ブリタニア帝国記   作:ADONIS+

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 ※注意 今回の話は管理局が一方的にボコボコにされますので、そういった極端な話がお嫌いな方は御覧にならないで下さい。


ある甘党提督の敗戦

「第97管理外世界か、まさかそこにロストロギアがばらまかれるなんて……」

 

 リンディは嫌な任務を与えられたと思った。三年前に第97管理外世界を舞台に起こった事は、未だに思い出したくない事だ。

 

 ブリタニア帝国。魔法皇帝シドゥリ・エルデルト・フォン・ヴァーブル。マジック・キャンセラー。地球近郊会戦。

 

 彼女にとって、いえあの事を知る局員にとっての敗戦。あのとき時空管理局は、魔導師こそが力と、自分たちが次元世界を管理しているとの自負を叩き潰された。次元世界最大勢力である管理局を襲った大敗北。リンディはできれば関わりたくなかった。

 

 

 

 時空管理局。数多の管理世界を実質支配しているこの組織は、実はかなり不透明な部分が多い。権力分立という言葉を無視するように権力を独占しており、管理世界の国々の上に立つ組織であるが、そのトップである最高評議会自体が、顔も名前も非公開という有様だ。

 

 一応、理事会も存在しているが実質機能しておらず、管理局の三部門の海・空・陸は最高評議会の支配下にある。権力を持つ者は腐敗するという、絶対権力は絶対に腐敗するという言葉があるが、その意味では管理局はやたら問題が多かった。

 

 そこに、新暦の始まりから、異様なまでに激化するテロ、親管理局派の管理世界との不和、管理局員の腐敗の蔓延など様々な問題が降りかかっていった。これら帝国の様々な工作活動は、管理局の体制を歪ませていった。

 

 強硬派の勢力拡大。不安定な情勢では、声の大きい者が目立つものだ。この手の強硬論は、この時期かなりの支持を得た。

 

 強硬派は、次元航行技術を持つ世界を強制的に管理世界に組み込み、質量兵器を廃絶していった。これには理由がある。それらの世界の軍需産業が、新しい市場として管理世界を見ていた。管理世界の反管理局派とテロ組織などが、それらの軍需産業と取引をしていったのも痛かった。

 

 結果として質量兵器が出回り、管理局を苦況に追い込む。質量兵器を廃絶するには、管理世界だけでは駄目だ。次元航行技術を持つ他の世界も、質量兵器を廃絶させなければならない。その為、無理やり管理世界にさせられた世界が続出して、反管理局派の世界が作られていく。

 

 第97管理外世界は、その中でも飛び抜けて特殊な世界。過去に二度の世界大戦を行い、核兵器の実戦投入。僅か数十年で、自らの世界を何十回も滅ばせるほどの核を保有するにいたる。世界各地で続けられる核開発と核実験。おまけにスーツケース型の核爆弾など、驚異的なまでの小型化にも成功していた。この様な世界が次元航行技術を持てば、次元世界を危険にさらすだろう。

 

 第97管理外世界に、魔法技術が存在するという情報に、強硬派が過剰なまでの反応をしたのも無理もない事だった。その結果として、第97管理外世界に武力行使をすることとなったのだが…。

 

 

 

「アイムザットの無能者が!?管理外世界などに敗北するとは!」

「しかし、まさか艦隊が全滅するとは。生存者は一人もいないのか?」

「ああ、誰一人として帰ってこない。第97管理外世界に全滅させられたと考えて良いだろう」

「問題はこれからどうするかだ。穏健派の突き上げがあるのは確実だぞ」

 

 今回の武力行使は、彼等が穏健派の反対を押さえつけて行った。その結果がこれでは彼等が黙っていない。これ幸いと責任追及するに決まっている。それに強硬派の面々が頭を痛める。

 

「……第97管理外世界を殲滅対象世界に認定して、管理局総力をあげて滅ぼす」

 

 その言葉に強硬派は驚く。殲滅対象世界。それは存在すると次元世界を危うくする世界の事だ。管理局は危険と判断した世界をそう指定して殲滅する事ができる。ただ制度として存在するだけで、その前例がない。

 

「確かにそれなら大義名分が整う」

「そうだ。第97管理外世界の危険性を強調して滅ぼす。それで責任問題をうやむやにすればいいのだ」

 

