徒然なるままに   作:T・M

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ムドが獣の騎士と戯れます


黒龍の戯れ

 ここまでのあらすじ

 合体領域が完成した冬の終わりのある日、雨宮夕日と東雲三日月は色々あって黒龍のムドと戦うことになった。

 

「来いや、ガキども。遊んでやる」

 和服の男――ムドは、一言そう告げて、静かに佇んでいる。足を開き、腕を組み、両の目を見開き堂々と、対峙する2人の若者を睨み付ける。

 話す度にちらちらと見える牙のように鋭く尖った歯、最低限整えているだけの黒い蓬髪、爬虫類を思わせるような眼光。それらはどことなく、雨宮夕日と共に立つ、東雲三日月に似ていた。

 しかし、発せられる闘気、圧し潰されるようなプレッシャーは、完全に異質、別格のもの。

 適当な人間を見定めて因縁をつけて実戦訓練をしよう、などと酒の入った軽い冗談から、まさかこんな状況になってしまうとは。というかなんで街中にこんな達人がいたんだどんな確率だ。

 心の中で愚痴りつつ、右手中指で眼鏡のブリッジに触れる。

「ぼくはフォローに回る。三日月、存分に跳べ」

「おうよ!」

 最低限の言葉だけを交わして、夕日はその場に留まり、三日月は小さな超能力の力場――掌握領域を引き連れてムドへと突貫する。そのまま激突すると見せて、横に飛び、掌握領域を足場として、反発するように跳躍。その先には掌握領域、そのまた先にも……半球のドーム状に展開された、無数の小型掌握領域の結界。

 これこそは東雲三日月の1人舞台――本人曰く「おれの胃の中」――掌握領域『封天陣(ほうてんじん)』。相手が無数であったり巨大であったりした場合にも応用させていたが、この能力は対人の1対1でこそ真価を発揮する。

 三日月は「きゃきゃきゃ!」と猿叫の如き笑い声をあげなら滅茶苦茶な軌道で跳び回り、その間にポケットに忍ばせていた小石を取り出して、封天陣を構成する掌握領域の幾つかにセット。奇抜な笑い声と派手な動きで視線を引き付けつつ、機を見て射出。ムドは死角から放たれたそれらを手刀で苦も無く迎撃するが、時間差で三日月が襲い掛かる。それも、ひょい、と道端の小石を避けるような動きでかわしてしまう。

「つっかかってくるだけのウリ坊かと思ったが、意外と小手先も使うんだな」

「こちとら戦うのが好きなんでね。殴るのも蹴るのも、騙し討ちも小細工も大好きなのさ!」

 ムドが感心したように言葉を漏らし、三日月はとても楽し気に――いや、本当に大はしゃぎで答えている。流石は根っからの戦闘狂、根暗眼鏡の自分とは生きている次元が違う。

 そんなことを考えながら、夕日はすたすたと封天陣の中に入ってムドへと歩み寄り、後ろからその首へと手を伸ばす。当然、ムドは反応する。これも読みの内、夕日は一切動じない。その迎撃の動きと力を逆用し、自分の力も加えて制御して投げ飛ばす――天才武術家・半月から継承した技への、絶対的な信頼。

 かつては、傑出した技に凡庸な心も体も追いつけず、バラバラで出鱈目だった。だが、今ならば。今の自分ならば、心も体も技に追いつける。

 その確信は、自分が宙を舞っているのを自覚するまでは揺るぎのないものだった。

「さっき『フォローする』って言ったのも策の内か、やるじゃねぇか」

 ムドの冷静な言葉を聞いて、呆然と自分を見上げている三日月の間抜け面を見て、夕日は漸く、自分が逆に投げられたのだと気づいた。気付いて即座に、自分の掌握領域を顕現させ、逆転していた天地を整え、落下の速度を減退させて無事に着地する。

 驚愕しながらも無意識にこれらをこなせたのは、今日までの鍛錬と戦いの賜物。だからこそ、驚愕は収まらない。

「ぎゃ、逆にいなされた!?」

 肩に乗るトカゲのノイも驚きの声を漏らした。常人では目も理解も追いつけない風神の技を、ムドは軽々と――それこそ東雲半月その人のように――いなして、返して見せたのだ。

