ストレンジ・ソルジャー(ゼロの使い魔×FF7) 作:mu-ru
PM7:40
夜の闇に、刃が交わる。
ダミアンの魔力で創り上げた『ブレイド』。そして、クラウドの身の丈を越える巨大な剣。
その二つが、烈々たる攻勢を繰り広げていた。
息も突かせぬ乱戦を突破し、クラウドがダミアンに大剣を叩きつける。
空気の振動と共に、分厚い金属音が鳴り響く。
ダミアンは『硬化』した腕で受け止めたが、鉄と化したはずの腕は軋み、衝撃に耐えきれずに膝をついた。
(——ッ重い!)
初遭遇時の一撃とは、まるで次元が違う。なんという、打ち込みの強さだ。
ダミアンは歯を喰い縛り、なんとか堪えてみせる。
重さに身を任せ、両足を広げて身体の重心を低く、大剣を下に捌いた。そして、がら空きとなったクラウドの足下を両手の『ブレイド』で狙う。
だが、その反攻をクラウドは読み切っていた。
捌かれた大剣をそのまま地面に突き差して、反動で自身の身体を持ち上げた。
『ブレイド』は大剣に防がれ、ダミアンの眼前で火花が瞬く。
そして、頭上を見てはっと息を呑む。クラウドが次の攻撃体勢へ移っていた。
大剣から一時的に手を離し、空中で身体を回転させて得た遠心力を利用して、刺さったままの大剣を無理矢理掘り起こすと、渾身をもって真上から垂直に叩きつけた。
轟音に大地が崩壊し、陥没する。
それは、まるで隕石の衝突であった。
クラウドのインパクトを中心に、破壊の衝撃が円状に広がり、大地に巨大なクレーターを創り上げた。
「…………………!!」
辛うじて回避したダミアンに、思わず戦慄が走る。
距離をとった相手を、クラウドが追撃する。
大剣に内蔵されたマテリアが輝き、魔法が解き放たれた。
『三連ファイガ!!』
三つの巨大な炎の塊がダミアン目掛けて発射される。
だが、ダミアンを捉えたかに見えた火炎は、命中する目前に急激に膨れ上がり燃え尽きてしまった。
火炎が消えると、中から両腕を構えた体勢のダミアンが姿を現す。
手応えなく消失した魔法を、クラウドは訝しむ。
「ミスタ・ストライフ、そいつは”火”の強力なメイジよ。杖は自分の腕に仕込んでいるの!炎の魔法は相殺されてしまうわ!」
キュルケが助言を叫ぶ。
「……ファイガを、打ち消したのか」
「炎の扱いにおいては、僕の方が上だ」
ダミアンが荒い呼吸で言い放つ。その顔に、今まで崩さなかった余裕の表情は既に無い。
ダミアンが勢い良く腕を広げると、両の手からドゥードゥーの物と同等の巨大さを誇る、二刀の紅い『ブレイド』が出現する。
「僕は過去を後悔などしない。だが、失敗は認めるべきだろう。見誤っていたよ。君の相手は、初めから僕がするべきだった!」
ダミアンが突撃を敢行する。クラウドは大剣を斜めに構えて持つと、それを受けて立った——。
「すげぇ……」
目の前の光景に、才人が驚嘆をこぼす。
「おでれーた。あの兄ちゃん、ここまで強いとは」
「な、なんなの、あいつ……」
デルフリンガーとルイズも、眼前の戦いに息を飲む。
それはキュルケやコルベールも同じだった。彼女たちの魔法がまったく通用しなかったダミアンを、あのガンダールヴの力を持ってしてまるで歯が立たなかった
「まさか、ここまでとは思わなかった……」
「ミス・ツェルプストーは知っているのか、彼の事を」
「いいえ……ジャン、私も今日会ったばかりなのよ。ねぇ、タバサ、彼は本当に何者なの?」
キュルケは彼の正体を知るであろう彼女に問いかける。
そのタバサは、クラウドの戦いを、熱い眼差しで見守っている。
キュルケが見たことのない、タバサの顔だった。
「彼は、私に大切な事を教えてくれた人」
——そして
今までに無い、強い感情が湧き上がるのを感じて、タバサはぎゅっと胸を掴んだ。
——そして彼は、私の
紅い波紋が弾けて、空間へ幾重にも広がる。
ダミアンの二刀の『ブレイド』が、クラウドの一撃の前に消し飛んだ。
PM7:40
魔法学院から少し離れた森の中で、シェフィールドは戦いの情勢を俯瞰していた。
——魔法学院正面庭先には“元素の兄弟”のジャックとドゥードゥーがいる。彼らは既に戦う力も無く、学院の教師達に取り囲まれている。
——そして学院外壁を出た森の側。“元素の兄弟”のリーダーであるダミアンが戦闘を続けているが、それも一方的に押されている。
偵察用ガーゴイルの眼球に仕組まれたマジックアイテム『遠見の鏡』を通して伝わる光景は、彼女にとって深刻な現状であった。
「何故だ……!」
シェフィールドには、わからなかった。
“元素の兄弟”の力は本物だったはずだ。
彼らの圧倒的な実力を前に魔法学院の熟練したメイジ達は、まるで歯が立たなかった。あの憎きガンダールヴさえ、ダミアンの前にいとも簡単にねじ伏せられたのだ。
すべてが、上手くいっていたはずではないか。ならば何故今、ここまで追い詰められることになったのだろうか。
すべての誤算は、相手方にさらに規格外の
——そうだ、あいつだ。あの異邦人。
“元素の兄弟”をたった一人でことごとく打ち破り、この戦況を全てひっくり返してしまった。
なんという強さだろうか。まるで悪夢を見ているようだった。
どうすればいい、撤退するしかないのか。
もはや対抗する手段は残されていない。
だが……このまま何もできずおめおめと逃げ帰れというのか?
