ゴブリンスレイヤー THE ROGUE ONE    作:赤狼一号

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大変時間かかってしまい申し訳ありませんでした。
懲りずに応援を続けてきてくれた皆様。
誤字脱字に毎回協力していくれている皆様。
本当にありがとうございます。完結まであと3話ほど。
お付き合いいただけましたら幸いです。


狩り殺すもの≪ザ・プレデター≫前編

 太古の昔、上の森人が残したとされる遺跡。古びた石畳で舗装された回廊を奇跡で創り出された骨の僕が歩いていく。

 

 その背に負われた森人の冒険者の姿を妖精弓手はやるせない気分で見送った。

 

 救出した森人の冒険者を里へと送り出すことを申し出たのは蜥蜴僧侶だった。古の竜の牙を触媒にした竜牙兵の奇跡。

 自立行動が可能な使い魔は、傷つき弱りはてた女を速やかに人里に送り返すにはうってつけの術であろう。

 

 遠ざかっていく大きな背に背負われた小さな背。妖精弓手の目から、不意に大粒の涙がこぼれ落ちた。

 

 耐えきれず漏れ出した嗚咽と共に感情があふれ出す。

 

 恐怖、屈辱、憐憫、嫌悪、怒り、悔恨、涙とともに流れ出すのは陰鬱な感情ばかりだった。

 

「こんなの……わけわかんない」

 

 消え入るように漏れ出た言葉が妖精弓手の素直な気持ちだった。先ほどまでの冒険の高揚に冷や水を掛けられたような気分だ。

 

 体の傷は女神官の奇跡で治してやることが出来た。

 

 でも心の傷は? ゴブリン共に凌辱され散々に嬲られつくした記憶は、一生に渡って彼女を苦しめることだろう。

 

 いっそあの場で終わらせるべきだったのだろうか、そんな考えが脳裏を幾度もよぎっては消える。

 

 正直に言って、蜥蜴僧侶が送還を申し出てくれた時、妖精弓手はほっとしていた。

 

 彼女には一刻一秒たりとも見るに耐えなかった。

 

 自身と同じ森人の冒険者がたどった無残な末路。その凄惨に過ぎる結果は、見ているだけでも心臓が抉られるような思いだった。

 

 悄然とした心持が隠し切れず、妖精弓手は己の耳が自然と下がるのを感じた。ありうべき自身の未来。

森人で、冒険者で、女である、そのリスクの結果をまざまざと見せられたのだ。

 

 

「お前が持て」

 

「!?」

 

 冷静な声が妖精弓手の思考を遮った。同時に彼女の前に何かが放られる。

 

 地面におちて僅かな土煙を立てたのは、血で汚れたカバン。恐らくは、あの森人の冒険者の持ち物だろう。

 

「ゴブリンスレイヤーさん!」

 

 女神官が咎める様な声を上げる。

 

 思えばこの少女も不思議な少女だった。駆け出しの冒険者であるはずなのに、妙に場慣れした雰囲気。何より純真そうな顔をしている筈なのに目だけは妙に澱んでいる。

 

 先ほどの言葉も純粋に妖精弓手を気遣う気持ちがあるのはわかる。

 

 しかし、それとは別に、縦横に我が道をゆく大型犬の手綱を必死で引き留めようとする飼い主の責任感のようなものを感じるのは何故だろう。

 

 ゴブリンスレイヤーはとみれば、さして気にした風もない。相方である盗賊剣士に何やら羊皮紙を手渡している。

 その様子を見て、女神官が静かにため息をついた。やはり何か不思議な関係性だ。

 

 

「…この遺跡の地図だ。奴らの拠点は左にあるらしい」

 

「信じとらんかったのかい」

 

 鉱人同士が不満そうな声を上げる。

 

「違う。だが、情報は多いに越したことはない」

 

 ゴブリンスレイヤーが即答する。感情を一切感じさせない無機質な声。

 

「行くぞ」

 

 ゴブリンスレイヤーが簡潔に指示を飛ばす。それに応える様に盗賊騎士が歩き出した。

 

「ちょっとローグさんまで…」

 

「…良いのよ」

 

 女神官の言葉を遮るように妖精弓手は言った。

 

「行かなくちゃ」

 

 行かなくてはならない。前に進んで、先に潜むものに立ち向かわねばならない。

 

「…私は、……私は冒険者なんだから」

 

