ゴブリンスレイヤー THE ROGUE ONE 作:赤狼一号
信じて待っていてくださった皆さん。
忘れても復活を喜んでこうしてみて頂いている皆さん。
いつも誤字修正に協力して下さった皆さん。
定期的に読み返して下さっていた皆さん。
本当にありがとうございます。皆さんのおかげでここまで来れました。
どうぞ、今年いっぱい楽しんでいってください!!
歴史を紐解けば、物語がある。
悲喜交々の人の歴史の中で言えば、それは数奇な物語だった。
故に今でもその真実は議論の対象になるばかりであった。
幾多の死があった。
凄惨な戦いがあった。
悲惨な凌辱があった。
残忍な暴力が…。
悍ましき凌辱が…。
そして最後に報われぬ愛が、あったとされるのだ。
これより語るのはそうした物語だ。いかなる吟遊詩人すら語る事の出来なんだ。
闇に消えた物語。
これは一人の小鬼の物語。「皇帝」と呼ばれた恐ろしく残忍で、強大な力を持つ……風変わりな小鬼の物語。
どうしてそうなったのか。それは誰にも分らない。
強いて言うなれば、骰の目が悪かったとでも言うべきなのだろう。
それは本当に馬鹿らしいほどの偶然で起こったのだから……。
ただ一つはっきりしている事は、この骰の目をふったものはきっと高笑いしていることだろう。
何度となく、戦いを供にすれば、そうした事態が起こるのは自明の理であったのかもしれない。
それでもなお、IFを考えてしまうのは皮肉なのだろうか。
己が素顔が露わになった瞬間、それは運命の皮肉と言うより他はない。
穿った見方をすれば神の
――さあ、神々よ! 呪わしき
血を吐くような怨嗟の声。からりころり、と何処かで骰の転がる音を聞いた気がした。
「ゴブリン、なのか……」
目の前のそれは、小鬼殺しの言葉を否定も肯定もしなかった。
地面に落ちたひしゃげた鉄帽子、返り血に染まった盗賊胴はいつもの事だ。だが、その上がおかしい。常に顔を覆っていた鎖綴りも鉄帽子もない。在るのは醜悪な顔だ。
頭頂には髪の毛の代わりに火傷と打撃の跡。耳の片側は半ばから千切れ、顔に走るいくつもの向こう傷、欠けた鼻先がくぐってきた修羅場を思わせる。
まるでそうでないものを探すようにゴブリンスレイヤーは相手の顔を必死で観察した。だが、見れば見るほどその顔は仇敵のものだった。そしてその装備は剥ぎ取ったばかりのものには見えない。
口の中がからからに乾いていく。胃の腑を、やわりと誰かに掴まれているような不快感が込み上げてくる。
己が最も信頼した戦士が、許しえぬ仇敵であったという残酷な真実だった。この場で、なり変わられたという答えよりそれはよほど、しっくりくる。
そして、その隙の無い立ち居振る舞いは、別人のものではあり得ぬ事はゴブリンスレイヤーが一番よくわかっていた。
「どこからだ……」
呟いた言葉は懇願のようであった。それを意に介した故か、否か、それはにたりと醜悪な笑みを浮かべていた。
「最初カラに決まっテオロウッッ……」
どこかアクセントの定まらぬその言葉は、まさにあの忌々しい混沌の訛りであるのだろう。表情筋を無理やり締め上げたような笑みは、表情の機微に振り回される人間を嘲っているかのようで、小鬼殺しの戦士はなぜだかその表情を見ている事が出来なかった。
「全て嘘だったのか……」
絞り出すような言葉に込められたのは、果たして怒りか、絶望か。
「サテナ。吾輩は吾輩のヤリタイようにヤルノミダッ!!!」
吠えるようなその宣言は、何故か痛みをこらえるように見えた。
「それで、貴殿はどうするのカ!! この小鬼ヲ
響いた怒号に応えるよう、ゴブリンスレイヤーは剣を抜いた。
「ま、まってください。小鬼殺しさん。ローグさんなんですよ。きっと呪いか何かで」
叫び声と共にすさまじい閃光が彼と盗賊騎士の間を分けた。これこそ必定だったのだろう。
必死の形相の女神官が何かを叫んでいる。恐らくは解呪の類なのだろう。それは嗤った。
女神官の身を切るような願いの顔を醜悪に顔をゆがめて嘲笑ったのだ。
「こザかしい真似はせぬコトだ。吾輩は貴殿を
