ブリタニア帝国記   作:ADONIS+

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トレーズの挑戦(シドゥリ暦2008年)

 ブリタニア帝国において無人戦力は軍の補助として大いに用いられている。それは無人艦から無人戦闘機だけでなく、軍医、生活班、整備班などまでアンドロイドで賄っている。

 

 こうした存在を採用したのは、軍事費における人件費の削減と、軍に人材を取られ過ぎて民間に悪影響が出るのを避けるためだ。これは時空管理局崩壊後のブリタニアにおいて、明確な仮想敵が存在しなかった事が大きかった。

 

 外敵がいない以上、軍備は極わずかですむという意見が支配的であり、軍部においてもこれに反論する明確な根拠を持ち合わせていなかった。こうして帝国軍は少ない人員、少ない予算でやりくりするために無人化省力化が進められていた。つまり当時のブリタニア帝国軍にとって、無人戦力は戦力確保と経費削減の為の手段に過ぎなかった。

 しかし、2000年代になると帝国の人口は二兆人を超えるまでに増加しており、その国力も強化された為、ある程度の軍拡をシドゥリは考えていた。その方針としては、駆逐艦以外の艦艇の有人化であった。つまりこれまで無人艦であった重巡洋艦と軽巡洋艦を有人艦にして、艦載機においても無人機を削減するという方針を出した。

 

 これにはトレーズの賛同も大きかっただろう。彼は無人戦力の削減を考えていたシドゥリに異常なまでに協力的だった。

 しかし、これに異を唱えたのがツバロフ准将であった。彼は無人戦闘機ゴーストに傾倒していた。その新型無人戦闘機ゴーストは、ゴーストV9(マクロスF)を改良した無人戦闘機で、実際かなりの高性能を誇っていた。

 

 彼はこのゴーストの優秀さを知らしめる為に精力的に動き、帝国軍上層部もこれを支持したために演習に用いられることになった。

 

 しかし、この演習にシドゥリが飛び入りで視察することにした。これには軍部も動揺した。シドゥリは各領地の視察はしても、演習の視察などしない。それだけ睨まれていると思ったのだろう。

 実は軍部のこの動きは、シドゥリにとっては迷惑なものだった。彼らは無人戦力に頼るあまり、それに傾倒しすぎてしまったのだ。それは「有人戦力など無用で、無人戦力こそが国防の主役となるべき」という主張だった。確かに効率だけでいえば、それは理にかなっているだろう。

 

 しかし、プロトカルチャー(マクロス7)やムー(超時空世紀オーガス)などを見ても分かるように、国防を異種族やロボットといった自分たち以外の存在に過度に依存する体制を取れば、国の基盤が砂上の楼閣となってしまう危険性があった。実際、プロトカルチャーもムーもそれで滅亡している。その二の舞にならないためにも、国防はブリタニア人が主体となって手綱を握っておかないといけない。

 演習でのゴーストの動きは、ツバロフが自信を持って主張するだけあってたいしたものだった。熟練パイロットが操縦する可変戦闘機メサイアすら圧倒している。おまけに無人戦闘機は、生産すればいくらでも戦力化できる。有人機とは違って、パイロット育成に費用と時間がかかるといった問題もない。

「ふむ、この無人戦闘機は戦力補充に使えるな」

「いえ、いずれはこのゴーストが戦場を支配することになるでしょう。最早時代遅れの有人機などいらなくなるのです」

 ゴーストの能力に軍人たちが興味を示し、ツバロフが自慢げに話している。やれやれですね。

「ツバロフ准将、未確認機が急速接近してきます」

「何! 何処の馬鹿だ?」

「機種照合、トールギスです」

 オペレーターの操作によって、スクリーンに映し出されるトールギスの映像。それを見てシドゥリは微笑を浮かべる。

「所属不明機、進路を変更しろ。ここは帝国軍演習エリアだ。」

「警告する。進路を変更しろ。ダメです。応答しません」

「敵か! 応戦準備をしろ!」

 軍高官が大騒ぎだ。軍事演習中に部外者が乗り込んでくるなど前代未聞だからな。そんな馬鹿は普通いない。

「トールギスから通信が来ました。これはトレーズ閣下!」

 

 スクリーンに出されたのは、監察軍総司令官トレーズ・クシュリナーダだった。トレーズは帝国貴族だけでなく帝国軍でもそれなりに知名度があった。

『ツバロフ准将、私は人間のパイロットを代表して、この無人機に戦いを挑もうと思います』

「なんだと! トレーズどういうつもりだ!」

「乱心したかトレーズ!」

 