「……冗談ではない」
シェフィールドに憤りが募る。
「私は我が主ジョゼフ様の最優秀の手駒だ!そうでなければならない!あの方の役に立てない私に、存在価値などない!!」
彼女の任務は“虚無”であるルイズと“異邦人”の捕獲だった。
これまでの戦いを見ていれば、あの“異邦人”を生かしたまま捕らえるなど絶対に不可能であることはわかっていた。それはもう諦めるしかない。
だが、せめて“虚無”だけでも連れ帰らなければ、ジョゼフ様に申し開きもできない。何とかあの小娘だけでも、捕らえることができないだろうか。
「苦戦しているようだな」
「誰だい!?」
必死に思考を張り巡らせていたシェフィールドは、背後に近づくその存在に気づくことができなかった。
振り返った先にいた男を見て、彼女は驚いて口を開けた。
「あんた、今まで一体どこにいたんだい?」
「必要なら、手を貸そう。ガリア王の僕よ」
PM7:44
『ブレイド』が弾け飛んだ反動で、ダミアンは後方へと吹き飛ばされた。
空中で体勢を立て直し、膝をついて着地した彼は、激しく息を切らしながらも努めて冷静に、自身の置かれている現状を把握しようとした。
ここまでの戦いで、魔力の大分を使ってしまっている
応援は望めそうにない。弟達は無事だろうか。向こうの状況も気がかりだ。
状況は圧倒的に劣勢。
——まさか僕が、ここまで追い詰められることになるとは夢にも思わなかった。
“元素の兄弟”はこれまで一度たりとも任務を失敗したことがなかった。
こんな窮地に陥ったのは、ダミアンにも初めての経験であった。
さて、どうするかと、ダミアンは思案する。
戦いを継続すること自体はまだできる。
だがこの男を倒すには、自身の残存する魔力を全て注いで挑む必要がある。
はたして、それでも勝てるかどうか。ダミアンの全力を持ってしても、この男を倒せる確証はない。
そして、もし仮に“異邦人”を倒したところで、その時ダミアンの魔力は完全に枯渇しているだろう。そうなっては、この場から逃走する手段を失い、もはや打つ手が無くなってしまう。
僕には、なによりも優先しなければならない“夢”がある。
それを叶えるためにも、ここで終わるわけにはいかない。
この場は撤退をするしかない―—。
「どこに行くつもりだ」
結論を決めたダミアンの眼前に、クラウドがいた。
思考よりも先に身体が動き、『硬化』でガードする。
激しい亀裂が入る音が響き、後方へ弾かれる
ダミアンの腕の防御した箇所に、大きなひび割れが刻まれた。
『硬化』が解けると、それは痛々しい裂傷に変わり、血が吹き出した。
「あんたを逃がすつもりはない。ガリアのことを、聞かせてもらうぞ」
クラウドが大剣の切っ先を向けて告げる。
「……やれやれ、つくづく思う通りにさせてくれないね」
ダミアンは構え、戦いを続ける覚悟を決めざる得なかった。
・ ・ ・
勝負はあったと、才人は思った。
クラウドの実力はダミアンを遥かに凌駕している。
才人は今、自分の力を遙かに越えた戦いを目撃し、強い衝撃を受けていた。
自分の強さを過信していたつもりはなかった。
才人の力は“ガンダールヴ”のルーンによるものであり、それはルイズを守るために与えられたものであることは重々承知していたつもりだった。
だが、これまでいくつもの死線をくぐってきた中でガンダールヴの自分よりも速く動ける相手はいなかった。才人の振るう剣を捌ける相手もいなかった。
だから自分は、剣の腕なら誰よりも強いのだと、そう思っていた。
でも、違う。
この世界にはもっと、こんなに凄い人がいるのか——。
才人はクラウドの戦いを見て、己の無力さを思い知ると共に、何故か高揚感を感じていた。
なんでだろう。俺、すごくわくわくしてる。
これは、憧れという奴なんだろうか。
「ルイズ。俺もっと強くならないとな。お前の為にも」
ルイズに話しかけるが、返事がなかった。
「ルイズ?」
振り返るとルイズがうつ伏せに倒れていた。