「ならばなぜそうしなかったのですかッ!!」
女神官がそう怒鳴り返す。
「こんな小娘一人、いくらでも蹂躙できたのではないですか? 何故そうしなかったのですか!!」
盗賊騎士の目をまっすぐに見据えて、女神官が言い放つ。初めて会った時は、おどおどして子犬のようだった少女が、自身の3倍もありそうな巨体の冒険者と対峙していた。
ゴブリンスレイヤーはそんな女神官の姿が妙に眩しく見えた。
「気がノラなんだ、その程度のことよ。貴様の鳥の骨より
そう言って、盗賊騎士が下卑た笑みを浮かべる。そして、小馬鹿にするように女神官を見た。
「なっ!?」
女神官が絶句して言葉を失うと、その瞬間に盗賊騎士は女神官を掴み上げた。
「え?」
呆然とした顔で、盗賊騎士の顔を見つめた女神官は、次の瞬間に恐怖で顔をゆがめた。
視界を覆う鋭い乱杭歯の並ぶ口腔、その牙が女神官の柔肌を貫いたのは直後の事であった。
「い、ぎゃぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
喰われる、と言う本能的な恐怖と激痛に逃げようともがくが、それはしっかりと女神官を掴んで逃がさない。
まるで吸血鬼のようにその血を音を立ててすすると、大人しくなった女神官を地面に放り捨てた。
「あ、ぎ、ぎ、あうううう」
恐怖で涙を浮かべるその少女の姿を見て
「やはり骨だな。食いデガナイ」
その言葉を聞いた瞬間、小鬼殺しは動いていた。
――またか
――お前はまたやるのか
心中に巻き起こる罵詈雑言すら無視して、ゴブリンスレイヤーは剣を振るった。
その一撃を腰の
「笑止」
小鬼の嘲りの声。
――何を迷っていた
雑納から取り出した小袋を投げる。小鬼はそれを盾の平で柔らかく払うと、間髪入れずに繰り出したゴブリンスレイヤーの突きをそらした。
「ぬ?」
ゴブリンスレイヤーの左手が閃く。盾を括りつけた手に持っていた投げナイフが小鬼の腕に突き刺さった。
「……ナルホド、毒カ」
ニタリと笑うと小鬼はそのまま前に出た。
「ぐっ!!」
小盾を前に出しての突撃。視界を遮られたゴブリンスレイヤーがとっさに剣を投げる。
それを最小限の動作で跳ね飛ばしたのを見た瞬間、ゴブリンスレイヤーの体が宙を舞った。
「がはあッ」
地面に叩きつけられたゴブリンスレイヤーの肺から全ての空気が叩きだされる。
「モウ、コレハ吾輩には不要ダ」
頭上で聞こえた言葉と共に、何かが地面に落ちる。
かつて、彼が送った
「立つノカ」
感心したような調子で小鬼が言う。
「……貴様が小鬼だというなら、やることは一つだ」
膝が笑う。空気が足りないせいか視界が廻る。それでもゴブリンスレイヤーは立ち上がった。
「ゴブリン共は……「皆殺しだ」」
揶揄するような口調で小鬼が続く。
「貴殿ニは出来ヌ」
嘲りと共に小鬼の悪漢は踵を返した。
その日、小鬼殺しの一党から、一人の仲間が消えた。深手を負って神殿に担ぎ込まれた女神官、ただ一言「ただならぬ小鬼の上位種が現れた」と警告を発した小鬼殺し、帰って来ない者がどうなったかは明白であった。
ただ一つ不可解なことは、「小鬼の上位種」による行動の痕跡が、街の周辺地域で一切確認出来ないことだった。
そして、しばらくして、ギルドから一人の女魔術師が去った。「嘱託」と書かれた札を残して……。
辺境の街を気まずくした事件より、数か月後。その寂れた神殿は辺境でも北方に位置する小さな村の外れにあった。
村のものすら知らぬ古き神の意匠すら、生した苔に覆われ定かではない。その古びた祭壇に、黙祷を捧げるものがあった。
蜥蜴人もかくやという長身。鋼の如き筋骨は聖銀の甲冑の上からでも容易に分かる程である。腰に差した
何を祀ろう神殿かも定かならぬこの場所こそ、沈黙の聖騎士と呼ばれた偉丈夫の数ある拠点の一つだった。
黒い外套の掛かった肩がピクリと動く。
立ち上がり振り返った偉丈夫は、修道院の入口に立っていた影を見てわずかに眉を上げた。
『やはり生きておったか』