「しかし、第97管理外世界の戦力が分からないのがまずいぞ。アイムザットは情報すら持ち帰れなかったからな」

「何、多少の被害は出るやもしれぬが、穏健派だけを集めて送れば良いのだ。そうすれば我々は痛くないしな」

「それもそうだな」

 

 強硬派の意見はまとまる。

 

 かくして各地の管理局の艦船が集められる。この無茶な戦力集中は、当然いろいろと問題が発生する。各管理世界の抑えの戦力がなくなり、広域犯罪を放置する事になるなど。

 

 しかし、強硬派はこれを無視して強行する。すべての問題は、第97管理外世界を始末してから解決すればいい。

 

 こうして集められた248隻の次元航行艦が、第97管理外世界に向けて侵攻した。これは管理局の戦力の3割にもなる大戦力だったが、管理局は防諜という点ではお粗末だった。これほど大規模な動きともなれば隠しきれるわけがなく、その動きは帝国に漏洩していた。日本政府はこれを受けて、管理局艦隊の迎撃を帝国に要請した。

 

 

 

リンディside

 

 L級巡航艦の艦長であるリンディ・ハラオウンは、担当していた事件をいきなり外されて、この遠征に無理やり参加させられた。はっきりいって不満だらけだ。

 

 しかし局員である以上、上層部からの命令には従った。美味しいお茶でも飲んで、気を落ち着かせようとしていた彼女だが…。

 

「次元跳躍攻撃きます!」

「なんですって!?」

 

 いきなり次元跳躍攻撃が、次元航行中の管理局艦隊に襲いかかる。

 

「L級巡航艦12隻ロスト」

「くっ、どこからの攻撃?」

「攻撃地点は、第97管理外世界です」

「……先制攻撃を受けたというわけね」

 

「第二波きます」

 

 管理局艦隊が散開しつつ、ディストーション・シールドを全開にするが、それでも攻撃に耐えきれず艦船が撃沈する。

 

「駄目です。敵の攻撃が強力すぎます。シールドが効きません!」

 

 先手を取られた管理局艦隊は、急いで第97管理外世界に向かう。

 

 第97管理外世界についた管理局艦隊を迎え撃ったのは、一隻の巨大戦艦と十隻からなる戦艦部隊だった。巨大戦艦が次元跳躍攻撃を行ったのが確認されると、管理局艦隊は距離を詰めて、その不明艦隊に艦隊決戦を挑む。

 

「敵艦隊から高エネルギー反応!」

 

 敵艦隊の放った重力波砲が、ディストーション・シールドを展開している管理局艦船を撃沈する。

 

「敵艦隊との距離は?」

「距離5000㎞、全兵装有効射程距離外です」

 

 管制官の言葉に、リンディは絶句した。

 

 管理局の艦船の射程距離を遥かに超える超長距離からの砲撃。管理局の兵装の射程距離は総じて短い。これは魔法の特性によるものだ。魔法は拡散しやすい特性があった。魔導師の放つ砲撃魔法の有効射程距離が短いのは、これが理由だ。魔導砲やアルカンシェルでも大体1000㎞が限界だった。

 

 対して帝国の重力波砲は、集束と拡散の二つのモードに切り替えが可能であり、集束モードで放たれた重力波砲は威力が上がり、有効射程距離も5000㎞を超える。

 

 全速前進で距離を詰めて、アルカンシェルを打ち込もうとする管理局艦隊。管理局艦隊が、ここで次元空間に撤退という選択をとれなかったのは、巨大戦艦の所為だ。あれが次元跳躍攻撃してくる以上、あれを沈めない限り撤退もできない。

 

 距離3000㎞まで詰めると、帝国軍は拡散モードで重力波砲を撃ってきた。これによって命中率が上がり、撃沈する艦船が増加する。

 

 そこに止めに攻撃が加わった。管理局艦隊の右側から、新手の攻撃を受けた。それはブリタニア帝国軍、第七虚数空間航行艦隊。総数82隻の戦艦と巡航艦からなる艦隊は、管理局艦船の右舷に重力波砲を撃ち込んでいく。この攻撃で、管理局艦隊の指揮系統が崩壊した。

 

 これは管理局が、元々大規模な艦隊決戦を想定しておらず、まともな艦隊訓練もしていない俄仕込みの艦隊編成だったことも大きかった。要は寄せ集めの烏合の衆だった。

 

「なんてこと」

 

