俺と怪盗と狙撃手と   作:黒っぽい猫

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黒っぽい猫です。なんだかんだ年内更新ができる作品があって嬉しいです

今回もよろしくお願いします


第三話〜決戦は航空機の中で〜

「──それで、何の用だキンジ」

 

俺の部屋、対面して座っているのはキンジだ。

 

遠山キンジ、かの正義の味方、遠山の金さんこと遠山金四郎景元の子孫。こいつも俺と同じくバケモノだ。

 

彼は体にヒステリアモード──とキンジは呼んでいる──という、性的な興奮を覚えた時にキザな言動をまき散らすことを代償に強くなる体質を宿している。

 

本人はかなり嫌がっているようだが。

 

バスジャック事件の後、負傷したアリアはイギリスに帰ることを決め、今日がその日だ。そして、理子からも今日が決行日であると聞いている。

 

「神崎・H・アリアの情報をくれ。理子からも受け取ったがそれだけじゃ足りない。もっと細かい情報が欲しい。

 

それと、お前に武偵殺しの逮捕の協力を依頼したい」

 

「そう来ると思って──今日は予めアリアの情報を集めてここに置いてある、金はお前のアミカをこき使う権利でいい」

 

ニヤリ、と悪い顔を装ってみるがキンジは苦笑いをしている。

 

「相変わらず風魔を気に入ってるんだな、タク」

 

「まあな。それで、どうする?」

 

「寧ろ、お前の方がアイツを労わってくれそうだからお前に委ねる」

 

お前はそれでいいのか、と言いたくなるがコイツらは二人揃って貧乏なので仕方が無いのかもしれない。

 

「交渉成立だな、そら持ってけ。武偵殺しの件は先約があるから手伝えない……悪いな」

 

「いや、十分だ」

 

「もう夕方だが──晩飯食っていくか?」

 

受けるわけはないと思いながら聞いてみる。この後は理子がキンジをヒスらせ、武偵殺しの手法に気づかせるという手筈になっている。

 

「いや、俺はこれから理子の所に行くよ。呼び出されててな。飯はまた今度食わせてくれ」

 

「おう、今後ともご贔屓にな」

 

帰っていくキンジを見届けた後、俺も準備を始める。取り出すのは飛行機のパイロットの制服だ。手早くそれに身を包んで周りに人がいないことを確認してから外に出る。

 

「さて……理子に連絡だけ入れとくか」

 

『二匹目の兎を見つけた。これから巣穴に向かうだろう』

 

念の為に普通は理解できないような内容で送り知らせる。

 

勿論二匹目はキンジ、巣穴は理子のいる所だ。

 

「………行くか」

 

ぽつりぽつりと雨が降り始めた中、俺はレインコートで服と顔を隠しながら空港へとバイクを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が今いるのは飛行機の操縦席。本来の操縦士は些か可哀想だが空港内のトイレで眠ってもらっている。やったのは俺ではなく発案者の理子だ。アフターケアでは無いが彼の胸ポケットには諭吉を五枚ほど挟ませておいた。

 

「いやあ、それにしても悪い天気っすね……」

 

「ああ、だが俺たちのやることは変わらんさ」

 

空港に着いてから操縦士の覆面もかぶっているので副操縦士には気づかれていないようだ。前々から貰ったデータによれば、副操縦士は経験が浅い後輩とのこと。先輩らしく振る舞えばバレることはないだろう。

 

(なんでこんな犯罪スレスレというか、犯罪まがいをやってんだろうなぁ……俺)

 

とはいえ、これも人の命を守るため、操縦士には気の毒だが我慢してもらおう、と割り切って操縦席の機械を眺める。

 

中々に複雑な仕組みではあるが、あの組織にいた時に散々扱き使われたので操縦する位ならわけない。

 

「先輩、時間っすよ」

 

「そうか………じゃ、悪いな」

 

「へ?何言って──?!」

 

一瞬で彼の首元にスタンガンを押し当て電流を流す。本当に後味の悪い仕事だ。気を失った副操縦士の身を後ろに横たえた時、丁度無線連絡が入った。相手は搭乗しているCA(理子)からだ。

 

『扉は閉まりましたよ〜、後は決行するだけです』

 

『了解。フライトを開始する』

 

システムオールグリーン。エンジン系にトラブル無し。ゆっくり機体を加速させ、飛び立つ。

 

この独特の浮遊感は、個人的に嫌いじゃないなぁ、などとどうでもいい事を暫く考えていると操縦席後ろのドアが開く。

 

「………仕事はもう始めるのか、理子」

 

