ストレンジ・ソルジャー(ゼロの使い魔×FF7)   作:mu-ru

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Chapter 13

PM7:18

 

「コルベール先生、どうしてここが……?」

「離れの研究室にいたところで騒ぎに気が付いてね。ギーシュ君達に居場所の見当を聞いたのだ。ダンスホールでは、オスマン校長や他の教師達が生徒の救助にあたっているよ」

 ルイズの問いに答えるコルベールは、キュルケを抱えながらも、杖先をダミアンへ向けたまま離さない。その温度を感じさせない、冷たく厳しい眼差しは、ルイズの知るコルベールにはなかったものだった。

 コルベールは発明好きの変人ではあるが、彼女の知っている彼は、温厚で争いを好まない人物だった。だが、眼の前にいる彼から放たれる暗い気質は、まさしく戦いを知る者のそれであり、普段の印象とはまるで真逆だった。

 

「ジャン……、来てくれたのね。あなたってやっぱり、とっても素敵」

「……ミス・ツェルプストー、もう大丈夫だ。遅くなって済まなかった」

「もう、キュルケって呼んで頂戴って、言っているのに……」

 キュルケは弱々しく微笑む。

「気をつけて。あいつ、あたしやジャンと同じ“火”のメイジよ」

「そうか……わかった。ミス・ヴァリエール、彼女を頼むよ」

 キュルケの忠告に頷いたコルベールは、彼女をルイズに託した。

「そんな、コルベール先生、無茶よ!あいつはあの才人が手も足も出なかったほど強いのよ!」

「わかっているよ、ミス・ヴァリエール。相対する敵の強さが分からぬほど耄碌はしていないつもりだ。だが、私がこの学院の教師である以上、ここで逃げるわけにはいかないのだよ」

 穏やかな声でルイズを諭すと、コルベールは前へと進み出た。杖を構え、臨戦態勢をとる。

 

「私も君と同じ“火”の使い手だ。これ以上、君の“破壊”を許すわけにはいかん」

「コルベール……そうか、ではあなたがコルベール教授だったのか」

 厳しい視線で睨むコルベールに対して、ダミアンは余裕のある態度を崩さなかった。それどころか、目の前の人物がコルベールであることを知ると、合点がいったように笑みをこぼして見せる。

 

『あら何かしら、この男は有名なの?』

「そうとも、ミス・シェフィールド。先程あなたが話したことを覚えているかい?“白炎”のメンヌヴィルが、このトリステイン魔法学院を襲撃した事件についてだ。自分の仕事に関わることだからね、僕もこの学院のことについては、事前に下調べくらいは済ませている。それでわかったことなのだけれど、実はその事件でかのメンヌヴィルを倒したのが、このコルベール教授なのさ」

『へぇ、なんだい、このハゲのオッサンはそんなに強い男だったのかい』

 肩に乗るシェフィールドの人形は茶化したようにケタケタと笑う。

「だけど、その話について、僕には疑問が残った。メンヌヴィルは伝説の傭兵と恐れられるほどの実力を持ったメイジとして、戦場でその名を馳せていた。そんな実力者が同じメイジとはいえ、ろくに戦いも知らないであろう魔法学院の教師に敗れることがありえるのだろうか、とね。そこで詳しく調べてみると、面白い事が分かった」

「まさか……」

 会話を聞いていたコルベールの顔色が変わった。

 

「かつてこのトリステイン王国には、『魔法研究所(アカデミー)実験小隊』と呼ばれた部隊があった。トリステイン王国の魔法研究所(アカデミー)からの命令に沿って、実戦において魔法が人体へいかなる損傷を与えることができるかを検証していた闇の部隊だ。国家が命じるままに様々な汚れ仕事に従事していたらしい。まあ、まさにトリステインの暗部というやつさ。