 リンディは総崩れとなっている味方に愕然となる。次元跳躍攻撃を可能とする巨大戦艦とその護衛の十隻の戦艦を囮に使い、主力艦隊で敵の側面を突く。単純であるが、効果的な戦術で実際、管理局艦隊は崩壊していた。そんな中で、三隻のL級巡航艦が正面の敵に特攻する。

 

「グレイス提督、何て無茶な!」

 

 リンディは彼の考えが分かった。最早勝ち目はない。だから、せめて正面の敵に特攻して、アルカンシェルをぶち込むしかない。正面の敵に接近して、アルカンシェルを展開する三隻の艦船。

 

 しかし、アルカンシェルは艦隊決戦向きの兵器ではない。バレル展開が必要だし、その際に動きを止めてしまう。敵艦隊に接近した管理局艦船に、巨大戦艦の周囲を固めていた敵戦艦の砲塔が動いて砲撃が行われる。

 

「あれは!?」

「電磁投射砲です。口径は360㎜と思われます」

 

 電磁投射砲、所謂レールガンともいわれる物。

 

 艦船のディストーション・シールドはレーザー砲などの光学兵器には効果的だが、質量兵器には効果が薄い。とはいえ、ちゃちなミサイル程度ならば防げるが、360㎜電磁投射砲ともなれば……。

 

 打ち込まれる砲弾が、ディストーション・シールドを紙の様に貫き艦船をぶち抜く。だが撃沈直前のグレイス提督の艦が、アルカンシェルを打ち込んだ。まさにグレイス提督の執念の一撃といえたが、それは身を結ばなかった。

 

「そんなアルカンシェルが…」

 

 アルカンシェルが敵艦隊に近づくといきなり消滅したのだ。

 

「……無効化です。敵艦隊はアルカンシェルを無効化しています」

 

 アルカンシェルが効かない。これはただでさえ壊滅的被害を受けていた管理局艦隊の戦意を折るに十分すぎる出来事だった。帝国からの降伏要求に管理局が応じたのは、それからすぐのこと。その時には管理局艦隊は、僅か6隻しか残っていなかった。

 

 

 

 リンディ達はそれから暫く、帝国の捕虜となった。ここで帝国が捕虜を解放する事にしたのは、彼女たちにとって幸運だった。これは帝国が捕虜を持つことで、脱走などの問題が発生するのを嫌ったため。ついでにいうと帝国には捕虜を扱うノウハウが無いのも大きな理由だった。

 

 元々帝国は、そういったノウハウは地球との交流で学ぶつもりだった。それが突然の管理局との開戦で、行き当たりばったりな対応を取る羽目になった。

 

 その後、帝国は捕虜達を解放する際に某管理世界に転送して、その際没収したデバイスや次元航行艦などは地球側に提供した。

 

 その捕虜の中にリンディ・ハラオウンがいたのは、シドゥリにとって計算外だった。他の捕虜と同じ扱いにするかどうか悩んだが、結局解放する事にした。既に本編に干渉しまくっているので、リンディがどうなろうと大した影響は出ないだろうと考えた。

 

 後に、地球近郊会戦と記されることになるこの戦いは、帝国側の圧倒的な勝利で終わった。管理局は次元航行艦248隻と多数の局員を失ったのに対して、帝国はさほど損害が出なかった。

 

 派遣した次元航行艦隊が全滅したという最悪の報に、管理局が青ざめる。最早、第97管理外世界に攻め込む所の騒ぎではない。これでは次元世界の管理も難しい。

 

 会戦を押し進めた強硬派は、これで立場を失うかに思われたが、会戦で穏健派の戦力が壊滅したことが、管理局内の各派閥の勢力に多大な影響を与えた。

 

 穏健派の力が著しく落ちてしまった。要するにとんでもない大敗をしたことで立場がなくなった。強硬派は総力をあげて、穏健派に責任を押しつけた事も大きかった。その為、強硬派は今も健在だ。

 

 

 

 そして地球近郊会戦で、第97管理外世界の同盟国であるブリタニア帝国の事が管理世界中に知れ渡ることになった。現在、ブリタニアは管理局に第1管理不可能世界に認定されている。

 

 管理不可能世界は、時空管理局では管理できない世界の事だ。ブリタニアの軍事力と技術力が突出しており、管理できない。

 

 ブリタニアは現在でも第97管理外世界しか交流を持っていない。管理世界とは関わっていない。管理局もわざわざブリタニアに干渉しようとは思わない。そんな無謀な事をしている余裕は一欠片もない。

