シドゥリ暦615年
「そうでは、シンシアは其方の世界のジェイル・スカリエッティと結託している訳ね」
『はい。間違いありません。如何いたしましょうか?』
ブリタニア帝国の皇帝シドゥリは、並行世界にいるリリカからの報告を受けていた。国の技術力は並行世界からの通話を可能にしていた。
「そうね。邪魔ならスカリエッティも始末して良いわ。どのみち其方の世界は関係ないから」
『畏まりました』
「しかし、ゾンビやグールを使うとは見境がないわね」
『シンシアはそういう者だったという事でしょう』
「まぁいいわ。グールの大規模実験はやったことがないから、シンシアがするというのなら好きにさせればいい。貴重なデータ収集になるわ。報告は以上ね。では引き続き任務を継続しなさい」
『はっ!』
「しかし、リリカ一人の任せておいて宜しいのですか陛下?」
シドゥリが通信を切ったところで、帝国宰相のマリーナが尋ねてきた。
「構わないわ。リリカが失敗したら次の手を打つ。それだけの事」
「左様ですか」
それにその方が盛り上がるしね。シドゥリは内心の思惑を胸に秘めていた。
新暦75年9月19日。その日、管理世界は混乱していた。聖王のゆりかご。かつてベルカ聖王家の王族達が過ごしたというロストロギア。それがミッドチルダの空に舞い上がっていた。
管理局は複数の管理世界で大量のグールをばらまかれたため大混乱に陥り、まともに対処できないでいた。聖王教会もこの事態に管理局の支援どころではなく、ベルカ自治領を守るだけで精一杯だ。
グールはネズミ算式にその数を増やし、新たなる犠牲者を量産していく。このクラナガンもグールに溢れている。
対する機動六課はシグナムと新人達がクラナガン防衛、フェイト執務官が単独でスカリエッティのアジトに突入、なのはとヴィータがゆりかごに突入という事になった。
管理局の状況はけして良くなかった。特にティアナは本来なら撃墜イベントを経て局員として魔導師として大きく成長するはずが、それが流れたため味方に誤射するなど、かえって足を引っ張る散々な結果だった。だがリリカにはそんなことはどうでも良い。
所詮は並行世界。例えこの世界が地獄になってもそれは変わらない。要は本国に帰還するときにグールを連れて帰るようなことがなければいい。
恐らくスカリエッティ達は、密かにどこかの管理外世界にグールを放ってグールを量産してからミッドチルダを初めとする各地の管理世界に一斉に転送したのだろう。
しかし、本当に手段を選ばないわねシンシアは。グールは実験場での性能テストしかしていないからここまで大規模に使われるのは初めてだ。だからある意味良いデータ収集になる。実際本国の研究者達はデータ収集に余念がない。
「見つけた」
シンシアの反応だ。最近になってからシンシアは魔力波長のジャミングをしなくなった。全力で戦えるようにするためだろうが、その為にシンシアの位置を把握できるようになった。
シンシアはクラナガンでグールに対応している陸士や魔導師達を次々に血祭りに上げている。
「漸く見つけました。随分と舐めた真似をしたね。シンシア!」
「リリカか。丁度いいここでお前を殺してやる!」
「……その姿を見るとやはり石仮面を使ったようね」
今のシンシアは外見年齢が20歳ほどだ。聖ヒルデガルド女学院を卒業した時と大して姿が変わっていない。とても70歳には見えない。明らかに若返っている。
「それにしても、まだあの時の事を根に持っているの? 貴女ねちっこいわね」
「うるさい!」
「まぁいいわ。いい加減任務を終わらせたいから、ここでお前を始末するとしましょう」
「混血風情が調子に乗って、私は石仮面で人を超えた。貴様なんかに負けはしない」
リリカとシンシア。共にブリタニアの魔法資格者として生を受け、方や貴族たる覚醒者、もう一方は古き石仮面より吸血鬼となった者。その二人が並行世界のミッドチルダにて激突した。
「はあああ!」
リリカの打ち下ろしたディアボルクがシンシアを吹き飛ばす。シンシアは圧倒的に押されていた。石仮面の吸血鬼ならば覚醒者にけして劣らぬはずなのに。
確かに、シンシアは石仮面で覚醒者と同等の能力を身につけた。
しかし覚醒者専用の正規の訓練と修行を受けていない。覚醒者の始祖にあたるシドゥリは、ドラゴンボールのネタで『気』のコントロールや重力を使った訓練を行っていた。その結果覚醒者達は気という新たなる『力』を活用するようになった。
覚醒者は正規の訓練にそれを取り入れている。気と魔力の併用。覚醒者の更なる能力の向上を目指したシドゥリの目標だった。
シンシアにとって不幸だったのは、気という魔法とは別の力を修得する機会がなかったことだった。元々、それは兵役について十年間で身につけていく物だったから。元より魔力値に差があったのに、これでは勝ち目が無くなるのは無理もない。