メンヌヴィルは魔法研究所実験小隊の副隊長だった。そして……このコルベール教授こそが、その小隊の隊長だったのさ。二人は旧知の仲だったというわけだ」

「貴様……、どうしてそれを!?」

 コルベールの動揺を無視して、ダミアンは続ける。

「二人はアングル地方で行われた、とある任務を境に小隊を去っている。二十年も昔の話だ。世間一般では“ダングルテールの虐殺”として知られている。表向きは疫病が他の地域へ蔓延するのを防ぐため、ダングルテール一帯を住民ごと焼き払った事件とされている。だが実態は、ロマリア連合皇国からの要請によるトリステイン王国主導の異教徒狩りが行われていたんだ。そこではまさに、国家による“虐殺”が起こっていたのさ。

この虐殺を実行した部隊が、魔法研究所実験小隊だった。メンヌヴィルはこの事件の最中に造反を起こして隊を脱走、さらにコルベール氏も事件後に除隊している。

……面白いのは、ダングルテールの虐殺を生き残った住民が、この二人の再会の場にいたということだ。確か、アニエスという名前だったかな。彼女はトリステイン女王の肝いりで近年結成された、銃士隊と呼ばれる部隊の隊長で、魔法学院への襲撃事件があった当日は、学院の女生徒に軍事教練を行うためここに派遣されていた。どんな因縁があったにせよ、その夜はなかなか面白い同窓会だったのだろうね」

 

「トリステインの裏部隊の、隊長?まさかコルベール先生が……?」

「そうとも、ミス・ヴァリエール。君達の先生は、まさにとんだ喰わせ者だったというわけだ」

「キュルケ、あなたは先生のこと知っていたの?だから……」

「……」

 キュルケは唇を歪めて黙り込んでいる。

 ルイズは夕刻にキュルケと交わした会話を思い出す。

――怖い銃士隊のお姉さんを騙さなくちゃいけなかったからよ。都合がよかったの。

 この時ルイズは初めて、コルベールとアニエスの間に秘められた因縁を知った。

 キュルケがコルベールを無理にでもゲルマニアに連れ帰ったのは、きっと、このことが関係していたに違いない。

 

 コルベールが素早く呪文を唱える。杖先から蛇を模した炎が飛び出す。“炎蛇”は空中で幾重にも輪を描いてコルベールの周りを漂い、ダミアンに向けて鋭い牙を剥き出した。

「あの小隊のことを、何故知っている!あれはこの国の一部の人間しか知り得ない秘密だったはずだ!」

 魔法研究所実験小隊の情報は、トリスタニアの宮殿内にある王軍資料庫にしか保存されていなかった。トリステイン軍人の中でも高位の人間しか立ち入れない場所にある機密情報である。さらに、コルベールはそこに書かれていた隊員名簿から、自分の名が記されたページを破り捨てていたのだ。コルベールは、物理的にも知るうることの出来ないはずの情報を語るこの少年に、激しい警戒感を抱いた。

 

「僕はハルケギニア各国の魔法研究機関に独自の情報網を持っていてね。この手の情報は耳に入れ易いというだけさ。

だけど、秘密とは、それを知ろうとする者の前では隠すことができないものだ。生き残りだった銃士隊の女隊長も、そうだったのではないかな?阻むことは、誰にもできない。」

「お前は、何者だ」

「僕の名前はダミアン。裏家業を生業とする“元素の兄弟”の長男……、ですが」

 ダミアンはくすり、と笑う。

 

「本職は、あなたと同じです。今はこんな裏仕事に従事していますがね。僕はあなたと同じ“研究者”のはしくれなのですよ」

 

PM7:22

 

 魔法学院正面側にあるアウストリの広場に、夜の静けさが戻っていた。

 その場所に、クラウドがただ一人、大剣を両手に提げて佇んでいる。

「ううっ……」

 うめき声が聞こえる。

 そこには元素の兄弟の三人、ジャック、ドゥードゥー、ジャネットが、地に這い蹲る姿があった

 クラウドは彼らの様子を、表情を変えずにただ観察している。

 彼の眼は鮮やかな緑色に染まり、眼孔は蛇のように縦に鋭く裂けていた。

「ぐっ、うぐ……」

 ジャックは倒れた肉体を起きあがらせようと、腕に力を込めた。

 一体、何が起こった。

 そうだ、あの異邦人の眼の色が変わった後のことだ。

 先程までの接戦がまるで嘘のように、ジャック達三人は手も足も出ず蹴散らされてしまったのだ。

 俺達元素の兄弟をこうも容易く蹴散らすなど……、

 この男は、一体何なのだ?

