ブリタニア帝国記   作:ADONIS+

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究極の生命体 第一話(シドゥリ暦788年)

「ふふふ、この世界に転生して800年。とうとう究極の生命体を誕生させる域にまで到着するとはね。自分でもこの才能が怖いわ」

 

 その場に少女の美声が伝わる。その声には隠しきれない喜びが含まれていた。そう、これから行うことは少女をもっていても偉業と呼べる物であったから。

 

 ここは少女が自分の研究の為に作り上げた魔法研究所。それは彼女個人の研究所であった。少女は生粋の研究者ではないが、その能力は他を圧倒していた。ここでは彼女の個人的な研究をしていた。

 

 少女の見た目は精々17歳あたりであろう。白をベースとしたレースをふんだんに取り入れた豪華なドレスに包まれた均整の取れた素晴らしいスタイル。ドレスに包まれて見えないが、黒子はおろかシミ一つない美しい白い肌に、膝裏まで伸びた美しい金髪を靡かせている。そしてその顔立ちは見惚れるほどに整っており、少女は如何にも高貴な貴婦人という印象を周りに抱かせる。そして右目が緑、左目が赤の虹彩異色の瞳は、人間というよりも妖精じみているが、それは古代ベルカにて聖王家の証であった。つまり彼女は古代ベルカ聖王家に連なる者であった。

 

『シドゥリ・エルデルト・フォン・ヴァーブル』

 

 それが少女の名であった。シドゥリは外見こそ年若い少女であったが、この世界にトリップしてから既に800年以上生きていた。ここでトリップしたと言ったが、それは彼女の前世に関係していた。

 

 シドゥリの前世は上位世界の日本人男性で、予定外の死により下位世界にトリップすることになった性転換というおまけ付きの転生型トリッパーであった。ただシドゥリの場合は、不親切な死神が何も告げずに転生させたので、シドゥリは元来の事情を知ることなく行動することとなった。これは事情を説明することなく転生特典を与えたトリッパーがどうなるか死神が興味を持ったからだ。

 

 シドゥリの転生先はベルカ聖王家の王女(側室の娘)であり、元来の能力として聖王の鎧という固有スキルに加えて、高度な学習能力さらには聖王のゆりかごとのバックアップを受ける事ができるなどの能力があった。

 

 これに転生特典として、初期魔力値S+ランクで最終的にはEXランクになれる魔力資質と、カーズ(ジョジョの奇妙な冒険)の知能と知識が与えられた。その上でシドゥリが石仮面を入手できるように工作しておいた。

 

 ちなみに死神にとって石仮面は小道具に過ぎず、それを手に入れたシドゥリがどうなるかに興味があった。カーズの知能と知識を与えたのは石仮面の仕組みをシドゥリに把握させるためであった。死神は、石仮面を手に入れたシドゥリはディオのように暴走して自滅するのではないかと予想していたが、シドゥリは自滅することなく自らの勢力圏を築き上げる事に成功してしまった。

 

 シドゥリは石仮面の有効性を認めていたが、それが現在の国家では受け入れられないことも見抜いていた。だからこそ、石仮面の能力を応用して、覚醒の法を編み出して、覚醒者という新たなる存在を作り出せる魔法を手に入れた。その上で、覚醒者たちを取り入れた国家を新たに建国する。その後、その国家は凄まじい発展を遂げることとなる。

 

 このシドゥリの成果は死神をしても驚くべきものであったが、同時に好都合でもあった。当時、死神たちは下位世界の安定のために、数多の下位世界で活動するトリッパー達の支援組織の構想を立てていたのだ。これはあくまで構想段階に過ぎなかったが、この組織を創設できるだけの文明水準や権力等を備えたトリッパーは当時シドゥリを除けば皆無であった。

 

 他のトリッパーは個人戦闘能力が高い者はそれなりにいたが、権力という視点でみると一市民でしかない者ばかりで、中には王侯貴族という身分の者もいたが、彼等は『ゼロの使い魔』の世界のように技術水準と国力が極めて低い世界にいた。これではとてもではないがトリッパー支援組織など創設できるわけはない。

 

 その点シドゥリは、ブリタニア帝国皇帝という絶対王政の最高権力者という立場にあり、帝国自体もシドゥリ暦600年の段階で星間文明を築き上げている高度な文明と絶大な国力を有する超大国となっていた。組織の創設者として不足はなく、シドゥリにその話が行くのは当然であった。

 

 交渉という形で下位世界に干渉する技術とトリッパー支援組織創設の依頼をシドゥリは意外なことに快く了承した。『魔法少女リリカルなのは』の世界で確固たる地位を築き上げたシドゥリにとって、他の下位世界は冒険心をくすぐられる物であった。何百年という年月により生きることに飽きはじめていたシドゥリにとって、それは必須の物と言えた。

 

 確かにシドゥリは強い。元々、ベルカ最強の生物兵器といえる聖王の能力に反則じみた魔力資質と知能が加わり、原作知識と上位世界人としての経験と知識まで揃えている。更に覚醒者となったことで、聖王の鎧が著しく強化されるなど、凄まじい吸血鬼としての能力まで手に入れたのだ。

 

 これだけでも手に負えないのに数百年にも及ぶ時間を利用しての修練が加わり、トリッパーとしても相当な実力者となっていた。まぁ上には上がいるという言葉の通り、フリーザ(ドラゴンボール)にはいくらシドゥリでも歯が立たないが。

 

 しかし、精神はそうではない。長き時を生きるうちに歪みがでてきたのだ。このままでは精神的に死にかねない。

 

