名も無き未開の世界で、一つ惑星の衛星軌道上を一隻の大型輸送船が航行していた。
『殿下、指定の世界に到着しました』
「そう、ご苦労様カグヤ。でも私はもう聖王家の人間ではないから殿下と呼ばなくていいわ」
『わかりましたシドゥリ様』
この輸送船を統括する人工知能『カグヤ』シドゥリが極秘裏に用意していたAI。
「この規模の輸送船が手に入ったのは、好都合だったわ。まあ廃船処分待ちの船だったから簡単だったけどね」
この輸送船は、確かにそれなりの規模の物であったが、老朽化しており長期間の次元航行に耐えきれなくなっていた。だからゴミ同然のこの船を手に入れるのは簡単だった。
そしてシドゥリはこの船に、計画に必要と思われるものを揃えて置いた。様々な資材、装置、そして数多の技術情報。
シドゥリは衛星軌道上から青い惑星を見る。これが私の理想郷となる世界。
『送り込んだ監視機器からの報告によると、やはりこの世界は例の条件を満たしております。それに危険なウイルスの類も存在しません』
シドゥリが受け取ったデータでも、この惑星は良かった。魔力濃度、現住の人類の文明レベル、動植物の生態系、惑星の気候、全てが文句ないものであった。
「ふふっ、完璧ね。ではこの世界を『ブリタニア』、そしてこの惑星を『ヒルデガルド』と名付け、此処に私の国を作るわ」
船橋に少女の誇りに満ちた宣言が響く。
それから、シドゥリはブリタニアの惑星ヒルデガルドにて、都市の建築に最適な土地をピックアップして、そこに都市を築く。都市建築に必要な機材は既に用意していた。また、品種改良された動植物を持ち込み、家畜の飼育と作物の栽培を始めた。
これらの作業は、魔力駆動式のロボットが全て行っていた。
作業は惑星の環境と生態系に、可能な限り悪影響を与えないように十分に配慮していた。シドゥリは、地球の環境破壊の愚行を行うつもりはない。シドゥリが望むのは、理想の国家建設。瞬く間に都市の建築、食料生産の安定などができあがった。
後はそこに住む人間を揃えるのみであった。
「順調だわ、それに此処はベルカではないもの。邪魔をする者もいない」
これでこそ、ベルカを去った価値があるというものだ。
元々、シドゥリはベルカにそれほど執着してはいなかった。所詮は何百年もたてば、滅びる世界だ。それにシドゥリは幼少期に偶然ある物を手に入れていた。
『石仮面』。ジョジョの奇妙な冒険の第一部と第二部に出てくるあれです。
誰もその価値に気付いていなかったので、骨董品としてただ同然で売られていた。
石仮面は骨針で脳を押すことで、自らに眠っている潜在能力を覚醒させる道具。シドゥリはこの石仮面を解析して、その効果を魔法の術式にすることに成功し、さらに改良を行った。技術的な問題から、紫外線や波紋の克服や、血を吸わなくてもいいようにする事はできなかったが、理性の低下による凶暴化を防ぐ事に成功した。この魔法を使うと人間の脳を覚醒させて吸血鬼になる。分類上は石仮面の吸血鬼の変異種という事になるが、私はその吸血鬼を『覚醒者』と呼ぶことにした。
その原理から『覚醒の法』と名付けた魔法は、その存在がばれると大変なことになるので、シドゥリはそれを徹底的に隠蔽した。
伝説のアルハザードが滅んだ現在では、次元世界一の技術力を持つベルカでも、不老不死は実現していない。精々プロジェクトFで、自分の複製を作るだけ。
これは自分の複製に過ぎず、本人が長生きをするわけではない。遺伝子操作を受けて生体強化をしている聖王ですら、人並みに老いて死ぬ。
勿論シドゥリは覚醒の法を確立したときに、それを自らに用いることを考えていた。現世の自分は、絶世の美少女で、優れた身体能力と思考能力、強大な魔力と様々な特殊能力を持つ、まさにチートボディ。
しかも、この身体ならば色々とコスプレを試すこともできる。前世でオタクであったシドゥリにとって、これは大きなメリットだった。しかし、それも十代後半が限界だろう。花の命は短い。だから、その若さを保ち続けるのは魅力的だ。
しかし、それをすると何かと問題が発生する。覚醒者となれば、確かに不完全ながら不老不死になるし、桁違いの身体能力を得ることが出来るが、大量の血液を取らなければならないし、紫外線にも気を付けねばならなかった。
本編で直射日光や紫外線照射装置で、吸血鬼が死んでいたのを分析すると、やはり日光に含まれる紫外線こそが問題なんです。だから騎士甲冑に紫外線を完全に遮断するプログラムを組み込むなり、紫外線を防ぐ結界を張るなりすればいいのだが、これはどう考えても目立つ。
王族という立場上目立って仕方ないから不信に思われるのは確実。ボロが出て、何ればれる事になりかねないから、ベルカを出た。
父王が崩御し、国が二つに割れかけたのは、いい切欠となった。おかげで未練を残すことなく、計画を実行できる。
全ては、覚醒者である自分が、支配者として君臨する理想の国を作るために。