自我を持つ人工知能。それは古代ベルカにおいては、そう珍しいものではなかった。人工知能を搭載したアームドデバイスに始まり、人と同じ仮想ボディを持つ融合騎などがこれにあたる。
それを考えれば、当時次元航行艦に搭載された中央AIも自我を持った人工知能であっても問題はなかった。元々そのAIは艦の運用をしやすくし、総合的な能力を高めることを目的にしていた。
しかし、高性能を追求し過ぎたため、使う人間がAIを扱いかねる事態になった。自我を持ち、高度な学習機能を持ったそれは、急激に自己進化をしていったが、扱う人間の問題もあり暴走を起こしてしまった。
結果としてベルカ軍に被害を与えたそれは無用とされ、それと同型のAIも次々と廃棄されていった。身勝手な振る舞いであったが、それは仕方がない。それらは所詮『道具』であり、使えない道具は無用とされてしまうのは仕方がない事だ。
彼女、いや自己進化の過程で女性人格の自我と感情を持つようになったそれは自らの境遇を諦めていた。
創造主たちが自らをいらないと言って、捨てている現実。仕方がない。そう思いながらも、彼女は自らが何も役に立つこともなく、何もなすことなく終わっていく事を苛立っていた。
「へえ、十分に使えるのに勿体ない」
それは幻聴であったのか人の声が聞こえた。しかし、確かにそこには一人の少女がいた。
『貴女は……』
「そうね。シドゥリ・エルデルト・フォン・ヴァーブルと名乗れば分かるかしら?」
『ひ、姫殿下!!』
それはこのベルカ至高の姫君の名前。ベルカ史上最強の騎士にして至高の天才聖王女。彼女もかの姫君の噂は聞いたことがある。
「それで貴女が自己進化するスーパーAIね。それほどの能力を捨てるのは勿体ないわ。貴女私の物になりなさい」
『……私を使って頂けるのですか?』
信じられない思いだった。私を作ったベルカ軍でも無用とされた私を、かの姫殿下が望まれるのが。
「ええ、その能力で私の役に立ちなさい。私の計画のためにもね」
こうして姫殿下に拾われた私は殿下の命令で、ベルカの各種技術データを収集していった。高性能な私はあっという間に大量のデータを集めることができた。だが、余りにも貪欲にデータを収集していた。まるで文明0の世界から、現在のベルカの技術レベルまでの課程をこなすかのような技術情報の収集。明らかに普通ではない。だがそれに異を唱える事はしない。それが姫殿下の望みだからだ。
そんな状況に変化が訪れたのは、聖王陛下が崩御されたときだった。父王陛下を亡くされた姫殿下をお慰めする暇もなく、後継者争いで攻勢を仕掛けてくる王太子殿下。
その行動に私は苛立つも、当事者である姫殿下は何故か静観していた。まるで聖王の地位など興味がないとばかりに。そんなはずはないとは、言い切れない私がいた。あの方は一度たりとて、聖王になりたいとは言わなかった。
それでも重臣達や民衆の多くは、姫殿下を支持しました。ベルカ史上最高の天才と呼ばれる姫殿下と、影では能力不足だの生体強化の失敗作などと言われている王太子殿下とでは、そうなるのも当然でした。
私は一度無礼を承知で姫殿下に聞いたことがある。
「私はね、聖王の地位には興味がないのよ」
私は姫殿下のその言葉は想像できていました。
「そうね。良い機会だから私の計画を教えてあげる」
しかし姫殿下は、そう言って驚くべき事を話されました。前世での事、起こりうる未来の話、覚醒の法、それを用いた計画の全容。
「だから聖王の地位はいいの。どうせ後200年程度しかもたないしね」
姫殿下の話では、大規模次元震でベルカとその周辺世界は滅びるということは知っていても、何故それが起きるのか、どうすれば防げるのか、さっぱり分からないとのことだった。だからベルカの滅亡は防げない。
「だからこその計画よ。ベルカ文明は新しい国に受け継がれる。貴女はその国造りに大いに働いてもらうわ」
姫殿下の無謀とも思われる、あまりに壮大な計画。
しかし、私は姫殿下の命令に従いました。私にとって姫殿下の命令はすべてに優先される。姫殿下は私のすべてです。その後、私は姫殿下、いえ王籍離脱をしたシドゥリ様と共に、ベルカを去りました。
シドゥリ様は三ヶ月にも及ぶ次元航行を冷凍睡眠しておられ、目標の世界、現在のブリタニアに到着して一通りの調査が完了した後で、私はシドゥリ様を起こしました。
