ブリタニア帝国が建国されて十年が過ぎた。惑星ヒルデガルドには五つの大陸が存在する。中央大陸とそれを囲む東西南北にある大陸。
現在のブリタニア帝国は、その五つの大陸の各地に複数の都市を築いていた。それらの都市間は機械式の転送魔法のネットワークで繋がっており、人と物の物流をほとんどタイムラグなしに大量に捌けるようになっていた。
各地の都市は周辺の集落を吸収していった。
集落の者達にとってこの都市は楽園だった。彼等はいつも食料の不安を抱えていた。獣に怯えていた。怪我や病気を恐れていた。
しかし都市は違う。衣食住が整っており、生活は便利で豊かだった。彼等の望んでいた物が、いやそれ以上の想像すらできなかった良い生活。食料が十分あるだけでなく、食材の種類の豊富さと沢山の香辛料や様々な調理法による美味しい食事。ちゃんとした屋根付きで快適な家。とても着やすく、沢山の種類がある衣服。防衛陣地が築かれた都市は獣の侵入を防ぎ、安全圏を住民に与えていた。
さらには質量兵器で武装した兵士達が都市の治安維持を行い、住民の安全を守っている。機械式の治療魔法機材は、治療する者の才能を問わず誰でも怪我や病気の治療が可能であり、死亡率をかなり低くしていた。
更に芸術も系統化されて存在していた。シリウスシティでは図書館だけでなく美術館と劇場も存在しており、そこでは様々な芸術活動が行われて臣民を楽しませた。これらの芸術施設には帝国の文化の形成と、臣民の娯楽という意味もあった。
安心・安全の楽園としか思えない場所だ。
条件さえ飲めば、誰でもブリタニア帝国の国民になって都市に住むことができる。帝国と魔法皇帝に忠誠を誓い、シドゥリ教の信者となり、帝国の法律に従う。勿論制約はあるが、それを問題にしないほど都市の生活はいい。
その為、都市の生活を勧められた者だけでなく、噂を聞きつけた集落の者達が次々と自ら帝国の臣民になっていった。これは順調に進んでおり、この惑星ヒルデガルドを統一するのは時間の問題だった。
そんな中で、シリウスシティはブリタニア帝国の首都として急速に発展していった。帝国の総人口は既に十万人を超えており、その数は着々と増えていった。
帝国はさらに国力増強のために出産を奨励した。おまけに人工子宮装置を用いた体外受精と体外出産まで導入する。
これは自然出産だけでは人口増加が上手くいかない事態になる場合に備えて持ち込んでいたが、シドゥリは早々に使った。というか使える物はさっさと使うことにした。
子供の育児、教育のも組織的に行えるように整えている。身寄りのない子供の為の孤児院も用意し、各都市では学校も建設されている。
機械化が進んでいない文明レベルの低い地域では、農業や漁業などの第一次産業に多くの人手を割いています。
しかし、ブリタニアではそれは自動化、無人化に成功しています。そんなブリタニアで最もポピュラーな職業は科学者と技術者で、第一次産業の自動化を支えるプラントや作業ロボットを開発、管理するのは彼等の仕事だった。
現在ブリタニアはベルカの技術データを物にするために必死になっていた。技術データはある。だから最低限の試行錯誤で物事が進められていく。
しかし、技術格差は大きい。ベルカに追いつけ追い越せが、当時のブリタニアの目標だった。惑星ヒルデガルド各地の資源調査が進み、設備が整えられていく。
国作りというのは難しい。シドゥリは十年かけて国の基礎を固めてきた。これからもそうするだろう。まだ貴族制度を導入可能な時期になっていない。
「カグヤ、魔法資質者の調査は進んでいるの?」
『はい、分析が出ています』
余の前に展開されるデータ。
「やはり、女性の方が魔法資質に長けているわね」
『はい、この世界の人間の特徴ですね』
魔法資質は先天的な才能であるが、その有無や優劣はその世界の環境と遺伝子が大きく影響している事がベルカでは分かっていた。ベルカ人の魔法資質が低いのはその為であった。だからこそ、高ランクの魔法資質者が出る最適な環境の世界、というのも選別の条件だった。
ブリタニアは世界の環境は、その条件を満たしていたが、遺伝子の方で問題があった。ブリタニア人は魔法資質者の男女比率が違った。大体1対9という感じだ。女性の方が多い。おまけに魔法資質者の優劣も女性の方が優れていた。
シドゥリは元から男性を貴族にするのは嫌だったが、これはデータ上からも男性は向いていないかもしれない。
それに魔法資質を調べるだけでも金が掛かる。このまま人口が増えれば、生まれてくる子供の全員を調べるなど金がかかりすぎる。
貴族候補からは、見込みの少ない男性は外した方が良いかもしれない。魔法資質の検査を女性に限定すれば、よけいな費用を抑えることができるだろうが、それは先の話だ。そうすると色々と準備をしなければならない事も多い。
大体、国の基盤が固まっていないのだ。他にやらなければならない事が多すぎる。貴族制度にしても30年後に後回しにするつもりだ。それだけ時間があれば、帝国の人口も増えるだろうし、貴族を受け入れるだけの体制も整える事が可能だ。
「まぁいいわ。女性ならば高ランクの魔法資質者もそれなりの確率で生まれるのはわかったからね。十分修正可能な範囲だわ。計画に支障はないでしょう」
『覚醒者による理想国家ですか。こういうのも何ですが、本当に上手くいくのでしょうか?』
「それはやってみなければ分からないわね。元々これは大規模な実験だもの」
余が覚醒者となったのは、この若さを保ってコスプレを楽しみたいという個人的な趣味もあるが別の目的もあった。
不老不死の覚醒者という要素を最大限に活かして理想国家を作り上げる。これは、かなり挑戦的な実験なのはわかっている。実験には失敗は付き物だしね。だが成功すれば……。
「いずれにしても人間には限界があるわ。偉業を成すには、まず人の限界を超えなければならない」
かつてのベルカも地球の各国も人が人を統治する国だ。人を超えた存在が、人を統治する国家。それがどうなるか、余はその結果を見てみたい。
後書き
魔法資質に、その世界の環境や遺伝子が関係しているというのは、当SSのオリジナル設定です。その為、本編設定を無視していますのでご容赦下さい。