悟空伝『異界放浪記』   作:Wbook

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巨悪との接触

「思いっきり投げ飛ばしたってのにまるで堪えちゃいねぇ。本当にタフなやつだな」

 

 

 悟空によって荒野まで投げ飛ばされた黒肌のヴィランは大地を何度も勢いよく跳ねながら、着弾地点から更に飛距離を伸ばし、巨大な岩石にぶつかる形でようやく停止した。

 

 しかしそれでいて、なお健在。

 

 何事も無かったかのように立ち上がる。

 既に傷も回復し始めており、程なくして真実何もなかったことになるだろう。

 

 

「やっぱりピッコロみてえに治っちまうのか……どうすっかなぁ」

 

 

 考え込む悟空を他所にヴィランは身体を斜に構えると……。

 

 

「おい、おめぇ何処に行く気だ!」

 

 

 ヴィランはどういうわけか、悟空を無視して走り出した。行く手にはさっきまでヴィランが暴れていた街が見える。

 もちろん悟空もそれを黙って見ている訳はない。脇を通り抜けようとしたヴィランの前に立つと、顎を蹴飛ばして再び元居た場所に叩きつけた。

 

 

「オラを倒さねえと、街には戻れねえぞ」

「……」

 

 

 悟空の言葉がヴィランに通じたとは思えない。

 だが、少なくとも敵だということは伝わったようだ。右拳を振りかぶり、悟空に襲いかかってきた。

 先ほどとは打って変わって攻撃的だ。

 

 ヒーロー達を降したのと同様の“個性”を複数組み合わせて放つ打撃。とはいえ、スピードとパワーはあっても軌道が読みやすいテレフォンパンチでしかなく、悟空にとってみれば避けるのはそう難しくない。

 

 しかしそれだけならば、ヒーロー達も敗れることはなかっただろう。

 

 

「何っ!?」

 

 

 躱しざまに一撃お見舞いしてやろうと構えたその時には、既にヴィランの腕は彼の懐近くまで引き戻されていた。ヒーロー達がヴィランの打撃の秘密を、他の何でもなく筋骨のバネ化と予想したのはこのためだ。

 例えばゴム化であったなら、もっと射程は広がっており、尚且つ反動も大きかっただろう。が、自らの挙動によって傷つくこともなかったはず。故に、バネ。詳細はどうあれ、それに近い性質だと判断した。

 

 ——バネならば、伸縮したのち元に戻るのは必然。

 

 戦い始めたばかりの悟空にはそんな情報を知る由もなく、判断の遅れは明確な隙を生むことになる。

 ヒーロー達もまた、そのために敗れた。

 

 

「…………」

 

 

 ラッシュパンチ。

 マシンガンの如き……という形容が存在するが、これほど似合うものも他にない。間断なく響き渡るズドドドッという破砕音がその凄まじさを物語っていた。実体は弾丸ではなく、砲弾を一斉掃射するかのような有様であったが。

 

 あまりの威力、あまりの手数に地面はことごとく砕け散り、既に地形すら元のままではない。

 巻き上がった砂けむりで視界もままならず、遠目に見たならハリケーンか何かが通った後のように映ったことだろう。

 

 もし仮にヒーロー達を相手にこれほどの攻撃行動を取っていたなら、悟空の到着前に彼らは血肉溜まりへと変わっていたかもしれない。

 そう思えても不思議ではないほどのヴィランは徹底していた。

 一体、何がヴィランをそうさせるのか……一体、“ヒーロー達と悟空では何が違うのか”。

 

 ようやく止まったかと思えば、どうやら腕へのダメージが限界に達したらしく、再生に集中している。

 

 

「おめぇあんまり頭は良くねぇみてぇだな」

「……」

 

 

 後ろから聞こえてきたその声にも、ヴィランは振り返るだけでやはり感情に変化は見られなかった。

 

 

「ちぇっ……ちょっとは驚いてくれてもいいんだぜ?」

 

 

