202年、帝国では他の星団への進出速度がさらに加速していた。160年代に入ると核融合炉から発展した対消滅機関が実用化されて、亜光速航行とワープ航行の最大の問題であったエネルギー不足が解消されたからだ。
核融合炉が使われていた150年代は、いくらワープ航行が実用化されていても、エネルギー不足で長距離ワープは無理だった。だから自ずと惑星ヒルデガルドから短距離に限定されていた。しかし対消滅機関の実用化とワープ航行技術の向上は、その距離を大きく伸ばした。
そして、帝国では一隻の探査船が進宙した。それは対消滅機関を動力としており、魔法技術を用いない純粋科学技術のみで、虚数空間での航行と通常空間への帰還をなしとげる探査船。
当時の帝国では、虚数空間の研究を行っていた。虚数空間は魔法を無効化する働きがある。ベルカ時代からAMF(アンチ・マギリンク・フィールド)は存在していたし、その研究も進んでいる。
しかし、シドゥリは後年に予想される時空管理局との敵対を考えると、魔法無効化技術を発達させておきたかった。
虚数空間では魔法は使えない。その構造を調べ、技術として応用できれば見込みは大きい。とはいえ魔法が使い物にならないから、虚数空間を航行してデータ蒐集を行う場合は、純粋科学技術のみで構成された探査船が必要になる。
さらに虚数空間には、次元空間とは異なる特徴がある。
そもそも世界とは、一つの宇宙の事。次元世界では、一つの惑星を世界と呼ぶことが多いが、それは宇宙開発が進んでいないからだ。つまり、一つの惑星にしか人間が住んでいないという状態が多い。
本来は沢山の惑星が集まったのが星団で、星団が集まったのが銀河。世界(宇宙)は、その銀河が沢山集まって構成されている。
余談であるが、帝国は複数の星団に行って、地球型惑星を発見入植しているが、それは銀河のほんの一部に過ぎない。
その世界(宇宙)が、観測されているだけでも五千億以上存在するのが次元世界。次元世界を航海図に例えると、世界はその航海図に描かれた沢山の島々の一つであると言える。
世界間にも距離がある。比較的近い島であれば、船(次元航行船)で次元空間という海を渡って、すぐに着くことができるが、遠い島に行くには時間がかかる。つまり世界間の距離は、次元航行に掛かる時間に比例する。
ちなみに地球やミッドチルダは、ブリタニアからとても遠い。片道だけで三ヶ月も次元航行しなければならない。
これはシドゥリが、万が一にもミッドチルダやベルカの者達が此方に干渉してくるのを嫌ったため、予めベルカのデータベースから、距離が遠くて条件に合う世界を選んだからである。
虚数空間の特性は、その次元空間の距離を無視できる。つまり本来ならば、三ヶ月は次元航行しなければならないものを、虚数空間航行によってほとんどタイムラグ無しに移動できる。
しかも、虚数空間航行は同じ虚数空間航行の技術が無いと観測できないから、完全な奇襲が可能となる。
つまり軍事的利点でもあり、仮に時空管理局が次元空間を渡って此方に侵攻しようとしても三ヶ月もかかるし、その間に敵の迎撃準備ができる一方で、帝国は好きな時、好きな場所に奇襲攻撃ができる訳だ。
探査船は、十分なテストの後で虚数空間航行の実験に取りかかった。その三ヶ月後、探査船は帰還し、多くの実験データが手に入った。
後年、これらのデータからMキャンセラー(マジック・キャンセラー)が開発される。
AMFは魔力結合を阻害して、魔法を無効化するものであるが、Mキャンセラーは虚数空間と同じく魔法その物を全てキャンセルしてしまう。この技術は、後に管理局に大被害を与えることになるが、流石にシドゥリも当時はそこまで想像していなかった。
以後帝国では、虚数空間の研究が進んでいくことになる。