「東雲さんの技を、逆に返してくるなんて……! この人は……」

 夕日が驚愕から立ち直るまでの間に追撃を受けなかったのは、幸運故ではない。兄をも超えるやもしれない強敵の存在に歓喜した三日月が、血気盛んに矢継ぎ早にムドへと襲い掛かったからだ。

 封天陣の中を跳び回りながら、小石や砂だけでなく自分自身さえも矢のように射出して、三日月はムドへ幾度となく迫る。それをムドは、今度は避けたりいなしたりすることなく、すべてを正面から受けて、防いだ。一分の狂いも隙も無く。

 触れられてはいても、一撃を入れるには、あまりにも遠い。

 三日月は一度距離を置き、着地した。どうやら攻撃で逆に足と拳を痛めてしまったらしいのが、所作から見て取れた。

「くそっ、どんな間合いや死角から攻めても全部防がれて、しかも防御が硬すぎて逆にこっちがダメージを受けちまうときたもんだ……! こいつ……」

 強い。

 実際に声にこそ出さなかったが、それが2人のムドに対する率直な評価であり、共通認識であった。

 ムドは自分から動こうとはせず、夕日と三日月の様子を伺っている。その表情は、疲弊している2人とは対照的に、悠然としている……というよりは、退屈そうだった。

「ゆーくん、どう思う?」

「11体目と同格か……いや、それ以上。多分、今まで戦った中でも最強の敵だ」

「同感。いやー、とんでもない隠しボスに喧嘩売っちゃったなー」

「笑っとる場合か……」

 暢気なぐらい気楽な調子で交わされる2人の会話に、ノイは呆れ顔だ。三日月の頭の上に留まっている烏のムーは、普段通り無表情と無言を貫いている。

 従者の獣たちをよそに、夕日と三日月の話は続く。2人とも、目の前の強敵に夢中なのだ。

「強敵だけど、本当に敵ってわけではない。地球存亡をかけた戦いではなく、本当にただの喧嘩だ。だからこそ価値がある」

「同感。何も気にせず思いっきりやれる」

 そこまで話して、くっくっくっ、と2人揃って小さな笑いを漏らす。

 特に夕日にとって、戦いとは常に命懸けで地球の存亡さえ懸かったもので、こんな風にそういう心配を一切せずに格上の強敵に挑める機会など、滅多にないのだ。それこそ、夢の中でぐらいのものだったか。

 最近は子供たちにとって心強い大人であろうと、2人とも柄にもなく肩肘張って背伸びをしていた。そういう気負いがなく戦えるというのも、ある種心地よいものだった。こんな気持ちは、2度目に三日月と戦った時以来か。

「どうした、まだ来ないのか? だったらお前らの負けってことにしておれは帰るぞ。なんか興が冷めて来た」

 2人は興奮冷めやらぬが、ムドはそうでもないようで。急速に頭が冷えて、悪童への苛立ちも収まったのか、心から退屈そうな様子だった。今にも帰りそうなムドの足元を、三日月の鋭い闘気が突き刺す。

「そんなこと言わないでくださいよぉ、旦那ぁ。夜はこれからですぜぇ」

 三日月が浮かべるのは、悪鬼の如き凄絶で、心から楽しむ子供のような無邪気な笑み。

 気が付くと、夕日も釣られて笑みを浮かべていた。勿論、三日月のような凶悪な笑顔ではなく、この場にいる誰よりも陰険な笑みだった。

「三日月、ある技を試したい」

「技? どんなよ」

 聞き返された夕日が「それはだな……」と提案の詳細を耳打ちすると、「面白そうじゃん」と三日月はニヤリと笑った。

「だから、あまり奇天烈な動きはするなよ」

「分かったよぉ!」

 最低限のやり取りを終えて、三日月が突進し、その後を夕日が追う。ムドは溜め息混じりに振り返って、両手を組んで待ち受けている。

 三日月は先程と同じく封天陣へと跳ぶ。続いて、夕日は歩きながら領域を顕現させ、どんどん大きく――いや、封天陣の内側ギリギリを覆うように広げ、目に見えなくなるほど霧散させた。

