ゴブリンスレイヤー THE ROGUE ONE    作:赤狼一号

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本編はもう少し時間かかりそうです。



外典 とある聖騎士の手紙

親愛なる我が友へ

 

 

 貴卿と最後に冒険をしたのはいつのことであったか。年を重ねてなお未だ我が胸に輝き続ける懐かしき思い出の一つである。そういえば、風の噂で貴卿が弟子をとったと耳にした。

 

 忍びの者としては指折りの実力者である貴卿だが、性格の方も指折りの偏屈者である事を友として忠告しておく。尤も貴卿に言わせれば吾輩も大した酔狂人なのだろうが。ともあれ、貴卿に師事した少年の苦労が目に浮かぶようである。

 

 もっとも、復讐に身を焼く者であれば貴卿のように用意周到で手段を選ばぬ師に教えを受けたほうが長生きできるようになるのやもしれぬ。そういう意味で言えばかの少年は運が良かったのであろう。

 

 聞けば少年の方も拷問じみた貴卿の教えに良く付いていっていると言うではないか。貴卿の弟子であれば優秀な冒険者となる事は疑うべくもない。良き後継者に恵まれたことを祝福する。

 

 そう言えば、こうして筆をとったのは貴卿に知らせたい事があったからだ。

 

 遅まきながら吾輩も従士(スクワイア)をもった。なかなかに面白い若者だ。吾輩と同じく無口な性質なようで、やりやすくて助かっている。

 

 小鬼どもと何か因縁があるようで、連中を相手にするときは目の色が変わる。もっとも呪われているとかで顔を見せたがらぬ変わり者ではあるがな。こう書くと、いやしくも聖騎士たる者がそのような怪しきものを従士にするなど、そちらの方がよっぽど酔狂であると貴卿ならば言うであろう。

 

 それに関しては実のところ、吾輩自身も少々驚いているところだ。

 

 ただなんとなしに面白そうだという一念で従士(スクワイア)とした。一応言い訳をすれば、吾輩の勘が告げたのだ。この者は人に仇なす悪ではないと。幾多の大悪に肉薄しこれを斬り捨ててきたゆえの勘だ。もし、吾輩がこの者を斬るときが来るとすれば、それはこの者が世界の理を根幹から揺るがしうる大悪を成し遂げた時のみであろう。

 

 これを当人に告げた時がまた傑作でな。ならば斬り捨てられるに足る大悪と成りましょう、と嘯きおった。まったく面白い若者であろう?

 

 よりによって悪をなすために、聖騎士たる吾輩の弟子となるのだから。だが、妙に浮世ずれしていなくて可愛げもある。吾輩に討たれたものは神の御許に送られるという吟遊詩人のくすぐり文句を真面目に信じておるのだからな。

 

 珍しく期待した素振りで吾輩に尋ねおった。「それは本当か」とな。あそこまで本気で神に手をかける事を企む者など今時そうはおるまい。確かに神々は吾輩らを見守っておられるが、そのすまう世界は吾輩らには到底手の届かぬ場所なのだ。おそらく神々すら直接手の出しようがないほどの・・・。

 

 それでも許せぬのであろうな。そうまで世界に絶望し、憎悪している者を久々に見た。随分と闇の深い目をしておったよ。おそらくは貴卿の弟子の少年もそうなのだろう。

 

 この広い世界にあって、吾輩の手はあまりに短い。故に手の届く大悪は必ず斬り捨ててきた。

 

 だが、現実は小鬼のように小さくとも普遍的に蔓延る悪が、より多くの人々を虐げているのだと思い知らされる。国も吾輩達のような上位の冒険者も魔人だ邪教団だと言ったばかりを相手取って小鬼のような日常に理不尽をもたらす存在を放置しているのが現状だ。

 

 いっそ、貴卿と共に辺境を放浪するという道を選ぶべきであったかと今更ながら思う。

 

 件の少年と貴卿はそうして出会ったのだろう? 吾輩と従士も、まあ似たような馴れ初めだ。

 

 いやはや頭に麻袋一つ被って小鬼呪術師を撲殺しておるのを見た時は「はて一体、いかな魔物であるか」と頭をひねったぐらいである。

 

 とにもかくにも貪欲に吾輩の技を吸収し、日々成長する若者の姿を見るのは感慨深い。貴卿もおなじような教育者の喜びを感じているのではと思っておる。こんな事を書けば貴卿にはまた「余計な世話だ」と怒鳴られそうだがな。

 

 だが吾輩はこの若者を見ていて思うのだ。

 

 我らの手が届かずこの世界に絶望してしまった者達こそ、同じように世界の理不尽の中に取りこぼされる人々の光になれるのではないかと。

 

 この世界の理不尽に悲しみ、打ちのめされ、希望を失い。それでも、立ち上がろうとする彼らならばそういった零れ落ちてしまった人々の光になれるかもしれぬと。

 

 貴卿なら吐き捨てるようにただの願望だと一蹴するであろう。

 

