ゴブリンスレイヤー THE ROGUE ONE 作:赤狼一号
闇深い森の中、彼は匂いを追っていた。
匂いがする。女の匂い。怯えを含んだ小便の匂い。獲物は近い。
匂いの主は年若い少女だろう、おそらくは只人の……。
森の中に漂う匂いは濃密で、多少鼻の効く生き物であればすぐに気づく。故に彼にとってはその痕跡を追う事など容易であった。
むしろ、ひどく怯えているのすら分かる。彼は鼻が利くのだ。
血の匂いが混じっているあたり、転んだか草木に切られたか。只人の子供はひどく脆く弱い。だからこそ格好の獲物になるというわけだ。
「助けてっ! だれかあぁぁぁっ!!!」
森の空気を引き裂くような悲鳴が響く。求めるものは近い。彼は弾かれたように走り出した。総身に力が漲る。
もう少し、あと少しだ。匂いが濃くなってくる。たけり狂う本能が嗜虐的な快楽への期待を駆り立てる。
口中に唾液が沸く。がちり、と噛み合わせた牙が一鳴りした。
「いやっ! 来ないでぇっ!!」
けたたましい悲鳴と共に、何かが破ける音が聞こえる。どうやら、先にお楽しみを始めている連中がいるらしい。
影が見えた。只人にしては背が低い。子供の背丈だ。間違いない。その小さな背が、一瞬、びくりとして振り向いた。
凍り付いたような困惑と驚愕の表情が、徐々に恐怖へと染まっていく。
それこそ彼が望んだ表情だった。困惑・驚愕・恐怖それらすべては、奇襲が上手くいったことを指し示す。
そして、渾身の力で地を蹴り、その影にとびかかった。
「GRoo!?」
習った通り、唸りは上げなかった…。無防備な喉笛に牙を叩き込む。もがく獲物の血の管を食いちぎりながら、地面に引き倒した。
獲物が喉を抑えて地面を転げまわる。節くれだった指の隙間から、おびただしい血があふれ出た。
「goa!?」
「Groov!」
只人の子供ほどの背丈の獲物が、警戒の声を上げる。尖った耳に緑色の肌、ヤギのような眼、小鬼だ。
それこそ、彼が幼い頃から「主」に殺すように叩きこまれた「獲物」だった。
「GAAA!」
「GEA!!」
やかましい声を上げる残りの二匹の獲物は、手に何かを持っている。
錆びた鉄の匂い。片方は槍、もう片方は短剣だろう。草と虫の匂いもするから、その刃先に毒が塗られているに違いない。
「グルルルル」
喉奥から唸り声が漏れる。びくりとその二匹の肩が震えた。たじろいで後ろの後ずさる。奇襲は終わったのだ。正面からの戦いであれば威嚇は重要である。
牙を剥きだし、唸り声を上げながら、2匹の周りをまわるように歩く。二匹の獲物のうちのどちらかがもう一匹の背に隠れるように……。
「GROOOV」
「GIEE!?」
完全に獲物が重なった刹那、獲物の一匹が突然前につんのめる。後ろの獲物が突き飛ばしたのだ。後ろから槍を握った獲物が見える。
この獲物共はこういう手をよく使う。だから、対処の仕方も分かっていた。つんのめった一匹の短剣を持った手に喰らいつき、その体を振り回す。
「GYAAAAA!!」
獲物が手首を噛み砕かれた苦痛に悲鳴を上げたのもつかの間、後ろの獲物の槍がその背中に突き刺さった。否、突き刺さる方向に獲物を引き倒したのだ。
「GEA!!」
口から血反吐を吐きながら地面に倒れ伏す獲物。そして、その後ろで何とか槍を抜こうと悪戦苦闘するもう一匹の獲物が見える。
「素早い一撃で体勢を崩せ」「多数と戦う時は敵を盾にしろ」仕込まれた事を、彼は忠実に実行した。
仲間の体に足をかけて槍を抜こうとする獲物を押し倒すが早いか、喉笛を抉るように喰いちぎった。
噴水のように噴き出る血潮。ビクビクと痙攣する小鬼をしり目に、彼は槍に貫かれて半死半生のもう一匹の元へ向かった。血の跡をつけながら這いずる小鬼の背に前足をかけると背後から延髄を噛み砕いた。喰いちぎられた首がゴロリと転げ落ちる。
闇深い森を獣の勝鬨が木霊した。
「わんちゃん!!」
唐突に彼に向って小さな影が飛び込んできた。涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにした只人の子供。
小さなメスの子だ。かれの豊かな毛並みに顔をうずめながら、何やらわめいている。
しばらくして、少し落ち着いたのか、子供が顔を上げた。その小さな頬の涙を舐めとると、子供は少しくすぐったそうにして、花が咲くような笑みを浮かべた。
「助けに来てくれたんだよね! ほんとにありがとう!!」
