悟空伝『異界放浪記』   作:Wbook

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ついに邂逅! ぶっちぎりのヤングヒーロー!

「で、名前は?」

「だから! オラ孫悟空だって言ってんじゃねえか!」

「それはJourney to the West……チャイニーズヒーローのお話だったかな、あれの登場人物だろう? ちゃんと本名言ってくれなきゃダメだよ、好きなのかい、あれ?」

「別にオラ嘘なんてついてねえぞ。生まれた時はカカロットって名前だったけどよ」

「やれやれ……ようやく名前が聞けたか。はいはい、カカロット君ね。変わった名前だな、日系? 中国系?」

「オラそんなんじゃねえぞ、サイヤ人だ」

 

 

 悟空が連れてこられた場所、それは当然警察署であった。とはいえ、別に取り調べ室なんかに連れてこられた訳ではなく、応接間で質問を受けているところだ。それ以前に耳にタコが出来るほど説教を食らったせいか、悟空の機嫌はあまり良くなかった。

 常識の違いのためか、はたまた悟空の見た目のためか。会話が酷く難航していたのも相まって、内心ではかなりのストレスを感じている。

 

 

「サイヤ? そんな国あったかなぁ……。それでファミリーネームは?」

「孫だ」

「それはもう良いって、全く。じゃあ、もうそれで良いからご両親の連絡先を教えてくれるかな?」

「オラ親はいねえぞ?」

「えっ?」

「オラ、山でじいちゃんに拾われて育てられたんだ。だから親っちゅうのには会ったことねえぞ」

「そ、そんな……ご、ごめんよ。そうとは知らずになんて無神経なことを……!」

「別にいいって、ずっと昔のことだしよぉ。なんでどいつもこれ聞かせっと同じような顔すんだ?」

「ずっと、昔……き、キミ、もしかして……今まで一人で?」

「ん? おう、それからずっとオラ一人で山ん中で暮らしてたんだ。でも今は——って、おい? 何処行くんだ??」

 

 

 取り調べをしていた警察官は目頭を押さえながら部屋の外に出て行ってしまった。

 

 

「なんなんだよ、まったく〜」

 

 

 むすっとした顔でソファーに深々と座り込む悟空。彼からすれば不服も不服。何一つとして嘘は言っていないのに信じてはもらえず、そもそもここに連れてこられたのも誤解以外の何物でもないのだから。

 あの警察官も善い人間ではあったのが、些か頑迷なところがあったせいで、悟空の話に耳を傾けてやることが中々出来ず、その結果がこれだ。

 

 悟空自身、何度か脱走してやろうかと思ったのだが、幸い行動には移さず踏み止まった。これがベジータなら、とっくの昔に警察署に風穴を開けて外に出てしまっていただろう。そもそも付いてくるかすら怪しい。

 

 

「しっかしあのおっちゃんどこ行ったんだろうなぁ」

 

 

 気を探ることでそれも把握出来るのだが、あの警察官の気は小さ過ぎて、近くに居ることは分かっても詳しい居場所までは見つけられなかった。それでも普段の悟空であれば問題なかったのだが、今の彼はどうやら気の扱いについても普段と同等というわけにはいかないようで。

 

 

「はやくしてくんねぇかなぁ、オラ腹へっちまったぞ……」

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「……なるほどな」

「はい。どうやら身寄りは無いようで……聞いた限りでは本当に基本的な教育しか受けていないみたいです。一般常識にも欠けていて学校にも通ったことがいないと」

「そうか。……よわったな」

 

 

 悟空の取り調べをしていた警察官は、彼の話を聞くうちに自分では手に負えないものと判断し、上司に相談。若干、自身の主観も踏まえながら事情を説明した。

 だが、当然というべきか業務内容は件の警察官の延長でしかない上司にとっても手に余るもので。

 

 

「やれやれ参ったな……こいつは俺たちポリスではなく、ティーチャー向けの案件だ。ともかく署長に報告してくるから、あの子から目を離さないように……」

「なあ?」

「ん、どうしたんだい、ボウヤ?」

「オラ腹へったしもう行くよ、じゃあな」

「おっと、そいつは悪かったな。気をつけて——って、おい!?」

 

 

 どうしたことか。応接間にいるはずの少年の姿が何故だかここにある。

 

 

