その日、ジェイル・スカリエッティはアジトの近くの森で魔力反応を感知した。それもSSS-ランクという尋常ではない魔力。彼等は管理局の局員かと警戒していたが、その人物は森の中で気絶していた。
「う、ここは?」
ベッドに寝かせていた女性が意識を覚醒させたようだ。
「おはようと言うべきかな」
「貴方は誰?それにここは?」
ジェイルの言葉に女性が反応する。
「ふむ、私はジェイル・スカリエッティ。ここは私の研究所だよ」
「ジェイル・スカリエッティってあの!?」
スカリエッティは管理局を崩壊させた者として、旧管理世界だけでなく地球やブリタニアでも有名。
「おや、私も有名になったのかな? まだそれほど名を知られていないはずだが。まぁそれはいいが、どうしてあんな所にいたのかな?」
ジェイルの質問に女性は考え込んでいた。
「……私はシンシア・スカーレットよ。あそこにはランダム転送をしてついただけ」
「そうかい。まぁ疲れているようだし詳しい話はまた後にすることにするよ」
「ええ、そうしてくれると助かるわ」
「では失礼するよ」
そう言ってスカリエッティはその部屋から出ていく。
それはただの偶然に過ぎなかった。次元世界一の勢力を誇る超大国の国家反逆者と、並行世界で管理局という巨大組織に反逆を企てる科学者の遭遇。だがその出会いこそが後の管理世界の歴史を変えることになる。
「ドクターよろしかったのですか?」
スカリエッティに問いかける如何にも美人秘書という姿の女性。彼女はスカリエッティの作り出した戦闘機人。
「ああ、彼女は正直強すぎるからね。まさか魔力無しでも戦闘機人を圧倒する身体能力を持っているなんて思わなかったよ」
ジェイルはシンシアが気絶している内に簡単に調査をしていた。なにしろ相手はSSS-ランクという法外な魔力の持ち主。彼にとってそれぐらい当然だが、その結果は彼ですら驚愕させた。
「全くとんでもない化け物だね。あれじゃ下手に弄るとかえって弱くなりかねない」
戦闘機人とは別コンセプトの強化人間。あれほどの力を自然に身につけられる訳がない。何らかの生体強化を受けている筈。となると、やはり下手にいじれない。
それに……。
「彼女には興味がわいたからね。できれば味方に引き込みたいんだ」
彼女が協力してくれたら、それだけ自分の計画も弾みがつくだろう。スカリエッティはそんな事を頭の片隅に考えていた。
彼女には高い魔力資質があった。それゆえに魔法資格者になれた。とはいえ、それは他の魔法資格者から見れば突出したものではなく、平凡なものでしかなかった。だが彼女は自分が天才であると信じていた。
ある意味過信があった。帝国の伯爵令嬢という生まれもあり、エリート意識を持っていた。だからこそ自分が選ばれなかった事に、そして純血の私を差し置いて異世界の血が混じった混血の女如きが選ばれたのが我慢できなかった。
そして起こる対立。リリカとの決闘。だが彼女は敗れた。それも圧倒的な実力差で。そして彼女は見る。リリカの取るに足らない者を見る目を。そう、リリカは彼女を見下していた。混血風情が偉大なる純血のブリタニア人である自分を。
そこから彼女は壊れ始めた。
時が過ぎ、自分は年を取り始める。だが貴族は年を取らない。あのリリカもあの時の姿を保っている。自分は老い始めているのに。あの女は若くて美しい。許せない。妬み、嫉妬、憎しみ。様々な感情が入り乱れる。
そして彼女はあの仮面の事を知っていた。そうあの場にいたのはリリカだけではない。彼女も密かにそれを見ていた。そして彼女はあの仮面の秘密に気付いた。
それはシドゥリが恐れていたこと。石仮面の秘密に気付いた者がそれを狙う。彼女もそうだった。そして彼女は石仮面を盗み出した。だがそれだとすぐに捕まってしまう。だから帝国が容易に追撃できない場所に逃げる。幸い並行世界への調査プロジェクトは母が担当していた。だからある程度の情報を入手することができた。
母は意外に口が軽く、本来ならば貴族候補生でも知らない覚醒者の能力を教えてくれた。だから石仮面を手に入れて吸血鬼になってから、即座にプロジェクトメンバーの一人に肉の芽を埋め込んで手引きさせてこの並行世界に逃げ込んだ。
手引きさせた者は置いてきた。ろくな情報も与えていないし、所詮使い捨てにすぎない。例え捕まって尋問されたとしても不利になる事はない。
彼女が逃げ込んだ世界は80年ほど過去の相対過去の世界。ブリタニア帝国が存在せず、80年ほど前に比較的似ている並行世界。
私は石仮面で力を手に入れた。今の私は20歳あたりまで若返っていてその能力は覚醒者に匹敵する。だがそれでも警戒はしておいた。
魔力波長の変調をして迷彩を施し更に魔法文明のあるミッドチルダへランダム転送。ここで気が抜けた彼女は意識を失った。
それはこことは違う並行世界での反逆者の話。