 

 うす暗い回廊の先を盗賊騎士が進む。

 

 無論、森人である妖精弓手にとってこの程度では暗闇の内には入らない。森人は只人より夜目が利くのだ。

 

 だが、目の前を進む盗賊騎士もやはり暗闇に難儀している様子はない。妖精弓手は付近を警戒しながらこの奇妙な異邦人を観察した。

 

 黒革の盗賊胴(ブリガンダイン)に包まれた逞しい背中。投げナイフや陶製の薬瓶を吊った革帯をたすきにかけ、肩から斜めに吊るされた剣帯には垂直に吊られた猟刀(メッサー)小盾(バックラー)は盾の裏側に据えられた鉤で剣帯にひっかけているのだろう。

 くすんだ紅の腰帯(サッシュ)には古き鋼(ウルフバート)の片手斧。膝まである盗賊胴の裾間からは、太腿に固定された長寸のダガーが垣間見える。

 背中の後ろの鞘に納まった鉈のような作りのナイフ。その鞘に重なるように矢筒といろいろな道具が入っているであろう雑嚢から何かの塗料で色分けされた陶製の小さな壺が見えた。

 

 おそらくは薬品の類であろうが、なかなか面白い管理の仕方である。

 

 無造作なようで実に微に入り細を穿つ工夫の凝らされた装備である。移動の音がほとんどしないのは、重心が一定しているのもさることながら、装備品の各所に革でも張っているのだろう。

 

 どちらかと言えば重装ともいえる装備にもかかわらず実に軽快な足取りだ。慎重ながらも淀み無い歩みは老獪な肉食獣を思わせた。

 

 先ほどの惨劇など意に介した風もなく、己の役割をただただ全うする。無言の背中はまるで冒険者の在り方を諭すようですらあった。

 

 

「……何よ」

 

 急に、盗賊騎士が立ち止まって妖精弓手を振り返った。鉄帽子(ケトルハット)から垂れさがる鎖覆いの向こうの目は流石に夜目の利く森人と言えど見えない。だが、その視線が何かを言いたげであることははっきり分かった。

 

「…これでも銀等級よ。仕事はするわ」

 

 そう妖精弓手が答えると、盗賊騎士は黙って歩き始めた。

 

 気を使っているのか。はたまた戦力になるか否かの確認をしただけなのか。鎖綴りの奥の感情はやはりうかがい知れない。

 

 それからの冒険はといえば、拍子抜けするほど順調だった。

 

 実質、斥候三人体制の重厚な布陣である。寝ぼけ眼でまばらに斥候に立つゴブリンなどものの数ではない。

 

 先行する妖精弓手と盗賊騎士の弓矢の一射、盗賊騎士による背後からのダガーの一撃で片付く。

後詰めのゴブリンスレイヤーと蜥蜴僧侶に出番がないくらいである。

 

 盗賊騎士は一の矢を必ず妖精弓手に任せた。標的が二つ以上の時も最初の時とは違い同時に矢を放つ。

予備射手としての役目は完全にゴブリンスレイヤーに任せているようだった。

 

 妖精弓手としては妙な心持で、確かに信頼されているような気もするのだが、それにしてはなにか壁がある気もする。

斥候役という事で物理的には近くにいるのだが、なんだか遠巻きにされているような感じがするのだ。

 

 やはりこやつは森人なのでは、と妖精弓手は訝しんだ。

 

 弓が達者で夜目が利く。その上やたらと多芸。

 

 森人は長く生きる。故に多種多様な技能の習熟にその有り余る時間を充てる者は多い。

他者に対しての妙な距離感も、齢を重ねた長命種の達観によるものと考えれば、頷ける。

 

 呪いで醜くなったと言う顔を隠すのも納得できなくもない。

 

 なにせ世間の森人のイメージといえば揃いも揃って美男美女だ。それが醜いとあれば、他の種族以上に人目を惹くであろうし、いっそう屈辱的でもある。老いも若きも共通して森人は誇り高いのだ。

 

 そんなことを考えていると、件の盗賊騎士が足を止めた。黙って下を指さす。

 

「ん? 何か見つけた…の!?」 

 

 

 そこは大きな広間になっていた。眼下にみえる石造りの床に点々と見える子供ほどの影。

広間の石畳の上で大量のゴブリン達がいびきをかいていた。

 