そちらを見ずとも誰が来てるのかはわかる。

 

「へぇ、流石にわかってるんですね?」

 

「そりゃあな。で、ここからはオート運転に切り替えるのか?」

 

「んー、セミオートかな?この機械を引っつけておくね」

 

と、何やら取り出して運転席の横に上半身を乗り出してくる。左腕に柔らかい感触があり、バニラのような香りが漂ってくるのは頭から排除する。

 

「くふふ〜、一瞬ドキッとしたでしょ?」

 

「……なんの事だ?」

 

悔しいのでスルーする。

 

「ボディタッチには弱いって思ってたけど案の定だねぇ、たっくん?」

 

「別に、んなの今は関係ないだろ」

 

「くふふ♪からかうのはまた今度にして、理子は今からお仕事があるのです!だ、か、ら〜…」

 

チャキ、と理子はこちらに拳銃を押し当ててくる。そしてその引き金を躊躇いなく引く。

 

パン、パパン!!

 

何発かの発砲音が機内全体に響き渡った。

 

 

……もちろん空砲だが。

 

「これでみんなびっくりしてるでしょ、っと」

 

「──頑張れよ理子、お前がお前になる為にな」

 

本来なら仇敵の女、だが今は仲間。仲間が自分の全てを投げ打ってでも果たしたいと願うことを応援するのは普通だろうと言ったのだが、理子は目を丸くしたあと顔を赤くしてこちらによってきた。

 

「た、たっくんはいっつもそういうこと言う!そういう所だぞ、たっくんの悪い所!ぷんぷんがおーだぞ!」

 

そう言って角を指で作ってわざとらしい怒ってるアピールの後、フッと笑う。

 

「でもありがとう、おかげで元気出たから頑張れそうだよ。私が私になる為に」

 

そう言い残して、理子は出ていった。甘い匂いを部屋いっぱいに充満させて。

 

「はぁ……甘ったるいな、ちくしょう」

 

溜息をブラックコーヒーで飲み下しつつ、暇になったこの時間をどう潰すか模索し始める俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから30分ほど経っただろうか。暇なのであやとりをしていたら唐突に爆発音と共に機体がかなり揺れ始めた。慌てて理子の機械を引っこ抜いてバランスを取る。やることがあまりにも派手すぎ──?!

 

「チィッ!!今度は二回……燃料漏れ?!」

 

どうやら理子のヤツ、今度はエンジンを二つ破壊したらしい。そうすると、目的を達してずらかったのか、或いは勝ち目がないと逃げたのか、になるが──。

 

『オルメスもキー君も生きてます(><)

ごめんなさいだけど理子は逃げます♡』

 

「アイツ……全部俺に押し付けやがっただろ」

 

ドタドタと後ろから走る音と乱暴にドアが引き開けられる音が聞こえた。そしてカチャリ、という音。どうやら拳銃が向けられているらしい。

 

「動くんじゃないわよ!余計な動きをしたら風穴開けてやるんだから!!」

 

「アリアの言う通りだ、あまり俺達に面倒をかけさせないでくれ、協力者さん」

 

理子……冤罪を擦り付けてくれやがって……。

 

「二人とも無事で何よりだよ。そんな物騒なモノは閉まってくれないか?」

 

仕方が無いので顔を隠した帽子を脱ぎ、覆面も外して顔を見せる。すると、みるみる二人の表情が変わっていく。

 

「「タク?!」」

 

「そうだよー、拓郎だよー。頼むから銃を下ろしてくれー」

 

二人のリアクションに適当に返す。

 

「何であんたがこんな所にいるのよ!?やっぱり理子とグルだったんじゃな「落ち着け、アリア。恐らくタクは理子とグルだったんじゃない。市民を守る為に理子と行動してただけだ」何が違うのよ?!コイツは口約束とはいえ私との約束を破ったのよ!!約束破りは風穴!風穴祭りよ!」

 

いや、どんな祭りだよってツッコミを飲み込んでキンジのフォローに乗っておく。

 

「キンジの言う通りだ、アリア。理子は操縦士も眠らせるつもりだった。無人の飛行機ほど危ういものも中々無いと思うが?