「終わりだね。シンシア」
「ば、馬鹿な混血のお前如きに、この私が…。ふざけるな!!」
シンシアが神速を駆使して切り掛かるが、リリカはそれすらも見破る。リリカの姿が消えて、シンシアは切り裂かれた。
「はああ!」
幾重にも切り裂きバラバラになったそれにリリカは砲撃を放った。粉々になるシンシア。
「いくら石仮面の吸血鬼でもこれなら終わりね」
頭部は特に破壊しておいたし今は陽光がある。吸血鬼でもこれでは助からない。
「これで任務の一つは終わった。後は石仮面の回収があるわね」
石仮面を持っているのはジェイル・スカリエッティだから、あいつのアジトに行けば石仮面があるかもしれない。リリカはその場を後にする。
スカリエッティのアジトでは、潜入したフェイトが戦闘を行っていた。新ソニックフォームとなったフェイトが、トーレ達を撃破してスカリエッティに攻撃を仕掛ける。しかし、それは容易く避けられる。
「なっ、何!?」
「馬鹿かね君は。そんな大振りの剣など太刀筋が単調になるよ。至極分かり易い」
その瞬間スカリエッティの左手から伸びたワイヤーがフェイトの手に絡まる。
「うおおおっ!!」
スカリエッティが力ずくでワイヤーごとフェイトを地面に叩き付ける。
「ぐはっ!!」
フェイトは強力な力で地面に叩き付けられた。あまりに強いダメージを受けて一撃で戦闘不能になる。
フェイトにとって不幸だったのは、スピードを優先するあまり防御が低い新ソニックフォームになっていたことだ。ただでさえフェイトは魔導師ランクからみれば防御が薄いのに、それを更に薄くなっていた。
しかし、普通は防御が薄いとはいえバリアジャケットを纏っていれば地面に叩き付けられただけでこうもダメージを受けたりはしない。だがスカリエッティの身体能力が尋常ではなかったのだ。
「へえ、やはり貴方は石仮面を使っていたのね」
フェイトを倒したスカリエッティにリリカが話しかけた。スカリエッティは石仮面で吸血鬼になっていた。
「君か、なるほど君がここに来たということはシンシアは…」
「ええ、シンシアは私が始末しました。後は石仮面を回収するだけ。スカリエッティ大人しく石仮面を返しなさい。あれは元々我が国の物です」
「石仮面か、いいだろう」
スカリエッティは自分のデバイスから石仮面を取り出し、リリカに投げ渡す。リリカはそれを受け取る。そして自らの指に軽く傷を付けて仮面に血を付着させた。すると石仮面が発光していくつもの骨針が飛び出してきた。
「本物のようね。でも随分とあっさりと渡すのね」
「私にはもう石仮面は必要ではないからね。それに君とまともにやっては勝ち目が無い」
「へえ気付いていたんだ」
より長く吸血鬼として過ごしてきて、正規の訓練を受けてきたリリカの能力は隔絶している。
「私だけでなくシンシアも薄々は気付いていた筈さ。感情がそれを認めなかっただけでね」
「まぁいいわ。もう用はすんだ。じゃ、さようなら」
リリカはその場を去ろうとした。
「待って! リリカ手を貸して! このままじゃ管理局が大変なことになる!!」
そこにフェイトが口を出した。ダメージが大きすぎて動けないが、それでもリリカに助けを求める。
「だから?」
「だからって、管理局がこのまま崩壊したら管理世界が混乱してしまうよ!」
「別に構わないわ」
「えっ!?」
リリカの言葉にフェイトは耳を疑う。
「構わないと言ったの。私は管理世界が幾つ滅亡しようが、管理世界の住民が何百億人死のうがどうでもいいの」
「……!?」
フェイトはリリカがあまりにもとんでもないことを堂々と言うので愕然とした。
そういえば、プレシアには感謝しないといけないわね。フェイトを見ていてプレシアの事を思い出した。プレシアは蘇ったアリシアと共に時の庭園で生活していたが、フェイトは第97管理外世界の海鳴市の翠屋の近所に住まわせて、なのはと同じ学校に通わせていた。フェイトがなのはと共に管理局に入局したときも黙認した。それは正史とのズレを少しでも小さくするためだ。
プレシアは私との契約があったので、フェイトとの親子の真似事をやっていた。そうでなかったら、アリシアの失敗作など即座に追い出していただろう。だがそれも用済み。最早必要ない。
そうね、この世界を去る前にプレシアには別れの挨拶をしておくか。リリカはそんなフェイトを無視してその場を後にする。もうこの並行世界には用はない。
「任務完了ね。後はこの次元世界がどうなろうと知ったことではない」
私が帰還して、クロノスシステムによるこの並行世界とのリンクを切る。それで終わり。
余談だが、ゆりかご攻防戦では、ガジェットだけでなくスカリエッティが配置した高ランクの騎士や魔導師のゾンビが多数いたため、なのは達は殉職したらしい。
後書き
シドゥリは元々オタクだったので『ドラゴンボール』を知っており、色々とネタに走っています。