 

「これで、もう終わりか?」

 クラウドの言葉に反応するように、ジャックが身体を持ち上げる。

 

「へへ……なんの、まだ、これからよ!」

 ジャックは杖を振り上げて、『土弾』を放った。

 無数の土弾は、しかしクラウドの大剣の一振りによって呆気なく砕け散る。

 ジャックの視界の先から、クラウドの姿が消え去った。

 そして次の瞬間には、一足の間合いにクラウドが迫っていた。

 

「ぬぅ!!」

 攻撃を防ぐため、ジャックは自身の肉体に『硬化』の魔法を使う。

 だが、そこでクラウドが放ったのは剣戟ではなく、魔法であった。

 

――『じゅうりょく』のマテリア、その初級魔法。

『グラビデ』

 ブゥン、と空間がねじ曲がるかような低周波と共に、見えない負荷がジャックの身体に襲いかかる。

 鉄壁の守りと化していたはずのジャックの肉体は、軋みを上げて、脆い稼働部から折れ曲がり、地面にめり込んだ。

 

「ぐあああああああああああああ!!?」

 思いもよらない激痛にジャックが悲鳴を上げる。

 

――な、なんだ、俺は一体何をされた!?

 ジャックは訳もわからず、混乱するほか無かった。

 

「あんた達の『硬化』とかいう魔法……、厄介だったが、短期間にこれだけ見せられれば対策の一つや二つは思いつく。その一つがこれだ」

 クラウドはジャックを見下ろして語る。

「あんた達の『硬化』は、ただ単純に肉体を硬質化させているわけじゃない。肉体を“金属”そのものに変化させていた。全身をまさしく鋼に変えることで、防御力を格段に上げる魔法なんだろう。だが、その反面、肉体に掛かる重量は相当なものになっているはずだ。普通の人間なら身動き一つ取れないだろう。にも関わらず、あんた達“兄弟”が素早い動きができるのは、何らかの方法で肉体を強化しているからか……」

 まさにその通りだった。ジャック達、“元素の兄弟”が『硬化』によって重くなった体を自由に動かせたのは、全身を強化する先住魔法を掛けているからだった。

「この『グラビデ』は、空間に強力な重力場を発生させる魔法だ。あんたが『硬化』を使うタイミングで通常の何倍もの重力負荷を掛けてやれば、いくら肉体を強化していようが、重さに耐えきれず勝手に自壊する。そう踏んだわけだ」

 

 身動きの取れなくなったジャックにクラウドは近寄る。

 その背後から、ドゥードゥーとジャネットが襲いかかった。

 クラウドは、ドゥードゥーの『ブレイド』の刃を見もせずにひらりと避わすと、そのまま回し蹴りを繰り出しドゥードゥーを吹き飛ばした。

 

「ぐあっ!!」

「このっ、喰らいなさい!」

 続けて飛び出したジャネットが、ルーンを唱える。杖先から水が絡まり、細長い鞭となった。

 

『ウォーター・ウィップ!』

 鞭は先端が複数に裂けて、四方からクラウドに迫る。

 複雑に動く鞭の群。その全てを、クラウドは人間業とは思えない動きで、二刀の大剣によって捌ききった。

 

「……っなんで、当たらないのよ!」

 息のあった連携で襲いかかったはずの二人の攻撃は、クラウドに全て防がれてしまい、全く当たらない。

もはや動くことのできないジャックは、その様子を見ていることしかできない。

 

