「地球連邦が報道の自由を保証しているのは知っておりますが、こういうのは困りますね」
ブリタニア帝国伯爵にして在地球ブリタニア大使は、問題の記事が書かれている雑誌を目の前の男に突き付ける。雑誌を突き付けられている男は、地球連邦の外交官で、端から見ると、それは十七歳ほどの美少女が壮年の男性に迫っているかの様に見えた。
しかし彼女は外見通りに年若いわけではなく、既に百年以上生きている高齢者だった。ブリタニア帝国の貴族。それが彼女の身分であり、他と隔てる違いだった。それはかつて地球に存在していた生まれた家が違うだけという問題ではなく、そもそも人を捨てているという根本的な違う存在。『覚醒者』そう言われる存在。
ちなみに現在の地球連邦において外務省というのは閑職だ。統一前の地球は200カ国近くの国々が存在して盛んに外交が行われていたが、地球統一の結果彼等は暇になった。なにせこれまであった他国というのが無くなり、現在ではブリタニア帝国というたった一国と国交を結んでいるだけの状態。
おまけにブリタニア帝国は、地球連邦にブリタニアの位置を知られるのを嫌がり、ブリタニアに大使館などの外交の拠点を作ることを許可しなかった。つまりブリタニア帝国が地球に大使館を配置して、両国の外交はその大使館を通して行うという形式となっている。
通常ならばこんな一方的な外交は嫌がられるものであったが、地球連邦はブリタニア帝国に対して返しきれないほどの莫大な恩があった。
おまけに時空管理局という強大かつ凶悪な外敵によって滅亡の危機に瀕している地球にとってブリタニア帝国との同盟はまさに最後の命綱。ぶっちゃけブリタニア帝国に見捨てられたら極めて拙いことになるのだ。
「しかし伯爵、地球には報道の自由という物がありまして……」
「それは分かっています。でもブリタニア帝国でこんな記事を書けば、不敬罪で即座に牢獄行き。これは本国の上層部や教会関係者にはとても見せられませんわ!」
「そ、それは…」
外交官が言葉を詰まらせる。
ブリタニア帝国には報道の自由という物がない。情報というのは国家が統制しており、国益を考慮して報道がされている。特にこの様な記事などは政治犯として牢屋ぶち込まれるだけでなく、シドゥリ教会によって異端審問をさせられるだろう。
そう、シドゥリ教会には異端審問官が実在しているのだ。
「私も地球人の権利に関しては我が国も一定の配慮をしますが、これは皇帝陛下の肖像権や名誉にも関わる問題です。少なくとも帝国との外交問題を起こしたくないなら地球人自身が自主規制して欲しいものです」
ブリタニア大使はそういって雑誌を外交官に渡してその場を立ち去る。
「伯爵どうでしたか?」
「一応釘を刺して置いたわ」
部下の言葉にブリタニア大使は素っ気なく答える。
「しかし面倒ですね。こんなふざけた記事を書いた出版社を直接取り締まれないとは」
「ここは帝国ではないから、それは仕方ないわ。とにかくブリタニア大使として仕事はこなさないといけないからね」
大使というのは、国家が他国に送る外交官。次元世界における超大国ブリタニア帝国は、時空管理局によって第97管理外世界と呼称されている地球に大使館を置いていた。とはいえ地球はブリタニアから比べたら技術で大きく劣り、地球人がこれまで行ってきた自然破壊で地球環境も昔に比べて悪化していた。
当初から自然環境を破壊せずに文明を発達させたブリタニアとは異なり、空気は汚いわ、土地は汚染されているわ、海は汚いわ、とブリタニア人にとってはあまり魅力的な場所ではない。見所といえば文化の多様性ぐらいなものだろう。
ブリタニアの文明は、地球とは異なり複数の文明が自然発祥しているわけではなく、異世界から降臨されたシドゥリ陛下によってもたらされた文明なので、最初から一つの文明、一つの文化、一つの言葉、一つの宗教で統一されているからブリタニア帝国は、文化や宗教の違いなどで確執などが問題にならなかった。
しかし、地球は地域によって言葉が違う、宗教や文化が違う、おまけに民族間の対立まである。そんな乱雑な世界であるが、それだけに多様性という点では帝国も地球を認めていた。まぁ「多ければいいというものでもない」という意見は当然あるが。
現在、帝国ではシドゥリ陛下が御成婚なされた事で、その祝賀で大いに盛り上がっていたが、地球ではそれに関係して問題がある報道をする者もいた。あの記事も、シドゥリ陛下となのは様フェイト様の関係を百合3Pなどと称するゲス記事が書かれていた。
酷いことに陛下の夜の生活を憶測で赤裸々に書いていたのでさすがに目に余った。出版社としては、インパクトのある記事を書きたかったと思うが、物には限度がある。それがブリタニア大使が地球の外交官に苦情を言った理由であった。
彼女は敬愛するシドゥリ陛下を侮辱する者など不敬罪で牢獄にぶち込みたいぐらいであるが、ここは地球連邦であり、そんな事をすると外交問題になってしまう。
次元世界で最大最強のブリタニア帝国がたかが地球人風情に配慮しなければならないのは不満だったが我慢するしかない。
ブリタニア帝国は統治の正当化のために、魔法皇帝シドゥリを信仰の対象としており、その為シドゥリに対する不敬に関しては融通がきかない国だった。
これはある意味仕方がないことである。ブリタニア帝国は報道の自由や信仰の自由はなく、ついでにいえば共和主義や民主主義も認められていない。その手の主張は政治犯として処理されることを意味していた。
このことから自由を認められた文明圏との接触は問題が起こることは最初から懸念されていた。それ故、シドゥリは在地球大使にはブリタニア至上主義者ではなく、あまり異世界を見下したりしない人物を選んでいた。
つまり彼女は穏健派に属する貴族だった。とはいえ彼女は人を超えた覚醒者として貴族という特権階級に属しており、穏健派といえど地球人と平等な存在であると完全に思っているわけではない。少ないとはいえ地球人を見下している部分はある。それでも他の貴族よりはかなりマシであった。
「陛下が地球との交流を望んでおられる以上、地球連邦と摩擦を起こすわけにはいかないわ」
もし地球との外交に支障がでたら自分が無能の烙印を押されかねない。ブリタニア帝国は立憲君主制ではなく絶対王政であるため貴族の権力は強い。
しかしブリタニア貴族の地位は、世襲ではなく本人の実力で上り詰める物であるため、無能者は貴族失格と同義であった。
事実貴族となったとはいえ能力が低く、任じられた仕事をやる事ができずに爵位を降格された貴族も存在していた。だからこそ多くの貴族は任じられた仕事はきちんとこなす。それが有能の証だからだ。
「でも地球が創造主達の世界に限りなく近い世界だとは思えないわね」
「陛下は時空管理局戦争以前の地球は地理、歴史、文化などかなり酷似していると言われています」
「そう、創造主達の世界というのもこうだったか……」
彼女は創造主たちの世界にある意味幻滅した思いを抱いた。