ゴブリンスレイヤー THE ROGUE ONE 作:赤狼一号
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母よ、母よ、愛しき母よ
生まれたその日を嘆いておくれ
悪態ついて呪っておくれ
母よ、母よ、我が母よ
その手で縊り殺しておくれ
たおやかなりしその指で
どうかこの喉潰しておくれ
この醜悪な肉体が
この捻子くれた魂が
世に出たその日に殺しておくれ。
焚火にくべて燃やしておくれ
母よ、母よ、愛しき母よ
どうかこの身を許しておくれ
内より尽きぬ浅ましさ
赦されざりし醜さを
何よりこの世に生まれし事を
それでも私は許さない
醜いこの身を許さない
恥ずべきこの身と魂を
憎悪と憤怒よ、焼き尽せ
母よ、母よ、我が母よ
この醜さを忘れておくれ
私の罪を忘れておくれ
その苦しみをわすれておくれ
生まれし事を忘れておくれ
母よ、母よ、愛しき母よ
最後に一つ望むなら
次の赤子は愛しておくれ
~とある高名な聖騎士の従士が文筆の教えを受けた際に書いた習作であると言う詩~
晴れ渡る空の下、白亜の神殿が陽光の中でひときわ輝く。清らかな水のせせらぎの音が、そこかしこから響いてきた。まさに「水の街」という呼び名に相応しい佇まいである。
「うわあ」
美しい風景の中で、女神官が感嘆の声を上げる。
「ふむ。悪くないの」
「まこと見事な風景ですな」
「ほんとね。意外と只人もやるじゃない」
それに続くのは妖精弓手たちだが、三者三様に感心しているようだった。
そんな中、相変わらずに何を言うでもなく歩く盗賊騎士の姿が、女神官は妙に気にかかった。
「あ、あのローグさん」
鎖綴りに覆われた鉄帽子がジャラリとこちらを向く。細い鎖で編まれた覆面、その奥に揺蕩う眼光が今日はいつもより弱い気がする。
「どこか、お加減でも……?」
『大事ない』
女神官の問いかけに、盗賊騎士は簡潔な手言葉で答える。決然とした
「もしかして、あまり気が進まないのですか?」
何の気なしに発した言葉に、盗賊騎士の足が止まった。ゆっくりと振り返るとじっと女神官を見据えた。
『何故、そう思う』
やはりいつも通りの簡潔な手言葉のはずなのに、何か妙な緊張感がある。
「ローグさん?」
女神官が言葉を続けようとした瞬間、静かな声が割り込んだ。
「ローグ、話してかまわんか」
ゴブリンスレイヤーの声音は質問半分、確認半分と言った所だった。
『構わぬ』
簡潔な手言葉を受けて、ゴブリンスレイヤーは平静な声で語り始めた。
「今回の依頼人は至高神の大司祭、そして沈黙の聖騎士だ」
「ふえ!?」
「なんと・・・」
「そりゃまたえらい声かかりじゃの」
蜥蜴僧侶はわずかに感嘆の声を上げ、鉱人道士が髭を撫でながらうなる。
「うん? それってローグの先生よね?」
只人の中でも高名な騎士であるとは知ってはいても、それ以上の事はよくわからぬ妖精弓手の反応はいぶかしげであった。
「別に昔馴染みに会うのに、そんな根暗な空気にならなくてもいいじゃない」
妖精弓手が心底わからぬと言う顔で耳をピコピコさせる。
「まったく、金床はよう。師弟てのはお前さんの胸みたいに平坦な関係とは限らんのよ」
「うるさいわねビア樽。と言うか単に、好き勝手やりすぎて怒られたらどうしよう、とか考えてじゃないの」
女神官は反射的に同意の言葉を口にしそうになり、慌ててそれを飲み込んだ。盗賊騎士がゆらりと妖精弓手へ向き直る。
「な、なによ」
突然、向き直った盗賊騎士に対して、妖精弓手はぎょっとしたように鉄帽子と鎖綴りの頭を見上げた。
妖精弓手の反応を気にした風もなく、盗賊騎士は厳かな様子で手言葉を作る。
『当然だ。吾輩の如き未熟な出来損ないなぞ、いつとて我が師の寛大なる慈悲にすがっているにすぎぬ』
さらりと手言葉で作られた答えに女神官は一瞬あっけにとられたように見つめていたが、直後に座った目で笑みを浮かべた。
「ローグさん、あまり謙遜が過ぎるのも嫌味に取られますよ」
「ひっ」
朗らかな筈なのに妙に圧力のある女神官の声音に、妖精弓手が小さな悲鳴を上げた。
「確かにローグさんは、ゴブリンが絡むと常識も良識もドブに放り込む人です…」
「にこやかにとんでもない毒吐きよったぞこの娘」
「いやはや、普段から気を揉んでおられるゆえですかな」
