ブリタニア帝国記   作:ADONIS+

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ある聖王の後悔

 俺の名はクリード・ゼーゲブレヒト。聖王連合・ゼーゲブレヒト家の出身でゆりかご生まれの正当王子だった。

 そんな俺には一つ年下になる腹違いの妹がいた。妹は聖王家の中でも特に優秀だ。遺伝子操作によるものではない突然変異による桁違いに高い魔力。子供とは思えない思考能力。その余りの優秀さに、僅か7歳で戦場に送られるが、そこでも活躍する驚異的な実力。

 シドゥリは腹違いとはいえ俺の妹だ。だからシドゥリが周囲から誉められて、嬉しくない訳ではなかった。だが、それよりもシドゥリと俺が比較されるのが、堪らなく嫌だった。

 シドゥリは優秀だ。それに比べて俺は聖王家ではそれ程優れていない。遺伝子操作のミスなのか、俺の聖王の鎧はかなり不安定だ。おまけにレリックとの相性も、それほど良くない。だから、聖王となっても父王よりも格段に劣っている。

 周囲も俺にはあまり期待してはいなかった。遺伝子操作の失敗作、出来損ない、といった陰口を裏で叩かれる有様。

 それでも俺が王太子になれたのは、俺が聖王の正妃との子でおまけにゆりかご生まれの男児で年長あったからだろう。

 シドゥリは聖王の妾妃ヒルデガルド・フォン・ヴァーブルとの間の子であるし、ゆりかご生まれのではないので、ゼーゲブレヒトの家名を名乗る事も許されていない有様だった。

 ここまで差があれば本来ならば後継者争いの対抗馬にすらならなかった筈であるが、俺とシドゥリの圧倒的な実力差が知れ渡るにつれてそれが大きく揺らいでいった。

 これが平時ならば問題なかっただろうが、戦乱の時代において王が弱くては拙いのだ。それ故に俺の方が序列では格が上のはずなのに、臣下は常にシドゥリを引き合いに出していく。

 気が付けば、俺はシドゥリを嫌うようになった。シドゥリも、そんな俺に気付いたのだろう。俺とは距離を置くようになった。

 

 そんな状況が一変したのが、父王が崩御した時。父王の国葬が終わると、当然の様に起こる後継者問題。

 父王は後継者を指名せずに崩御した。だから次の聖王は、俺かシドゥリのどちらになるか分からない。俺はここぞとばかりに攻勢に出る。自分が聖王となって、シドゥリよりも上の立場に立つというねじ曲がった思いもあった。

 しかし、シドゥリを支持する臣民が予想以上に多く、国論が二分してしまう。そんな緊張状態が続き、このままでは内戦になりかねないと危機感を抱いた俺であったが、それは意外な形で終息した。

 シドゥリが王籍離脱をして、国外退去した。その情報を聞いた時、俺は驚愕した。シドゥリは、次元世界に覇権を握るであろう栄光ある聖王の座を自ら捨てたからだ。

 その後、俺はシドゥリの残した手紙を見た。

 シドゥリは聖王の地位に興味は無く、自分の存在で内乱が起きるのは避けたかった事、また、内乱が起きずとも、自分がいるだけで兄の統治に支障が出ることは分かり切っているので、王籍離脱をして、ベルカ勢力圏から遠く離れた辺境の世界に移住する事にした事が書かれていた。

 それを見た俺は後悔した。シドゥリは国の為、そして俺の為に自ら身を引いた。それに比べて自分は、シドゥリに嫉妬していただけだった。

 

 その後、俺は聖王となった。シドゥリを支持していた者達も、肝心のシドゥリがいなくなれば矛を収めるしかない。結果として国内は安定した。だが、俺は今更ながらに思う。もし、俺がシドゥリともっと分かり合えていれば、こんな事にはならなかったのではないか?と

 しかし、もう遅い。こんなはずじゃなかった過去を取り戻す事はできない。だから俺に出来ることは聖王として、民の為に働くことのみ。

 聖王のゆりかごの玉座にて、彼は昔の事を思い出していた。

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