 

俺は、守るべきものを決して見失わない。お前達に加勢しなかったのは、お前達が負けないって確信が俺の中にあったからだ。

『仲間を信じ、仲間を助けよ』だろ?」

 

「……わかった。今はあんたを信じるわ。ごめんなさい、変に疑ったりして」

 

素直なアリアに驚いている暇はない。

 

「いや、気にしてねぇよ。そんな事よりどこかに不時着する方法を考えねえと。恐らくそんなに長く持たないだろうからな」

 

「タク、空港に戻って不時着を──」

 

『AN600便。コチラは防衛省、航空管理局だ』

 

「俺たちゃ武偵だ、今から羽田に不時着する。構わねぇな?」

 

『羽田空港は自衛隊が封鎖している。従って使用は認められない』

 

「ふぅん………で?そちらはどうする?」

 

チラリ、と窓のほうを見ると自衛隊の戦闘機が真横を着いてきている。

 

『誘導機に従い、海上を通り千葉方面へ向かいたまえ。安全な陸地まで「ハイハイじゃあサヨナラ」何を言って──』

 

通信の途中で無線をぶった切る。

 

「ちょっとなにやってんのよ?!」

 

「うっせ。あのバカどもに着いて行ったら撃ち落とされるに決まってるだろ。誘導機にわざわざ戦闘機を使う理由といえば、人のいない所に誘導して飛行機を撃ち落とすためだろう。胸糞悪い事だけど、国ってのは大のために小を切り捨てるもんだ。

 

キンジ、武藤剛気を呼びだせ。後お前は武藤から風向き、摩擦、風速から必要な長さに適した場所を探せ。2分以内だ。それが出来ないなら封鎖された羽田に突っ込む」

 

「無茶言わないでくれよタク……やってみるけどさ」

 

「任せたぞ、相棒」

 

「あんた、なんでそんな住宅街飛んでるわけ?危ないと思わないの?」

 

「危ないけど、こうしないと撃ち落とされるからな。残念ながら背に腹は変えられない。

 

それと、俺は絶対に失敗しない。こんな修羅場は日常茶飯事だったからな」

 

「バカキンジ並に無茶するのね、あんたって。もっと頭脳派かと思ってたわ」

 

「頭脳だけで探偵やれるほど今の世の中甘くないからな。それにそれはお前も人のこと言えないだろ?同じ名探偵の末裔としては辛い所だよな」

 

「全くその通りね……お互い気苦労も絶えなさそうだし」

 

チラリ、とキンジの方を見やりながら顔を見合わせて苦笑する。キンジの体質には気づいていないようだが、何かあるのは察しているらしい。

 

「でたよタク。空き地島だ。武藤達が電灯を用意してくれて待ってる。後は俺たち次第だ」

 

「了解した……!おい、聞こえてるか防衛省!!」

 

先程カットした無線を再開させて怒鳴りつけてやる。

 

『黙れ!!武偵如きに何が出来る?!ましてやまだ高校生のガキが私達に刃向かうだと?!バカも休み休み──』

 

「バカはお前らだ!!俺達はお前らみたいに命を軽く扱わない!助けられる可能性があるのならそれをゼロにはしない!」

 

一度息を大きく吐き、思い切り吸い込んで無線に叩きつけてやる。

 

「武偵を舐めるなよエリート共!!!」

 

学友達が作ってくれた誘導灯の灯りが見える。そして『頑張れ!!』と言った声が無線に割り込み、キンジがはっとした表情になる。どうやら知り合いだったようだ。

 

「高度を下げる、全員衝撃に備えろ!!」

 

客席にも聞こえる用そちらの無線も開き呼び掛ける。なんとか車輪を陸に載せることは成功したようでガタン!という揺れが全身を襲う。

 

雨で滑りが良いからか、全力の逆噴射をしても止まりが悪い。

 

クソっ!このままじゃ──

 

「タク、全力で右に切れ!!」

 

キンジの言うままにハンドルを切る、と翼が何かにぶつかる衝撃と額に何かが激突する激痛に意識を吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っつ〜……何しやがったバカキンジ…」

 

痛む額を抑えながら顔を上げる。海の底じゃないことを見ると、なんとか成功したらしい。再び無線に呼びかける。

 

「大変お騒がせ致しました。当機は先程ハイジャック、エンジンを破壊されました。その為、急遽着陸先を変更、人工島に不時着いたしました。間もなく救助隊が到着しますのでもう暫くお待ち下さい。体調不良や怪我などありましたら、同乗しています武偵にお申し付け下さい。私は東京武偵高校2年の明智拓郎です」

 

そう言ってまだ意識を取り戻さない二人を通り過ぎて客室へ向かう。気分の優れない人達に飲み物を配ったり、手当をしていく。が、その中にも当然というべきか、武偵を好まない人もいるわけで。

 

「なんで前もって防げなかったんだ?!武偵だと偉そうに言っておきながら!!」

 

男性の腕を固定している時、罵声を浴びさられた。

 

