悟空伝『異界放浪記』   作:Wbook

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オールマイトの試み

「……出ねぇなぁ?」

「……出ません、ねぇ?」

 

 

 両手の平を胸の前で向かい合わせ、意識を集中しているオールマイトと、それをじーっと観察する悟空。

 

 

「なあ……キミたち?」

「邪魔すんなよ、デイヴ。オラ達いま真剣なんだ」

「いや、ゴクウさん。それはなんとなく見れば分かるんですが……」

 

 

 修行が始まってから既に一年以上が経つ。あれ以来、悟空はオールマイトの家に住んでいた。逆内弟子といったところか。

 とはいえ、悟空も家でじっとしているような性格でもなく、オールマイトもまた休日は修行、平日はヒーロー活動と学業という二足の草鞋で、寝る以外ではほぼほぼ家に寄り付かなかったが。

 

 最近はデイヴィットの研究室を溜まり場扱いしていて、よく三人で集まってる光景が目撃されている。今もそうだ。

 オールマイトもデイヴィットも悟空とかなり打ち解けてきて、今では苗字ではなく気軽な名前呼びとなっている。

 

 正体不明の十歳前後の子供がオールマイトの周りでウロチョロしていることも噂になっており、その愛らしい容姿——実際のところは四十のいい歳したおっさんなのだが——も相まって、ちょっとした人気も出ている。

 

 が、それは今どうでもいい。

 

 

「真剣なのは分かるんですが……何に真剣になってるんですか?」

「悟空さんに気のコントロールを教わっているんだよ」

「キ……とは?」

「こういうやつのことだよ?」

 

 

 悟空はハテナマークを浮かべたデイヴィットの前に手を出し、気弾を浮かべてみせた。室内で何処かに飛ばすのは危険なので、手の平に待機させたままだ。

 

 

「こ、これは……あなた達特有の能力なのでは……?」

「そんなことねえよ、気は誰にだってあるんだから」

「悟空さんはそれを感じ取ることが出来るらしく、我々のこともその気というもので気配以上に正確に認識出来るのさ」

 

 

 つまり。

 

 

「我々にも気があるということだ。おそらくこれは我々にとっての気功、オーラ、魔力といった概念なんだろう。あると言われつつも、科学的な証明は出来ていない生体エネルギーということさ」

「なる、ほど……いやしかし、科学者として目の前に実際にあるものを否定は出来ない……」

 

 

 純粋な科学畑の人間であるデイヴィットには受け入れがたいものであったが、自分の目で見てしまったなら信じる他ない。

 

 

「それは分かったが……どう見てもトシの手の平から光の玉が出ているようには見えないぞ?」

「そこだよ問題は!」

「問題、というと? 正直出ないのが普通だと思うが?」

「悟空さん! ご説明を!」

 

 

 話を振られた今でも、悟空は首を傾げたままであった。デイヴィットにも、悟空が珍しくかなり悩んでいるのが見て取れた。

 

 

「こんだけ気が集まってたらよぉ。普通小せえ気の玉くれえ出るもんなんだ。オラの子の嫁も……ありゃ? あいつもオラの子になんのか? まあいいや、ともかくそいつもよぉ。オールマイトに比べたら強さは大したことねえんだけど、ちょっとくらいなら気も出せるし、舞空術だって使えんだぜ?」

 

 

 途中で話が脱線しているが、悟空が言いたいのはオールマイトはそれなりに気を集められているのに、何も反応がないのはおかしいということだ。

 

 

「トシに自覚はあるのか?」

「ああ、なんとなくだが理解はできているよ」

 

 

 それも含めて、オールマイトならもうとっくに気弾を放ててもおかしくないレベルに達しているという事実が悟空を困らせていた。

 悟空はオールマイトの修行をつけるという約束を生真面目に守っていた。戦いに関することというのもあって、こうして“新たな戦法”に対してまで相談に乗るほどだ。

 

 