そう言いながら、もう一度彼に抱き着く。毛皮に埋もれるように全身を撫でまわすのを、彼は好きなようにさせていた。
この子供が彼の「主」と言う訳ではない。彼が村にふらりと現れた時に、おっかなびっくり肉の欠片をくれた只人の子供。たったそれだけの事だ。だが、まあ「獲物」を殺すついでに連れ帰ってやるには十分だろう。
彼は子供の前で寝そべると鼻を使って、子供を自分の背に誘導した。
「え、乗って良いの!?」
さっきまでの泣き虫はどこへやら、甲高い歓声を上げながら、彼の背によじ登った。
遠くから大人の只人の声が聞こえる。それと風の中に混じる松明の匂い。きっとこの子供を探しているのだろう。
さてはて仕留めた獲物に舌鼓を打てるのはいつになることやら、子供が背から落ちないように、ゆっくりとした足取りで彼は歩き始めた。
ここの獲物は仕留めた。故にまた次の場所に行くことになるだろう。
彼は旅をしていた。その昔「主」に習った通りに「獲物」を追い、仕込まれた通りに「獲物」を殺した。
そうしていれば、きっとまた「主」に会えると信じているから……。
主は「獲物」を殺していた。だから「獲物」を追って、殺していればきっとまた会えるはずだ。
「獲物」の痕跡を探して彼はまた歩く。きっと沢山「獲物」を仕留めた彼を「主」は褒めてくれるだろう。
「本当に出来心だったんです! つい魔が差しただけなんです!! 心を入れ替えます!! 本当に反省してます!!!」
両膝を突き合わせて、両手をそろえ、地面に額をつける。DO・GE・ZAであった。まごう事なき、謝罪の形である。
目の前で必死に頭を床に擦りつけるその男を見下ろして、受付嬢はポカンと口を開けた。
「はい?」
――なんで、こんな事に??
その受付嬢の質問に答えてくれるものは誰もいない。
無論の事ふざけている様子やおちょくっている様子はかけらもない。もはや応接間に入ってきた瞬間のヘラヘラとした表情を浮かべていたのが、同一人物とは思えない程の変わりようである。
「命、ばかりは!! 命! ばかりはっ!! 命ばかりはぁぁぁぁ!!!」
ガンガンと床に頭を打ち付けながら、文字通りの必死の形相で命乞いをするその男。
彼こそ今日審査予定だったパーティの斥候であり、密かに灸を据えてやろうと手ぐすねを引いて待っていた相手でもある。
「お、お、お、お、助けをぉぉぉぉ~~~!!!!!」
ギルド中に響き渡るかと思う程の命乞い。その声に共鳴するように、受付嬢の胃も全力で激痛を訴える。
もはや入室してきた時のふてぶてしさはかけらもない。
――ああ、ほんとになんでこんなことに……。
目の前の惨状から半ば現実逃避しつつ、受付嬢は窓の外を見上げた。窓から見える青い空は、恨めしいばかりの快晴であった。
へらへらとした笑顔で入室してきたその斥候の顔を見て、受付嬢の中の嫌疑は、ほぼ確信となっていた。勿論、偏見や早合点の類ではない。
上っ面の人当たりの良さに隠れた他者への侮り。己だけが上手くやっている、と考えている者が浮かべる特有の傲慢さ。
そうした一皮むいた人間の機微を見透かせぬようでは、受付嬢など出来ぬのだ。おそらくは同輩である監察官も気づいているだろう。
部屋に入って早々に受付嬢や監察官を見て、一瞬、その顔に出た安堵は、いっそ分かり易いくらいであった。
確かに相手は荒事に慣れた冒険者であり、こちらはギルドと言う権威はあれど手弱女に過ぎない。つまり、いざとなれば脅迫なり実力行使なりと言う手段がある。後ろ暗い内心を抱えているものほど、そういう反応は顕著に出やすいものだ。ギルドの受付に女性を多く配分するのは、そう言った油断を引き出す目的もあったりする。
とはいえ、荒事が稼業の冒険者。無意識に弱者への侮りが出るのは無理からぬところもあり、それ自体が致命的と言うほどではない。
故に、
普通なら、罪を指摘されて破れかぶれの実力行使など、その後に待ち受けるギルドからの報復を考えれば、到底切れぬカードである事はすぐにわかる。
まあ、そこまで深く物事を考えぬから短絡的な横領など働くのかもしれぬが。致命的なのは「自分以外の全ての人間を侮っている」と言う事だった。
無意識かは否かは分からないが、根本的に他人を舐め腐ってやがるのだ。今回も「うまい事言い含めて昇進できる」と考えている事だろう。自身がやらかした罪科が見抜かれている事など夢にも思ってはいるまい。