――何かがおかしい。

 ここにきてジャックは強烈な違和感を覚える。

 ジャック達がこれまで苛烈なまでに繰り出してきた攻撃は、一度としてクラウドに致命的な一撃を与えることができなかった。唯一、クラウドに傷を付けられたのは初回の接触でダミアンが与えた、あの一撃のみである。

 ジャック達の攻撃は、今まで全て紙一重で避けられていたように思っていた。だが、本当はそうでは無いのではないか。まるで、全ての動きを読まれているかのようだった。

 

――もし、俺たちの動きを完璧に見切っているとしたら、それはもはや個人の技量の高さだけで説明できる話ではない。これでは、まるで――。

 

「俺が、心を読んでいるとでも思ったか」

「なっ……」

 心情の続きを読むかのようなクラウドの発言に、ジャックは二の句が継げなくなった。

 ジャックは確信する。この男は、人間ではない。得体の知れない本物の怪物(モンスター)なのだと。

 

「これが、ソルジャーの力の一端だ。心を読むのとは少し違う。むしろ“記憶”というべきか」

「記憶、だと。何を言っているんだてめえは!?そもそも、ソルジャーっていうのは一体なんなんだ!?」

 ジャックの問いかけに、クラウドは語り出す。

 

「……とある“世界”に、国家をも凌駕する権力と軍事力によって、全てを支配した大企業があった。ソルジャーは、その大企業が有した私設軍隊の中でも、特殊な改造を施した強化兵士達のことだ。

魔晄と呼ばれる、『星』の生命エネルギーを肉体に照射することで、超人的な身体能力を体得するに至った兵士達。……あんた達の身体と同じようなものだ。

ソルジャーはその力で戦場において多大な戦果を挙げた。単独の部隊で瞬く間に戦場を制圧できてしまう、正に人間兵器だった。

だが、いくら強化されているとはいえ、単にそれだけの理由で生身の人間が兵器の飛び交う戦場で生き残れるわけがない。

ソルジャーの肉体にはある秘密があった。魔晄の他に、とある『生物』の細胞が植え込まれていたんだ」

「『生物』だと?」

「太古の昔、隕石と共に『星』に飛来した生命体がいた。空から来た災厄と呼ばれ、地の奥底に封印されたそいつは、『星』に寄生し、『星』の生命エネルギーそのものを啜る怪物(モンスター)だった。名前は――」

 

――ジェノバ

 

 クラウドの緑色に染まった眼孔が、ジャックを捉える。ジャックは、その眼の奥に得体の知れない何者かの気配を感じとった気がした。

「その怪物には、他の生物の記憶を読みとる能力があった。自身の生存を脅かす存在が現れたときは、記憶を読みとり、怪しまれない姿を化けて、油断を誘い、殺す……、狡猾な能力だ。それは、その怪物の能力のほんの一部に過ぎないものだったが、その細胞を植え込まれたソルジャーはその力を使うことができた。……もっとも、ソルジャー達はその能力を自覚的に使っていたわけじゃないがな」

 

 もし戦場において、敵方の“情報”を、読みとることができたのなら、どれほど戦況が有利に働くことだろうか。危機をいち早く察知し、的確に敵の裏をかき、瞬く間に戦場を制圧することさえ可能になる。正に、『英雄』のような存在である。

 ソルジャー達に後天的に与えられた、第六感としか表現しようの無かった感性(センス)。その正体は、肉体に植え付けられたジェノバの細胞から受け継いだ能力だったのだ。

 クラウド自身、この事実に気づいたのは、ハルケギニアに来てからだった。サン・マロン港の事件で初めて自発的に記憶の転写能力を使って、初めて自覚したことだった。

 この秘密があったが為にソルジャーになれる素質を持った人間は、ジェノバの精神汚染に耐えられる、ほんの一握りの者しかいなかった。

 元々が人の手に余る存在なのだ。それでもなおソルジャーの研究が進められたのは、強大な武力を欲する新羅カンパニーと、狂気にとりつかれたある科学者の、底無き探求心が為だった。