「そもそも、どういう話の経緯なんだ?」

「いやね、悟空さんが組手のときによく舞空術を戦術に組み込むんだが、それがとても厄介なんだ! だから私にも使えたらな〜と!」

 

 

 雄英高校時代にグラントリノにひたすらボコボコに……いや、しごかれたのと同じく、悟空もまた可能な限り厳しく指導して欲しいというオールマイトの頼みに応え、組手のたびに彼を痣だらけにしていた。傍目にみればボロ雑巾といっても良い。

 組手の頻度はグラントリノとの実戦訓練に比べれば少ないが、初めに受けた鳩尾への肘打ち連打はオールマイトの新たなトラウマとして心に刻み付けられている。

 

 それでもオールマイトは悟空との戦いから、様々なことを学び取っていた。舞空術に興味を持ったのも、その延長である。

 舞空術は空を飛べるというだけの技ではないということにオールマイトは気づいたのだ。

 

 

「飛行能力というだけでも有用だが、この舞空術というのはそれだけじゃないんだ。空中においても推力をいつでも確保できる……つまり、地上で地面を踏みしめている時と同等の格闘戦が可能になるんだ! 三次元的な空間把握は必要になってくるが、このアドバンテージはかなり大きい!」

 

 

 オールマイトとて空中にいる相手と戦う術は持っている。それは、空中への大跳躍に加えて、拳圧等による迎撃・方向転換など多岐に渡るが、やはり地上に比べれば不自由と言わざるを得ない。

 

 それほど“地面”というのは重要なのだ。

 

 格闘戦において、地面を如何にして踏みしめるかは戦況を容易に左右する。力量が伯仲するほどに重要度を増していき、相手に理想の足運びをさせないための小技なども実力者は備えているほどだ。

 

 だが、舞空術を用いていつでも推進力を確保できる戦士達にはその理屈が通用しない。

 

 

「あり得ない体勢から突如として放たれる強打……あれは効く」

 

 

 グラントリノとの長きに渡る実戦訓練もまた、その理論をオールマイトの中で確かなものとして受け入れる下地を作っていた。彼は足裏から放たれるジェットで、空中だろうと何処であろうと縦横無尽に飛び回り、予想外の一撃を叩き込んでくる。

 

 

「だから私も!……と、思ったんだ」

「が、上手くいかないわけだ」

「その通り!!」

 

 

 胸を張って言うことでもないが。

 

 

「……しかし、ゴクウさんの言う通りなら出来てて当然なくらいなんだろう?」

「ああ、それで二人して頭を悩ませていたのさ」

「気を完全にコントロールすんのは、ハッキリ言ってめちゃくちゃ難しい。オラだって、ここまで来るのに何十年もかかってる。けど舞空術や気功波くれえならコツさえ掴めりゃ出来ないってほどのもんじゃねえんだ」

「ふむ……。これはもう、生物としての違いとしか私には思えないんだがな」

 

 

 デイヴィットの出した結論。それは悟空やオールマイトには辿り着けないものであった。

 

 

「というと?」

「いや、本当に正解かは私にも分からない。私は科学者だ、キミ達とは視点が異なる」

「とりあえず話してみろよ、オラ達の方はもうお手上げだしな」

「……わかりました。そういうことなら、渋る理由はありません」

 

 

 二人に促されたデイヴィットは、自分の考えを整理しながら口を開いた。

 

 

「まず、ゴクウさんが気と呼称するエネルギー……これはトシの言うように生体エネルギーの総称と考えてまず間違いないだろう。故に私たち、この世界の人間もまたそれを保持している。トシがそれを感覚的に理解できたことも踏まえれば、コントロールも可能と考えていいだろう」

 

 

 ここまでは悟空とオールマイトの話を元に組み立てた答えで、おそらくそれは間違いではないだろう。気を操作できる戦士達にとっても知らない者へ説明するのが難しい概念なので、答え合わせは出来ないが。

