優しさにたどり着くために   作:トップハムハット卿

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前回の投稿から少し日にちが経ってしまいましたが、5話です!
どうぞ!




「」 ←声に出した会話
[] ←心の中の会話
です


#5. 問題だらけなんですけど…

くっついてしまった愛斗と玲奈に、新たな問題が発生した。

 

それは、トイレだ。

 

[ちょっと、これトイレってどうすればいいのよ]

[まぁ、身体を共有してるんだから仕方ないんじゃない?]

[仕方ないって何よ! アンタにトイレしてるとこ見られるなんてありえない]

 

愛斗に限らず、他の人に見られるのは嫌。

当然の考えだろう。

 

[そんなこと言ったって、どうすればいいのさ]

[目を閉じてればいいの!]

[いや、それだと香芝さんも前見えないよ?]

 

身体を2人で共有しているのだから、玲奈が見るものは愛斗も見ることになるし、逆に玲奈が見ないものは愛斗にも見ることは出来ない。

 

[それでもいいの! アンタに見られるよりはマシ!]

 

必死に訴える玲奈。

逆の立場だったら確かに嫌だなと愛斗は思う。

 

でも、これからずっとトイレでは目を瞑るつもりなのだろうか。

 

そんなことを考えながら、愛斗は視界が明るくなるのを待った。

 

 

 

 

放課後、いつも通り朋絵たちと共に帰る玲奈。

 

だが、愛斗とくっついてしまったせいで、いつも通りの玲奈ではいられなかった。

 

「愛奈ちゃん、今日はなんかいつもと少し雰囲気違うね?」

 

そう聞いてきたのは日奈子だ。

 

「そ、そう?」

「私も思った。体調悪いとか?」

 

亜矢も続く。

 

「そんなことないって。ねぇ?朋絵」

 

とりあえず、朋絵に助け舟を求めておく。

 

「うん、いつもの玲…愛奈ちゃんだと思うけどなぁ」

 

だが2人はまだ納得していない様子だ。

愛斗とくっついたことをさすがに話す訳にもいかない。

おそらく信じてはもらえないだろう。

 

となると、この状況が解決されるまではあまり一緒にいない方がいい。

 

ごめん、用事思い出したわ。先に帰るね」

 

3人にはそう言って、逃げるように帰宅した。

 

 

 

 

 

 

「──はぁ…。ほんとこれからどうすればいいの……」

 

ベットの上で仰向けになり、何度目か分からないため息をつく。

 

[中間テストも近いし、勉強するべきなんじゃない?]

「そーゆーこと言ってんじゃない!」

 

愛斗からのズレた返答にイラッとする玲奈。

 

[原因が分からないのに、この状況の解決策を考えるのは無理だよ。それならテスト勉強したほうが絶対いい]

「こんな状況で勉強なんか出来るわけないじゃん!大体、アンタの意見なんか聞いてないし!」

[そんなこと言ったって……]

「黙ってて。大嫌いなアンタが私の中にいるってだけでも無理なのに、指図されるなんてもっと無理」

 

不満を心の中の愛斗にぶつける。

 

[分かったよ]

 

そう言うと、愛斗は一切口を開かなくなった。

 

 

 

 

 

「これどうやって解くのよ……」

 

勉強はやらないはずだったが、明日提出の課題があったことを思い出し、机で教科者と睨めっこをしている。

 

だが、この課題がなかなかに難しい。

さっき愛斗にあんなことを言ってしまったので、愛斗には頼りたくない。

 

しばらく悩んだが………解けなかった。

 

「ねぇ、これどうやるの?」

[………]

「ねぇ」

[………]

「ねぇってば!」

 

愛斗からの返事は返ってこない。

その代わりに、手が動いた。

 

「あっ…」

 

スラスラとシャーペンがノートの上を駆け、あっという間に解けた。

しかも、ご丁寧に解説もついている。

 

「すごい…。しかも、超分かりやすい」

 

さすがはクラストップの頭脳と感心する玲奈。

それと同時に、愛斗への罪悪感も湧いてくる。

 

「あのさ、さっきはごめん……。強く言いすぎた」

[こちらこそごめんね。もっと香芝さんの気持ちも考えて喋るべきだった]

 

[[……]]

 

気まずい。

共感する人も少なくないと思うが、喧嘩した後お互いが仲直りのために謝り合う時、少し気まずくなることがある。

今はまさにそれだ。

 

何か話題は無いかと考えていると、ふと朋絵が言っていたことを思い出した。

 

[ねぇ、アンタってさ、ホントにイジメなんてしてたの?]