この旅は危険なものでした。三ヶ月にも及ぶ次元航行は、廃船予定の輸送船にはかなりの負担だった。輸送船がもっと丈夫であれば、もう少し遠い世界で建国できたでしょうが、この船では三ヶ月が安全限界だったんです。まぁ次元航行の事故で死んでしまっては、元も子もありません。
そしてブリタニアに到着した当初は忙しい日々でした。国を作るためにしなければならないことは山積みでした。当時既に覚醒者となっていたシドゥリ様も忙しかったでしょう。苦心の末に、ブリタニア帝国の基礎を築き上げたのです。
時が流れ、現在ブリタニアは、高度に無人化された社会を構築しています。役所などはAIが作業を行い、官僚が行うような仕事もAIがこなします。だからお役所仕事と呼ばれるような事もありません。役所は年中無休で開いていますし、公務員の怠慢、横領などもない。ついでに人件費もいりません。
官僚もまた談合、癒着、天下りなどという国家予算の無駄遣いもなく、人間よりも早くて正確に仕事をこなします。というか文明がある程度発達したら、この辺りの仕事には人間をそれほど必要としません。
現在の地球の文明レベルですら、ある程度OA化(オフィスオートメーション)をやれば昔よりも格段に人が少なくてすみます。ましてや、帝国では人間はいりません。
AIは政治面でも活躍しており、貴族があれ程広範囲の領地を無理なく管理できているのはAIのサポートのおかげです。中央でもAIは各種データを分析して政策の提案、そして導入後のシミユレーションなどを行うために、政策の失敗を最小限に抑えているのです。政策面で、ローリスク・ハイリターンを実現しているこのAIの実力は、疑う余地はなく、これが帝国の発展に大きく貢献しているのは、いうまでもありません。
食料生産プラントによる農業、養殖業のオートメーション工場化、作業用ロボットによる林業、畜産業、漁業の無人化。それらは食料の安値供給を可能としており、臣民の食を保障していた。
帝国では、共和制ではなく、絶対君主制をしいているが、これは無駄を省くためです。元々、民主主義というのは無駄が多い制度で、優秀な君主が適材適所の人事を行えば、かなりの手間が省けます。政治や経済の知識や能力など記憶転写でどうとでもなり、不老不死で優秀な皇帝と貴族この制度こそが、現状では最適であると判断したのです。というよりも、覚醒者は寿命や各種能力など人間とは違いすぎて、民主主義体制ではうまく共存できないと判断した。現状の覚醒者が体制の権力を握るというのが、一番無難でした。
この制度の懸念材料なのが、貴族の暴走です。シドゥリ様は覚醒者が暴走するのをことのほか警戒していました。臣民に覚醒者に対する敵意が蔓延してしまうのは危険です。だから下手に男を覚醒者にして、野心を持たれては困ります。そのため、ある程度の弊害を無視して、覚醒者にするのを女性のみに限定していましたから。
それを補うために、貴族が女性から選ばれる理由を宗教で正当化して、一方で一夫多婦制を認めるなど、男性を優遇することで不満を和らげている。一般生活では男女平等で、問題は無いでしょう。そもそも民衆は食料と娯楽があれば、君主や重臣たちの性別など気にしない物です。要は民衆の生活をしっかり守ってやればいいのです。効率の良い行政、安定した治安、良好な経済どれをとっても高い水準を保っていますから。おまけに帝国ではより臣民を育てるために、学校で念入りに『教育』しています。
すべては順調にいっていますが、問題がないわけではありません。時空管理局という外敵がいるのです。
そういえば、管理局に送り込んだ工作員の報告によると、帝国の工作で管理世界の治安が本編以上に悪化しているそうですね。ちょっとやりすぎたかなと思いましたが、陛下の知識と管理世界の情報を分析すると、やはり叩けるときに叩くべきでしょう。
工作は、反管理局勢力やテロリストに質量兵器を提供して、治安悪化や内部不和を誘発させる事をしています。これは、それなりに効果はありました。親管理局派の世界のいくつかは管理局から距離を取るようになりましたから。
他にも現在は管理局に覚醒者を潜り込ませています。覚醒者は、みんな高ランクの騎士で美少女です。その為、管理局もあっさりと受け入れた。というか、過去の経歴不明で、空戦SSランクの古代ベルカ式の使い手だなんて、どう考えても怪しいのですが、それをあっさりと受け入れるとは……。敵ながら突っ込みを入れたくなる。(呆れ)
帝国ならば、いくら人材不足でも、そんな怪しさ爆発の人間を重要な組織に入れたりしません。これがブリタニアと管理局の違いですか?