手言葉を受けて、その影は厳かに跪いた。
ボロボロの外套に、深く被ったフード。傍から見れば胡乱な輩である。
だが、目の前の偉丈夫はそれを気にした風もない。
ローブの隙間から覗く黒革の
わからいでか、そう言わんばかりの師の顔に、ローグは再び頭を下げた。
もとより隠し立てするつもりなどはなかったのだ。
古き鋼により作られた片手斧は師の戦斧と対をなす。互いの在り処が分かると言うその権能がある以上、どこに逃げても師からは逃げられない。
とはいえその為に、師より賜りし片手斧を捨てるなど、あり得ぬ選択肢であった。
『暇乞いに参りました……』
跪いたまま、ローグは静かに手言葉を作った。
『道は、変えられなんだか』
岩壁のような面相の額に深い皴が刻まれた。
『賽の目が、悪かったのでございましょう。吾輩には似合いの末路』
自嘲を込めた手言葉を見た、沈黙の聖騎士が、いっそう額のしわを深くする。
『貴殿これよりどうする……』
『悪を成します。この醜き魂に見合う大悪を―――』
そう手言葉を作り、ローグはおもむろにフードを外す。幾多の向こう傷が刻まれたその顔は、そも人にあらざる相であった。小鬼。混沌の怪物の最も弱き尖兵。
この世で最も悍ましく、醜き魂を持つ生き物。
『吾輩は貴殿をここで止めるべきなのであろうな』
沈黙の聖騎士は僅かに眉を上げ、そして得心したように目を瞑った。
『故に参りました。これより吾輩は全てに背きますれば……頂戴したものをお返しに』
ローグは静かに沈黙の聖騎士の足元に武装を置いた。
『あるいは、あの若者が貴殿の道を変えてくれるやもと期待しておったが……』
その手言葉が、不思議とローグの胸を締め付けた。
『そうであれば…………。問うても詮なきことでありましょう』
何を言いかけたのかは己にも分からなかった。それでも、言葉に出来ぬ何かがあった。
『では武器を取るがいい。始めるとしよう。貴殿が旅路にて得たものを見せるがいい』
沈黙の聖騎士が腰に吊った戦斧を抜く。してみればこれが最後の慈悲なのであろう。醜き生き物にも騎士としての死を与える。
不出来な糞虫の身の上であれば、そうであればこそ、答えねばならなかった。ローグは黙って片手握りの長剣と片手斧を拾った。
『貴殿、大悪を成すのであれば、越えねばならぬモノを知れ』
片手で手言葉を作ると、沈黙の聖騎士が傍らにおいた大盾を手に取る。甲冑と同じく聖銀で作られた大盾。棺桶型の表面に刻まれるのは死と裁定を司る古き神の紋章。
盾は騎士の武器の中にあって最も基本的なものであり、それ故に強い。
「……ッッ!!!」
「……ッッ!!!」
声なき咆哮と共に二人の偉丈夫が激突した。踏み砕かれた石畳が舞い上がり、凄まじい剣戟の音が神殿の天蓋に木霊する。
互いに一歩も引かぬ打ちあい。
方や剣と斧を交互に繰り出し、方や大盾と戦斧が嵐のように打ち付ける。
数え切れぬ打ち合いの中で、ローグの片手斧が大盾の縁にかかる。斧を鈎にして大盾を崩すのは定石。
しかし、それ故に知り尽くされた技だ。沈黙の聖騎士が盾を引っ張られるままに伸ばし、そのまま踏み込んだ。
「!!!」
胸元に自身の斧を押し込まれたローグの体勢が崩れた。そこへ沈黙の聖騎士の必殺の戦斧。
「GRR…!」
とっさに斧を捨て、腰を捻る。逆サイドで担ぐように構えた剣の上を戦斧が火花を上げて滑り降りた。
そのまま打ち込もうとするも、構えた大盾がそれを阻む。
ニヤリ、とローグの顔に笑みが浮かぶ。盾が聖騎士の視界を塞いだ刹那、そのまま身体を一回転させるように聖騎士の左斜め後ろへ踏み込む。そのまま首の付け根めがけて剣を振り抜いた。
―――偉大なる先達に曰く、
その技こそは、まさに盾を打ち破る為の妙技。相手の盾を基点に渦のように回り込み、その後ろ首を切りつける。
強靭な体幹と剣撃の精度、間合いの巧妙、その全てを必要とする。
生中な者が使えばただの自殺行為。まして己より強いもの相手には使い処を見極めるのは恐ろしく困難である。
―――なればこそ、此れらが揃った時には必殺の一撃となる……!!!
