になった。
麻衣から貰ったハンバーグも、凄く美味しかった。
「あ、そうだ。お風呂の順番どうする?」
「んー、アタシは別にどっちでも」
「じゃあ、一緒に入る?」
「しね」
ゴミを見るような目で愛斗を見るのどか。
「冗談だって。俺が先に入っちゃうね」
これ以上ふざけるとさらに機嫌を損ねてしまうため、愛斗はそそくさと風呂場に向かう。
「アタシが入るって答えても断るつもりのくせに」
一人になったリビングでポツリとのどかが呟く。
愛斗が上がり、のどかもお風呂からあがるとまた問題が発生。
「アタシの脱いだ服は?」
「洗濯してもう干した」
「は?」
「心配しなくても、ちゃんと洗濯機に入れて回したよ。もちろん、洗濯ネットに入れてあるから大丈夫」
脱衣所に脱ぎ捨ててあったのどかの服も、ついでに洗濯しておいた。
「いや、そういうことじゃなくて!」
「あ、下着は手洗いしないとダメだった?」
「違う!!」
「じゃあ何さ?」
「アンタに下着見られたくないの!」
顔を真っ赤にして訴えるのどか。
「べつにいいじゃん、姉弟なんだし」
「良くないっつの!アタシの下着で変なことしてたら殺す」
「しないって。のどかの下着に興味ないし」
「それはそれでムカつく!!」
理不尽な怒りをぶつけられ、どうしようもない愛斗。
下着の件は置いておいて、もう一つ問題があった。
「のどか、寝るのどうする?」
「アンタの部屋の床に布団敷いて寝る」
「うちに来客用の布団なんて無いよ?」
「はぁ?なら、どうすればいいのよ」
「それは俺のセリフだって・・・」
泊まりに来る友だちもいないため、愛斗は自分のベットと布団しかもっていない。
「明日、のどかの布団を一緒に買いに行こう。放課後予定空けておいてね」
「うん」
「今日は俺がリビングのソファ、のどかは俺のベット。これでいい?」
「アンタのベットで寝るのは嫌だけど、仕方ないから我慢してあげる」
ベットを譲ったのに…と言いたい気持ちを、ここはグッとこらえる。
「はいはい、ありがとうございます。それじゃあおやすみ」
「ちょ、ちょっと待って!」
「はい?」
「まだ眠くないから、少し付き合って」
そう言って、愛斗を隣に座らせる。
「分かった。のどかが眠くなるまでね」
「アンタはさ……、聞かないの?」
「ん?」
「アタシがここに来た理由」
「俺のご飯を食べるため?」
「真面目に聞いてんの」
ふざけるとすぐ睨まれる。
昔から、のどかは少し冗談が通じにくい。
「また母親と喧嘩したのかなぁとは思ってた」
「やっぱそうだよね。アタシの家出する理由なんてそれくらいだし」
「どうして麻衣姉さんのとこじゃなくて、俺のところなの?」
「そ、それは………、麻衣さんは芸能界の先輩だから……」
腹違いの姉妹とはいえ、芸能界の先輩でもある麻衣を頼るのはのどかには厳しい。
アイドルもいろんな苦労があるらしい。
「そう言えばアンタは、高校はどうなの?」
中学生の時、愛斗に起こったことを知っているのどかとしては、愛斗が高校では上手くやれているのか少し、いやかなり心配していた。
「まぁぼちぼちだよ……。ねぇ、眠たくなってきたからリビングに帰っていい?」
「ダメ。まだ話したいことあるし」
「そうは言っても…」
「それくらい我慢しろっつの」
「えー」
我慢しろと言われても、人間は睡魔に抗えないのだからしかたがない。
「アンタが変なことしないって誓えるなら、このベット一緒に使わせてあげる」
「それは遠慮しとこうかな…」
さすがに姉弟で1つのベットで寝るのは愛斗も躊躇ってしまう。
「遠慮するなっての!」
無理やり愛斗の腕を引っ張ってベットに寝かせる。
「はぁ、分かったよ。でも、狭いって文句言わないでね?」
バイトの疲れもあったせいか、愛斗は横になるとすぐ眠りについた。
幸せそうな寝顔の
「アンタはこれくらいの荒療治が必要なのよ。
アンタの心の傷はアタシが絶対に治してみせる。
だから、
のどかがなぜ愛斗の家にしばらく住むことにしたのか、母親と喧嘩したというのはもちろんホントの理由だが、真の理由は愛斗が昔負った心の傷を治すため。
「ほんと、世話がかかる弟なんだから…。おやすみ……ちゅっ」
愛斗の頬にキスをし、のどかも眠りにつく。
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