ひそひそと話し合う鉱人導士と蜥蜴僧侶を無視して、女神官は言葉を続けた。
「でも、そんなローグさんに助けられた人だって、沢山いるんです」
そう言って女神官は、今度は花の咲くような笑みを浮かべた。 盗賊騎士はしばしキョトンとしたように女神官を見つめると、無言のまま踵を返した。
「ていうか。あんた、結構、カワイイこと気にするのね」
再び歩き始めた盗賊騎士の背を見ながら妖精弓手が妙に感心した調子でのたまった。
冒険者たちを出迎えたのは、蜥蜴僧侶もかくやと言う長身に、隆々とした体躯を持つ岩山の如き偉丈夫であった。
岩壁より削り出したような四角い輪郭に、ギョロリとした三白眼が並び、真一文字に引き結ばれてた口からは時折唸りのような喉なりが漏れる。
眉間に刻まれた深いしわと、思わず目をそむけたくなるほどの眼光が、厳つい面差しをさらに近づきがたいものにしていた。
肩を覆うように羽織った礼装と思しき漆黒の外套には、いずれの神のモノか古代文字と思しきシンボルが刻まれ、その裾間から見える黒錆処理された聖銀の
何より特筆すべきは、甲冑の下に着込んだゆったりとした黒の法衣の上からでもハッキリとわかる剛健そのものの筋骨であろう。その武神軍神の彫刻もかくやと言う均整の取れた肉体は同時に神代の昔より大地に根を張る大樹を思わせた。一目にして、彼の騎士が師と仰いでやまぬことに納得がいく。
一枚の絵画のように調和した騎士姿は、その男が「騎士の中の騎士」「聖騎士の理想」と謳われる理由を如実に表していた。
「沈黙の聖騎士さま…」
女神官が呟く。彼女の記憶の中のそのままの姿だった。何年も前に、たった数回すれ違う程度だったとはいえ、その姿は深く心に刻まれていた。騎士物語に語られる騎士像そのままの偉丈夫。
盗賊騎士が黙ってその前に跪き、頭を垂れた。
『師よ。ただいま戻りましてございます』
跪いたまま手言葉を作る盗賊騎士の肩に、沈黙の聖騎士の手が置かれる。そこに一切の音声はなかったが、それでもその場にいる全員がその行為に込められた労いの意図を理解できた。
『久しいな。息災であったか』
ローグに立つように促しながら、沈黙の聖騎士のもう一方の手が器用に手言葉を作る。
『ご高配、感謝いたします。今だ未熟なれど研鑽を積んでおりますれば』
無論流暢な返答は手言葉によるものだ。盗賊騎士の応えを受けて、岩壁の如き厳つい面差しがクシャリと歪んだ。
先ほどの強面からは想像も出来ぬほど穏やかで人好きのする笑み。張り詰めた空気が一瞬で弛緩する様子に、女神官はほっと息をはいた。
ああ、やはりあの時のままだ。女神官はしばし、昔を懐かしんだ。
厳つい顔の高名な騎士。幾多の混沌の怪物を屠ったという伝説的な戦士。
――失礼があればその場で切り捨てられるかもしれない。
いま思えば笑い話だが、当時は本気で恐れおののいてた。
返す返す非礼であったと思う。それでも地母神の神殿の一員とはいえ、取るに足らない見習い小娘だ。そんな身分からすれば相手は殿上人である。恐れを抱くのも無理からぬことだった。
故に、脇に退いて道を譲って見せた事には驚いた。だが、戸惑う幼子に浮かべた穏やかな笑みは直前の印象を覆すには十分だった。
『立派な神官になったようで何よりである』
ふと目が合った瞬間に沈黙の聖騎士が女神官に向けて手言葉を作った。
「覚えていらしたんですか!?」
騎士は無言でうなずいた。
『貴殿には弟子が苦労を掛けていると聞く』
苦笑を浮かべる騎士に向け、女神官はわたわたと手を振った。
「そんな事は無いです。確かにびっくりする事もたくさんありましたけど…慣れました!!」
これ以上ないほどの満面の笑みに、沈黙の聖騎士は僅かに顔を固まらせた。
『何と言うか……すまぬ……いや、我が弟子は良い仲間を持ったようだな』
再び居住まいを正し、見上げるような巨躯を曲げる。
『ありがとう。貴殿らに感謝を』
高位冒険者達の中で知らぬ者などおらぬ英雄である。誰に対しても変わることの無いその慇懃さこそ、目の前の騎士をして全ての騎士の理想と謳われる美徳の一つであった。
頭を上げた沈黙の聖騎士は、ゴブリンスレイヤーたちに向けて再び手言葉を作った。
『汝らの打ち果たしたオーガの
その問いかけにゴブリンスレイヤーがコクリと頷く。
―――どうかなさったのでしょうか?