 その通り、これは吾輩の願望なのだ。

 

 老いさらばえ後を託したくなった老人の戯言なのであろう。貴卿の弟子の少年が一人前になったら吾輩の従士と一緒に冒険させてみるのも一興かもしれぬ。

 

 吾輩と貴卿の様に友となるか、それとも相容れず敵となるか。骰子の目がどう転ぶかはわからぬ。

 

 我ら老人に出来ることは彼らを教え導き、その前途を祈ることであろう。

 

「若人に栄えあれ」

 

 出来れば貴卿にもそう祈ってほしい。神殿に仕える身である吾輩は元より、それでなくとも我らはすべからく「祈るもの(プレイヤー)」なのだ。

 

 

 いやはや長くなってしまった。

 

 またぞろ貴卿にお叱りをもらっては敵わんので、この辺りでやめておくとしよう。

 

 健やかであれ我が友よ。いつか若人達を肴に杯を交わそうではないか。

 

 

 

 

                                 汝の友 沈黙の聖騎士

 

 

 

 

 

 

 

 

沈黙の聖騎士へ

 

 

 お前が先だっての手紙で長々書いたようにワシはクソ餓鬼を鍛えるので忙しい。そもそも一言たりとも喋らん上に言葉なんぞ不要と言わんばかりの鉄面皮のくせして、なんだってお前は手紙だと異様に饒舌になりやがるんだ。

 

 世の中の人間はお前ほど筆まめじゃねえ。まったくもって面倒極まりねえが、腐れ縁に免じて返事を書いてやる。

 

 と言ってもお前さんがさんざんっぱらワシの言いそうな事を書いてくれたお陰で、書くことなんざほとんどねえ。しいて言うなれば、互いに面倒な弟子が出来た事は分かった。

 

オメエが何だってそんな酔狂な奴を弟子にとったかは知らねえが、せいぜい寝首を掻かれねえように気を付けるこった。

 

 それと言っとくがあの餓鬼の頭にあるのは小鬼だけだ。

 

 てめえの弟子がどんなに強かろうが大悪党だろうが小鬼が化けてるんでもない限り、対して興味なんて持ちやしないと思うぜ。

 

 奴の頭ん中は「普遍的な悪」で「日常に理不尽をもたらす」ゴブリンどもに夢中だ。そのほかの事は俺が言ったところで興味は持たねえ。あのクソガキは最初からそう言う眼をしてやがった。

 

 お前も言ったが虐待じみた俺の本気の修行に喰らい付いてくるだけの動機が奴にはある。修業が終わったらゴブリンめがけてまっしぐらだろうぜ。

 

 お前の弟子もゴブリンに因縁があるって話だが、そういう事なら生きていりゃ必ず会うだろう。この世界は広いようで狭え。人の縁って奴は良くも悪くも色んな所につながるもんだ。

 

 ゴブリン狂いに悪党志願の相棒たあ、吟遊詩人の滑稽噺にだってありはしねえ。お前の弟子が何を企んでるか知らんがまっとうに肩を並べるよりゃ一辺やりあう方が早いだろうさ。

 

 仮に敵になったとしてもあの小僧には仕込めるだけの事は仕込む。簡単に勝てると思ったら大間違いだぜ。まあ、そんな事は今から心配するような事じゃねえ。

 

 テメエの言うとおり骰子の目がどう転ぶかなんぞ誰にも分かりはしねえんだからな。

 

 何を悔やもうが自由だが、うだうだ悩んだところで時間の無駄だ。所詮、世の中なんざなるようにしかならねえ。神様の顔色も骰子の目も見えやしねえんだ。つまるところ、配られた手札でなりふり構わず勝負するしかねえのさ。

 

 さて俺は神殿の祈り方って奴はよく分からんが、またあったときにくどくど説教垂れられても敵わんから柏手の一つくらいは打っといてやる。

 

 何のかんの女々しく悩んでいるようだが、せいぜい達者でいるこった。同じ年頃の奴に辛気くさく老け込まれるとこっちまで余計にとし食った気になってかなわん。

 

それと、餓鬼どもを肴に飲む話だが、てめえの取って置き(ヴィンテージ)を出すなら考えといてやる。

 

                            腐れ縁の偏屈者より




 先生同士の手紙ですね。ローグのお師匠さんキャラは既存のキャラにするかどうか迷ったんですが、適当な人がいないので止めました。

 ともあれ、ローグのお師匠さんは最初期のRPGの戦士みたいなキャラです。つまり魔法も使えないけど火力と防御はめちゃくちゃ高いみたいな。

 次話は書きあがっているので、書き溜めまで少々お待ち下さい。

それと毎回誤字報告してくださる方。ありがとうございます。
あえて使ってる字もあるんですが(「骰子」みたいに)大体はチェック漏れです。
やっぱり一人で完璧にというわけにはいかないので助かっています。

その他応援のコメントをいただいた方、ありがとうございます。ものすごく励みになりました。
 
 それでは今後ともよろしくお願いいたします!

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