『シドゥリ様、思ったよりも手こずっておられる様ですね』
「いえカグヤ、この手間は仕方がないわ。それよりもブリタニアの周辺世界は問題ないわね?」
『はい、ブリタニアの周辺世界は無人世界ばかりで、他世界からの干渉は一切ありません』
シドゥリの最大の懸念、それが他世界からの干渉だ。その干渉の規模にもよるが、最悪の場合は計画を台無しにされかねない。だから定期的にカグヤに確認を取る。それさえ無ければ、多少手間が掛かっても必ず報われる筈。
しかし、シドゥリにとって今の苦労は大変だった。考えてもみるといい。文明から離れた生活をしていた者達に、都市での生活を一から説明していくというのは、相当に面倒だ。
彼等はそもそもベルカ語がわからないから、文字を読むことができない。と言うか文字という文化自体がない。大体言葉にしても、未だに翻訳魔法に頼っている。
「まったく備えあれば憂い無しとは言うけれど…」
シドゥリはこういう事態も想定して、その問題を解消する設備を持ち込んでいた。知識移植装置。これはベルカでは使い古された技術で、副作用もない安全な装置だ。これで、ベルカの言語知識や大学卒業並の知識を植え付ければ、手間を大幅に削減できる。
「まぁ、これで手間を省くしかないわね」
結局、シリウスシティに移住した彼等が定着して馴染むのに、それなりに時間が掛かってしまった。彼等を都市に適合させるのにシドゥリは手間取ったが、何とかそれに成功した。それは、シドゥリの三ヶ月に及ぶ苦労の成果だった。気付いた時には年も明けてシドゥリ歴2年となっていた。
さて、彼等の人数は62人だった。それは、この世界の集落としてはそれなりの数だが、都市を切り盛りするのには数が少なすぎる。やはり近隣の集落を支配下に置くしかないだろう。私はテリーと相談して、彼等と交流の有った集落に向かうことにした。
この頃には私は彼等に神として崇められるようになっていた。まぁ私も魔法をあれこれ使っていたし、この都市を見ればそう思うだろう。
元々彼等にはきちんとした宗教というものはないが、神という概念は持っていた。だからこそ、彼等にとってシドゥリは神であり、自分たちは神であるシドゥリの※1『天与』により生活が良くなったと思っていた。(※1 天の与えるもの。天のたまもの)
そのテリーは今では歩兵部隊の小隊長を務めていた。といっても兵士として鍛えているのは五人程度にすぎない。ただでさえ少ない人員をあまり割けない。
彼等は自動小銃と拳銃を所持していた。
私がデバイスの生産ではなく、迷わず自動小銃の生産をしたのはデバイスの複雑な部品の生成が面倒だったからだ。この状況で製造・整備に手間が掛かりすぎるデバイスを量産できるものではない。
逆に自動小銃は製造・整備等が簡単だし、使う人間の才能に依存しない。誰でも使えるというのは便利だ。それに、今のこの世界の状況では、戦力は自動小銃と拳銃を量産すれば事足りる。
念のため四人の兵士を残して、私はテリーと共に近隣の集落に向かった。テリーを抱えて飛行魔法でその集落に向かう。飛行魔法によりあっという間にたどり着く。私の飛行魔法はかなりの速度だ。
空から降りてきた私達を見て、その集落の人々は驚愕していました。そこで面識のあるテリーが彼等に話をして、集落に人間に私の部下になるように伝えます。しかし、彼等はそれを受け入れない。まぁ当然だろう。いきなりやってきて部下になれでは彼等も納得しない。
だから私の実力を見せるので、彼等の中から腕に覚えのある者を三名出すように言った。私の挑発にすぐに腕自慢の男達が揃う。
三人の男達が私に殴りかかってくるが、三人ともいきなり現れたチェーンバインドに拘束されて動けなくなった。そこに三連の砲撃魔法が炸裂する。
バインド+砲撃、魔砲少女の十八番ですよ。でも『お話を聞いて=砲撃』ではなく、『部下になれ=砲撃』です。酷いと思う? これ実は結構マシな方です。覚醒者の私が直接ぶちのめすと、うっかり殺してしまいます。
非魔導師って思っているよりも貧弱です。だから砲撃魔法で仕留める方が優しい。これなら魔力ダメージをうまく調整可能で、可能な限り相手を傷つけずに倒せる訳。
砲撃も見た目だけは派手だけど、魔法ランクとしてはB程度。まぁバリアジャケットはおろか、魔導師ですらない一般人だからこれで十分だ。こういうのは演出ですから、砲撃で派手に倒すという方が効果的でしょうね。実際、集落の人間は口をあんぐりと開けて惚けています。結果が結果ですからね。
結局、その集落は私の『説得』を受け入れて私の部下になりました。その後も私は同様の方法で、次々と部下を増やしていきました。
こうして集まった新しい部下達は、シリウスシティの現状に驚愕する。彼等は凄まじいカルチャーショックを受けた。そこは、あまりにも彼等の常識とは違う。衣食住すべてにおいて超絶的な革命が起こり、生活が一変する。
彼等の衝撃を察している先輩の部下達が彼等のフォローに回り、知識移植で知識不足を補っていく。急速に変わっていく部下達。シドゥリは彼等が徐々に使える集団になっていくのを喜んで見ていた。
そして本日。シリウスシティは大いに賑わっていた。シティの人口も1000人を超えましたから。
「親愛なる諸君、本日をもって余(よ)『シドゥリ・エルデルト・フォン・ヴァーブル』はこの場を持って『ブリタニア帝国』の建国を宣言する!!」
集まった臣民たちに私は一人称を余に改めてそう宣言した。
ちなみに余という一人称を使う事にしたのは、皇帝に即位したのでこれまで通り私と言うワケにはいかなくなったからだ。
「「「うおおおおお!!!」」」
「「「「「帝国万歳!」」」」」
「「「「「ブリタニア万歳!」」」」」
「「「「「皇帝陛下万歳!!」」」」」
シドゥリの宣言の後に、その場には臣民たちの歓声が響いていた。その場は熱狂に包まれていた。彼等は新たなる国家の誕生に立ち会っていた。新しい時代の到来、その場の誰もがそれを感じていた。
この日、未開の世界であったブリタニアにて、シドゥリが魔法皇帝として即位した。
解説
■知識移植装置
プロジェクトFなどで使われていた記憶転写技術のスピンオフ品。技術としては実績があり、使用による問題はない。ちなみにプロジェクトFは新暦にスカリエッティやプレシアが作り上げた物だから、古代ベルカ時代ではその技術には別の名称が使われていると思われる。しかし、当SS独自の名称を付けるよりも、本編で使われていたプロジェクトFという名称の方が読者に馴染みやすいと思い、作者はあえてそう書いています。まぁシドゥリも本編を知っていますから、プロジェクトFで問題ないでしょう。