 鉱人導師の見立ては正しかったのだ。どうやらここが連中の寝床らしい。

 

 とはいえどうするべきであろうか。一匹でも目を覚ませば、すぐさま大騒ぎをして多分に厄介なことになるのは間違いない。

 

「俺に考えがある」

 

 いつの間にか傍らに立ったゴブリンスレイヤーが、くぐもった声でそうのたまった。

 

 

 

 

 

 

 古の森人が作り上げた遺跡。その最奥の大広間は、まさに血の海と化していた。

 

 そこかしこから聞こえてくるのは、肉を貫き、切り裂く音。濡れた布巾を弄ぶような水音。

 

 己の血反吐で溺れる小鬼たちの断末魔。

 

 あたりに響き渡る殺戮の重唱が奇妙な静寂と同居する。

 

 

 まさか女神官の沈黙の奇跡と鉱人導師の酩酊の奇跡を利用して、文字通り寝首をかいて回るとは…。

 

 くぐもった末期のうめきが、小鬼共の太平楽ないびきの中に混じっては消えていく。

 

 わずかなもがきの音がして、直後に切り裂かれた気道が微かに笛のような音を立てる。

 

 あたりに立ち込めるおびただしいほどの血の匂い。それが、いままで室内を満たしていたカビと汚物の匂いを上書きしていく

 

 もういくつ殺したのだろうか。妖精弓手は自身の手の中の石のナイフを見つめた。

黒曜石の刃が赤黒い血の中で鈍く光る。

 

 研ぎあげた黒曜石のナイフは小鬼の血脂によってすっかり切れ味が落ちていた。死にかけの小鬼共がもがいた事によって、いくつかの刃零れすらある。

 

 妖精弓手は己の血に溺れてあぶくをこぼす小鬼の口を押さえ、もがきが止まるのを待った。

 

 やがて動かなくなった小鬼のそばを離れ、向かう先は次の小鬼だ。

 

 

 周りを見回しながら、妖精弓手は腰を伸ばしたり回したりした。単純な反復運動は腰に来るのだ。特に中腰でゴブリンの喉首を掻き切る類のものは。

 

「私も歳かしら」

 

 などと埒の無い戯言を漏らす。鉱人道士あたりに聞かれた日には、喜んで年増呼ばわりしてくれるだろう。

 

 もう仲間の他に動いているものはいない。ごく短時間であったが1000年もの時間が流れたような気がする。

 

 長命種たる妖精弓手をして膨大な時間が流れたと感じるほどに濃密な時間だった。

 

 本当にこの連中はとんでもない事を考える。妖精弓手は半ば呆れの混じった目線をこの惨劇と最近の懊悩の元凶共に向けた。

 

 惨劇の主犯たるゴブリンスレイヤーは淡々と仕事をこなし、専従犯であるところの盗賊騎士の方は嬉々として殺戮にいそしんでいる。まったく顔が見えないと言うのにある意味わかりやすい二人である。

 

 最後の一人である女神官は、何を考えているのか分からない。ただ、緩やかな笑みを浮かべている。

 

 仮にここが街中であれば、すれ違った男共が思わず振り返るであろうかわいらしい笑顔。

 

 化粧(けわい)ているのがゴブリン共の血の飛沫でなければ、男どもを振り返らせずにはおかない魅力があるだろう。今は並々ならぬ迫力の源泉となっており、ぶっちゃけ怖い。

 

 

 あれほどたくさんいたはずなのに…。眼下に広がる惨状を見ながら妖精弓手は思った。

 

 大広間の各所に眠っていた小鬼共。その半数以上が物言わぬ死体となり果てている。

 

 もちろん6人がかりで手分けしているので、当然と言えば当然の光景だ、だがその中の約2名が特筆すべき手際の良さであった事も、大きく影響しているのは間違いない。

 

 妖精弓手は目の前で小鬼の喉を掻き切る盗賊騎士の背中に戦慄を覚えた。鉄帽子(ケトルハット)の鎖覆いのせいで表情こそ見えないが、楽しんでいる事だけは分かる。

 

 ふと手を休めて達人の手元を見れば、口を押さえて殺すと言う共通点こそあるが、その動きは千差万別。だが、そのどれもが手馴れている。熟練の料理人が多種多様な技法を以て料理を披露するように、盗賊騎士は様々な「技法」を以て、小鬼共を屠っていく。

 