女神官の中に生まれたその疑問の答えは、すぐにもたらされた。
沈黙の聖騎士は再びローグの方へ向き直ると、弟子の鎖綴りの奥を見据え、手言葉を作った
『我が弟子よ。これほどの強敵をよく打倒した』
沈黙の聖騎士の称賛に対して、盗賊騎士は跪いたまま手言葉で答えた。
『仲間に恵まれたがゆえ、吾輩は未熟さ故の醜態も多く』
「それは違う」
手言葉を読んでいたのであろうか。場を遮るように声を出したのはゴブリンスレイヤーだった。
「オーガを倒せたのはローグの策と優れた剣術によるものだ。俺たちこそ、その手伝いをしたにすぎん」
何か手言葉を作ろうとするローグを手で制し、沈黙の聖騎士はゴブリンスレイヤーを見た。
岩石の如き相貌に鎮座した水晶の如く蒼い目。その鋭い三白眼の目尻が急に緩んだ。
『貴殿は立派に育ったようだな。我が友も誇らしかろう』
「?」
ゴブリンスレイヤーが怪訝そうに首をかしげる。
『吾輩は貴殿の師とは古い付き合いでな。まあこの話はおいおい…。今は本題に入るとしよう』
そうして山の如き偉丈夫は再び弟子の方へ向き直る。
『ローグよ。仲間と協力し、よく強大な敵を討ち果たした』
『寛大なお言葉に感謝いたします』
盗賊騎士が普段からは想像出来ぬほどの神妙さで手言葉を作る。
『今日この日、沈黙の聖騎士の名において貴殿を騎士に叙する』
その手言葉を見て、盗賊騎士は凍り付いたように微動だにしなかった。
それは戸惑っているようにも見えたが、その内心は鎖綴りの奥に隠されてやはり分かりはしなかった。
それでも女神官には、それが祝うべきことである事だけは分かっていた。
『そこに跪け』
沈黙の聖騎士の手言葉に、盗賊騎士が素直に従う。その光景に妖精弓手などは目をまん丸にしている。
盗賊騎士と沈黙の聖騎士。身なりは真逆の師弟が何故か一枚の絵のように見えた。
『汝、いついかなる時も、武勇に陰りなくあれ。
仕える王なくば、くつわを並べし友に仕えよ。
信ずる神なくば、己が心の鋼を信じよ。
祀ろわぬものよ、その心の光を見失いしものよ――ならば鋼を信ずるべし。
鋼の力を欲すなら。只、鋼の声を聴け。
汝が声を聞きし時、鋼は真に目覚めるだろう。
彷徨い続けるものよ。汝、鋼を信じよ――ただ鋼のみを信ずるのだ』
『汝、友への至誠を誓うか』
『……誓う』
それは奇妙な光景であった。恐ろしく聞きなれない聖句。そう言えば沈黙の聖騎士は至高神を始めとした神々を表す紋章の一切を身に着けていない。今まで当然のように至高神や地母神を奉じていると思い込んでいたが、沈黙の聖騎士が所属している教会や教団の名は聞いた事がない。
ただその聖句は不思議と染み入るものがあった。
『汝、鋼を信ずるか』
一言の言葉もない静寂の中で、一声たりとも誓言が発されることなく、誓いが立てられていく。
『……我が心身は常に鋼を信じる』
弟子の手言葉を受けて、沈黙の聖騎士はその腰に帯びた剣を剣帯ごと引き外した。手慣れた動作で鞘を払うと、渦の如き文様が浮いた剣身が現れる。
その古い拵えの剣で、聖騎士は跪く盗賊騎士の肩を打った。鋼の澄み切った音が、無音の誓約式の中で響き渡る。
――聞け
果たしてそれは、風の響きか己が空言か。今度は逆側の肩で鋼が透き通った音を立てた。
――聴け
鋼の響きの中に聞こえた「それ」は形容しがたい「声」であった。何ものであるのか、果たして本当に発された言葉であるのか。それすら、ようとして知れない。にも拘らず、不可思議な「それ」は、確かな存在感があった。
――鋼が目覚める
『今より汝の……鋼は目覚めた』
手慣れた動作で剣を鞘に戻すと、沈黙の聖騎士は結びの言葉と思われるものを形作る。