[唐突だね。古賀さんに何か言われた?]

[朋絵は関係ない。私が疑問に思っただけ]

[なんで?]

[別に、なんでもいいじゃん。いいから答えてよ]

 

玲奈がクラスの中で一番噂を妄信していたと言っても過言ではない。

それなのに噂のことを聞いてくるということは、朋絵から何か聞いたんだろう。

愛斗はそう確信していた。

 

[んー、どうなんだろうね。みんながそう言うんだから、俺は虐めてたんだと思う]

[なんでそんなに曖昧なの]

[俺の昔のことはどうでもいいよ。それより、宿題の続きやらないと]

 

そう言って、愛斗は玲奈の代わりに宿題を解き進める。

 

[ちょっと、話を逸らさないでよ]

[俺はその話をあまりしたくないんだ]

[…あっそ。なら聞かない]

 

 

朋絵の言う通りなのかは分からないが、愛斗の"いじめ事件"の噂の裏には何かがあると玲奈は確信した。

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろお風呂入ろうかな…」

[随分遅いんだね]

「女子はだいたいこれくらいの時間に入るよ」

[へぇ。俺は晩御飯食べたらすぐ入る派]

「あっそ」

 

 

 

 

脱衣場に来て、気がついた。

 

「ちょっと待って、まさかお風呂もアンタと一緒?」

[まぁ、そうなるね]

 

「裸を見られるなんて……最悪」

[また目隠しでもする?]

 

文句を言われても、愛斗にはどうしようもない。

 

「いい!あーもう!裸でもなんでも見なさいよ!この変態!」

 

やけっぱちになった玲奈から理不尽な言われようの愛斗。

 

[俺は別に、見たくないんだけど]

「は?それはそれでムカつく」

 

[うそうそ。わー、とっても見たいなぁ]

「は?きも。死んで」

 

なんて理不尽な。

 

そんなやり取りをしながらも、服を脱ぎ終えてお風呂場へと入る。

 

「感想は?」

[は?]

「だから感想! 私の裸を拝んでおきながら、何も感じないわけないでしょ!」

[香芝さんって着痩せするタイプだったんだね]

「驚いた?スタイルには自信ある」

[へぇ]

「それだけ?他に無いの?興奮したとか」

[香芝さん、欲求不満なの?それとも、見られて興奮するタイプの人?]

「ち、違うわバカ!!」

 

真っ赤な顔で否定する玲奈。

 

「はぁ、これからお風呂の時は毎回こうなるのかと思うと憂鬱…」

 

頭を抱える玲奈であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、くっついてから1週間が経った。

 

愛斗と玲奈はどうなったのかと言うと……

 

 

 

「これ、いつになったら終わるの?」

[それは俺が聞きたい]

 

まだくっついたままだ。

 

でも、この一週間で2人の距離はかなり縮まった。

物理的な距離は0だが、精神的な距離も縮まったのだ。

1週間も一緒に過ごしていれば、自然とそうなるものかもしれない。

 

 

そんなある日の帰り道。

 

 

「あれ、君って1年の子だよね?」

 

 

声をかけられた。

その相手は、同じ峰ヶ原高校の3年生で男子バスケ部の上沢先輩だ。

 

「そうです!」

 

憧れの上沢先輩から声をかけられ、玲奈は目をキラキラさせながら返事をしている。

 

「いつも練習見に来てる子だよね?可愛いから覚えたよ」

「そ、そんな!可愛いだなんて!」

 

玲奈はとても嬉しそうだ。

玲奈が"上沢先輩のことを狙っている"と、この一週間で何十回と聞かされてきた愛斗は2人のやり取りを見守っている。

でも、愛斗には1つ気がかりなことがあった。

 

それは上沢先輩の噂だ。

 

玲奈とくっつく前に、佑真から聞いたことがあった。

バスケがこの学校で一番上手い。大学生の彼女がいる。

そして、今の彼女が全然ヤらせてくれなくて欲求不満らしい。

 

