ブリタニア帝国記   作:ADONIS+

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封建貴族 第三話(シドゥリ暦665年)

 そもそも貴族とは何か?

 

 ブリタニア帝国建国初期には貴族は存在しておらず、帝国は皇帝シドゥリと平民たちの国だった。だが、帝国の規模が拡大して安定すると、皇帝を支える貴族を造ることになった。

 

 元々、シドゥリは人を超越した覚醒者が人間を統治する国家を建国するという目標を持っており、自分以外の人間も覚醒者に変えて貴族として特権階級にするというのは当たり前の行動だった。むしろ貴族を用意する準備が整ったからだとも言えた。

 

 最初の貴族が現れたのはシドゥリ暦47年だった。この時に五人の平民の少女が覚醒の法により覚醒者となった。この五人はまず軍人として従軍した。軍人貴族の登場である。

 

 彼女たちは騎士にして覚醒者という強大な力を持って帝国の治安維持に大きく貢献した。その後、政界に入り、政治に携わるようになった。これが宮廷貴族の始まりで、彼女たちは徐々に中央で地位を占めていった。

 

 当時の中央政府の高官は多くが貴族ではなく平民であったが、この時期から徐々に権力が宮廷貴族に移っていった。シドゥリは、当時の平民の重臣を無理やり辞職させたわけではないが彼等は老いなどで徐々に引退していき、その穴を貴族が埋めるという形で緩やかに移行していった。三十年も経てば帝国は宮廷貴族が政治を動かすようになり、貴族も緩やかに増えていたが貴族がむやみに増えても困るので、その状況は頭打ちとなっていた。

 

 しかし、シドゥリ暦150年代になると状況がかわった。それまで惑星ヴァーブルの内政で帝国の地盤を造るのに集中していたが、国家が安定してきたので宇宙進出に乗り出してきた。

 

 大航海時代の到来。次々に移民可能な惑星が見つかり領地が広がる。ここで中央集権の限界が来る。元々、惑星ヴァーブルで地方の惑星まで完璧に統治するのには無理がある。だから地方分権が必要とされた。つまり皇帝に変わって地方の星系を統治する権力者。これが封建貴族の誕生だった。

 

 封建貴族は各地の領地を治める。領地の説明として、人間が住める惑星がある星系で、星系の人口が一千万人以下の場合は男爵が統治をします。

 

 人口が一千万人以上で一億人以下の星系は子爵、一億人以上で十億人以下では伯爵、十億人以上で五十億人以下では侯爵、五十億人以上は公爵と、領地の人口によって封建貴族の爵位が変わります。

 

 宮廷貴族の爵位はその役職で決まるが、封建貴族の場合は所領の人口で爵位が決まる。つまり所領の人口が封建貴族のステータスとして扱われている。もちろん封建貴族の力は何も人口だけで測れるわけではない。領地の環境、市場、税収、資源、人材、治安、産業など様々な要素が絡んでいるだろうが、それを考えても人口は重要であるし、それで決めた方が分かり易いという点もあった。

 

 更に言えば、これは封建貴族が領民を虐げるのを抑止する効果もある。

 帝国は国内であればどこの星系でも居住が許されているので、酷い領主だと領民に逃げられるのだ。そうなると領地の運営が上手くいかなくなる上に爵位が下がる。

 

 こういう問題は昔の徳川幕府の場合は、それぞれの領地を勝手に出たら死罪にするという厳罰でそれを取り締まっていた。しかし、帝国の場合は次々に惑星開発を行い、入植を行うことで領地拡大と国力の増強に励んでいるので規制したくてもできない。

 

 そして法律で宮廷貴族と封建貴族にはいくつかの規制がある。

 ①政府で要職となっている宮廷貴族は所領を持ってはならない。

 ②地方に所領を持つ封建貴族は政府で要職についてはならない。

 ③封建貴族一人が所領出来る領地は星系が一つだけである。

 ④貴族は帝国の首都がある星系を所領としてはならない。

 

 これらの規制の理由はとしては、

 ①特定の貴族に過剰な力を持たせない。

 ②封建貴族が保有できる領地を制限することで、他の貴族の領地を奪う事で勢力を拡大させる事を抑止する。

 ③封建貴族が政府で働いて、領地の統治が代理人任せになってしまうのを防ぐ。

 ④首都を特定の貴族に牛耳られるのを抑止する。

 などがある。

 

 この様にシドゥリは貴族と平民の力のバランスを上手く取って帝国を安定させようとしていた。この政策は大体上手くいき、帝国は大いに栄えることとなった。

 

 

 

 パルディー公爵邸のパーティ会場は予想以上に豪勢だ。そこには公爵領の有力者や他の封建貴族とその執事が出席していた。伯爵以上の爵位を持つ封建貴族は他の貴族をパーティに招待することが多い。

 

 主役たる公爵が出席者に囲まれている。今回は公爵自身の誕生日祝いという名目でのパーティで、公爵の家族は出席していない。

 

 ちなみに帝国では、貴族本人は特権階級として扱うが、その親兄妹、配偶者、子供などの親類は一介の平民として扱われる。だから彼等がパーティなどの公式の場面にでることは慣例で良くない事とされている。

 

 これは貴族の親類縁者が増長するのを抑止するためである。罰則はないものの、帝国では非常識な行動となるので余程のバカ以外は出席しないし出席させない。

 