跪いた盗賊騎士の両肩を、その剣をもって交互に打つ。たったそれだけの単調な儀式のはずなのに、その場は奇妙な感嘆に包まれていた。
『汝を我が名において騎士に任ずる。……これは我輩からの餞別だ』
厳かな声なき宣言と共に、沈黙の聖騎士は黒革にルーンの刻まれた剣帯を手早く鞘へと巻きつけた。それをそのまま跪く盗賊騎士の前へと突き出す。
盗賊騎士は僅かにたじろいだが、聖遺物を押し戴くように、その剣を受け取った。
そして、そのまま地面に頭をこすりつけるように下げた。
『立て。……騎士よ』
朗らかな表情になった偉丈夫が片手を差し出す。盗賊めいた騎士はその手をしっかりと握り返した。
とても神聖なものを見た気がしました。今でもうまく言葉には出来ません。
それでも、とても大事な…本当に尊い…「何か」が「成った」。
それだけは当時の未熟な私にも理解できたのです。
…………今思い出しても切なくなるほどに。
「あんた、何も泣くことないじゃない」
途中からグスグスと鼻をすすり始めた女神官に、妖精弓手が呆れたように言った。
「まあ、そういうものでもありますまいぞ。男子には一生の瞬間であります故」
と窘めるのは蜥蜴僧侶。
「そうじゃぞ、かみつき丸の奴も心なしか嬉しそうだしの」
そう鉱人導士が水を向けるが、ボロボロの鉄兜は相変わらず目の前の光景に平静な視線を向けているだけだった。
「何はともあれ、そういう事なら祝杯としゃれこまんとの」
「それは今少し、お待ちいただけますか?」
「む?」
そう言って酒瓶を開けようとした鉱人導士を押しとどめたのは涼やかな女の声だった。
陽光に煌めく金の髪。その隙間から見える目隠しの布が、彼女が盲ている事を示している。緩やかな白絹の法衣よりもなお透き通るように白い肌。その法衣から零れ出さんばかりに豊満な肉体は同時に完璧な均整を併せ持っている。至高神の信徒を表す剣杖もあいまって、まるで絵画のごとき姿であった。
沈黙の聖騎士は無言のままにその女性に向きなおり、厳かに頭を下げた。
「いいえ、良いのですよ。沈黙の聖騎士様にはそれ以上の恩がございますから」
女の鈴を転がすような甘やかな声が響く。
「剣の乙女様……」
至高神の神官の顔を見て、驚愕に目を見開きながら呟いたのは女神官だった。
そのわずかな呟きを聞き逃さなかったのか、沈黙の聖騎士が静かに頷く。
「あわわ」
まさか聞こえていると思わなかった女神官は顔を真っ赤にして俯いた。
そんな様子を見ていた剣の乙女は、上品に笑うと。
「お初にお目にかかりますね。可愛らしい女神官様」
艶のある声で優しく問いかけた。並の男であれば、それだけで恋に盲てしまうだろう。
「ひゃ、ひゃい。お目にかかれて光栄です」
その魔力は女子であっても関係はないらしい。女神官はしどろもどろになりながらも、何とか当たり障りのない挨拶を返す。それだけで精いっぱいだった。
ふと、女神官は傍らに立つ盗賊騎士の態度が普段と違う事に気づいた。
何やら呆然と剣の乙女の方を見ているように見える。
最も、鎖綴りによって盗賊騎士の顔はいつも通り隠れているのだから、その本当のところは分からない。
ただ、確かに感じるのだ。それは憂いか、悲しみか、それとも悔恨なのだろう。
今まで幾度も目にした広くたくましい背中。その背に勇気や怒りや憎悪は見ても、寂寥を見たのはこれが初めてであった。
だから私は結局声をかけることが出来ませんでした。
真実、あの時の未熟な私に出来ることなど無かったのでしょう。
それでも私は、あなたに「何か」をしたかった
