シドゥリ暦400年代。この時代ブリタニア帝国は発展を続けており、また貴族制度を含めた政治システムが完熟してきて皇帝自身の仕事が減っていた。ぶっちゃけると皇帝がいなくても国は回るだけの体制になっていた。
そのため空いた時間を使って、ブリタニア帝国の魔法皇帝シドゥリは、色々と研究に精を出していた。
「これでどうかしら?」
シドゥリは魔法の術式を弄って死体に与える吸血鬼のエキスを調整する。これなら、どうだろうか?
しばし待つと、シドゥリがエキスを与えた死体は動き出して起きあがるとするが、四肢を特性バインドでベットに拘束されていてそれができないでいた。
死体であったそれが動き出す。それ自体は問題ないが肝心の理性がない。「あー、うー」と馬鹿みたいに呻いているだけ。
屍生人(ゾンビ)の理性の低下より酷く理性自体が無く、どう見ても本能的に動いているとしか思えない。
一言で言うなら動く死体。
「……失敗か」
シドゥリは以前から石仮面の吸血鬼や覚醒者の屍生人(ゾンビ)を生み出す能力に着目して、それを死者蘇生に応用できないかと研究していた。
ゾンビはその危険性から帝国では魔法皇帝の許可無しに製造を禁止している。だから貴族達もそれはやらない。
ゾンビや肉の芽などは、その危険性から一般人には覚醒者の能力自体知られていない。その存在自体知られない方が統治には都合が良い。
「まぁ、そう簡単に成功するとは思っていなかったが」
元々プレシアとの取引に使えるかもしれないという思いつきでやっていることだしね。
この動く死体には試しに紫外線照射装置で紫外線を当ててみるが効果はなかった。やはり通常のゾンビとも違うようだ。魔法や機械などで紫外線を阻害しているわけでもないのに影響を受けていない。
「失敗は成功の母とも言うわね。ついでにコレを調査しましょう」
シドゥリは失敗作を部下の貴族に調査させた。
後日、調査結果を部下の貴族が報告しに来た。
「皇帝陛下、例のアレですがやはりゾンビとは違います。どうもエキスが能力の向上に使われていないようで、あくまで死体の操作だけに使われています」
「やはりそうか」
アレはゾンビとは違う。確かに力は常人よりも強いが、覚醒者やゾンビには格段に劣る。あくまで脳のリミッターが外れて火事場の馬鹿力を発揮しているだけだ。そんなものいざとなればただの一般人でもできる。
人間が普段100%の力を発揮できないのは、それを使うと身体が持たないからだ。だから普段脳がリミッターをかけて力を押さえ込んでいる。
しかし、生命の危機に陥ると一時的にそのリミッターが外れて100%の力が発揮できるようになる。これが火事場の馬鹿力と一般的に言われているもの。だからグールは覚醒者の様に脳の眠っている力を目覚めさせていない。肉体のコントロールもできないようだしね。
しかし、紫外線を気にしなくて良いというのは便利だ。いくら余でも紫外線は驚異だ。貴族の中にはたまにうっかり紫外線を浴びて死んでしまう者もいるほどだ。何か使い道があるかもしれない。
「それと噛んだ相手にエキスを送り込み同じ存在にしてしまうそうで、理論上無限に増殖します。このあたりはゾンビと同じです」
他にも生きた人間だけを襲う。犬、猫、猿などの人間以外の動物は無視する。エキスの提供元の覚醒者に服従するなどの特徴があった。
「……まるで屍人鬼(グール)ね」
そういえば吸血鬼といえばグールだね。
「グールですか?」
聞き慣れない言葉に、部下が訝しげに尋ねる。
「そうね丁度良いわ。これからアレを屍人鬼(グール)と呼称します」
「はぁ、それとそのグールですが、生物兵器としては使えないでしょうか?」
部下の提案に私はしばし考える。
アレは本能で動いているだけ文字通り動く屍に過ぎないから兵力としては使えない。一応、エキスの提供元の覚醒者の命令には従うようだが、複雑な命令は無理で単純な命令しかこなせないだろう。
逆に言うと敵国の殲滅戦には使える。なにしろ敵味方を識別する必要がなく、無差別に人間を襲い、グールを増やして行くだけでいいからだ。おまけに死体だからグールになれば暫くすると放っておいても白骨化して動かなくなる。だから敵対世界に送り込みその世界を壊滅させるという用途なら十分使える。
むしろ紫外線を気にしないでいい分ゾンビよりも有効だ。更に人間以外の動物に余計な被害を与えないなら、グールをけしかけた方が使いかってがいい。
一応通常兵器も揃えるつもりだから、その手の生物兵器を使う必要はないと思うのだが、それでも研究はしておくべきかな。
「良いでしょう。そのあたりも研究もしておくわ」
後のこのグール製作魔法は『死兵傀儡(しへいくぐつ)』と名付けられる事になる。
後書き
反魂の術を使ってゾンビを作ってしまったという逸話はよくあります。だから死者蘇生魔法の開発課程の失敗で屍人鬼(グール)ができたという設定にしています。いくらシドゥリでも反魂の術をあっさりと完成させたとは思えないので、こういう失敗もあるでしょう。