 踊るように小鬼たちの間を歩き回りながら、時に素手で首をへし折り、口腔から頭蓋を貫き、眼球から刃を差し入れ、脇の下から心臓をえぐり、肋骨の間から肺腑を刺す。

 

 職人の勤勉さはおくとしても、同時に発揮された稚気に富んだ残虐性は妖精弓手の心胆を寒からしめた。

 

 どの足を捥げば虫が死ぬか観察するような幼子の残酷な好奇心。それでいて殺しそのものの手並みは抜群で、無駄がない。

 

 単に技術をひけらかすというよりは、どうすれば死ぬのかを興味本位に実験しているのだろう。

 

 歪な勤勉さと好奇心の発露。「これはそういう生き物なのだ」そんな確信を妖精弓手に抱かせた。

 

 ただ、戯れに恐るべき執念と勤勉さをもって小鬼を殺戮し、それを唯一の喜びとする生き物。

 

グラムドリング(小鬼を打ち砕くもの)……」

 

 ふいに妖精弓手の口から吟遊詩人の戯言から想起したあだ名が滑り出る。

 

 淡々と機械的に喉を切り裂くゴブリンスレイヤーがいっそ対照的ですらある。

 

 

 悲鳴を上げる暇すら与えぬ致命の一撃。

 

 研ぎ澄まされた剣の如き殺戮の手際。先の盗賊騎士に負けず劣らず。

 だがそこに一切の感情はなく、ただ淡々と絡繰りがその機構を全うするかのように殺戮をこなしている。

 

「ローグ。遊ぶな、時間は限られている」

 

 ボロボロの鉄兜の奥からくぐもった声が飛ぶ。

 

 盗賊騎士はゴブリンスレイヤーの方へ振り返ると、こっくりと頷いた。

 

 特に気分を害した様子はない。盗賊騎士はあっさりとゴブリンスレイヤーに従った。

 

 まるで道を外れた幼子が親の呼ぶ声に応える様な素直な反応。

 

 それが盗賊騎士の歪さをいっそう引き立てていた。

 

 見ていて不思議な関係性だった。まるで鏡写しの双子。姿は似ていても実際は全てが真逆。だが互いに同じものを見ている。

 

 その見ているものが血に濡れた過去である事を想起させるのが、なおさらに痛々しい。

 

 一見すれば似た者同士の二人組。

 

 これがどちらか片方であれば、人となりを探るのにすら苦労しそうであるが、二人そろうと両者の差と言う形でその本質が浮彫となってくる。

 

 ゴブリンスレイヤーはクソ真面目であるのに対し、盗賊騎士はやや享楽的な気がある。だが両者ともに徹頭徹尾小鬼(ゴブリン)という存在を憎悪している。

 

 小鬼の抹殺という目的が、この二人を並の姉弟や夫婦よりも強固に結び付けているのだ。

 

「オルクボルグとグラムドリング……」

 

 口をついて出た二つの異名。妖精弓手は、それこそがあやまたずこの両者の実を表している事に気づいた。

 

 『小鬼殺し』と『小鬼砕き』。その名こそ古より小鬼の天敵として双璧を成す魔剣の銘である。

 

 妖精弓手は例えようもない戦慄を覚えながら、何かあるべきものがあるべき場所に収まったものを見る様な奇妙な感慨を覚えていた。

 

 同情か、嫌悪か、言葉に出来ぬ妖精弓手の胸中。そんな彼女の葛藤をよそに殺戮は進んでいく。

 

 盗賊騎士のブーツが死体となった小鬼の手を踏み砕く。その中に握られた短剣を拾い上げ、それを別の小鬼の喉に当てて引く。

 

 片方の膝で胸を押さえつけ、断末摩の藻掻きすら殺して、盗賊騎士は次の獲物に向かった。

 

 小鬼殺しが口を押さえた小鬼の喉に短剣を当てる。驚くほどに躊躇のない一閃の直後に、短剣の切っ先が内臓を抉る。二度、三度と往復する運動は、小鬼が動きを止めるまで終わらない。

 

 それらの姿には一かけらの慈悲も悔恨もない。ただ、あるのは殺意だけだ。

 

 そんな二人の姿を見ている女神官は相変わらず諦観の笑みと共に彼らを見守っている。そこに嫌悪や憐憫の類の色はない。

 

 どちらかと言えば、無邪気に遊びまわる大型犬に振り回される飼い主のそれだった。

 