さて、この態度をどう料理してやるか。そんな平和な事を考えていられたのは、圃人斥候がゴブリンスレイヤーとその反対の隅に佇む盗賊もどきの姿を目にとめるまでだった。
「!?」
結論から言うと、余裕の態度は床に落とした陶器のように砕け散った。ゴブリンスレイヤーの姿を眼にした瞬間に、わずかに歪んだ圃人斥候の顔が、続く盗賊騎士の姿を見て、完全に凍り付く。
「なんでここにこいつが!?」と言う圃人斥候の困惑と抗議の視線を受付嬢は素知らぬ顔で黙殺した……そんな事は彼女が一番聞きたいのだ。
ごくり、と生唾を飲み込む音が聞こえる。先ほどまでの表情とは一変、表情筋を極限まで引きつらせた、斥候の顔色が徐々に青ざめていく。
あまりにあまりな反応であるが、相手は完全武装で武術の評判高き偉丈夫であり、何をするか分からない事でも同じくらい有名な相手でもある。
とはいえ、それも安全な特等席で見物するとなれば、ただの滑稽劇だ。受付嬢は先ほどの不快感も忘れて、今度はこみあげてくる笑いと必死で戦う羽目になっていた。
ふと傍らの同僚に目をやれば、俯いたまま顔をあげようとしない同僚。顔にかかる長い黒髪で表情こそ見えないが、その肩は小刻みに震えている。
「そ、それでは審査を…」
始めましょうか、受付嬢が何とかそう言いかけたまさにその瞬間。圃人斥候が勢いよく飛びあがった。
「え?」
―――破れかぶれ、偽装、最初から強硬手段を……!?
まさかの展開に受付嬢の脳裏に濁流のように思考が入り乱れる。受付嬢は直後の自分の末路を想像してぎゅっと目を閉じた。
「…あれ?」
なぜか何も起きない。恐る恐る目を開けると、そこには後ろに飛びのくように土下座の姿勢をとった圃人斥候の姿があった。
「本当に出来心だったんです! つい魔が差しただけなんです!! 心を入れ替えます!! 本当に反省してます!!!」
必死の形相で応接間の床に這いつくばった圃人斥候が、まるで機械のように同じ軌道で額を何度も床に打ち付ける。
「命、ばかりは!! 命! ばかりはっ!! 命ばかりはぁぁぁぁ!!! お、お、お、お、助けをぉぉぉぉ~~~!!!!!」
確かにお灸を据えてやろうと思っていたのだが、いささか効きすぎではないだろうか? そんな疑問が脳裏によぎりつつも、受付嬢は何とか自分の職務を果たそうとした。
「え、あのですね。えーと、あなた自分が何をしたか…」
「宝箱を着服してしまいましたっ! つい、つい魔が差してッ!! ほんの出来心だったんです!! 本当です!!!」
彼女の言葉を遮るように圃人斥候が白状する。もはや先ほどまでの軽薄さなどかけらもなく、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっていた。
「なにやら誤解があるようですけど、追放処分にはしても命までは・・・・・・」
受付嬢の言葉を聞いて、ビクリッと圃人斥候の体が痙攣する。ギギギ、と壊れたからくり人形のように顔を上げると完全に色を失った目で彼女をみた。
「ツイホウ? ついほう……追放か…………」
呆然と焦点の定まらぬ目で虚空を見つめながら言葉を反芻していた斥候が、突然カッと目を見開いた。
「そうか!? そうやってギルドは無関係のふりをするんだろう!! そして、俺の死体が人知れず路地裏にっ……ノゾミガタタレターーーー!!!」
なにがしかの賽の目をしくじった哀れな犠牲者よろしく、瞳孔を物凄い速さで四方に動かしながら絶叫し始める圃人斥候。
「殺しませんったら!!」
たまりかねた受付嬢が大声で怒鳴り返す。糸の切れた操り人形のようにガクリと床に崩れ落ちた斥候は「嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ…」と床に向かってぶつぶつと呟いている。
――ぶっちゃけ超怖い。
ふと、受付嬢はいつの間にやらこちらを向いていた盗賊騎士の鉄帽子に気付いた。受付嬢と斥候の間をいったり来たりするしぐさに何やら尋ねたそうな雰囲気を感じるのだが、どう考えても嫌な予感がする。
具体的には「まだ殺さないの?」と言ってるように感じるが、それはきっと私の気のせいだろう。盗賊騎士の片手がおもむろに腰帯に差した短剣の柄頭を撫でているが、きっと他意など無い。
――無いって言ってくださいお願いします。
なおいつの間にやら顔を上げていた斥候がそんなやり取りを見ていたようで、その顔色は真っ青を通り越してもはや蒼白である。
――ああ。神様、私なんか悪い事しました?