「そうですね、ですが我々が気づいた時には既に飛び立つ直前でした。

 

その為、私達に出来ることは潜入し乗客として乗っている武偵に協力してもらいテロリストを排除、及びその後の機体コントロールをこちらが取ることだけでした。

 

大変な不安を煽り、皆様に莫大なご迷惑をおかけした事、深くお詫び申し上げます。全てはこの身が未熟故、申し訳ありませんでした」

 

深々と頭を下げる。その態度に面食らったのか男性は気まずそうに頬をかいている。

 

「あ、いや………わりぃな。気が立って八つ当たりしちまった…守ってくれたのに、こういうのは良くねぇよな、すまん」

 

「いえ…私達が未然に防げなかったのは事実ですから、こういう仕事柄、慣れていますよ。

 

腕の方は少し不便でしょうが、少しすれば痛みも引くはずです。骨折はしていません」

 

「あぁ…ありがとう」

 

「いえ──他に怪我をなさってる方、飲み物が必要な方はいらっしゃいますか?!遠慮なさらずに声をかけてください」

 

そうやって暫く経って、ようやく自衛隊や警察、消防の救助部隊がやってきた。時間がかかりすぎのような気もするが贅沢は言ってられない。

 

「明智ぃい!!良くもまぁウチらに迷惑かけてくれたなぁ?防衛省のお偉いさん方はお冠やで?」

 

ドアを蹴破って入ってきたのは間違いなく蘭豹先生だ。どうやら、勢いに任せて言った言葉が偉い人達の逆鱗に触れたらしい。ここは大人しく謝って──「ようやった!!」は?

 

「アイツら気に入らんかったからな。武偵を常に下に見下してる感じやったし、表面上は謝ってても他の教師達だって『ざまあみろ!!』ってみんな言っとった」

 

……流石武偵校だ。

 

「ま、綴が事情を聞きたいそうやから教務科に出頭しろ。救護科ももう少しで到着するからもう行ってええで」

 

よりにもよってあの『尋問の天才』相手かよ。仕方無いから行くけど。

 

「わかりました。操縦室に遠山と神崎が伸びているのであと頼みます」

 

「おう!任せろ!!」

 

蘭豹先生と入れ替わる形で、俺は飛行機の外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強く降りしきる雨に、一瞬で制服をズブ濡れにされる。飛行機から死角になるところまで来てこれみよがしに大声を出す。

 

「はーあ……で、姿を見せろよ教授」

 

「………いつから気づいていたのかね」

 

「最初っからだ。俺は最初からアンタが自分の子孫を見る為に来てるのが推理できていた」

 

「ふふふっ、中々に愉快だよ明智君。君自身が名探偵でなければ僕の助手としてスカウトしてる所さ」

 

雨の中、後ろから歩いてきたのはスーツを身に纏った紳士だ。背は高く、パイプを吸っている。そして何より変わっているのは、全く濡れていないことだ。

 

「……風か?」

 

「ご明察、濡れて風邪でもひいたら嫌だからね」

 

風だけにね、と愉快そうにカラカラと笑う。

 

「で、何をしに来た?」

 

「なあに、同じ愛煙家としてここじゃ手に入れにくいだろうエジプトの高級煙草を届けに来たのさ」

 

男が放り投げてきたのは金属製のケース。代わりにこちらは報告書を投げて寄越す。

 

「さて、君が彼らに肩入れしている理由は後々聞くとしよう。僕の命令は彼らを死なせないこと、だからね。不思議と君は彼らの手助けをしているように見えるがまあ不満は無いよ」

 

それをポケットに閉まってから、男はゆっくり煙を吐き出す。

 

「相変わらず自己完結した男だな、アンタは。傍若無人ってのはアンタの為にある言葉なんじゃないか?」

 

「はははっ、それは愉快な冗談だな…さて、私は失礼するよ。またいずれ会うことになるだろうがね」

 

「今度はお前を逮捕してやるさ、ホームズ」

 

パイプの匂いと共に、男はいつの間にか姿を消していた。

 

「さて、綴先生にバレないようにこれは隠し持っておくか」

 

シガレットケースを手で弄びながら、俺は教務科に向かっていくのであった。




前回の更新後に評価をくださった皆様、またお気に入り登録をしてくださった皆様、ありがとうございます

今後とも、至らぬ作者ではありますが宜しくお願い致します

最後に宣伝となりますが、ラブライブ!の年末企画小説に『記憶と想い』という作品を出させていただいております

もし宜しければ読んでみてくださると嬉しく思います

それでは、次回更新でまたお会い致しましょう
黒っぽい猫でした

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