「なんだ、サイキックが大きくなったと思ったら消えた?……いや、目で捉えられないぐらい薄く広まったのか?」

 ムドは悠長な様子で、動き回る三日月よりも夕日の掌握領域を注視していた。

 勘が鋭い、しかもサイキックまで知っているとは恐れ入る。一体、この黒衣の男は何者なのか、今更ながらに疑問が生じたが、三日月が夕日の領域内に来たことで、すぐに思考を切り替えた。

 ここから先は、一瞬たりとも思考は絶やせない。眼鏡のブリッジに右手中指を当てて、集中を高める。気が付けば体に染みついていた、東雲三日月の高笑いのような、雨宮夕日のルーティーン。

 後方から迫る三日月を迎撃しようとムドは動き出し、今までならば軽々と弾くか防ぐかしていたが、今回だけはいずれも間に合わず、脇腹に蹴りの直撃を受けた。

 深追いはせず、すぐさま封天陣へと戻る三日月。その様子を目だけで追って、ムドは自分に起きている異常に気付いた。

「急に速い!? それに、おれの動きが遅い……!?」

 これこそは、雨宮夕日の掌握領域『天の庭(バビロン)』の仕業。

 相手の動きを遅くし、自分の動きを速くする、至極単純なトリック。どの動きを、どう速くし、どう遅くするか、一瞬たりとも思考を止められない。今まで窮地に追いつめられるたび、思考を止めずに思考で以て逆境を潜り抜けて来た、雨宮夕日だからこその能力。

 本来は自分だけを加速させる想定の能力だが、今回は三日月も加速させている。トリッキーな動きを追うのは厄介だが、二度拳を交え、幾度となく酒を酌み交わした悪友の思考も動きも、予測するのは難しいことではなかった。

「ひゃーっひゃっひゃっひゃっ!! どうしたどうした、旦那ぁ! 防戦一方じゃないかよ!」

 自分の意識外での身体加速にも即座に順応し、三日月は一気呵成に仕掛ける。そこへ夕日もぶらりと歩み寄り、背後からムドの首を狙う。それを反射的に払い除けようとしたムドの手を先んじて掴み、今度は夕日がムドを宙へと放り投げた。

 予想外の事態の連続にムドが驚愕し、無防備になった一瞬が夕日の天の庭によって微かに延長され、そこへ加速した三日月の蹴りが突き刺さった。

 放り投げられたうえ地面に蹴り落とされたムド、反動と自分の領域を使って空中の封天陣に帰還する三日月、そして地面に立ち油断なくムドを見据える夕日。

 ムドと2人の立場は、遂に逆転した。

「まさか、2対1とはいえ、ぶん投げられちまうとは……」

 大地に身を預け、夜空を見上げて、ムドは茫然と呟いた。こんなことになるとは、夢にも思わなかったという調子だ。

 ここは調子に乗って、何かかっこいいことでも言ってやろうかと夕日が三日月と目配せした、直後、哄笑を上げながらムドが飛び起きた……いや、飛び跳ねた。まるで、地に臥す龍が天へ昇るように。

「師匠や千夜以来だぜ、こんな気分はよ!」

 雷鳴のような哄笑は止み、ムドの顔には凶暴で純粋な笑みが残された。

「足らない力を、合わせておれに差し迫れるとはよ! いいぜいいぜ、楽しくなってきたじゃねぇか!」

 とても楽しげで嬉しげな咆哮がそのまま合図となって、いよいよ本当の意味での――2人にとっての――戦闘開始となった。

 今までは、2人がかりでムドにちょっかいを出していただけで、ムドは羽虫を除けるがごとく払っていただけ。そのことを、夕日も三日月も改めて痛感することになる。

 夕日の天の庭によるスピードの攪乱と、三日月の封天陣による立体機動からの奇襲攻撃。これらを巧みに組み合わせてもなお、その気になったムドにはあと一つ届かない。

 天の庭で減速させても速さと勢いを落としきれず、辛うじてかわすか防ぐかで、攻勢に転じるのが難しい。ムドの攻撃の圧力が桁違いで、技でいなせるぎりぎりのところにあるのだ。加えて、三日月と同じく、ムドも天の庭による意識外の減速に既に適応しているのだ。