受付嬢は引きつった笑みを浮かべながら、天を仰ぐ。ギルドの変わらぬ天井が、今日は妙に恨めしく見えた。
「ローグ…」
うっそりとした声が応接室に響く。ボロボロの鉄兜を被ったもう一人の冒険者が、見かねて声を上げたらしい。
――信じていましたよ! ゴブリンスレイヤーさん!!
混沌とした状況への救いの手に、受付嬢は感動に満ちた目で最も信頼する冒険者の方を見た。
果たして彼女の視線の意図を解したのか、ゴブリンスレイヤーは何やら手言葉を作っている盗賊もどきにうなずいた。その意を解したらしく、盗賊もどきの片手が短剣の柄から離れていく。
――信じていましたよ!! ゴブリンスレイヤーさんっ!!!!
受付嬢は喉元まで出かかった感動と感謝の叫びを必死でこらえた。
「……そうだ。
ゴブリンスレイヤーが常と変わらぬ平静な口調でのたまったのは直後の事であった。
「………」
「…………」
気まずい沈黙があたりを支配する。
――ねえ、なんでよりにもよってその言葉のチョイスなんですか? どうして確認するように私をみるんです? ひょっとして、わざとやってたりしませんよね? もしかして私の事嫌いなんですか? 泣きますよ? 本気で泣いちゃいますよ?
渦を巻く思考の中に逃避しながら、受付嬢は今すぐ家に帰りたい衝動に駆られていた。と言うか、もういっその事、全部夢だった事にならないだろうか…。
――誰か、夢だって言ってよっ!!!!
「……あっ」
ふと床の上で白く灰になりかけた圃人斥候と目が合う。文字通りこの世の終わりと言わんばかりの表情と、完全に開ききった瞳孔。絶望に染まりきった視線が、救いを求めるように受付嬢を見る。
その色々と強すぎる眼力に耐えかねて、彼女はふいっと目をそらした。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! お慈悲をぉぉぉぉぉぉっ!!」
圃人斥候が絹を裂くような悲鳴を上げたのは、その直後の事であった。
「だから殺さないって言ってるじゃないですかぁぁぁ!!」
後に「昇格か、然らずんば死か」と言われ恐れられる事になるこの一件は、圃人斥候が最終的に泡を吹いて卒倒した事で幕となったのであった。
なお、後日おびえる圃人斥候から聞き出したのは、なんとも突拍子のない噂話であった。
曰く、盗賊騎士はギルドの懐刀である。不正を働いた冒険者を粛正するため、中央が派遣した処刑人なのだ。盗賊騎士の昇格が遅れたのは、昇格して注目を集めないためだった。とまあよくあるゴシップのたぐいであった。
結局のところ受付嬢は何とか宥めすかして、最後の慈悲で追放にとどめる、という事で圃人斥候を納得させた。
……までは良かったのだが。それを聞いた圃人斥候が禍々しいほどの感動の光に目を輝かせ、何度も五体投地で礼の言葉を全身で表現し、怪しい新興宗教もかくやと言わんばかりの受付嬢への信仰の言葉すら吐き始めたので、受付嬢はとりあえず簀巻きにして馬車に放り込んだ。一体だれが彼女の判断をせめられようか。
たまたま居合わせた野次馬たちも、同情半分、畏怖半分、と言った視線を受付嬢に向けた。
なんとも形容しがたい視線にさらにげっそりとした受付嬢は、同じような顔をしている監察官に話しかけた。
「あんな無茶苦茶な噂なんで信じるんですかね」
「でも辺境にいきなり現れた英雄の弟子が、変わり者の冒険者と組んでゴブリンを殺して回ってるなんて話よりよっぽど説得力あるよ」