 あるいは、スカウターを開発したツフル人やその技術を吸収した科学者達であれば科学的に説明も出来たのかもしれない。

 

 

「だが、体外へは放出できない。ここが難点だ。ゴクウさん、気の使用に種族的な差はなかったのですか?」

「差、かぁ。そりゃ変な技使うやつとかは居たけどよぉ?」

「些細なことで構いませんよ」

「うーん……。あっ! そういやよ、昔戦った宇宙人達のなかにオラ達が気をコントロールしてんのを珍しがってる連中が居たぞ!」

「ということは、コントロール出来ない種族も居るということですね?」

「ああ。どいつも多少は変わるもんだけど、大きく変化させられないやつは確かに居た」

「つまり、そういうことだと思うぞ、トシ」

 

 

 その意味はオールマイトにもすぐに理解できた。

 

 

「……我々も、それが出来ない種族ということか」

「その通り。ゴクウさんの話を聞く限り、同じ地球人でもこちらとあちらでは違いがある」

 

 

 悟空のいた地球には、怪物型や動物型の地球人も存在しているらしく、なんなら彼の親友は鼻と髪の毛が無いそうだ。体格一つとっても、巨人のような者も居るらしい。

 “個性”のない世界から来たというのに悟空がやたらと早く順応したのをデイヴィットは不思議に思っていたが、それは細かいことを気にしない彼の性格の問題だと初めは思っていた。

 

 しかし、悟空の話を聞くうちにその予想が間違いであったことに気づき、ひいては今回の結論に至るファクターとなったのだ。

 

 

「ゴクウさんのDNA情報から想像した限りでは、あちらの地球人もそこ以外は然程違わないのかもしれないが……気を体外に向けて作用させる類の技は諦めた方がいいかもしれない。不可能ではないかもしれないが、難度は高いだろう」

 

 

 オールマイトの希望をバッサリと断ち切る形とはなったが、デイヴィットの結論は的を射ているように思えた。

 

 

「となると、コントロールを学んだのは無駄に終わるか……」

「んなことねえ。続けりゃいいさ」

「悟空さん?」

「別によぉ、舞空術や気功波だけが気の使い方じゃねえんだぜ?」

 

 

 気を利用した闘法は、目に見えるものばかりではない。

 

 

「気を探れるようになれば、目に見えねえ動きだって捉えることが出来るし、隠れてるやつだって見つけられるんだ」

「あっ……だ、だから後ろからの攻撃でもまるで見えているかのように……!」

 

 

 心当たりがあったオールマイトは、腑に落ちたといった様子だ。

 

 

「まさか、そんなことまで……」

「気の操作に慣れてくりゃあ、それを大きく高めてパワーを爆発させることだって出来んだ。無駄なもんかよ」

「瞬間的なパワーの増強……か。トシの“個性”との相性もいい」

 

 

 悟空の修行の基本方針は亀仙人と同じで、基礎能力の強化がメイン。加えて、オールマイトの経験不足を補うための組手を中心とした内容であった。

 技の習熟は本人の創意工夫に任せるのが亀仙流だ。

 

 しかし、これぐらいのアドバイスは許されるだろう。

 

 

「では、このまま気の扱いに慣れていけばいずれは!」

「ああ、きっとな!」

「Yes!!!」

 

 

 と、ガッツポーズを浮かべるオールマイト。努力が無駄ではないと分かれば、あとは突き進むだけでいい。

 

 

「そうと決まれば修行……と、言ってもこれは焦って習得出来るものでもないか」

「ハハハ、そりゃ楽じゃねえさ」

「というか、これは精神集中以外に鍛錬の方法はあるんですか?」

「あるぞ。悟飯のやつもガキの頃ピッコロに教わってたんだ」

「おお! では早速お願いします!」

 

 

 なお……オールマイトはその日、新たなトラウマを更新することとなった。




悟飯とピッコロの修行=オールマイトとグラントリノの訓練
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