誇りと喜びの入り混じった笑み。
「……ッッッッッッ!!!!」
盾を捨て、人外の反射速度で沈黙の聖騎士がその絶技を受け止めた。
刹那、沈黙の聖騎士の体躯が一廻り膨らむ。全身の筋肉が甲冑を打ち破らんばかりに隆起する。
かつて相対したオーガを思わせる壮絶な膂力が、ローグの全身を捻り潰さんとする。
絶対的な圧力で押し込まれる戦斧が、断頭台の刃の如く迫る。
「GROOOOOV!!!!」
傷だらけの顔にいくつも青筋を立てながら、ローグが咆哮する。剣の背に己の前腕を当て、迫る斧刃を己が剣にて押し返す。
凄まじい重さに立ち向かう為に全身に一本の筋を通す。己が重みの全て、その総身の力の全てを収束するのだ。がきり、と組み合った戦斧と長剣が互いに火花を散らした。
いかに古き鋼の刃とは言え、戦斧の柄は「鉄の木」の俗称を持つ硬木であり、もとより剣で容易に切断できるものではない。そこに複雑な古の呪術が所狭しと刻み込まれ、その強度をさらに高めているならば猶更であった。
「古き鋼」の権能は、いかなるものにも「鋼として振る舞う」事こそがその骨子。ゆえに鋼で斬れる
なればこそ、両者の得物に差はなく、囚われるのはその身体を操る技であり、純粋な膂力である。
砕け散った石畳の欠片をさらに踏み砕き、一進一退の真っ向からの力比べは、おおよそ四半刻にも及んだ。
流れ落ちた汗がひび割れた地面に吸われていく。吸い込みきれなかったそれが、両者の足元に水たまりを作っていく。
膠着を崩したのは、ほんの偶然であった。
沈黙の聖騎士の体が僅かに崩れる。砕けた石畳が汗で僅かにぬかるんだ事で起こった滑り、それが予想外の動きをもたらす。
「……!?」
千載一遇の好機に鍔迫り合いを接点に、回り込むように切っ先を沈黙の聖騎士に向ける。
そのまま首元めがけて突き出す。―――そして勝負は決した。
「……」
暫くして、ローグの目に飛び込んできたのは神殿の天蓋であった。
石畳に叩きつけられた体が、今にも砕け落ちそうな程に痛む。
必殺の突きを放った刹那、
まるで虎が地を這うようにローグの脇の下へと潜り込んだ沈黙の聖騎士が担ぐようにその体を地面に投げ落としたのだ。
『強くなったな』
静かな目で彼を見下ろしながら、沈黙の聖騎士が手言葉を作った。
「貴方が討つに足るものには成れませなんだ」
沈黙の聖騎士が黙って腰に差した両手柄の長剣を引き抜いた。黒玉の輝きを持つその刃をゆっくりと振り上げる。
結局のところ、この刃を抜かせる事が出来なかった時点で、最初から負けていたのだ。師の持つ尋常ならざる武具の中でも破格の神器魔剣。それを抜いた時こそが、すなわち全力であると言う事だ。
「待ってください!!」
師の剣を下ろさせたのは、そこにあるはずのない声であった。
―――なぜここに。
状態を辛うじて起こしたローグの前に小さな背が立ちふさがる。肩口よりやや伸びた赤い髪。
ここにいないはずの女魔術師が、ローグを庇う様に両手を広げて、師との間に割り込んだ。
『与するならば、容赦は出来ぬぞ』
剣を下ろした師が手言葉を作る。
「それは関係の無き者です」
「うるさいわね! 勝手な事言ってるんじゃないわよ!! あんたが助けた命なんだから! あんたが責任取りなさいよ!! あたしはあんたに付いてくって決めたのよ!!!」
女が背を向けたまま怒鳴る。
「愚かな、貴殿は我が醜さを知らぬ」
「知ってるわよ」
さらりと言い返した女の言葉が妙に心を掻き立てる。
「知らぬッ! この醜き顔を見ろッ!! この醜き魂の有り様を見るがいい!!!」
「あんたの秘密なんて知ってたわよッ! ……それでも一緒にいたいんだから仕様がないじゃない、馬鹿!!」
