ストレンジ・ソルジャー(ゼロの使い魔×FF7) 作:mu-ru
PM7:33
「サイト……?嘘でしょ、ねえ返事をしてよ、サイト!」
ガーゴイルの上で捕らわれているルイズが必死に呼びかける。
だが、才人はぐったりとしたまま動かなかった。
「無駄、彼は死んでいる」
冷酷なまでに、タバサが告げる。
「私が殺した」
「嘘よ……、そんなの……」
彼女の言葉にルイズの眼からは涙が溢れ、その場に崩れ落ちた。
「どうして……?タバサ……」
ルイズの声を掻き消すように、甲高い笑い声が響いた。
それはシェフィールドによるものだった。
「は、はははははははははははは!!!なんだい、あっけないじゃないか!ガンダールヴ!主を守るべきお前の使命はどうしたんだい?あろうことか主人の盾にすらなれず死んでしまうとは!まったく、情けないにも程があるねぇ!」
シェフィールドの狂ったような嘲笑に、ルイズはカッとなって反抗する。
だが……、喰って掛かろうとしたルイズはガーゴイル人形の巨大な掌に握りしめられ、押さえつけられてしまう。
「無力だね、“虚無”の力があったとしても所詮は小娘。お前には何もできない」
「うう……!」
ルイズは悔しさのあまり、拳を握りしめた。
シェフィールドの発した言葉に、ダミアンが反応する。
「“ガンダールヴ”に、“虚無”ねぇ。なるほど、僕らの雇い主が彼女に執着する理由がよく分かったよ」
「白々しいよ、ダミアン。お前はとっくに気付いていたのだろう。それとも、また仕事の値段を吊り上げるつもりかい、この守銭奴め」
「まさか、今更ケチをつけるつもりはない。仕事はきっちりとやるさ。現にもうすぐ完遂できる、あなたとの約束通りだ」
「ふん……。七号。お前にしてはよくやったじゃないか。さぁガンダールヴの死体を寄こしなさい。コイツの首を持ち帰り、我が主への手土産とする」
タバサは才人の死体から手を離すと、後ろに下った。
「趣味が良いとは言えないね、ミス・シェフィールド」
呆れるダミアンをシェフィールドは無視する。彼女は興奮した様子でガーゴイル人形の掌から降りると、地面に倒れ伏した才人に近づく。シェフィールドはサイトの髪の毛を掴んで持ち上げ、その顔を観察した。
……息をしていない。確かに、死んでいるようだ。眼を閉じたままの才人はまるで眠っているようにも見える。まだ幼さの残る少年の顔だ。
「こんな小僧に、今まで言い様にやられてきたっていうのかい。だが……それもこれで終わりだよ」
その時だった。
辺り一面に轟き渡る大きな地響きが、その場にいる全員を襲った。
「な、何だい、一体!?」
シェフィールドが驚いて叫んだ。
先程の落雷とは違う。何か、硬質のものが、凄まじい力によって破壊される、重く激しい音であった。
それは魔法学院からだろうか。学院の方角を見れば、大きな土煙が立ち昇っていた。
(あれは……、ジャック達か?)
土煙を見たダミアンは、胸のざわつきを感じ取る。
先程の大きな落雷はジャック、ドゥードゥー、ジャネットの連携による『ライトニング・クラウド』であった。あの規模の攻撃を喰らったのであれば、まずどんな“人間”だろうと、ひとたまりもないはずだ。
“異邦人”相手にダミアン以外の三人で挑ませたのは、三人の連携であれば打ち勝てるという算段からだった。負けることなど、初めから想定すらしていない。
だが、もしそれがダミアンの思い違いだったとしたら?あの落雷の後も戦いが続いており、ジャック達が追い詰められていたとしたら?