 天の庭の肝は、相手の意識と動きを切り離し、必然的に生じる焦り、困惑、混乱等々の隙を、自らは意識的に加速して逃さずそれを衝くことにある。それを、こんな短時間で克服されるとは完全に想定外だった。

 正直、侮っていた。彼にとって先程までは戦いでも遊びでもない、ほんの戯れ。子供に付き合って相手役を渋々やっていただけだったのだ。その気になっただけで、これだけの圧力。

 果たして今、自分たちは戦っているのか、遊ばれているのか、その判別すらつかない。

 ただ、お互いにこの状況を楽しんでいるということだけは、間違いなかった。

「ゆーくんの天の庭とおれの封天陣……フル活用で漸く互角かよ……!」

 三日月が深追いから致命の一撃を受けそうになったところを、夕日が割って入って多少強引に引き剥がした。

 夕日が迂闊に踏み込み、拳ではなく蹴りの間合いに入ってしまったところを、三日月が飛び込んで勢いのまま夕日の襟首を掴んで離れて、ムドの蹴りを掌握領域の一つを使って弾いた。

 そんな窮地が、幾度もあった。

 自分一人で戦っていたら、一瞬で終わっていた。

 それほどに、この相手は遥か格上。

 三日月の表情から笑みが減り、徐々に焦りが見え始めた。夕日も同じだ。それだけ余裕がなくなっているのだ。

 ムドの圧倒的な強さを前に、夕日も三日月も一時距離を取る。ムドは敢えて追撃せずに、とても楽しそうな様子でこちらの様子と出方を伺っているようだ。どうやらあの御仁、夕日と三日月が力を合わせて挑んでくるのが楽しくてしょうがないらしい。

 強者の余裕というよりは、きっと、そういう遊びなのだろう。ならばとことん、こちらのやり方に付き合ってもらうまでだ。

「三日月、これ以上はかけられない。一気に決めるぞ」

「どーやって?」

 夕日の発案に、ムドも三日月も、肩のノイも意外そうな表情を浮かべた。この圧倒的実力差を覆す一発逆転の秘策などあるというのか、と言わんばかりだ。

 回答は、獣の騎士団にとっては単純明快な基本中の基本。

「領域は重ねて当てることで威力が増す。そして、ぼくの天の庭は一帯を覆っている」

「なるほど」

 夕日の最低限度の説明を聞くや、三日月はその意図を即座に理解し、夕日の顔を見てにやりと笑顔を浮かべ――同時に封天陣を、攻撃形態へと変化させた。

「戟軍・封天陣!!」

 ムドが気付いたのは、発射のその瞬間。

 封天陣を構成する掌握領域の一つ一つが、浮遊する足場から槍状に――方天戟(・・・)のように変化して、ムドへと殺到した。攻撃を察知したムドは回避ではなく、それらを拳で迎撃することを咄嗟に選択した。先程何度か蹴りや拳を弾かれた感触で、攻撃形態になった程度なら難しいことではないと判断したのだろう。

 だが、今度はわかげ違う。同時に夕日は天の庭を収縮させてムドの動きのみを阻害しつつ、掌握領域が無いも同然の薄さから、見た目にも存在感を発揮するほどに濃度を増す。

 結果、掌握領域の重ね当てによる攻撃力の増大が一気に発生。後になるほど戟軍・封天陣の威力は増し、最後の数発は爆音を轟かせた。

「はっはぁ! どうだぁ!」

「正攻法で勝てないなら、奇襲が一番だな」

 三日月と夕日は勝利を確信し、会心の笑みを浮かべていた。

「すさまじい威力だ……2人の領域の相性がいいのかもしれんな」

 ノイは今の2人の合体攻撃に、素直に感心していた。

 星川昴と月代雪待の『最強の矛』のように、特定の組み合わせで普通以上に掌握領域の重ね当てでの威力が上がるのではないか、という仮説が合体領域の特訓の中でも挙がっていたが、どうやらその実例を目の当たりにしたようだ。

 目の前ではもくもくと土煙があがり、土煙の端から見える窪みから、どうやら半径数m程のクレーターを作ったらしいことも見て取れて、2人の即興の合体攻撃の威力を物語っていた。