 制御できない存在は暴走し、やがてそれは、全てを滅ぼす巨大な隕石を現出させる遠因ともなった。まさにクラウドの世界を崩壊させた元凶である。

 

「どうやらあんた達も普通の人間ではないようだが……俺とあんた達では、肉体に植え込まれた“狂気”の桁が違う。多少“人間離れ”した程度では、ソルジャーには勝てない。」

「……言ってくれるね。じゃあ、その狂気とやらを見せてもらおうじゃないか」

 ドゥードゥーがクラウドの話を遮り、杖を向ける。もう一方の手には、魔力を増幅する秘薬の小瓶を握りしめていた。

 

「おい、ドゥードゥー、何をするつもりだ!」

「これ以上薬を使ってはだめ!危険よ!」

 ジャックとジャネットの制止の声を、ドゥードゥーは無視する。

「お前が一体何者かなんてことは、僕にはどうでもいいことだ!僕は最強のメイジになる夢があるんだ。ダミアン兄さんよりも、ずっとずっと強いメイジに!お前を倒せば僕はきっと兄さんを越えることができるはずだ!!」

 

 ドゥードゥーは小瓶を一気に飲み干し、呪文を唱え始めた。強化された魔力がドゥードゥーの杖先に集中する。練り上げられた魔力が掲げた杖先に幾重にも纏わり、魔法学院の建造物にすら匹敵する高さの巨大な大剣を作り上げた。

 

「見ろ、これが僕の全魔力で作り上げた『ブレイド』だ!!キミにこれを正面から受ける覚悟はあるか!?ソルジャーの力とやらを、僕に見せてみろ!!」

 ドゥードゥーの挑発に、クラウドは応じた。

 

「お前の夢がなんだろうと、興味は無い。だが、正面から挑むというのなら、いいだろう。受けて立ってやる」

 クラウドは、頭上で大剣を回転させた後、身体より後方で剣を構える。

 

「来い」

 

 ドゥードゥーは、今この瞬間に勝機を賭けた。

 彼は自分の魔法の威力に、揺るがない絶対の自信を持っている。

 この男には今まで全ての攻撃を防がれてしまっている。だが、真正面から自分の全力の一撃を喰らったらどうなるか。ソルジャーとやらがいくら強かろうと、無事ではすまないはずだ。

 

 クラウドが構える、その刀身に静かに、青白いオーラが浮かび上がった。

「――リミット」

 クラウドの身体に照射された魔晄の力。

 その全てが、大剣へと集中する。

 極限までに集中した力の漲りに、大剣は激しく震え出す。

 そして、空気を断ち切るような凄まじい金切音を響かせ始めた。

「くらえ!!」

 ダミアンの巨大な『ブレイド』が振り下ろされる。

 その瞬間、クラウドは己の大剣に注ぎ込んだ力を解放した。

 

『ブレイバー!!』

 

 大剣を逆袈裟に振り上げ、強烈な突きが放たれた。

 クラウドの全身を飲み込まんとするほどの巨大さを誇っていた『ブレイド』は、その一撃の前に弾かれ、反り返った。

 

「ぼ、僕の『ブレイド』が……、弾き返された!?」

 勢いを失った光刃に向けて、間髪入れず追撃が加えられる。

 クラウドは力強く大地に足を踏み込んだ。

 爆発音にも似た音で地面が叩き割れ、突きの一撃で頭上まで上げていた大剣を力の限り振り降ろした。

 

 豪腕、一閃。

『ブレイド』の光刃はクラウドの繰り出す魔晄の輝きの前に消し飛んだ。

 

「はは……」

 クラウドの放つ閃光に飲み込まれる刹那、ドゥードゥーは笑っていた。

 見事なまでの完敗だ。まさかダミアン兄さん以外に、ここまで強いやつがいるとは夢にも思わなかった。

 これが、ソルジャー。

 だが、これで終わるものか、いつかは絶対に追いついてやる。

 こいつにも、ダミアン兄さんにも。

 なぜなら僕の夢はその先にあるのだから――。

 その思考を最後に、ドゥードゥーの意識は途切れた。

 