「まさか」
ダミアンは、自分の兄弟達が今まさに敗北したことを悟ったのだ。
シェフィールドとダミアンが轟音に気を取られている。
その一瞬の隙を、タバサは見逃さなかった。
「今が、好機」
シェフィードが掴んでいたサイトの頭が独りでに動いた。
驚くシェフィールドがそれを見ると、死体となったはずの少年が鋭く睨んでいた。
「なっ……!?」
眼と眼が合う、いつの間にか、彼はデルフリンガーを握っている。次の刹那に才人はシェフィールドの腕に目掛けデルフリンガーを振り上げ、斬りつけた。
「ぐあああああああああああああああ!!?」
「ミス・シェフィールド!くっ!?」
才人への対処を行おうとしたダミアンに、死角から突風の一撃が叩き付けられる。
タバサの『エア・ハンマー』だ。
シェフィールドを斬りつけた才人は、そのまま一陣の風のごとくガーゴイル人形を駆け上り、ルイズを拘束する腕を破壊する。解放されたルイズは才人に片腕で抱きかかえられた。
「悪い!遅くなった!」
「サ、サイト!?あんた、ど、どうして?だって、さっきまで確かに……」
「タバサの作戦で一芝居打ったんだ。心配させちまって、ごめんな」
「こここここここここここの、この馬鹿、馬鹿サイト!!ほ、本当に死んじゃったと思ったじゃないの、もう~!!!」
ルイズは顔を真っ赤にして泣きじゃくり、才人の腕の中に顔を埋めた。
「……やられたよ。まさか仮死の魔法を使っていたとはね」
ダミアンが苦々しい顔で、才人に掛けられていた魔法を看破する。
「仮死の魔法……そうか!ミス・タバサが才人君に処置を行ったのか!」
「……ジャンをゲルマニアに連れて行く時に使った魔法ね」
遅れてコルベールとキュルケも理解する。仮死の魔法とは、水系統の禁呪に属する高等魔法であった。これを使えば一見して死体と見分けがつかない為、対象者の死を偽装することができる。
以前、コルベールが“白炎”のメンヌヴィルと対峙した際、大怪我を負った彼を安全にゲルマニアに移送するためタバサが使用した魔法だが、今回はシェフィールドとダミアンを欺いて至近距離に近づくために用いたのだった。
「注意深く観察していれば、見破ることもできただろうが……、まさか君がこのタイミングで僕たちに対して行動に出るとは思わなかったよ」
冷静に分析するダミアンとは対照的に、シェフィールドは斬られた腕を押さえつけながら、怒りそのものの形相で叫んだ。
「7号!貴様、これは一体何のつもりだ!!」
「今日限りで私は北花壇騎士を辞める。だから、もうあなたの命令は聞かない」
「なんだと……!?気でも狂ったのか、我が主の駒風情が!!お前に『命令に従わない』なんて選択は存在しないんだよ!」
「そう……私には、はじめから選択肢なんて存在していなかった」
タバサは首を振る。
いつだったかクラウドは、タバサは自分自身で今の道を選択したと言ってくれた。
――でも、違う。本当は違うのだ
「全てを失ったあの日、あなた達は私へ二つの選択肢を突き付けた。何もかもを諦めた死か、従順な生か。私は、その二択に抗う為、復讐の道を選んだ。……選んだつもりでいた。私は、それを自分の意志で決めたものだと思い込んでいた。でも、そうではなかった。
結局、私はずっと、叔父に誘導されるまま、駒として、示された道を進んでいただけだった。だから今も、こうして何かを失うことを強いられる。……私はもう、それをやめる」
「やめる?ならどうするって言うんだ、結局全てを諦めるのかい?」
「諦めない。この学院の皆を裏切ることはできない」
「ならばお前は自分の母親を見捨てるのか!母親の心を癒す薬は欲しくないのか!」
「見捨てない。心を癒す方法は自分で必ず見つけ出す。
「なっ……!」
シェフィールドが絶句する。
「母様も、この魔法学院の皆も、私にとっては大切な存在。どちらか一方しか選べない、そんな未来を私は選択しない。私は、全てを選ぶ」
「ふ、ふざけるな!そんな餓鬼の我儘みたいな理屈が通ると思っているのか!」
「通らないなら、通すようにするまで。我儘だろうと構わない。決して自分の意志を曲げない。そんな強さがあることを、私はこの学院で出来た大切な親友から学んだ」
「タバサ……」
キュルケが思わず言葉を漏らす。
だが、そんなタバサを、シェフィールドは嘲笑する。
「不可能だよ、お前が相手をするのはガリアという大国だ。お前一人に何ができるって言うんだい」
「タバサは一人じゃねぇ」
二人の会話に才人が割って入る。彼はルイズを地面に降ろすと再びデルフリンガーを構えた。
「サイト……?」
「ルイズ、俺はタバサから全部聞いたんだ。あいつは今までずっとガリアに無理やり言うことを聞かされていたんだ」