振り返った女がボロボロと涙をこぼしながら怒鳴り返した。それがなんとも落ち着かない気分にさせられて、ローグは思わず口を噤んだ。
『……ならば共に冥府の道を行くがよい』
師が冷徹に答える。
女魔術師がぎゅっと目をつぶる。それでもローグの前からどこうとはしない。
―――ここで立てぬなら、体よ砕け散るがいい。
僅かに残った全身の力を振り絞る。
力が入らぬ足に無理やりに力を込め、ローグは立ち上がった。
体の芯から僅かにこみ上げてくる
「―――我が師と言えど、それはワタセヌッッ!!」
咆哮をあげ、震える足で地を踏みしめる。女魔術士を押しのけるように前に出た。
沈黙の聖騎士の視線を真っ向から睨み返す。
僅かな間があって、沈黙の聖騎士が大きな溜息をついた。
長剣を腰の鞘に戻す。
「……殺サヌのですか」
『元よりな、そんな資格は吾輩に在りはしないのだ』
沈黙の聖騎士が、眉間に深い皴を刻みながら、手言葉を作った。
『大輪を咲かせた事を理由に刈り取るならば、苗木の世話などせずに摘むべきであろう。―――それでも、毒華として咲き続ける事しかできず、己の毒に苦しむなら、介錯するのも師の務めかと思ったが……』
沈黙の聖騎士が女魔術師とローグを交互に見た。
「?」
唐突に視線を受けた女魔術師が不思議そうな顔をする。
沈黙の聖騎士が剣帯を外すと、黒い両手柄の長剣を鞘ごと掴んでローグに突き出した。
『―――それは餞別だ』
「受け取れませぬ。この度は師に頂戴したものをお返しに……」
『驕るな未熟者。貴殿が始める戦。立ち塞がる剣はみな貴殿より強い。生中な剣では道半ばに折られて潰えるぞ』
もとよりこの世の摂理に戦を挑むのだ。王国も勇者も冒険者も全て敵にする。師の指摘は真実であった。
ローグは剣を受け取ると、先ほどの戦いで捨てた斧を拾った。
『だがな、例えその剣は手放したとしても、後ろの娘だけは何があっても手放すな。貴殿が道を全うできるか否かはそこに掛かっていると心得よ』
自身の剣と斧を師の足元に置き、膝まずく。
「――未熟ゆえ、理解いたしかねますが、金言確と」
軽く頷く師の顔には深い皴が刻まれていた。それがどこか寂し気に見えて、何故か心臓が締め付けられるような感がある。
『娘よ。貴殿の道は残酷なものとなるぞ』
「きっと後悔するんでしょうね……。それでも、私は―――絶対にこの人を諦めない」
『なれば、我が放蕩息子を頼むとしよう』
そうして沈黙の聖騎士は僅かにほほ笑んだ。
沈黙の聖騎士は弟子が去っていった道を一人眺めていた。
『盤外にて賽を振りし者達よ……今は少し恨むぞ』
見る者もなく作られた手言葉は、はたして誰に向けて作られたものか。
一陣に吹き抜けた風だけが知っていた。
ダクソ風武器解説
裏切りの小盾
頑丈なオークの木から削り出した板と聖銀の薄板を重ねた逸品。
センターボスを作ったドワーフの鋼は折れた猟刀やこれまでに壊れた武器を素材としているらしい。
その盾は贈り物だった。轡を並べた友の為の贈り物。
仲間の為に傷つく彼の為にしつらえた贈り物。
だが、ある時彼は裏切った。
彼の為の盾は彼を殺す時に携えるものとなった。
「疾風」の下りは大先輩である蝸牛蜘蛛先生の「ケンプファーゲシェフト」からのオマージュです。
ちなみにちょっと解説するとこの技の名前は「ツールフランセ」といい。
フランス騎士が盾を突破するのに使ってたテクニックとされてます。
勿論無茶苦茶難しいです(笑)。
原則、回転技は隙が多いのでかなり変則的な技と言えます。
ともあれ、相手の攻撃は利き手から来るという相手の経験則を利用して、相手の盾の裏側に回り込むというステップワークとされてます。
おそらくケンプファーでもそうだと思いますが、実在の国名は入れたくなかったのでこうなりました(笑)