――戦艦の艦砲による爆撃のような、常軌を逸した一撃が繰り出された後……。

 アウストリの広場には、直線上に深い地割れが出来上がっていた。

 その傷跡が、クラウドの一撃の凄まじさを物語っている。

 地割れの終点には魔法学院の外壁があり――そこには、壁に深くめり込んだドゥードゥーの姿があった。

 

「ドゥードゥー……兄様」

 ジャネットが力なくその場にへたり込んだ。

 クラウドは、呆然とした様子のジャックに問いかける

 

「……それで、どうする。まだやるか?」

「いや……、もういい。俺たちの負けだ」

「そうか」

クラウドは静かに頷き、ジャネットに告げた。

 

「まだ息があるはずだ。助けるなら今のうちだ」

「……っ!ドゥードゥー兄様!!」

 クラウドの言葉で正気に戻ったジャネットが、ドゥードゥーのもとへ駆け出した。

「……俺たちに、止めを刺さないのか」

「興味ないね。今はそれより、向こうが気がかりだ」

「俺たち“元素の兄弟”は、何度でも、――少なくともドゥードゥーの馬鹿はまたお前に挑むだろうぜ?」

「その時は、その時だ」

「へっ、舐められたもんだ、それもソルジャーとやらの矜持なのかい?」

「……そうだ。ソルジャーは無碍に力を誇示しない。俺達には“誇り”があるからだ」

 クラウドは背を向けて、その場を立ち去ろうとする。

 

「“誇り”だって?笑わせんじゃねえよ。――お前は、ただの怪物(モンスター)だろうが」

 ジャックの言葉に、クラウドは足を止めた。

「……最初はまだ、俺と同類だと思っていたよ。戦場にしか居場所を見いだせない類の”人間”だとな。

だが、違った。お前は強すぎた。お前は人間じゃない。怪物(モンスター)だった。そりゃそうだよな、怪物には、人間様の戦場なんかちっぽけ過ぎて、狭すぎるだろうよ。怪物の居場所は何処にもない。平穏な日常にも、戦場にも。

……お前も、ダミアン兄さんと同じだ。ダミアン兄さんは誰よりも強く、賢く、そして底が知れない。恐ろしい、本物の化け物だ。

それでいて化け物の癖に、無邪気に自分の“夢”について楽しそうに話すんだ。俺は笑って返してはいるが、実際のところ俺は兄さんが考えている理想なんぞ、まるで理解しちゃいない」

 自嘲気味にジャックは笑う。

 

「なあ教えてくれよ。あんたら怪物(モンスター)は一体どんな夢を見るんだ?」

 

「……俺はもう、夢を見ない」

 沈黙の後、クラウドは答える。

「あんたの言うとおりだろう。ソルジャーのこの力を際限なく振るえば、それは怪物(モンスター)と何一つ変わらない」

 

 全てに絶望し、“誇り”を捨てた時、ソルジャーは怪物となる。

 怨嗟の火炎の中に身を投じ、『星』を支配しようとしたあの男のように。

――だから、最後まで“誇り”を捨てずに戦ったあいつだけが、本物の『英雄』だったのだ。

 

「だからこそ、俺達には“誇り”が必要なんだ」

 

――そうだろう、ザックス。

 夜の虚空に向け、今は亡き親友の名をクラウドは呟いた。

 

 




【補足:記憶の転写能力】
外伝小説にてカダージュが他人の記憶を明確に読み取る描写があり、それならばソルジャーも使用できたのではないかと設定を膨らませたもの。
クラウドは攻撃を予知できる何だかトンデモない力みたいに語っていますが、戦闘においては「恐ろしく勘が鋭くなる」程度だと思ってください。

登場人物に設定を語らせることが、不自然であるとのご指摘を頂いていますが、今回の話は今後の展開の前フリ的な意味があり、またご指摘を頂いた時には既に執筆済の内容でした。そのため展開を変更することが出来なったことについて了承いただければと思います。
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