「まったく物語に出てくるような王国ね」
アーリィの目の前に広がっている光景は、そう思わずにはいられなかった。まるで物語に登場するかのようなファンタジーな城を中心に模型のような印象すら与える城下町。
「どうなさいますか主アーリィ」
「監察軍の報告通り、特に問題はないようね」
少女アーリィ・フォン・プリヴィアは当代の夜天の主である。そんな彼女に付き従うのは、四人の守護騎士(ヴォルケンリッター)と夜天の書の管制人格にしてユニゾンデバイスであるリィンフォースだった。
夜天の書は、古代ベルカ時代の遺産であるため、ブリタニアにおける考古学的価値はかなり高い。
かつての夜天の書の主であった八神はやて(憑依型トリッパー)が、ブリタニアに移住した際に夜天の書もブリタニアに来たわけであるが、はやての晩年になるとある問題が浮上した。それは夜天の書に備わる主が死ぬとランダムに転生するという無限転生機能だった。
つまり転生先がブリタニアとは限らないので、下手をするとブリタニアの技術が異世界に流出する可能性があった。その為、シドゥリがプログラムを弄って、夜天の書が転生する場所をブリタニア帝国内に制限させた。こうして、夜天の書ははやての死後様々なブリタニア人の元に転生することになった。
ルシタニア王国。それは先日ブリタニア帝国にその存在が確認された、遠く離れた次元世界にある王国である。この王国が問題となったのは、そもそもこの王国を建国したのがブリタニア人であったからだ。
そもそもの始まりは、四百年前にブリタニアで活動していた宇宙海賊が次元航行船で余所の次元世界に逃げたことだった。
ブリタニアでは次元航行は一般的ではないが、技術的にはローテクもいいところであったので、やろうと思えば出来ることなのだ。
ブリタニアは銀河に幅広く展開していたが、余所の次元世界に対しては進出をやっていなかったので、案外上手くいき海賊船ルシタニア号は帝国軍の討伐の手からまんまと抜け出した。
こうして辺境世界に逃れた宇宙海賊たちは、そこで原住民を支配下において王国を築いた。海賊の首領は王に、その部下たちは貴族となった。
これが発覚したのは、監察軍に所属するトリッパーが保有していたアカシックレコードというチート能力のおかげであった。同時にこのルシタニア王国は、大した脅威にはならない事も報告された。
確かに技術は流出していたが、それは中世欧州程度の物でしかなく、産業革命すら迎えていない未開文明国家でしかない。しかし、念の為にブリタニア帝国は調査員を派遣していた。
「言葉はベルカ語ですし、一部ではベルカ式魔法が使われているようですね。最もデバイスを作る技術もないのでかなり原始的ですが」
アーリィはシャマルの報告を受ける。
このルシタニア王国の一部ではベルカ式魔法が使われている。それも近代ベルカ式の様な紛い物ではなく、ブリタニアが改良を進めていたベルカ式だ。とはいえデバイスがなければたいした事はできない。一々長々と詠唱しないといけないし、効率も悪い。勿論、デバイスがなくても訓練すればそれなりに魔法は使える。シールドやらバインドなどはそこまで難しくないのだ。
現在、このルシタニア王国の対応が帝国では討論されている。勿論、このルシタニア王国を支配していた宇宙海賊たちは皆ブリタニアの犯罪者であるから摘発する権利がある。
しかし、それは四百年前の話である。当然ながら現在では当時の犯罪者たちは皆死亡している。今の王国に彼らの子孫がいるのだが、まさか「宇宙海賊の子孫も犯罪者だ」と主張して摘発するわけにもいかない。
ここでルシタニア王国の技術力が帝国の脅威になりうる物であれば強硬論もあっただろうが、これではね。
おまけに海賊船もとっくに故障して修理も不可能で、ブリタニア帝国の位置情報も失伝している。恐らく帝国はこのルシタニア王国に不干渉を貫くでしょうね。
「まさに時効としかいえないわ」
流れゆく時があらゆる罪を押し流してしまったのだから。アーリィは苦笑いをした。
解説
■アーリィ・フォン・プリヴィア
シドゥリ暦1206年時点での夜天の主。ブリタニア帝国宮廷貴族にして爵位は男爵。内務省に所属する新米貴族で今回の任務を受けていた。
あとがき
今回はブリタニアから勝手に抜け出して新国家を建国した海賊たちの話でした。この一件からブリタニアは異世界からの防衛だけでなく、ブリタニア人の不法出国にも警戒するようになり、次元空間に要塞を配置して鉄壁の防衛網を構築します。