ブリタニア帝国記   作:ADONIS+

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黒歴史(シドゥリ暦1500年=西暦2979年)

 廃墟の中を二人の男女が歩いている。彼等がここにいるのは遺跡探索のためだった。

 

「しかし、ここも老朽化が酷いですね殿下」

「仕方ないわ。何百年も前に捨てられた施設跡だしね。でも掘り出し物があるかもしれないよ」

「そうですね。なくても暇つぶしにはなりますし」

 

 二人は、この世界、現地惑星名『地球』の住民ではない。異世界からの旅人だった。一人は金色の髪を肩口で切りそろえた少女。特徴的なのはオッドアイの瞳だろう。それは古代ベルカにおいては聖王家の証であり、ブリタニア帝国においては皇族の証だった。

 

 彼女の名は、クリスティーナ・フォン・ヴァーブル。ブリタニア帝国皇帝シドゥリと第一皇妃ナノハとの間に生まれた第一皇女で、彼女の他にも第二皇妃フェイトを母とする第二皇女の妹が存在する。そんな彼女は侍従長の男と共に母の故郷を観光していた。

 

 ちなみにシドゥリの故郷とも言えるベルカは、人が生活できる環境ではないので旅行先からは外しておいた。人もおらず廃墟だけの世界などわざわざ行くまでもない。

 

「かつてはそれなりの文明を持っていたというのに、この有様とはね」

 

 クリスティーナが憂鬱そうにいう。

 

「道を誤ればこうなるということでしょう。我がブリタニアもこうないようにしないといけません」

「そうね」

 

 

 

 かつてこの世界とブリタニアは交流を持っていたが、当時この世界を統一していた地球連邦は暴走してブリタニア帝国との関係が悪化し国交が途絶する。(シドゥリ暦618年)

 

 地球連邦はその直前に魔法文明が存在する旧管理世界に侵攻していた。これは地球連邦の暴走であったが、攻め込まれた世界からすれば脅威だ。何しろ地球軍は女子供を問わず魔導師を尽く虐殺し、それに抵抗する者も躊躇なく殺していったのだ。これには内部対立を起こしていた次元世界群も脅威と捉えて、反地球同盟を結成することとなった。

 

 地球連邦と反地球同盟。次元の海を渡って二つの巨大勢力が激突していく。ここで地球連邦は戦争を止める事は可能であっただろう。分裂して抗争を繰り返していく世界を一つ一つ攻め込むという当初の計画は破綻してしまい大同団結した同盟という存在が登場してしまった以上、そう簡単に勝てないのは分かりきっていた。

 

 しかし、彼等は同盟と全面戦争を決意した。以降、百年以上にも渡る戦争が続くことになった。

 

 戦争は軍備拡張を呼び、連邦の経済を圧迫して、貧困層、戦死者遺族を量産していく。戦争に人手を取られて社会は弱体化、地方惑星と地球との格差などによる不平不満が起こる。最早連邦は末期状態となっていた。

 

 一方敵手たる反地球同盟も内部対立を起こして混乱、長く続く戦争に社会が破綻した。結果として、地球連邦と旧管理世界群である反地球同盟は自壊してしまった。(シドゥリ暦725年)

 

 この破綻は決定的なもので、両勢力とも次元航行技術と恒星間航行技術を喪失してしまう。それぞれの世界の惑星は一つの世界、一つの惑星に孤立していった。

 

 それぞれの世界は文明を維持できずに文明は大きく後退し、人類が混乱期をようやく乗り越えた時には文明レベルは中世ヨーロッパ辺りまで低下していた。

 

 地球とかつての植民惑星は、多数の王国が群雄闊歩しており、民主共和制という思想もなくなっていた。まぁ民主共和制はある程度の文明レベルや民度が要求されるので崩壊後の世界ではどう考えても無理だった。

 

 人々は、車ではなく馬で移動し、人々は銃ではなく剣、槍、弓矢などで争った。かつての文明が古代文明と呼ばれ、もはや理解も再生産もかなわぬ遺失技術の工芸品は、『ロストロギア』と呼ばれることになる。

 

 

 

「文明の後退か。かつては恒星間航行技術まで提供して上げたというのに」

 

 ブリタニア帝国はミッドチルダと同レベルの魔法技術と核融合炉、ワープ技術などを提供していた。技術提供は管理局に漏れても技術革新が起きないように制限していたが、それでも地球の文明を大きく加速させたのは間違いなかったのだが、それも台無しになってしまった。

 

「結局、彼等では安定した秩序は構築できなかった」

 

 人の限界を超えた優秀な支配者が民を正しく導くべき、というのがクリスティーナの考えだった。これは別に特別な物ではなく帝国では常識で、むしろ民主共和制という思想の方が帝国では異端であり排除される物だった。

 

「まぁいいでしょう。今となってはどうでも良いことです」

「そうですね。帝国も地球は現状のままがいいと考えているようですし」

 

 クリスティーナの言葉を侍従長が肯定する。

 

 現在のブリタニア帝国は地球に関しては不干渉の態度をとっていた。かつては技術支援や軍事支援など様々な手助けをしていたのに、彼等の暴走で関係が悪化したのをふまえて、地球の文明が停滞した現状の方が好都合だと考えたからだ。下手に高度な文明になると自滅しかねないし、最悪の場合ブリタニアの方にまで進出してきかねない。

