並行世界への移動。並行世界とはif、もしもの世界。元々、ブリタニアでは理論上は確立していた技術であったが、シドゥリが研究を進めてシドゥリ暦600年には実用化させた。
シドゥリにとってそれは自らのルーツを確かめる意味や、知的好奇心を刺激されたという理由があった。
しかし、それはあくまで実験段階に過ぎない。そもそも次元世界にも進出する必要のない帝国が、わざわざ並行世界などに大規模な干渉をする必要はない。あくまで技術上の挑戦でしかない。
並行世界と一言でいってもいろいろある。人間が存在していない世界もあれば、全く異なる歴史を辿った世界。それこそシドゥリが覚醒の法を編み出さずに普通に天寿を全うしてしまい、ブリタニア帝国が建国されなかった世界もあった。
帝国はそれらの世界に不用意に接触しなかった。下手なことをすれば、第二の外敵と接触することになりかねない。だから使い捨ての無人偵察機などを使って、それらの世界の調査を細々と進めていく。
だが、この技術が悪用される。ある犯罪者が並行世界への転送装置を不正利用して逃亡した。この思わぬ事態に、帝国はその並行世界を捜索する羽目になった。
「はあ、面倒だね…」
リリカはぼやきつつもミッドチルダの首都クラナガンにいた。最近は任務のために時空管理局がでかい顔をしている管理世界を旅している。
リリカは管理局が嫌いだ。自分の母ハヤテが地球から離れる羽目になったのは管理局のせいだし、帝国とは主義主張が合わないからだ。
だが、この世界は本国とは一切関係ないから、あまり関わる必要はない。というか無限にある並行世界に気に入らないからと一々干渉していたらキリがない。
大体この並行世界はブリタニア帝国が存在しない世界だ。当然ながら、私の知っている過去に似ているだけで全くの別物。
最近はミッドチルダをフラフラしているが、余りの治安の悪さに呆れている。犯罪の発生件数の多さと検挙率の低さは相当な物。治安が極めて良い帝国とは違いすぎる。
力にクリーンだの安全だのと言って、質量兵器廃絶と魔法至上主義に走った結果として、戦力を確保できずに首都の治安も満足に守れないとは治安維持組織としてどうか?
この現状を見れば、帝国があれ程までに管理局を敵視した理由も分かる。こんな馬鹿な状況になるのは少なくともブリタニア人は嫌がる。現に今も一人の魔導師が事件を起こしていた。
「はっ、はははー!!」
馬鹿笑いをしつつも魔力弾を撃つ男。私の見立てではAAAランク辺りだろう。頭が悪そうだが魔力だけは強い。でも自らの力に溺れて暴れているゴロツキにすぎない。
しかし、強さはそれなりだ。現に、出動した管理局員も歯が立たず一方的にやられていた。しかも殺傷設定で撃たれているから殉職者も出ている。陸士隊のランクが低いから(魔導師ランクB~E程度)彼等では歯が立たない。
ふと一人の五歳ほどの幼女を抱えている一般人らしい中年親父を見つけた。だがその幼女は亡くなっているようだ。血塗れになっているし、彼女からは生命力を感じない。あの魔導師犯罪者は一般人まで無差別に攻撃していた。
「……」
理不尽な事、こんな筈じゃなかった事など、どこの世界でもありふれている。別に珍しい事ではないが、あまり気持ちの良い物ではない。
リリカはディアボルクを起動させて騎士甲冑を身に纏う。周囲を圧倒する魔力。その場の魔導師達はいきなり現れた膨大な魔力に驚愕する。
「な、なんだと!?」
信じられない程の魔力。
「邪魔」
男が聞いたのは障害物を無造作に払うかのような、淡々とした少女の声。
「ひぃ!」
男が慌てて砲撃を放とうとしたが、砲撃魔法はタイムラグがある。リリカ相手ではそのタイムラグが致命的だ。神速によって、瞬時に掻き消えたリリカが男をディアボルクで叩き潰した。
「ぎゃっ!!」
非殺傷設定で放たれたそれは強力な魔力ダメージを男に与える。これだけでも十分だが、ついでに処置をしておこう。
「リンカーコア・バースト」
「うっ!」
私の放つ魔法で苦しむ男。
この魔法はリンカーコアの蒐集を応用して、相手のリンカーコアを破壊しその自然治癒ができないようにするもの。
通常リンカーコアの蒐集をされても半月もすれば自然に回復する。しかし、この魔法ならば特殊な治療を受けない限り使い物にならなくなる。だから管理局の技術では治療不可能だ。
帝国では、魔法資格者もしくは無資格者による魔法犯罪のときに、犯人の無力化に多用する魔法である。強力な再生能力を持つ覚醒者には全く効果がないから、微妙な魔法ですが…。
その場には魔力ダメージ受けた上に、リンカーコアを破壊されて気絶している犯人が倒れていた。
「相変わらず恐ろしい強さだな」
「あら、お久しぶりですね。ゲンヤさん」
ゲンヤ・ナカジマ、確か時空管理局地上部隊の仕官だったかな?
