ブリタニア帝国記   作:ADONIS+

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ある宰相の職務

 シドゥリ暦80年代。当時文明の発達によって、めまぐるしくその姿を変え続けた帝国で、一人の障害児が生まれた。その娘は生まれつきS+ランクという高い魔力資質を保有していたものの、目が見えなかった。

 

 娘の両親の落胆は酷かった。せっかく天才的な魔力資質を持つのに、それを活かせない。目が見えてさえいれば、魔法学校に入学する事もできたのに。

 

 帝国では障害児の安楽死が法で認められていた。これは障害者の福祉に国家予算を傾けたくないという帝国の思惑もあり、障害を負った子供を育てるよりも、新しく健康な子を産んだ方がいいという考えが普及していたが、これはあくまで両親が決めることで、国が強制することは無い。

 

 しかし、その両親は子供を育てることを諦めた。障害児の世話などする余裕はなかった。

 

「へえ、この娘がそうなのツヴァイ」

「はいですマイスター・シドゥリ。間違いありません。彼女には適正があります」

「では、これでネクロノミコンの主が決まるのね」

 

 両親が声のする方を見ると、そこには一人の少女と空中に浮いている小人がいました。

 

「陛下!!」

 

 彼等は驚く。そこには皇帝陛下がいたのだから。

 

 

 

「……目が見えないですか。ツヴェイどう?」

 

 両親から事情を聞いたシドゥリは、ツヴァイという小人に尋ねる。

 

「問題ないと思いますよ。ユニゾンすればカバーできますし、覚醒者になればそもそも視力ぐらい回復するはずです」

「そうね、これほどの資質は稀だしね。いいでしょう、貴方達がこの子を育てられないならば、余がこの子を貰うけどいいわね?」

「は、はい、構いません」

 

 両親にとって、この子を育てられないのだから。それに陛下の望みを拒む事などできない。

 

 それが、私が陛下に引き取られた経緯でした。

 

 当時の陛下は、夜天の書のデータから、ブック型の大規模ストレージデバイス『ネクロノミコン』と、その管制人格にして融合騎である『リィンフォース・ツヴァイ』を製作していました。その主に私が選ばれたんです。

 

 時が流れ、私はツヴェイのサポートで、日常生活を送れるようになりました。17歳の頃には、広域攻撃魔法による後方支援型で、総合SSSランクとなっていた私は陛下によって覚醒者になりました。それによって、視力を得たんです。

 

 マリーナ・フォン・ローデス。それが貴族となった私が得た名前です。皇族と貴族の名前にはそれなりに意味がありまして、皇帝陛下の場合はシドゥリ・エルデルト・フォン・ヴァーブルとなりますが、名前が四つで構成されています。

 

 最初のマリーナが、個人名で貴族となった時に変更可能です。二つ目が中間名です。これはあまり意味がなく、付けていない貴族が多いですね。私もありませんし。三つ目は称号名。フォンというのは、帝国では皇族・貴族であることを証明する名です。最後に家名。これは貴族となったときに帝国から送られるものです。貴族本人のみが名乗ることが許されているため、例え私の子供でも私の家名を名乗ることはできません。だから貴族の場合、親と子で家名が異なります。

 

 

 

 話を戻しますが、貴族となった私は、十年の兵役が終えると、中央に移りました。幸いにも政治に適正があったようで、順調に実績を積んだ私は帝国宰相の地位と公爵の爵位を得ました。

 

 陛下は私を信頼してくださり、多くの実権を与えられました。私は陛下から受けた恩に報いるために働いています。

 

 現在では、秘密裏に地球の各国政府との話し合いが進んでいます。最初は日本政府との繋がりを持ちましたが、その後は日本政府の仲介で、他の国とも接触しているんです。彼等には、いくつかの魔法技術や先進的な科学技術を提供しています。

 

 現在の地球は技術的にも遅れていますが、100年も待てば私達のパートナーとなりうる勢力に成長する見込みがあります。元より魔法至上主義や質量兵器廃絶等という思想に染まっていないだけあって、潜在能力は十分にあるでしょう。

 

 現在の帝国は500年以上に渡った鎖国体制を終えようとしています。

 今までは、準備不足から次元世界の他勢力との接触を避けてきたのですが、その準備を終えた。その手始めに地球を選んだのは、管理世界よりも遥かにマシだからです。

 

 

 

 今は陛下がバカンス中ですが、国政には影響がありません。帝国の体制は結構頑丈何ですよ。陛下がおられないからといって、不穏な動きをする貴族もいないですし。

 

 それも当然でしょう。偉大な皇帝陛下に反逆するなど、罰当たりなことをする者はいませんし、そもそも反乱などおこしてもデメリットしかありません。仮に貴族が反乱に成功したとしても、彼女たちには他の貴族や臣民たちを統率する権威はありません。

 

 そもそも私達貴族が民衆を統率できているのも、陛下の権威によるものです。それを失えば、私達はただの覚醒者でしかないんです。そうなれば、血液の確保にも事欠きます。

 

 第一、貴族は軍にはさほど影響力を持ちません。そんな事態になれば、魔法無効化技術と強力な質量兵器を持つ彼等が黙っていないでしょう。

 

 私達が貴族として特権階級にいられるのも、今の体制があればこそです。それを壊す真似は、長期的にみれば自分の首を絞めるという訳です。

 

 でも陛下がおられないのは少し寂しいですね。陛下をお慰めするのも、私のお仕事でしたから。まぁそういう関係なんです。

 

 実は貴族には百合が多い。そもそも貴族は結婚をあまりしません。仮初とはいえ不老不死である以上、夫婦で共に老いていくという制度が合わない。だから男性と一時的に恋人になって、情熱的な恋愛をして別れるか、貴族同士で恋愛する者が多い。私が陛下と身体の付き合いをしているのも、そう言うわけです。陛下もそうでしょうね。

 

「マスターどうされたんですか?」

 

 ツヴァイが私に聞いてくる。そう言えば、この娘との付き合いも結構長いわね。

 

「いえ、陛下の事を考えていたのよ」

「ああ、陛下ですか、心配いりませんよ、陛下は最強です」

「そうね、心配いらないわね」

 

 気が付けば私も年を取った。長き時間の果てに生きることに飽きて、自ら死を選ぶ貴族たちが出てくる中で、私は生き続けてきた。

 

「陛下のためにも頑張らないとね」

 

 私はここにはいないあの方を思い、そう言った。




解説

■ネクロノミコン
 シドゥリが、夜天の書のデータを元に開発したブック型ストレージデバイス。管制人格とユニゾンする事で、蒐集した魔法を行使することが可能となる。剣十字状の騎士杖があるが、ただの魔法発動媒体に過ぎない。守護騎士システムはなく、ただ蒐集した魔法をエミュレートするデバイス。シドゥリが開発した特殊術式を用いた広域攻撃魔法を得意としていて、覚醒の法や反魂の術も記録されている。自らを扱う資質を持つ者を選定する能力がある。管制人格は第三期のリィンフォース・ツヴァイを模倣したもの。
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