信じているわけではないが、佑真が言っていたということもあって絶対に嘘だとも思えない。

 

もし本当だったら、どうすればいいのか。

そんなことを考えていた。

 

 

 

「よかったらさ、俺と付き合わない?」

 

そう言われた直後、お尻に不快感を感じた。

 

「きゃっ」

 

 

上沢先輩が玲奈のお尻を触ってきたのだ。

 

「あ、あのー、これは…?」

「ん?ダメだった?」

 

頭がおかしいのだろうか。

オッケーなわけがない。

 

「え、えっと…」

 

そう言っているうちに、だんだんとエスカレートし、今度はお尻を揉み始めた。

 

さすがに玲奈もマズいと思ったのか、拒否を見せる。

 

「ちょ、やめてください」

「えー、いいじゃん。それに、体は気持ち良さそうじゃん?」

 

AVの観すぎではないだろうか。

愛斗にとっては気持ち良さなどない。嫌悪しかない。

でも玲奈の憧れの先輩なので、どうするかは玲奈に任せるしかない。

 

気がつけば先輩の顔が間近にあり、キスをしようと迫ってきている。

 

玲奈の体は震えていた。

 

震える玲奈の唇は小さく、こう呟いた──

 

 

 

 

 

「……助けて……」

 

 

 

その瞬間。

 

「──うっ!?」

 

先輩が急にうめき声をあげる。

どうしたのかと思い、下を見ると…

 

自分の膝が先輩の股間に直撃していた。

 

「え!?」

 

あまりの衝撃に膝をつく先輩。

 

「痛えな、コノヤロー」

 

立ち上がろうとする先輩の顔面に、自分の足が振り抜かれた。

 

「ぐはっ!!」

 

その時点で、自分の意思で身体は動いていないと玲奈は気づいた。

 

─すなわち、愛斗が動かしているのだと。

 

「ふざけんじゃねぇ!」

「ふざけてるのはどっちだ! 後輩にレイプ紛いのことしやがって。玲奈は、あんたに憧れを抱いてた!毎日毎日、あんたを見ては「かっこいい」だの「好き」だの言って嬉しそうにしてたんだよ! なのに、あんたは玲奈に何をしようとしてたんだよ!!!」

 

そう叫んで、先輩の股間にさらに強烈な蹴りをぶち込む。

 

「ぐはっ!!!」

 

そして残りライフが0…というかオーバーキルされた先輩の胸ぐらを掴む。

 

「次、玲奈に手を出そうとしたら、あんたのそれが一生使えないようにしてやるよ。もちろん、他の女の子に同じことをしようとしてもだ。分かったか?」

 

股間へのキックが効いたのか、怯えるような目でこちらを見る先輩。

 

「分かったら返事!」

「は、はい!もうしません!」

 

そう返事をすると泣きべそをかいて逃げていってしまった。

 

周りに誰もいなくなり、愛斗はふと我に帰る。

 

「もしかして、やばかった?」

[当たり前じゃん!明日からどうすんのよ!]

「あーー、ごめん!」

[もう、ホント信じられない……。もうバスケ部の練習見に行けなくなっちゃったじゃん…]

「ほんとごめんって」

[でも……ありがとね。先輩には失望した]

「そっか」

[アンタのせいで失恋した]

「ごめんって」

[許さない]

 

そう言いながらも、玲奈は少し嬉しそうだ。

 

[でもさ、なんで助けてくれたの?]

「男に尻を触られるのが耐えられなかったから」

[はぁ!?てことは私のためじゃなくて自分のためにやったの!?]

「まぁ、そうなるね」

[私の感謝を返せバカ!]

 

理由を聞いて玲奈は呆れている。

 

「まぁ、結果的に香芝さんのためにもなったから良しってことで」

[はぁ…、まぁいいわ。てか呼び方!]

「へ?」

[さっきは玲奈って呼んでくれたのに、今は香芝さんなんだ?]

「ダメ?」

[アンタのせいで失恋したんだから、罰として玲奈って呼ぶこと!いい?]

「わかったよ、玲奈」

[それで良し。さっきはありがとね、愛斗]

 

 

最低な先輩のおかげで、2人の距離はさらに縮まったのだった。




個人的には玲奈ちゃん好きだなぁ

感想ください!

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