「カカロット君、どうしてここに!」

「オラもうここに居んの飽きちまったし、腹もへっちまったからな。もうそろそろ行こうかと思ってよぉ?」

 

 

 つまり。最後に声くらいはかけて出て行くか……という次第らしい。

 

 

「ちょ。ちょっと待ちなさい!」

「なんだよ、まだなんかあんのか?」

 

 

 躊躇なく出口へと向かっていく悟空を、警官二人は慌てて呼び止めた。

 

 

「キミ、一人なんだろう? だったらもう少しここに居てくれれば、何処か紹介して……」

「別にオラもう一人じゃねえさ。嫁もいるし子供も二人いるぞ?」

「「……えっ」」

「あ、こないだなんかよぉ、上の息子がガキこさえたんだ。オラじいちゃんになっちまっただぁ、ははっ!」

「……あ、あの。カカロットくん……いえ、カカロットさん。あなた、いま……おいくつで?」

「いくつ?」

「は、はい。年齢は……?」

「トシか? オラいま四十くれえだ、細かいのは忘れっちまったけど。それがどうしたんだ?」

 

 

 あんぐりと、それはもう見事なまでに口を開き、呆然とした顔で二人の警察官は悟空を見据える。

 

 

「い、いやしかし……そんなまさか……」

「で、ですよね。そんな訳……」

 

 

 二人は一度目元をこすり、改めて悟空を見る。キョトンとして少々間抜けにも見えるが、純朴という他ない相貌なのだが……人間不思議なもので、だんだんとこの小さな少年が何処と無く大人のように見えてきて……。

 

 どうにも、酷い勘違いをしていたのではないかという、漠然とした不安が押し寄せてきていた。

 

 

「いやいやいやいやいや! 違うだろ、そんな馬鹿な! 俺より年上だなんて……!」

「本当だぞ? オラ本当はこんなにチビじゃねえんだけどよ、今はちょっと縮んでんだ?」

「え、今は……?」

「……おい。もしかして、彼はそういう“個性”なんじゃ……?」

 

 

 “個性”とは、多種多様にして千差万別。あるいは、そういう“個性”もあるのでは……ふとした疑念が、漠然とした不安を確かなものとしていく。

 身体の成長に作用する“個性”も存在するという話を、彼らも聞いたことがあった。で、あるならば、目の前の少年……いや、人物がそれに該当するという可能性も……。

 

 

「し、しかし、この子は銀行強盗を苦もなく撃退したと聞いた。それが“個性”でないなら……」

「…………」

「お、おい?」

「そ、そそそ……その、カカロットさんは終始“個性”の使用を否定しておりましたっ!」

「…………」

「…………」

「お前、始末書の一枚や二枚で済むと思うなよ?」

 

 

 実際、“個性”無しでも“個性”持ちを倒してしまうような人物は少数ながら存在しているので、それ自体はあり得ない事でもない。

 ともかく。こうして悟空は、めでたく解放されることとなった。

 

 

「ふぅ〜、くったくった〜!」

 

 

 現在悟空が居るのは、何処かの山の中。正確な場所は彼自身も分かっていないのだが、それは小さくなってもどうにか使うことが出来た舞空術で周辺の緑の深い場所を目指して飛んできたからであり、そもそもこの世界の地理を全く知らないからだ。

 

 今は、襲いかかってきた大猪を仕留め、その丸焼きを完食したところである。

 

 

「さあて、強いやつ探すぞー!!」

 

 

 願望・思考イコール発言・行動と言わんばかりの即断即決。

 強さの秘訣であり、同時に弱点でもあるそれは異世界でも健在であった。

 

 

「……あっちの方に幾つか強い気があるな」

 

 

 付け加えるなら、それらはいま戦闘中だ。だからこそ、今の悟空でも容易に見つけることが出来た。

 

 

「よし。いってみっかぁ!」

 

 

 平時には遠く及ばない速度の舞空術。

 おそらくは筋斗雲よりも遅い……しかしそれでも、この世界の飛行機より高速で、悟空は空に飛び去った。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「——なんだっ!?」

 

 

 戦いの気を感知した場所へ辿り着いた悟空を出迎えたのは、大きな爆発。ついで響き渡る轟音、金を切るような悲鳴が上がる。

 舞い上がる炎が、昼間だというのに夕刻のように周辺を赤々と照らしており、二次災害的に火災が発生していることが見て取れた。

 