 周りがざわめく。

「ほう、面白い。トレーズ、お前が自分でゴーストの実戦テストをするというのだな?」

『その通りです。シドゥリ陛下』

「よかろう。やりたければやってみるがいい。実戦テストを許可する」

『ありがとうございます』

「皇帝陛下!」

 軍人たちが慌てる。このアクシデントと急展開する状況に付いていけないのだろう。

「実戦テストをやりたまえ」

 軍人たちはシドゥリの駄目押しを受けて、しぶしぶ実戦テストの為に12機のゴーストにトールギスを攻撃目標に設定した。無人戦闘機ならではの凄まじい機動で、トールギスの向かうゴーストたち。しかし、トールギスはそれを楽々と撃破していく。

 

 ゴーストは、メガキャノンでディストーション・フィールドごと貫かれ、ピンポイント・バリアーを纏ったヒートロッドにフィールドごと引き裂かれる。

「どういうことだ。なぜゴーストは攻撃をしない?」

 そう、ゴーストはトールギスに一切攻撃していない。トールギスの攻撃を一方的に受けているだけだ。

「原因がわかりました。ゴーストのプログラムが書き換えられていて、トールギスを攻撃できないように設定されています」

「何だと、急いで解除しろ」

「やっていますが、時間がかかりすぎます!」

「くそっ!?」

 そして、最後のゴーストがトールギスに破壊された。

「ゴースト中隊、全滅しました」

「ば、馬鹿な……」

 そこにトレーズが再びスクリーンに映る。

『ツバロフ准将、無人機も兵器も扱うのは人間です。もう少し人間を思いやり、もう少し人間を大切にして下さい。では失礼します』

 スクリーンが消えて、トールギスが宙域から飛び去っていく。周りは未だに騒然としている。

「ツバロフ准将」

「へ、陛下!?」

 ツバロフ准将は、予に呼ばれたことで表情を引きつらせた。何しろ皇帝の目の前でこんな失態を犯しているのだ。そりゃ、顔色も変わるだろう。

「無人兵器は、確かに強力で便利な物だ。しかし、所詮はプログラムしたことしか実行できない人形にすぎん。いざというときは人間が頼りになるのだよ」

「……」

 返す言葉もないツバロフ准将は何も言えない。

「まぁ余興としてはそれなりに楽しめた。諸君等もこれを教訓にしたまえ。よいな」

「「「はっ!」」」

 その場の軍人たちは一斉に敬礼した。こうして、演習は終了した。

「まったく、とんだ茶番ね」

 シドゥリは自嘲する。今回のトールギス乱入というハプニングは最初から仕組まれていたことだ。役者はトレーズとシドゥリで、ハッキング能力に長けたトリッパーが予めゴーストのプログラムを弄っていたのだ。

『しかし、これで無人機の欠点も浮き彫りになりました。これで無人機推進派は勢いを失うでしょう』

「そうでなくては、こんな芝居をした甲斐がないというものよ。トレーズ」

『シドゥリ陛下此度の事、ご協力頂き誠に有り難うございます』

 トレーズの今回の行動は下手をすれば大問題になりかねない。だからこそ皇帝の許可の元で実戦テストを行ったという形式を整えることにしたのだ。これなら何ら問題にならない。感情的には納得いかなくても表だって文句は言えない。

「まぁこれで帝国軍の再編成に弾みがつくわね」




解説

■トールギスⅢ
 武装:メガキャノン、ビームサーベル、シールド(ヒートロッド)、バルカン。トールギスⅢ(新機動戦記ガンダムW Endless Waltz)を原型に監察軍で開発されたMS。一般兵士にも使用できるように改良されたゼロシステムVer2.5(新機動戦記ガンダムW~ティエルの衝動~)を更に改良したゼロシステムVer3.0を搭載している。また動力を核融合炉からトロニウム・エンジンにして、装甲やフレームにガンダニュウム合金を採用することで性能を飛躍的に向上させている。武装においてもガンダニュウム合金の採用と動力の向上によって攻撃力が飛躍的に向上している。特にヒートロットをピンポイント・バリアーで覆う事で、ディストーション・フィールドごと敵機を容易く引き裂けるようになった。この機体はパイロットの腕次第では、帝国軍の次世代型可変戦闘機ルシファーにも勝る戦闘力を発揮出来る。

■ゴースト
 ゴーストV9(マクロスF)を改良した無人戦闘機。従来の無人可変戦闘機ナイトメアに代わって帝国軍で採用された無人機。ベテランパイロットが操縦する可変戦闘機メサイアに匹敵するほどの高性能を誇るが、無人機故の問題も付きまとっている。
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