 リリカとセバスチャンは会場を歩く。他にも貴族の姿があるが、彼女たちも執事を伴っていた。

 

 リリカや他の貴族が執事を伴っているのは理由があった。帝国の貴族は全員女性なので女性同士で踊るわけにもいかず、こうした舞踏会となるとダンスの相手が問題になる。そこで、貴族をエスコート出来る十分に教育された男性が必要となり、それが執事の仕事となったのだ。

 

 帝国では貴族に仕える執事は、貴族の秘書から地上車の運転手、ダンスの相手を含めた礼儀作法などの色々な分野の能力が要求される。それだけに専用の執事免許を取得した優秀な男性しかなれない職業であったが、給与がよい所謂エリート職だ。

 

「お久しぶりですねアークライン男爵」

「ええ、お久しぶりですルードリッヒ子爵」

 

 シルビア・フォン・ルードリッヒ。かつては総合技術省で帝国軍の並行世界研究の総責任者をつとめていたが、例の一件で役を解かれてからというもの爵位も伯爵から子爵となり落ち目な宮廷貴族だった。シルビアの外見は長い銀色を持つ美少女であるが、実年齢はリリカよりもかなり高い。

 

「子爵が公爵のパーティにでられるとは珍しいですね」

 

 通常、封建貴族のパーティにはその領地の有力者か他の封建貴族が出席するものだ。つまり中央で役職に付いている宮廷貴族はわざわざ地方のパーティにはでない。宮廷貴族は中央で何かとパーティをやる物だ。

 

 陛下の誕生日、陛下が覚醒者となった日、帝国が建国された日など名目はいくらでもあるのだ。それに、一応戦勝パーティとかも過去にあったらしく、管理局をボコったときとか、管理局が潰れたときも祝いにパーティをした。

 

 まぁシドゥリ様がこの世界に降臨された日を祝う降臨祭のパーティには、中央も地方も関係なく多くの貴族がヴァーブルに集まり、それを盛大に祝う物だが、それは年に一度しかない。

 

 帝国にとっては、パーティもダンスも社交として重要なので、あまりにも宮廷貴族と封建貴族の交流がないというのも問題と言うことでこの年に一度の降臨祭パーティには宮廷貴族と封建貴族が一緒に参加するように求めていた。

 

「ええ、男爵がでられると聞いたもので出席しました」

 

 彼女は自分に思う所があるのだろう。まぁ娘のシンシアを殺したわけですから内心複雑でしょうね。

 

 しかし、あれだけのことをしでかしただけにシンシアが抹殺されるのは当然だった。リリカが抹殺したからといって、それを攻めるのは筋違いだ。以前はその一件で関係がギクシャクしていたが、時間と共に回復している。昔のことだし、何時までも蒸し返されてもお互い迷惑だろう。

 

「まぁ今日は楽しみましょう」

「そうですね」

 

 子爵の言葉にリリカは賛同する。

 

「アークライン男爵閣下、私は子爵に仕える執事で御座います。一曲踊って貰えないでしょうか?」

 

 子爵が隣のいた若い執事に視線を送ると、執事が前に出てリリカにダンスを申し込んできた。

 

「ええ、喜んで」

 

 リリカは執事に手を差しだすと、セバスチャンに視線を送る。私の意志を酌み取ったセバスチャンは子爵をダンスに誘った。舞踏会での貴族同士の交流の場合、お互いの執事を相手の貴族のダンスの相手をさえるというのは一般的だ。

 

 目の前の若い執事は、リリカをエスコートしていく。若いながらもダンスの腕は悪くない。というか執事ならダンスは上手だろう。曲のリズムに合わせてステップを踏む。覚醒者に選ばれた者は当然ながら魔力が強いし運動神経も良い。どこぞの魔力はあるけど運動音痴という者は少ないし、覚醒者になれば身体能力が劇的に高まる。

 

 リリカもダンスは嗜みとして覚えていたし、貴族となって日が浅いわけでもない。危なげなく踊っていく。

 

 考えてみると執事というのも結構大した者である。彼は自分が手を繋いで踊っている女性が、その気になれば容易く自分を引き裂ける存在であることを知っている。絶大な権力を持ち、宗教的にも聖なる存在として敬われている貴族。そんな女性を腕に抱き緊張も見せずに自然体で踊っている。

 

 貴族を前にすると萎縮する平民が多い。だがこの執事に関しては問題ない。いやそうでなければ執事など勤まらぬか。

 

 やがて曲が終わり、執事と離れていく。向こうも終わったのでセバスチャンがこちらに戻ってきた。

 

「さてと、次はと」

 

 リリカは主催者のパルディー公爵を見る。公爵は主催者なだけあって先程まで多くの人に囲まれていたが、今では人数が少なくなっている。挨拶にいくにはちょうどいいだろう。リリカは公爵の元に向かう。

 

「公爵、本日は招待していただき有り難う御座います」

「ええ、男爵もお元気そうでなりよりです。それとパーティが終わった後でお時間はありますか?」

「はい、時間は空いています」

 

 時間?おかしなことを聞くな。まぁ時間は空いてはいるが。

 

「そうですかよかった。実は男爵に話しておきたいことがあるのです」

「そうですか」

 

 話しておきたいことか。自分の招待したのはそれが本当の理由か。何だろうか? もめ事はいやなので、問題がなければいいけどね。

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