 覚醒者となったシドゥリは死ににくいとはいえ、不死身ではない。何の防御処置もせずに紫外線を浴びればそれだけで死に至る不完全な存在。事実、生きるのに飽きてワザと紫外線を浴びて自殺する貴族も多い。シドゥリがそうならないという保証はなかった。その為、他の下位世界という魅力的な存在を放置出来なかった。

 

 結果として死神の構想を元に帝国独自の改良を行い、トリッパー支援組織『三千世界監察軍』が創設された。

 

 

 

 現在では、監察軍が様々な下位世界を調査しており、それらはシドゥリの好奇心を大いに満たした。そんな中で一つの依頼がシドゥリの元に届く。〝究極の生命体を作り出すこと″それが依頼内容で、これは柱の男(ジョジョの奇妙な冒険)に転生したトリッパーが、カーズのようにより強力な存在になることを望んでシドゥリに出した依頼だった。依頼に対してシドゥリは即答を避けた。

 

 そもそも柱の男は、吸血鬼たる覚醒者にとって天敵で、原作でも彼等の手下兼食料として扱われていた。そんな彼等が、眠っている能力を目覚めさせて究極の生命体になれば、覚醒者にとって脅威となるのではないか?

 

 しかし、魔法という力を手に入れているし、強大な軍事力を有しているので、『ジョジョの奇妙な冒険』とは条件が違うという事もあって、トリッパーのその者だけに限定してそれを実行することにした。

 

 しかし、柱の男を覚醒させるのは、一筋縄ではいかなかった。そもそも覚醒者とは覚醒の法という魔法によって、脳に眠っている潜在能力を覚醒させた者だ。これは元々転生型トリッパーのシドゥリが『ジョジョの奇妙な冒険』で登場する石仮面を解析して実用化した物で、これはカーズが究極の生命体になるために作りだした技術が大元となっている。ではカーズが目指した究極の生命体とは何か?

 

 究極の生命体となったカーズは、あらゆる生物の能力を有し、それを凌駕した。更に太陽の光を克服して人間の波紋使いの数百倍もの波紋を錬るまでに至った。生物としてはかなり強力な存在。

 

 ちなみにシドゥリは当初から人間を素体に究極の生命体になるという事は放棄していた。それは無理だと考えたのだ。

 

 石仮面の吸血鬼の力と高ランクのベルカの騎士の力を組み合わせることで、十分な能力が手に入るという計算もあったが、人間というお世辞にも強いとは言えない種族の限界から、いくら潜在能力を引き出しても、完全体カーズのようにはいかないと判断したからだ。だからブリタニア帝国の皇帝と貴族達は、吸血鬼の王、ヴァンパイア・ロードのような存在であったものの、種族的に見ればあくまで潜在能力を覚醒させた元人間という存在にすぎなかった。

 

 シドゥリにしても、ブリタニア帝国が拡大して貴族制度が安定してきてからは国家の内政に力を入れることになり、究極の生命体の事は忘れていた。

 

 しかし、監察軍からあるトリッパーの存在が伝わり、その事が再び脚光を浴びることになった。とはいえ石仮面を作り出したカーズでさえこれには散々手こずり、エイジャの赤石を利用してやっと実現できたという曰く付きの物。

 

 これに対してシドゥリは、覚醒の法をベースに理性の保持というリソースを省き、更に魔力の消費を度外視して魔法を構成した。

 

 これまでの失敗の原因は純粋なパワー不足だ。魔法の効力が柱の男の脳を覚醒させるには足りなかった。だから安全装置ともいえる理性の保持を放棄したうえ膨大な魔力をつぎ込むことにした。

 

 自前の強大な魔力と強力な魔力バックアップによる魔力行使によってはじめて実行できることだった。ぶっちゃけると効率が悪いことこの上ない魔法。

 

「それで、その魔法なら可能なのか?」

 

 その場にいる一人の男が確認するようにシドゥリに尋ねる。

 

「ええ、理論は完璧、後は実行あるのみよ」

「ならば、やってくれ」

「ええ、分かったわ」

 

 シドゥリは魔法を展開する。シドゥリの足下に展開される魔法陣。虹色に光り輝くその魔力光は、古代ベルカにてカイゼル・ファルベと呼ばれた物。しかし、その術式は極めて複雑な物だった。

 

 それも当然だった。これから発動する魔法はSSS+ランクなど足下にも及ばない、凄まじい魔法。人の領域を超えた魔力を用いた大魔法だ。

 

「ぐうっ!」

 

 凄まじい魔力に流石のシドゥリも負荷がかかる。伊達にコスト度外視の魔法ではない。しかし想定以上の負荷だった。

 

 まさか覚醒者たる自分にここまで負担がかかるとは。これでは人間では一溜まりもあるまい。シドゥリはマルチタスクの一つで思わずそう考えたが、すぐに思考を魔力制御につぎ込む。

 

 この魔法はマルチタスクなどと言っていられない。全ての思考を魔力制御に使わないと暴走する。

 

 この魔法はなまじ膨大な魔力を使うために制御が難しく、暴走しやすい。あまりの負担、体から抜け出す魔力に膝を屈しそうになる。

 通常個人が使う魔力量は多くて数百万だが、しかし既に数億もの魔力が使われている。

 

「うあああっ!!」

 

 外部から魔力バックアップを受けて尚、体中から膨大な魔力が抜けていくのと、この膨大な魔力の制御に手こずる。シドゥリはそれでも気合いで魔法を発動させた。

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