「お前何でフリーの魔導師なんてやっているんだ。お前の腕なら管理局でもエリートになれるだろう。今からでも遅くねぇ。管理局に入局しないか?」
「それはお断りします。管理局が好きではありませんから」
「そうか」
管理世界の全ての住民が管理局に好意的という訳ではないので、リリカの言葉はそれほど驚くほどものではない。
「さてと」
リリカは先程の中年親父の所に向かう。
「娘さんですか?」
「ああ、そうだ」
娘を亡くした中年親父の顔は絶望に染まっていた。
「事件の被害者か…」
ゲンヤが眉を顰める。やはりこの様な幼女が犠牲になるのは嫌なのだろう。
「ねえ、貴方。娘さんを助けたい?」
「た、助かるのか?」
親父は驚愕した。どう見ても娘は死んでいる。
「ええ」
私は自信満々にいう。
「頼む、娘を助けてくれ!!」
藁にも縋るようにリリカに頼む親父。
「わかりました。では反魂の術に取りかかりましょう」
リリカは幼女の死体を地面に横たえて、リリカと幼女の周囲に紫外線を防ぐ結界を展開した。
手刀で右手首を薄く切り、幼女の口に血を流し込む。そして地面に展開される銀色に輝く三角形の魔法陣。古代ベルカ式魔法の魔法陣だ。
リリカはある言葉を呟く。
「我の血の力を持って、今こそ人として蘇れ」
そして幼女の身体の傷が修復していく。
「う、う~ん」
「おお!!」
親父が驚愕した。死んだ筈の娘が生き返ったのだ。
「あれ、パパ?」
「おおお!」
親父が感極まって幼女を抱きしめる。
「ふう、この魔法はやはり面倒ね」
自分の身体を傷つけるのを好まないリリカは、魔法を使うたびに一々血を流さないといけないのは嫌だった。
既に手首の傷は跡形もなく修復させていた。覚醒者の再生力は意図的に再生を止めない限りどんな傷でもすぐに癒す。だから一々治療魔法を使うまでもない。
「……相変わらず出鱈目な能力だな」
ゲンヤが呆れたように言う。死者蘇生は現在の魔法技術では不可能というのは常識だ。だか彼の目の前で起きた奇跡はそれを覆した。
「こっちも殉職者が出たから生き返らしてくれと言っても嫌なんだろう?」
ゲンヤが確認するように言う。
「そうよ」
前回、そういわれて断っていた。
「はあ、どうしてなんだよ」
彼はぼやいた。今日は自分の部下が何人も殉職している。
「私が管理局を嫌いなのは知っているでしょう。それに死にたくないのなら、危険を伴う職業に就かなければいいのよ。極端な事をいうなら、貴方達は戦いで死ぬのも仕事の内よ」
「……」
確かにその通りだ。ある意味正論だけにゲンヤは何も言えなかった。
解説
■リリカ・フォン・アークライン
身長157㎝、体重46㎏、スリーサイズ85/57/83(17歳の時に覚醒して、それ以来変化なし) おまけ編のオリジナル主人公。膝の辺りまで伸ばした茶色の髪に顔付きは母親のハヤテにそっくりである。リリカは移民二世という立場であり、その為ブリタニア至上主義者には受けが悪い。現在は貴族としてローゼンリッターに所属している。
後書き
異端の騎士の舞台となる並行世界では、シドゥリが転生しているが石仮面を見つけずに聖王となってベルカで天寿を全うしています。その為ブリタニア帝国は存在しません。今回、リリカはある事情からこの並行世界で派手に活動しています。