 悟空は最初のパンチを躱した後、すぐに砂けむりに紛れてヴィランの背後に回り込んでいた。ヴィランはそれに気づかず地面を殴り続けていたのだが、まるで動揺している様子はない。

 

 再生が終わったようで、ヴィランはまたも悟空に殴りかかる。

 

 

「動きを見せすぎたな、もうオラには通用しねえぞ!!」

 

 

 腕が戻る前に手首を掴み、悟空は地面に片足を突き刺し、全力で踏ん張った。それでも腕が引き戻されることに変わりはないが、その腕が固定されているなら、動くのは当然ヴィランの身体の方。

 

 近づいてくるヴィランの顔面に向けて、渾身の拳を捻り込んだ。

 

 しかし一打では足りない。弾かれ、文字通りバネのように戻ってくるヴィランを何度も何度も殴り続ける。

 それこそ、再生が間に合わないほど執拗に。硬化でも防げないほど痛烈に。

 

 このまま攻撃を続ければ、程なくしてヴィランは力尽きるだろう。……しかし。

 

 

「降参しろ、おめぇに勝ち目はねえぞ」

 

 

 悟空はそれをしない。ヴィランの手を離し、三度同じ岩山へ吹き飛ばす形で拳を収めた。

 

 相手に勝機がなくなれば追撃はせず、手を止めて降伏を促す。悪癖とも美点とも取れるその行いを、彼は何十年も変わらず続けてきた。

 さしものヴィランもダメージと脳震盪によりフラついている。地道に打撃で仕留めずとも、トドメを刺そうと思えば簡単だ。気円斬で真っ二つにするか、再生など二度と出来ないようにかめはめ波で消し飛ばすだけでいい。

 

 

「こう言っちゃ悪りぃけど、ヒーロー達は油断したな。おめぇは強えけど、それだけだ」

 

 

 能力はあっても、行動は単純明快で技も皆無。力の大きさと実力が比例しないという典型的な例とも言える。

 再生と硬化に阻まれて勝てなかったとしても、まともにやり合って負けることはなかったはずだ。もちろんヒーロー達には、市民への被害を防ぐためという理由もあったのだろうが。

 

 ヴィランは未だ動けずにいる。当然だ、オールマイトでも悶絶したほどの威力の拳を何度も打ち込まれたのだから。

 再生能力と硬化が無かったならとっくに死んでいるところだ。

 

 

「——まったく、酷いことをする子だ」

 

 

 悟空にも算段はあった。降伏しないならしないで、こうしてダメージを回復している最中にでも拘束してしまえばいい……と。

 確かにそれはデイヴィットやオールマイトに相談すれば叶うことだ。彼らの元になら“すぐに行ける”。

 

 だが、この展開は完全に予想の外にあった。

 

 

「おめぇ、誰だ。そいつの仲間か?」

 

 

 虚空から現れたのは、黒のビジネススーツに身を包んだ……突如現れたという以外には何の変哲もない成人男性だ。

 しかしその、普通の相貌とは裏腹に放たれるオーラ。それは今まで感じた何とも違っていた。

 

 

「仲間……それは正しくないね。僕は、彼の作者()といったところさ」

 

 

 ——巨悪。その言葉がよく似合う。

 

 ピッコロ大魔王、フリーザ、セル、魔人ブウ、ザマス……誰とも似つかない。邪悪という一点では同じでも、性質はまるで異なっている。

 単に力の大小によるものではない。それだけなら、いま挙げた誰もが目の前の男を上回っているだろう。

 

 

「キミと彼との戦いは見させてもらった。ありがとう、参考になったよ。彼はまだ試作品でね、キミが言ったように力はあるがシンプルな行動しか出来ないんだ。順応性にも酷く欠ける。『街で暴れろ』という僕の命令を守るために、邪魔者のキミを無視して戻ろうとするほどにね」

 

 

 だがそれでも、目の前の男はすぐさま悟空を戦闘態勢へと移行させる迫力を持っていた。

 

 