「そりゃそうですけど……ち、ちなみにですけど、まさか、ほんとの話だったりとか、しないですよね」
「…………ま、まさか」
「看破の奇跡で聞いてみたりなんか……」
「もし本当だった場合、君も私もズンバラリンされちゃうと思うけど……」
「…………」
「…………」
「………忘れよっか」
「………忘れましょう」
お互いに大きなため息を吐くと、監察官が何気なく呟いた。
「ていうかあの人、ほんとだいじょうぶかな。布教活動とか始めそうな勢いだったけど」
受付嬢は監察官の肩をがっしりと掴むと、完全に据わった目で笑った。
「なにもありませんでしたね」
「あの痛ッ…何でもないです。何にもないです」
「今日は嫌でも付き合ってもらいますからね。全部忘れてやるんです!!」
「分かったから、ほんとに痛いから、うんそんな怖い顔しなくても付き合うから~~」
なんというか、本当に昇格と言う概念そのものに恨みであるのだろうか。そう勘ぐってしまいたくなるほどには、この何日か振り回され続けたような気がする。
手の中で暴れる監察官を無視して今日は記憶がなくなるまで飲むことを心に誓うのであった。
なお、この騒動より数日の後、匿名でギルドの慧眼と英断を称え、自らの不明と先のぶしつけな手紙を詫びる旨のやたらと豪華な便箋の手紙がギルドへの寄付金付きで届けられた。それに加えて、圃人斥候を追放した先の街において「ギルドのとある受付嬢を現人神として奉ずる怪しげな新興宗教」が爆誕したとの知らせを受け、彼女の胃が、しめやかに爆散する事になるのだが、この時の彼女には
知る由もなかった。
郊外の平原。燃え立ち地平線へと落ちていく夕日に照らされる二つの影があった。
盗賊の如き騎士とボロボロの甲冑を身にまとった冒険者。すでにして打ち合った後なのであろう。ボロボロの皮鎧の肩が荒く上下している。
木剣を傍らに放り捨てた盗賊騎士が、珍しく沈みゆく太陽を見つめていた。
『そういえば、貴殿に頼みがある』
振り返った盗賊騎士が手言葉を作る。
「ゴブリンか?」
盗賊騎士が鎖綴りのついた鉄帽子がゆっくりと頷く。
『わが師からの依頼でな。遠出をせねばならん』
「場所はどこだ?」
『水の街。と言うらしい』
そう手言葉を作った盗賊騎士の鎖綴りの奥に、かすかな憂いが見えたような気がした。
ダクソ風武器解説
盗賊騎士シリーズ
盗賊騎士の鉄帽子
鎖綴りが付けられた鍔広の鉄帽子。非常に頑丈で実用一途な品を作るドワーフの名工の作。
誰とも知れぬ盗賊騎士のもの。だが、幾多の小鬼を打ち砕いてきた勲を吟遊詩人たちが挙って歌にした。故にその姿は数々の歌の中にのみ残されている。
盗賊騎士の盗賊胴。
黒革に鋼片を裏打ちした簡素な甲冑。
誰とも知れぬ盗賊騎士のもの。
幾多の小鬼を打ち砕いてきたその勲を吟遊詩人たちは挙って歌にした。
故にその雄姿は歌の中にのみ残されている
盗賊騎士の籠手
革に短冊状の鋼板を取り付けた腕当てと手の甲までを覆ったハーフガントレット。器用に武器を扱える。腕当てには火つけに使うための特殊な合金が縫い付けられている。
誰とも知れぬ盗賊騎士のもの。
幾多の小鬼を打ち砕いてきたその勲を吟遊詩人たちは挙って歌にした。
故にその雄姿は歌の中にのみ残されている
盗賊騎士のブーツ
革製の簡素な臑あてと鋼板で補強されたブーツ。
誰とも知れぬ盗賊騎士のもの。
幾多の小鬼を打ち砕いてきたその勲を吟遊詩人たちは挙って歌にした。
故にその雄姿は歌の中にのみ残されている