「……まずい、やりすぎたかも」

「あー……跡形もなくなってたら逆にOKじゃね?」

「いや、いかんだろ!!」

 つい熱に浮かれてやってしまったが、今のは魔法使いの泥人形を7体目ぐらいなら軽々と粉砕できたであろう程の威力。常人を超えた達人とはいえ、サイキックも何もないただの人間にぶつけたら……

 などという思考は、土煙から現れた人影を見た瞬間に打ち消された。

「いやぁ……今のはマジに効いたぜ。最高だお前ら。力の強弱を覆すほどの、知恵と技と工夫……人間の業。味わわせてもらった」

 信じられないことに、ムドは五体満足で健在だった。着物は失われていたが、代わりに全身を黒龍状態(インビジブル)のシアに見られた鱗のようなものが覆い、足は大型のトカゲのように変異し、背からは龍を思わせる立派な尾まで生えている。

 どうやら、目の前にいる男は、達人ではなかったようだ。そして、魔法使いでも泥人形でも精霊でも指輪の騎士でも姫でもない、なにものか。

 

 夕日たちは知る由もない。

 彼こそは人のかたわらに在る、闇の世界の住人。

 その中でも最上位に君臨する龍族にあって、最強無敵を謳われる無類の豪傑。

 白神、千本妖狐、万象王に並び称される日ノ本屈指の強者。

 その名は、黒龍のムド。

 

「礼代わりだ、おれの本気を見せてやる」

 言って、ムドはボクシングのファイティングポーズそっくりの構えを取り――

雷神顕(らいじんけん)

 ――全身から、雷を迸らせた。

 反射的に再展開した天の庭は、一瞬で掻き消された。

「天の庭が掻き消された!? 本物の雷!?」

「うっそぉ!? なんだよあれ、滅茶苦茶カッコイイじゃん!?」

 夕日は激しく狼狽し、三日月は疲労もあってか緊張の糸が途切れて純粋に目を輝かせていた。

 次の瞬間。

 雷を纏った黒龍の咆哮が、2人の全身を貫いた。

「雷吼・千尋拳!!」

 夕日と三日月が意識を失う前に見たのは、黒い鱗に覆われ青白い雷光を纏った拳が、雨霰の如く降り注ぎ、怒涛の如き威力で以て自分たちを呑み込む――天災の如き無数の一撃の、その一瞬であった。

 

 

 

 

 気が付いたら、自室のベッドの上だった。ノイは枕の横でまだ伸びている。

 そこへアニマが現れ、夕日も三日月も『黒龍のムド』の本気の一撃の前に為す術なく、余波だけで倒され気絶したのだと教えられた。ご丁寧に真ん前に2人が合体攻撃で作ったものの倍以上の大きさのクレーターが作られていたとか。

 後始末は全て、遠くで見物していたアニマがやってくれたらしい。遊んでいる最中も、外に音も漏れず近くを誰も通りがからないようにもしてくれていたとか。

 やけに親切だと夕日が言えば、アニマは「彼はそれだけの存在」「丁重に扱い慎重に振る舞うのは当然」と言った。いつも尊大で掴み所の無いアニマにしては、珍しい物言いだった。黒龍のムドは、それほどの大物だったということだろう。そんな人が何で界王軒でラーメン食って酒呑んでたんだろう。

 最後に、この事は他言無用、夕日と三日月の中だけで封印するようにと念押しをされた。運命の潮流や運命力の干渉とか、よくわからないことを言っていたが、とにかく、これ以上ムドによって影響を受けるのはよくないことだとアニマが真剣に言っていることは伝わった。それを無碍にするつもりはないし、他言するつもりも最初から無かった。

 この日の楽しい出来事は内緒にして、自分たちだけの秘密にしておくつもりだったのだ。特に姫に知られたら、羨ましがられたり怒られたり、色々大変なことになるのが目に見えている。

 言うだけ言ったらアニマが消えて、夕日は布団に潜った。今日は色々あって疲れたし、明日は休みだ。今からでもゆっくり寝て、たっぷり休もう。

 そして明日からは力を蓄えよう、今よりもっと技を磨こう。

 来るべき、その日の為に。

 地球を砕く者と相対するその時に、為すべきことを為すために。やりたいことをやり遂げるために。

 ぼくの全部は、きみのためにあるのだから。

 

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