「オラ、悪りぃやつとはたくさん戦ってきたけどよぉ。おめぇみてぇなのは初めてだ……」

「光栄とでも言っておくべきかな。どうやら見た目通りの年齢じゃないようだ。僕が言えた義理でもないけどね」

「なんでそいつを暴れされたんだ?」

「テストさ、彼がどれほどやれるか試したかった。本当は“別の男”で試したかったんだが……キミが来た。予定外だったが、嬉しい誤算だよ」

 

 

 本当に何でもない……それだけなら、単なる微笑みでしかない表情でも、この男は悪意の発露に変えてしまう。

 

 

「“個性”の関係かな……僕には分かる。キミは“無個性”だ。けれど、その力はとてもそうは見えない。驚いたよ」

「おめぇの気配は感じなかった、そいつなんかよりずっと強えくせに何処に隠れてた。オラわからなかったぞ」

「遠視さ。そういう“個性”も持ってるんだ。なかなか役に立つ“個性”でね、マイブームなんだ」

「そうかよ。で、どうするつもりだ、オラと戦うのか?」

 

 

 既に悟空は臨戦態勢だ。オールマイトとの組手で使う以上に気を高めて、男との戦闘に備えている。

 

 

「やめておくよ。僕が来たのは彼の回収のためだ。どうやら今の技術力では彼を完璧には仕上げられないようだけど、みすみす手放すのは惜しい。だから出来れば、このまま退散したいんだ。あまり長く国を留守にしたくはないしね」

 

 

 ヴィランは男が現れてから活動を停止している。命令に忠実というだけあって、男の邪魔はしないようだ。

 

 

「どうかな、見逃してくれないか?」

「……オラよぉ。あんまこういうことはしねえんだ、別にヒーローってわけでもねえし」

「じゃあ、帰らせてもらえるのかな?」

「——いや」

 

 

 言い知れぬ不信感が、悟空にそれを許さなかった。

 

 

「おめぇはここで倒す!!」

 

 

 初手。反応する暇も与えず手刀を食らわせるべく飛びかかった。だが……。

 

 

「——衝撃反転×5」

「ッ!? うわぁぁぁぁぁぁあああっ!?!」

「悪いね、気分が乗らないんだ」

 

 

 男はヴィランを盾にして悟空の手刀を受けた。しかし一撃を与えた手応えとは裏腹に悟空の身体は弾かれるように後方へと吹き飛ばされた。

 盾にされたヴィランが吐血しているところを見ると、ダメージは通るようだが、男は当然無傷。

 

 自分を吹き飛ばす衝撃を舞空術で堪え、すぐさま反撃に転じようと悟空は体勢を立て直し、男の方を見るが。

 

 

「おめぇ仲間を盾にしやがったなっ!!」

「何を言うんだ、殴ったのはキミだろう?」

 

 

 悪びれもせず、男は笑う。

 

 

「僕はいくよ。また、機会があれば会おう。その時は相手をしてあげるよ」

「逃がすかっ!!」

 

 

 次の瞬間には悟空は男の目前に迫っていたが。

 

 

「惜しい、タッチの差だ」

 

 

 今一歩届かず。男はヴィランとともに虚空へと消え去っていた。

 

 

「くそ、あんにゃろぉ……妙な技使いやがって」

 

 

 既にいまの悟空が気を感じられる位置には居ないようだ。

 どうやらあれは何処かへ転移する能力らしく、痕跡一つ見当たらなかった。

 

 

「……オラも長居はしねえ方が良さそうだな」

 

 

 遠くからいくつかの気が近づいてきているのが分かる。

 どうやらヴィランを追ってきたヒーロー達のようだ。誰かが見ていたのか、それともそういう“個性”持ちがいたのかは分からないが、どちらにせよ時間の問題だったろう。

 もうヴィランは居ないが、ここに居ては悟空も怪しまれるかもしれない。

 

 消えた男の正体。そして何処へと消え去ったのか。気になることはいくつもあるが、ここで考えていても仕方がない。

 心の中にしこりを残しつつ、悟空もまたヒーロー達に見つからないよう現場を去っていった。




活動報告にアンケートを置いているので良ければどうぞ。
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