 

 あの敗戦での艦船と人材の大量喪失は、元々人材不足だった管理局には大打撃だった。現在でもその穴埋めができていない。陸から人材を吸い上げてもまだ足りない。艦隊の再編のために、管理世界にのしかかった増税も相当なもの。

 

 艦隊決戦での大敗で、管理局は大艦巨砲主義となり、XV級戦艦の開発が急ビッチで進んでいた。

 

 しかし、それが投入されたからといってどこまで通用するか。魔法を使う以上、有効射程距離は短い。それに技術部で『マジック・キャンセラー』と名付けられた魔法無効化技術があるため、魔法が通用しない。

 

 ブリタニア帝国の艦隊と戦うには、強力な質量兵器を使うしかないのだが、質量兵器は管理局法で禁止されている。まさか法の番人である管理局が、率先して法を破る訳にはいかない。

 

 ついでにいえば、ブリタニア帝国に通用するほどの強力な質量兵器など、例え作りたくても作れるだけの技術はない。質量兵器廃絶により、その分野の技術は失伝しているからだ。

 

 この時、リンディは知る由もないが、ブリタニア帝国の出現で、最高評議会は『聖王のゆりかご』を起動させるのに異常なまでに積極的になり、本編よりもスカリエッティに対する支援が増えていた。それは、後々に思わぬ影響を与えることになる。

 

 

 

シドゥリside

 

「陛下、何故今回の会戦で機動艦隊は予備戦力なのですか?」

 

 機動艦隊の司令官が聞いてきた。わざわざ私に聞いてくるとは余程不満なのだろう。まぁ初めての大規模な会戦なのに事実上の除外では不満に思うのは当然だろう。

 

「貴方、地球の戦史は研究しているかしら?」

「それは勿論です」

 

 これは今更だ。元々、ブリタニアはまともな戦争をしたことがない。つまり実戦のノウハウがない。訓練だけなら問題ないが、これでは実戦に不備がでるだろう。だから軍では異世界、特に地球の戦史は研究対象となっていた。

 

 ちなみに管理世界では、質量兵器廃絶により、兵器の開発運用ノウハウを捨てていた。つまりそれを用いた戦闘のノウハウまで失伝していた。管理局はまともな戦争のノウハウを持たない。だから参考にならなかった。

 

「なら大東亜戦争の真珠湾攻撃は知っているわね?」

「はい」

「あの攻撃は、当時海戦の主流だった大艦巨砲主義をひっくり返す航空機を用いた新戦術だったわ。だけど敵にその航空機の有効性を教えてしまったという失敗も含まれていたの。あれがなければ、航空主兵への転換をもう少し遅らせられたんだけどね」

 

 航空機で戦艦を沈めたものだから、敵が気付くのは当たり前だ。有効な戦術を使うということは、敵にそれを教えるという危険もある。

 

「つまり陛下は、管理局に機動兵器の有効性を教えたくないと?」

「そうよ、戦いはまだまだ続くでしょうね。いきなり手札を沢山切るべきじゃないわ。まず敵に大艦巨砲主義を押しつけるわけね。それに光子魚雷も使う予定はないしね」

 

 戦力差から考えれば今回は砲戦でケリが付く。

 

「今の管理局には機動兵器による対艦攻撃という発想がないわ。だから次元航行艦にまともな近接兵装システムがないの。今は機動兵器に対する艦隊防衛という戦訓を与えてはいけないわ」

 

 それは、後に大艦巨砲主義に走った管理局を機動兵器で葬る為の下準備です。えっ、あくどい? いえ、これぐらい当然ですよ。大体、政治や軍事は悪魔の所行と呼ばれるもの。綺麗事ではやっていけません、真っ黒でいいんです。統治者が綺麗事を言うのは表向きだけです。

 

 それに機動艦隊の司令官も納得したんですから、これでいいんですよ。

 

「さて管理局はどう踊ってくれるかしら?」

 

 シドゥリの顔に冷笑が浮かんでいた。




解説

■アストロメリア級虚数空間航行戦艦
 ブリタニア軍の主力戦艦。主機関・縮退炉、補助機関・対消滅機関。虚数空間航行及び次元航行機能があり、亜光速航行とワープ航行が可能。主武装は二連装艦首重力波砲、二連装360㎜電磁投射砲二門、光子魚雷。防御手段として、マジックキャンセラーとディストーション・フィールドを搭載している。
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