 逃げ惑う人々の姿。そして、近くではまだ大きな気が暴れ回っている。

 

 

「ったくよお。強え奴を見つけたと思ったら悪者かよ……」

 

 

 悟空が望むのは、強敵との勝負だけだ。たまたま悪党と戦う機会が多かったというだけで、彼は決して“ヒーロー”ではない。

 だが、それでも……それでも、目の前で起こる悪事を見過ごすような人物ではない。

 

 

「しかたねえ、オラがぶっ飛ばしてやるっ!!」

 

 

 “個性”を悪用した犯罪は後を絶たない。程度の差はあれど、それは何処の国でも同じこと。強盗、殺人、詐欺、ハイジャック、果てはテロイズム……“個性”の数だけ犯罪が存在するが、どんな系統の“個性”にも共通するものが一つ。

 

 ただただ、チカラを振るいたい。

 

 そんな衝動に突き動かされただけのもの。何の理由もなく暴れ回り、一般人の生活を引っ掻き回す、とてもタチの悪い行為。

 今回は、まさにそれであった。

 

 

「ハハハハハッ!! 出てこいヒーロー、ゴミみてえなポリスどもじゃ相手にもならねえぞ!!」

 

 

 まず目立つのは、巨大な身体を持つヴィラン。道端に転がる自動車を片手で掴み上げる様は、まさしく巨人。しかしそれだけならば、まだ話は早かった。

 ヴィランは手に持った自動車を口元に運び、“食いちぎった”。

 

 

「ハ、ハハハ……すげぇ、すげぇ! こんなにデカくなれるなんて……俺は無敵だ! ハハハハハハ!!」

 

 

 食った分だけ、ヴィランの身体は大きくなる。しかしそれは人の姿を保ってのものではなかった。

 金属、ガラス、コンクリート等……ありとあらゆる物質により、ヴィランの身体は形成されている。身体の所々に、車のパーツや消火栓といったまだ原型を留めたものがある事からヴィランの“個性”は推測出来る。

 

 食べたものの質量を、そして性質をそのまま吸収し、どんどん大きく、強くなっていく極めて強力な“個性”。名付けるなら、食膨とでも言うべきか。

 この手の“個性”は容量に限界があるものだが……このヴィランのそれには、まだまだ届かない様子。

 

 時折気まぐれのように街を破壊しては食事を繰り返し、今ではもう銃器の類などまるで寄せ付けない動く要塞と化していた。

 

 

「まだだ、まだ俺は食えるぞ……このまま街ごと食い散らかしてやるよっ……!!」

「——そうはいかねえぞ!」

「? 何処だ! ヒーローか?!」

「どこ見てる、オラはここだぞ!」

 

 

 左右を見渡しても見つからず。背後にも居ない。そうしてやっと、下を見下ろしたヴィランは。

 

 

「……ハハハハ! なんだ、ただのガキじゃねえか! お前なんぞに用はねえんだよ、殺されたくなけりゃ家に帰ってママのお乳でもしゃぶってやがれ!」

「おめぇになくても、オラにはある! 今すぐ悪さをやめねえと、オラがおめえをぶっ倒すからだ!」

「お前が、俺をか? ハハハハハハ!! ああ、そうだな、笑いすぎて腹がよじれて死んじまいそうだぜ! やれるもんなら、やってみやがれ!!」

 

 

 遊び半分に、ヴィランは拳を振り下ろした。本気ではなくとも、確実に命を奪うつもりの凶打。

 それを、悟空が迎え撃とうとした——その時。

 

 

DETROIT(デトロイトォォォオ)——SMASH(スマァアアッシュ)!!!!!」

 

 

 悟空の背後から伸びた凄まじい一撃が、周囲の大気ごとヴィランの拳を吹き飛ばした。

 

 

「おめぇは……?」

「もう大丈夫だ、少年。……何故かって?」

 

 

 後ろを見れば。

 鍛え上げられた肉体に纏ったコスチュームに、硬質的な金色の髪が目に移る。そこには、風にマントをたなびかせ、威風堂々とそびえ立ち……豪快な笑顔で胸を張る若き戦士の姿があった。

 

 

「——私が来た!」




ヤングエイジ編です
そのうちに現代にも登場するので安心してください!
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