・ ・ ・
――あなたに、お願いがある。
あの時、森の中で才人と対峙したタバサは、そう話を切り出した。
「お願いって、何だよ」
「元素の兄弟の裏をかきたい。協力して欲しい」
「お、おいおいちょっと待て。いきなり過ぎてよくわかんねぇよ。事情を教えてくれ」
「……」
若干の躊躇を見せたタバサだったが、彼女は頷き、語り始めた。
自分の素性と、その過去を。
――タバサが実はガリアの王族であること。
――彼女の父親が現ガリア王である叔父に殺されたこと。
――母親がタバサを庇い、毒薬を飲まされて心を病んだこと
――以来、数え切れないほど多くの危険な任務に就かされてきたことを。
それは、タバサの過酷な半生の数々だった。
「なんだよ、それ。酷過ぎるじゃねえか」
才人はタバサの壮絶な過去を聞いて、怒りに震えていた。
「前にラドクリアン湖で相棒と戦ったのには、そういった経緯があったってわけだな」
「……タバサ、お前は一人で戦っていたんだな。そうやって、今までずっと」
タバサは頷く。才人は何か考えているようだった。
「私が戦おうとしているのは、ガリアという大国。個の力では立ち向かうことすら到底敵わない相手。……私は今、あなたにとても無理なことを頼もうとしている。でも――」
「待った」
タバサの話を才人が遮る。
「相棒?」
「タバサの話はよく分かったよ。今までお前には助けられっぱなしだったから、お前が自分のこと打ち明けてくれたのが、すごい嬉しいんだ。……だから、一言でいいんだ。教えてくれ。タバサは“俺たち”にどうして欲しいんだ。」
その言葉にタバサの思考は止まる。
――どうして欲しい?
――私はいったい、何をしたいのか
心に浮かんだのは、クラウドの事。
たとえ過酷な現実にあっても、幻想にはもう逃げない。
何があっても前に進むという、強い覚悟を秘めたその生き方。
――私は前に進みたい。彼のように。
細く息をして
吐き出す。
そして、決心する。
今まで誰にも言えなかった、その言葉を口にすることを。
「私を、助けてほしい」
「わかった。まかせろ」
その言葉を待っていたと言うように、才人は笑って見せた。
・ ・ ・
「俺、タバサのこと何にも知らなかった。けどよ、今までそんな立場とか関係なしに俺たちの事何度も助けてくれたじゃねえか。……そんな奴を、俺は放っておけねえ」
「サイト……」
「ってなわけでさ。俺はタバサを助けるために戦うことにした。だからルイズ、一緒に協力してくれ」
はぁ、とルイズは大きな溜息を吐いた。
ま~た、この馬鹿使い魔は勝手に突っ走るのだからどうしようもない。
タバサの為にガリアに喧嘩を売る?
相手は世界一の魔法大国だ。国力もメイジの数もトリステインとはまるで比較にならない。
助けるといったはいいがその先の事はまるで何も考えていないのではないだろうか。
昔のルイズなら、こんな無茶な事、最初から反対するだろう。
――でも、あのタバサが私たちに助けを求めたのだ。
トリステイン魔法学院一番の優等生。でも、何を考えているのかよくわからなくて、ルイズは彼女が苦手だった。
だけど、彼女は誰にも言えない深い事情を押し込めて、サイトの言う通り、いつも理屈抜きに自分達のことを助けてくれた。
なら私たちだって理屈抜きにタバサを助けるべきではないか。
タバサは変わった。でもルイズだって昔とは違うのだ。
「一人でカッコつけて、ご主人様に偉そうにすんじゃないわよ、バカ犬。私だってやる時はやるんだからね」
「へへ、そうこなくちゃ」
「サイト、ルイズ……ありがとう」
感謝の気持ちを言葉にしたタバサは再びシェフィールドに向き合う。
「確かに、私一人では無理かもしれない。でも、今の私にはこの学院で過ごしてきた中で皆と築いてきた大切な繋がりがある。それは、昔の私にはなかったもの。……私はそれに賭けることにした」
「貴様……!人形の分際で!!」
「わたしはもう、あなた達の人形ではない」
タバサの言葉にシェフィールドの怒りが頂点に達したように見えた。
顔面が蒼白になり、ガクガクと震えて、その場に倒れこむ。
だが……そこにシェフィールドの姿はなく、別の物に変わっていた。
「人形……スキルニル」
タバサがその正体を呟く。今までシェフィールドだと思っていたものは、スキルニルと呼ばれる人間の外見、正確、能力を模倣する人形だった。
初めからシェフィールド本人はこの場所にいなかったのだ。
――あなたの裏切りは、よくわかったわ。
どこからともなく、シェフィールドの怒りに満ちた声が辺りに轟く。
――ダミアン、7号とヴァリエールの娘を除く、そこにいる全ての人間を殺しなさい。愚かな小娘に、誰に歯向かったのか教えてやれ!
