聖ヒルデガルド女学院。ブリタニア帝国初代魔法皇帝シドゥリ・エルデルト・フォン・ヴァーブル陛下の御生母であられる聖母ヒルデガルドの名を冠するこの学院は、帝国の特権階級の貴族を養成する学院です。
私、エリス・オービックは、今年で三年生となったこの学院の生徒。
この学院では二年生の内に生徒の中から貴族を選抜しますが、当然ながら貴族に選ばれなかった生徒もいます。私も貴族に選ばれずに三年生になりました。
親友だったリリカは貴族になれたのですが、私は無理だった。まぁそれほど貴族になる事を強く望んでいたわけではないので構いませんけど。
三年生になるとクラス替えがあって貴族とそうでない者とに分かれます。私は貴族ではない一般クラスです。
このクラスになると良妻賢母になるように教えられます。花嫁修業という物ですね。帝国としては、貴族になれなかったとはいえこの学院に入ることができたほどの才能の持ち主ならば、結婚して多くの子供を作って欲しいというのが本音です。
魔法資質は遺伝することが多いから、高ランクの騎士の子は高い魔力資質を持つ可能性が高い。最もあくまで可能性ですから魔法資格者の娘でありながら魔力資質を持たないあるいは低い子が産まれることも多い。まぁ学院卒業者ならば国から補助制度があるので生活には問題ないし、生きていくのに困ることはないでしょう。
そもそも帝国は経済が良いので、生活苦の者は少ないです。
「エリス、遊びに行きましょう」
「そうね」
友人の誘いに答える。遊びか、確か以前はあまり遊ぶことはなかった。騎士としての鍛錬を優先していたからね。でも落ちた今では遊びに挑戦する人も多くなった。
「そういえば聞いた?あのシンシアが今でも鍛錬をやっているらしいわよ」
「へえ、そうなのですか?」
珍しい。普通貴族になれなかった者は、遊ぶなり花嫁修業に精を出すものですが…。
「全く無駄なのよね。大体あの人たいして実力が無い癖に貴族の娘だからって威張りちらしていたんだから。落ちていい気味だわ」
「そうね」
エリスもシンシアを嫌っていたので、それに同意する。でも未だに鍛錬をしているのはどういうことかな? その時、エリスは何となく嫌な予感がしたが、それが現実の物になるのは数十年も先の事であった。
私達一般クラスは学院を卒業したら、兵役などの義務はないのでそのまま自由の身です。私はこの間の見合いで婚約者ができたので、その人に嫁ぐ事になります。帝国では聖ヒルデガルド女学院卒業という看板はステータスとしてかなり高いので、結婚相手に困りません。
私の相手は富裕層の坊ちゃん。この間見合いをして決まりました。私は見合いをしただけだから好きとも嫌いとも言えない。それでもまあいいかと思う。
別に恋愛結婚したからと行って必ず幸福になるとは限らないし、逆に政略や見合い結婚だからといって不幸になるとも限らない。だから私はどうなるか分からない。
父親は私の意志よりも自分の都合を優先している人だった。母もそんな父に従うだけ。だから私はどうでも良い。
そもそも好きという気持ちも分からない。誰と結婚しても構わない。其方の都合で決めればいい。
別に誰と結婚しても大して変わらない。エリスはそう思っていた。