ブリタニア帝国。その国は異世界ベルカより舞い降りた〝ブリタニアの魔法皇帝″シドゥリ・エルデルト・フォン・ヴァーブルが興した国である。
そしてシリウスシティは、そのシドゥリがブリタニアで最初に降り立った場所であり、ブリタニア帝国発祥の土地であったので、シドゥリ教の聖地として扱われている。
また帝国初期においては首都として機能していたが、150年代の宇宙進出に伴う大拡張にともない将来性を見越して行政機能はシリウスシティから移されて、現在のシリウスシティはバチカンのような宗教都市として機能していた。
そんなシリウスシティは、かつての聖遺物シリウス号を中心に発展していた。このシリウス号というのは、シドゥリがこのブリタニアに来訪するために使った輸送船だ。この船は元々廃艦寸前のボロ舟であるし、技術が大きく発展した現在ではただの骨董品でしかないが、シドゥリ教から見れば聖遺物として大きな価値があった。
星間国家ブリタニア帝国は国土が広く、その隅々まで浸透しているシドゥリ教は既存の宗教とは比べ物にならないほどの勢力の宗教団体だ。このシリウスシティはシドゥリ教の本部にして中心点で、立ち並ぶ建物は宗教関係施設ばかりであるが、次世代の貴族を養成する聖ヒルデガルド女学院もここにある。
後の話であるが、三千世界監察軍が発足したときに、その総司令官がやけにシドゥリ教関係者にウケが良かったのも、彼がシリウスという名であったからだった。
そのシリウスシティの町並みを歩くのは司教、司祭、助祭を初めとする聖職者と彼等が引き連れている修道女や修道士といった信者達だった。
そんな中で一際際立った男がいた。彼の名はヘンリー・ゴッホ。シドゥリ教の枢機卿という地位についている初老の男だった。
彼は伯爵の息子というブリタニアでもそれなりの生まれだった。まぁもっともブリタニアでは皇族以外は生まれはあまり意味がない。確かに母親が伯爵というのは凄いが、本人は一介の平民に過ぎない。これが女であれば母親の才能を引き継いで魔法資格者となり貴族になれたかもしれないが、男ではそれは望めない。
ブリタニアの政治は中央も地方も完全に貴族が牛耳っており、男が立身出世を果たしたいならば、企業家となり大富豪になるか、軍人となり高官になる位しか道がない。だが彼が選んだのは神官となり枢機卿となることだった。
シドゥリ教における位階は大雑把にいうと、教皇>枢機卿>大司教>司教>司祭>助祭>修道士=修道女という形になり、教皇は聖獣と称させる皇帝陛下の守護獣でないとなれないので、枢機卿とは平民がなれる最高位となる。この枢機卿というのは教皇の代理や補佐を務めたりする役職で17人しかいない。この17というのはシドゥリ陛下が覚醒者となった際の年齢で、これが転じてブリタニアでは縁起のいい数字として扱われており、その為貴族候補生が覚醒者となるのは17歳の時というルールがあったり、毎月17日に結婚式を上げる者が多かったりする。
そして彼は次の17日に行われる結婚式の準備をしていた。
しかし、その結婚式は他とは一線をかくしていた。何しろ皇帝シドゥリの結婚式なのだ。
現皇帝シドゥリ(歴史上ブリタニア帝国の皇帝はシドゥリ一人しかいないが)は500歳を優に超えているにも関わらずいまだに未婚であり、後継者もいなかった。
皇帝自身が不老長寿であるので、現状では大した問題となっていなかったが、ご結婚なされて後継者をもうけられるのが望ましいのは確かだ。その意味ではこの結婚は望ましいだろう。結婚相手が異世界人であることを除けば。
皇帝陛下の妃となられるのは地球人とミッドチルダ人の娘だ。同性婚や二人が同時に妻になるというのはどうでも良い。帝国では元々同性婚も一夫多婦も認められている。
しかし、何故ブリタニア人を妃に迎えないのか? 疑問に思うべきではないと思いつつも、つい心の何処かで思ってしまう。
「ゴッホ枢機卿、如何したのです?」
「教皇聖下、今回のご結婚に関して考えていたのです」と教皇に表情を曇らせて答えた。
それで私の言いたいことは理解できたのだろう。
「そうですか。気持ちは分からないでもありませんが、それを表に出さないようにしなさい」
「宜しいのですか?」
「確かにブリタニアと関係のない異世界人を皇妃に迎えるのは不満があるかも知れませんが、皇帝陛下の決定は全てに優先します。それに利点もあります」
利点だと、一体何があるというのだ。
「それは、どういうことでしょうか?」
「あの二人にはブリタニアに影響を与える外戚が存在しないという点です。ブリタニアでは前例がないことですが、余所の世界では外戚というのは国家にとって害悪となる可能性が大きいわ」
外戚か……。皇妃の家族や親戚が権勢を振るうかもしれないということだが、確かになまじブリタニア人を皇妃にすればその危険がある。そういった意味では、いっそのこと余所者の方が好都合かもしれない。
余所者の彼女たちなら、この世界に親戚も親しい知人もいないだろう。おまけに他の貴族に勝るとも劣らない実力者でもある。
「わかったら仕事をしましょう。式典の準備とかもあるのだから時間を無駄にできないわ」
「わかりました」