「やれやれ……、人使いの荒いことだ。だが雇い主の命令では仕方ない。実は、僕も急用が出来たのでね。悪いけれど、手早く済ませるとするよ」
ダミアンの言葉に、その場にいた者達全員に緊張が走る。
そう、この男をどうにかしなければ、タバサにも、才人達にも未来はない。
才人がダミアンの背後を取り、デルフリンガーで斬りかかった。
だが……、それは通用しない。
ダミアンはデルフリンガーの切っ先を『硬化』した左手であっさりと掴みとった。
「うっ!?」
「君も懲りないね」
太刀筋を完全に見切られている。何とか振りほどこうとするが、デルフを掴んだ腕はまるでびくともしない。
――何て腕力だ!
ダミアンはそのまま才人をデルフリンガーごと“持ち上げて”思い切り地面に叩きつけた。衝撃が、才人の全身に襲い掛かる。
「かっ……!!!!」
「さっきと事情が違うからね、今度はちゃんと殺してあげるよ。ガンダールヴ」
ダミアンが足を振り上げる。『硬化』した足で蹴り殺すつもりなのだ。
「……ッ!!」
ダミアンの行動を阻止するため、タバサが呪文を唱える
『ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウインデ!!』
タバサが氷で作り上げた巨大な『ジャベリン』がダミアンに向け投擲される。
だが、それすらも通用しない。ダミアンはデルフリンガーから手を放すと、タバサを見もせず『ブレイド』を出現させて氷の槍を粉々に切り刻んだ。
タバサの攻撃を無視して、そのまま『硬化』した足を振り下ろす。
「喰らったら死ぬぞ!動け!相棒!!」
デルフの言葉に奮起して、才人は無理矢理体を動かす。
タバサの『ジャベリン』を防ぐための動作が一瞬の遅延となり、才人に時間を与えた。
間一髪、才人はダミアンの蹴りを躱す。
「サイト!!」
才人がダミアンから離れると、ルイズとタバサが駆け寄ってくる。
ルイズは才人を庇うように杖を向け、タバサは才人に治癒魔法をかけた。
「タバサ……、すまねぇ」
「じっとしていて」
「これで終わりかい?こんなものかい?……つまらないね、ガンダールヴ」
退屈そうにダミアンが言う。
――くそ、やっぱりコイツ、桁違いだ
人間とは思えない膂力に、他のメイジを遥かに凌駕する魔力。
まさに、
タバサのことを絶対に守ってやりたいのに……、どうやったらこいつを倒せるのだろうか?
「花壇騎士7号、……いやミス・タバサ。全てを諦めないという、その決意は大いに結構だ。だが、この現状を見るといい。君の言う繋がりを頼りに力を合わせても、僕一人に歯が立たないじゃないか。……人は困難に立たされた時、不確かなものに縋ろうとする。それを“希望”などといえば聞こえはいいが、僕からすればただの現実逃避だ。はっきり言ってあげよう。君のやってきたことは、全て無駄だ」
タバサが杖を構える。その瞳には、まだ強い意志が残っている。
「……それでも私は、皆との繋がりを信じる。私は、諦めない」
「ならば君の繋がりはここで無に帰す。僕がそうするからだ!」
ダミアンの『ブレイド』が、タバサ達に迫った。
……だが、タバサ達は無事だった。
彼女達の前に、一人の青年が立ち、ダミアンの攻撃を防いだからだ。
「君は……!!」ダミアンが驚く。
ダミアンは、その人物目掛けて両腕で『ブレイド』を振るった。
「その繋がりに、俺も混ざろう」
紅と蒼。二つの閃光が空間で激しく弾けあった。
激しい剣戟の衝突に、地面が抉れ、轟音が狂乱する。
だが、彼は一歩も退くことはなく、嵐の中心に立ち向かう。
『ブレイド』の乱撃を、彼は全て捌ききった。
「あなたは……」才人が呟く。
夜の風に金色の髪がなびく。
彼は悠然として、そこに立っていた。
クラウド・ストライフ。
ハルケギニアとも地球とも異なる場所から来た、異邦人。
「答えは、見つかったのか」
クラウドの言葉に、タバサは深く頷いた。