 この人間たちは本当に変わっている。

 

 そんな三人の姿を見つめながら、妖精弓手はため息交じりに立ち上がった。とりあえず切れなくなったナイフの代わりに小鬼の持っていた短剣を拾い上げる。

 

 ゴブリン達がはるか昔に奪い取ったであろう古ぼけた短剣。恐らくはゴブリンに殺された者たちの持ち物であり、それが巡り巡って奴らの喉笛を切り裂いたのだとしたら、それはそれで溜飲の下がる話であろう。

 

 何を思索したところでこの場でなすべきことは変わりはしない。仕事(小鬼)はまだ残っている。妖精弓手とて銀等級(腕利き)の冒険者なのだ。仲間に任せっきりと言うのは気がひける。

 

 手近な小鬼の口もとを押さえると、喉の柔い所に短剣の切っ先を当て、一気に押し込んだ。

 

 切っ先は苦も無く喉笛を貫き、脳髄に到達した。断末魔の痙攣が刃先と手を通して伝わってくる。ついでとばかりに、短剣の切っ先をさらに押し込む。急に小鬼の体から力が抜け、弛緩した四肢がぐにゃりと地面に広がった。

 

 妖精弓手は黙って力が抜けたばかりの小鬼の手から得物を奪い取ると、あたりを見た。まだ息をしているものを見つけなければ。

 

 気づけば皆が妖精弓手(かのじょ)の方を見ていた。

 

「そいつで終わりだ」

 

 ゴブリンスレイヤーが相変わらずうっそりとした調子で、終わりを告げた。

 

『…………………』

 

「何言ってるんですか……もう」

 

 盗賊騎士が手言葉を作り、それを見た女神官が呆れたようにため息を吐いた。

 

「なんて言ったの?」

 

 妖精弓手が尋ねると、女神官は一瞬躊躇してから、恐る恐る答えた。

 

「え、あ、あの、貴女の分を取っておいた方がよかったか、と」

 

 妖精弓手はずんずんと盗賊騎士に近づき彼の前に立った。

 

「え?」

 

 血で化粧された妖精と血まみれの騎士、色気よりも殺伐さの目立つ光景である。

 

「あんたと一緒にすんじゃないわよ」

 

 そう言って妖精弓手は思いっきり舌を出した。

 

 事態をオロオロと見守っていた女神官はあっけにとられたような顔をしており、鉱人道士は大笑いしていた。

 

「あれは仲良くなったという事で良いのでしょうかな?」

 

「分からん……」

 

 こちらの喧騒を遠巻きにして、蜥蜴僧侶が面白そうに言う。ゴブリンスレイヤーが相も変わらず落ち着いた声音で答えた。

 

「だが、別に問題はない」

 

 ボロボロの鉄兜の奥に隠された顔が微かな笑みを浮かべたような気がした。

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 ふいに妖精弓手がピクリと耳を動かした。

 

「…何か来る」

 

 地を揺らす震えがやがて足音となり、それがどんどん大きくなっていく。

 

 だが、そればかりではない。斥候としての勘と森人特有の鋭い五感。それらすべてが圧倒的危機の到来を告げていた。

 

「…オーガ」

 

 からからに乾いた口の中で妖精弓手は消え入るような声で呟いた。 

 

 

「ゴブリン共がやけに静かだと思えば…。クズ共め、雑兵の役にも立たんか…」

 

 オーガが重々しい蛮声をもって吐き捨てた。

 

「貴様ら、先の森人とは違うな…」

 

 巨大な体躯と異形の容貌。騎士を甲冑ごと捻りつぶす膂力と、高名な呪術師を容易く呪術で焼き殺すほど優れた呪術を使う、理不尽そのものの混沌の兵。

 

「ここを我らが砦と知っての狼藉と見た…」

 

 鋭い牙の並んだ口から重低な音声が響き渡る。

 

 「オーガ」……戦うことそれ自体が武勇伝とされる存在が、目の前に姿を現したのだった。

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。
毎回感想を入れてくれている皆様。
しばらくして読み返してコメント入れてくださる方々。
本当に感謝しております。たかが十話に満たない話ですが、
続いたのは皆様のおかげです。
オーガとの戦いが終われば、予定通りゴブリン王と戦います。
途中息抜きに短編を入れるかもしれませんが、そこは本編の出来具合で考えます(笑)
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