久方ぶりに吾輩の前に現れたその姿は、あの頃と変わらずに我が醜悪なる魂を歓喜させた。
むしろ、未成熟な美しさは年相応の成熟した色香に変わっていた。 野暮ったい下級神官のものとは違う、いっそ扇情的とすらいえる上級神官の法衣にはシミひとつない。
そこから零れ出さんばかりの豊かな肢体は、ろくな食物も与えられずに嬲られ続けて痩せ細っていた頃と比べるべくもない。
だが、その傷ついた魂が発する怯えと憂いの匂いは、十数年の年月が経とうと変わる事は無い。変わっていてはくれなかった……。
夜毎悪夢に怯えているのであろう。
折に触れて立ち還る記憶の片鱗に苛まれているのだろう。
そんな事は容易に想像がつく。
そのあり様を一目見れば、心身を焼き尽くさんばかりの浅ましい欲望が身体の奥より沸き立つ。それが何より苛立たしく厭わしい。己の醜悪さに反吐が出そうになる。自身の腹の底に渦巻き殺しあう激情と欲望に耐えながら、吾輩は努めて平静を装った。
光無き視線が値踏みするように、ゆっくりと動く。たとえ光を無くしていても、彼女には他の五感すべてで見えているのだろう。その視線の動きは何かを探している時のものだった。
ふと、目隠しのために見えぬ筈の相貌が、はっきりと見えた気がした。その視線が困惑と恐れに曇るのを、吾輩の中の糞虫共は見逃さなかった。
思いがけず、見つけてしまったあってはならぬ「何か」。恐々と確かめるように一度逸らされた視線が戻ってくる。
先ほどの好奇心と悪戯心で憂いを押し隠したものとは違う。困惑と悔恨、そして隠し切れぬ恐れ。
それは幼子が恐れながらも抗い切れずに寝台の下を覗き込むのに似ていた。
かつてその美しい目を閉ざしたように、身体と心中に深く刻まれた傷は、癒える事など有りはしないのだ。
その傷を刻んだのが、かつて始末した我が呪わしき「家族」であり、他ならぬ己なのだと思えば、迅雷のように愉悦が背筋を走る。同時に胃の腑の底で滾る溶鉄の如き憤激。
ああ、やはり褪せる事などありはしなかったのだ。この呪わしき生に会って最初にして至上の女よ。
我が母よ、やはりあなたは美しい。
ゆえにこそ呪わしい。未来永劫に。
――吾輩は呪う。なによりあなたを愛したことを。
~ダクソ風武器解説~
【古き鋼の片手剣】
「古き鋼」で作られたと言う北方蛮族の意匠を持つ片手剣。
その剣身は複数の鋼が溶け込み、さながら木目のようになっている。
鋼を信じる者が手にすると、その力と意思に応えて力を増すという。
古の神より問われし「鋼の秘密」を解きたる者が鍛えし剣。その刃は鋭く強く、癒えぬ傷と出血を強いる。
数ある「古き鋼」の中でも「剣」は特別な意味を持つ。
鋼の声を聴くものは、その真の鋭さを知る。
鋼の声を聞くものは、その真の強さを知る。
信ずる心に鋼は応える。いつとて鋼は道を斬り開くのだ。
と言う訳で、前回コメントをくださった皆様大正解です(笑)
一部、もう一人のママ候補について考察されていた方もいらっしゃいましたが、そちらも正解です。
実のところ、ゴブリンスレイヤーさんとは兄弟(ガチ)になる予定でした。
一話のさらわれた女を見て、少し生まれた時のことを回想しているのはその名残ですね。
ローグさんのママはローグさんが救出するので、ゴブリンスレイヤーさんの動機が弱まってしまう(まあ今考えると廃人にするとかいろいろやりようはあったんですが)。牧場娘ちゃんの出番を増やさなきゃいけなくなる。
あと、女魔術師ちゃんがなんか赤毛で被りで、母の面影を追ってるようで可哀そう。
ぶっちゃけ「金髪ナイスバディの剣の乙女さんのが作者の好み」と言う事でこうなりました(笑)