 

 そもそも高度に発達しすぎた文明は自滅の危険性も大きい。かつて管理世界でロストロギアと呼ばれた物の多くは、そうして滅亡した高度な文明の遺産だった。文明レベルが高くない方がそうした意味では安全である。元々、安全保障上の問題で、ブリタニアの正確な位置は極秘としているから問題ないとは思うが念には念を押しておく。

 

 実は地球も管理局も結局最後までブリタニアの位置は知らなかった。

 帝国がそれを隠したのは、そうすれば本国に攻め込まれる危険性を低く出来るからだ。この世界はロストロギア一つで近隣の宇宙ごと一気に滅びることさえありえるので、ブリタニアの位置を知られて何か仕掛けられたら厄介な事になる。

 

「さてと、老朽化が酷いから倒壊に注意して下さいね」

「ええ」

 

 クリスティーナは、辺りを探索している。彼女にとって今回の地球訪問は観光だった。母のルーツでありシドゥリ教において特別な存在として扱われている世界。それに興味を抱くのはある意味当然とも言えた。とはいえ今の地球は中世ヨーロッパ程度で魔法文明も存在しない世界である。下位世界の中でも最高級の文明レベルを誇るブリタニア帝国との落差には戸惑いも大きい。

 

 夕暮れ時となり作業を中断する。クリスティーナ自身は覚醒者であるので当然夜目がきくというか夜の方が何かと都合が良いが、共の男は人間なので夜は活動できない。

 一旦遺跡から出てホイポイカプセルで家を出した。このホイポイカプセルは『ドラゴンボール』の世界で入手した技術で、中身を粒子状にしてカプセルに閉じこめておく物だ。この様に帝国は監察軍が入手した技術を積極的に取り入れていた。

 

「殿下何か見つかりましたか?」

「つまらないものしかなかったわ」

 

 クリスティーナはボロボロのライターを男に見せる。

 

「でも、ここじゃこんな物でもロストロギア扱いされているわね」

 

 クリスティーナは呆れた表情だ。

 

 それは年月の経過で最早使い物にならなくなっている。この程度の小物でもここでは再生産できない。そんな遺失技術の数々を見れば文明の後退ぶりがよく分かる。

 

「それにしても殿下は何故貴重な時間を割いてまでこの世界に来られたのですか?」

 

 クリスティーナは、帝国で五人しかいない皇族の一人だ。そのうち皇位継承権を持つ者は彼女を含めて二人しかいない。

 

 ちなみに皇帝と二人の皇妃は共に覚醒者にして女性なので自然な形で子供を作ることはできないが、科学技術を用いて人工的に作ることはできるので問題なかった。勿論、二人といわずもっと子供を作れるのだが、あまり皇位継承者を増やしすぎると後々問題になるので二人で止めていた。

 

 皇女たる彼女の役割は来るべき時つまり現皇帝が死去あるいは退位したときに皇位につくことにある。逆を言うと皇帝が健在でいる間は候補者に過ぎず、やるべき事がない。

 

 むしろ問題となったのが長い年月を生き続ける事による精神の摩耗であった。帝国の皇族と貴族は不老長寿であるが精神まではそれに対応し切れていない。だから生きるのにあきてしまい、死を選ぶ者も多い。だから百年ほど人口冬眠を行うと、数ヶ月ほど活動して、また百年ほど人口冬眠するという事を繰り返していた。これはシドゥリが『∀ガンダム』のディアナ・ソレルの真似をさせることで、皇女たちの活動時間を短縮して精神の摩耗を抑える為だった。

 

 クリスティーナは徹底的に教育を受けて育ち、十七歳のときに覚醒者となった。そして二十歳までは普通に過ごしていたが、それ以降は人口冬眠と短期間の活動のサイクルを行う生活を繰り返していた。人口冬眠が長いことから、帝国では皇女たちのことを『眠り姫』と呼ばれている。それだけに活動期の数ヶ月というのは貴重な筈であり、こんな文明の停滞した世界を観光して過ごすというのは勿体ないと侍従長が思うのは無理もないだろう。

 

「確かに文明レベルが低いのは認めますが、『地球』には興味があったので一度きたかったのよ」

 

 皇位継承者であるクリスティーナは上位世界と下位世界、そして死神とトリッパーの秘密も知っている。皇帝となる可能性があるのでそれらを知っておく必要があるからだ。だからこそ『地球』の特異性には注目していた。

 

 監察軍の調査では多くの下位世界で『地球』が存在している。上位世界の地球をコピーした下位世界が多いのだ。

 

 しかし、それらの世界の地球ではベルカ式魔法が使えない。だから魔法が使えないという問題を我慢して文明の高い地球に行くよりも、この『魔法少女リリカルなのは』の地球にいくことにした。

 

「まぁ明日も発掘するので早く休みましょう」

 クリスティーナは寝間着に着替えるとさっさとベッドに向かっていった。




後書き

 ブリタニア帝国記はこれで粗方終わりの予定です。ADONISは、If編で地球連邦と時空管理局の戦争や、未来の地球で新地球連邦が成立する話などの構想があったのですが、そこまで書けないのでここで打ち切りにしました。今後は監察軍に関係しているトリッパー達の話に集中したいと思っています。
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