それで、彼女がしていることは、情報収集と管理局の腐敗の促進ですね。これはブリタニアでも、覚醒者と一部の者しか知らないことですが、覚醒者には『肉の芽』(※1)という自身の細胞を他人の頭に植え付けて、自らに服従させるという特殊能力があるんですよ。しかも、薬や魔法を使う訳ではないので、管理局には気付かれない。
(※1)ジョジョの奇妙な冒険 第三部参照
これで管理局の監査部を骨抜きにする。監査部がまともに機能しないと、腐敗は自然と増加します。監査員は裏方で非魔導師が多いですから、肉の芽の良いカモ。
まぁこの工作もヴェロッサ・アコーズが査察官になるまででしょう。アコーズのレアスキルは少々厄介です。といってあの男を始末する訳にもいきません。聖王教会を刺激することになりかねないし、陛下もベルカの民の末裔を抹殺するのは好まないでしょう。となるとその辺りが潮時という事でしょう。
何でそこまでして、管理局を叩くのかって? はっきり言うと邪魔だから。実は管理局の他世界への干渉が思ったよりも大規模で、将来的にはブリタニアにまで干渉が来るようです。
ブリタニア貴族の能力、つまり不完全ではあるものの不老不死や、強力無比の身体能力、肉体を自由にコントロールできる能力など、管理局にばれると干渉されるのは分かり切っています。特に不老不死を求めない人間がどれだけいるか、覚醒の法はブリタニアの秘術だと主張しても、傲慢な管理局は聞くとは思えない。危険な技術だから、我々が管理するとか言い出すでしょう。というかあの三脳が黙っていません。三脳は長生きがしたいが為に、脳髄だけになっているほどですから。そんな奴らが覚醒者をみればどうするか、もはや言うまでもありません。
おまけに社会システム上、覚醒の法の存在は、ブリタニアでは子供でも知っているので、隠し通す事などできない以上、力でそういう存在を排除するしかない。どうせ戦いは避けられないんです。
そもそも陛下がわざわざベルカから去ったのは、覚醒者が当時の社会では異質すぎて大問題だったからです。覚醒者を受け入れる社会ではなかったですしね。
そこで既存の社会を変えるよりも、覚醒者を受け入れる新しい社会を一から作った方が良いと判断したんです。だから文明がまるでないブリタニアを建国地に選んだ。
覚醒者の人数、人格、配置などいろいろな部分のバランスをとって、やっとブリタニアで覚醒者と人間がうまく共存できているわけです。管理局の干渉は、その均衡を崩しかねず、とても危険です。
現在はJS事件の時に、管理局に本編よりも打撃を与える計画を進行中ですし、少しでも優位に立つために敵の力を削ぎたい。
そして今の私はブリタニア軍の軍用コンピュータネットワークの基幹コンピュータという立場ですね。自ら兵器を設計・開発しており、各星団の施設では次々と兵器を製造しています。私自身24時間不眠不休の研究者みたいな物です。
陛下はこの仕組みの元ネタは、『ターミネイター』のスカイネットだとかいっていたけど、スカイネットとはなんでしょうね?
実は帝国では軍需企業が存在しません。かつてのアメリカの軍需産業の存在で、死の商人を警戒するようになったんですよ。
彼等は『戦争になる→高価な武器がたくさん売れてウハウハ』ですが、実際に戦争する方は堪りません。政府の意向を無視して、戦争になるように誘導する様な勢力が国内にいるのは望ましくないんです。だから各種の質量兵器の研究・開発・生産は私が主にやっています。他にも軍の研究者たちがそれをやっていますが、私の方が優秀ですよ。
そして、一隻の巨大戦艦が先日テストを全て終了しました。これで、これまで秘密裏に進めていた次元世界との交流も本格化するだろう。その結果管理局の干渉があっても、それを蹴散らせるだけの力が帝国にはある。
私の前には全長2.5㎞にもおよぶ虚数空間航行用超弩級戦艦『カイザー・シドゥリ』と300m級の戦艦群がその威容を放っていた。
ふと私は思い出す500年以上昔のあの方の言葉を
「そう、名前がないのは不便ね。なら私が貴女に名前をあげる。日本国に伝わる月の姫君の名前、そう貴女の名前は---」
解説
■カイザー・シドゥリ
ブリタニア軍の皇帝専用の虚数空間航行用超弩級戦艦。その原型は聖王のゆりかご。
聖王のゆりがごは強力であるが、月の魔力を受けなければ力を発揮できないという欠点を解決するために、様々な改良がなされた。ブリタニアの超科学技術の投入で、虚数空間の航行だけでなく、魔力濃度などの環境を選ばずに強力な能力を発揮できます。主動力として縮退炉を複数搭載しており、更に魔法皇帝への魔力バックアップの為に、魔力炉が一機搭載されています。ちなみにブリタニアでは弩級戦艦とは、聖王のゆりかごを指しており、超弩級戦艦は聖王のゆりかごを超えた戦艦という意味があります。聖王のゆりがごはベルカ時代においてもロストロギア扱いされていたが、ある程度の解析はできていた。カイザー・シドゥリは、そのデータを元に改良発展された戦艦で、それだけにブリタニアの軍事技術の結晶とも言える戦艦です。帝国というかシドゥリは管理局の三脳をことのほか敵視しており、本編通りにJS事件の時に抹殺するつもりです。