彼女は眠っていた。その小さな身体から、スースーと微かな寝息が聞こえる。
ガサリ、と足音が立つ。才人はとっさにデルフを構えた。
心がざわつく。なぜだか嫌な予感がした。
森から姿を現したのは、長身の痩せた男だった。つばの長い、羽のついた帽子に隠れて顔は見えなかった。
腰まで伸びた長い金色の髪を靡かせて、男はルイズに近づいた。
「なんだ、お前」
才人を無視して、男は眠っているルイズを観察する。
「このような娘が“悪魔の末裔”とはな」
そう憎々しげに漏らすと、男はルイズの腕を掴んで持ち上げる。
「相棒待て、こいつもしかして……」
「おい、何やってんだ!ルイズを離せ!」
ルイズを連れ去ろうとする男に目がけて、才人はデルフを振り下ろした。
だが、その剣は男に届かなかった。男の目の前で空気が歪む。まるでゴムの塊に切り込んだかのようだった。
パアンという音と共に、才人は後方へ弾き飛ばされる。
森の樹木に後頭部をぶつけて、気を失ってしまう。——ここまでの戦いで力を使い果たしていた才人は、すでに限界を迎えていたのだ。
才人の手から離れたデルフが真上に跳ね上がり、地面に突き刺さった。
「なんだ」
戦いに集中していたクラウド達は、その音で異常に気付いた。
森の奥から現れた男が、手を挙げて合図を送ると、一匹のガーゴイルが飛んできた。男は眠るルイズをガーゴイルに乗せようとしていた。
「待ちなさい!ルイズをどうするつもりよ!」
キュルケが叫ぶ。ほど近い場所にいたキュルケ、コルベール、タバサがルイズを連れ去ろうとする男を阻止しようとする。
タバサは杖を構えながら疑念を抱く。空気の流れを読んで気配を察知できる“風”のメイジである自分が、なぜこの男の接近に気付くことが出来なかったのだろうか。
男が、言葉を発した。
「風よ、眠りを導く風よ——」
急激な眠気がキュルケ達を襲う。
「なによ……これ……」
「これは、まさか……」
キュルケとコルベールが次々と為す術なく眠りに落ちる。
「おや、三人とも眠らせたつもりだったのだが」
未だ立っているタバサに気付いて男が意外そうな声を上げる。
ガーゴイルは、ルイズを乗せて飛び立ってしまった。
「ルイズ……!」
タバサは迂闊に動くことができず、それを見ていることしかできなかった。
タバサが男の攻撃を防ぐことができたのは、それが”風”を用いたものであったこと。そして、その“魔法”の正体に気付くことができたからだった。
杖もなしに扱うことのできる魔法。ダミアンの腕に仕込んだ杖の絡繰とは違う。自然の「生の力」を扱う。本物の——
「先住魔法……」
「どうしてお前たち蛮人は、そのような無粋な呼び方をする」
男が帽子を脱ぐ。金色の髪の中から、長く尖った耳が突き出ている。
「私は“ネフテス”のビダーシャル。初にお目にかかる」
「娘っこ!そいつはエルフだ!!」
地に刺さったデルフがタバサに向かって叫んだ。
「……!」
エルフ。
それはハルケギニアの東方に広がる砂漠に暮らす長命の種族。
人間の何倍もの歴史と文明を誇り、その全てが強力な先住魔法の使い手にして、恐るべき戦士だという。
そのエルフがなぜ今、ここにいるのだ?
戦いに疲弊していたダミアンも、突然の乱入者に困惑していた。
——エルフだって?
シェフィールドの差し金による救援だろうか。だがあの女からそんな話は聞いていない。
そして気付くと、相対していたはずのクラウドが、目の前から姿を消していた。
「娘よ、お前に要求したい」
ビダーシャルが言う。
「要求?」
「抵抗しないで欲しい、ということだ。
「……ふざけないで!」
タバサは激高し、ルーンを唱える。
『ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ハガラース……』
「残念だ」
ビダーシャルが首を振る
『ジャベリン!』
巨大な氷の槍がビダーシャルめがけて投擲される。直撃すれば人体などただでは済まない。
だが、それはエルフの身体に命中する直前に、ぐるりと正反対に向きを変え、なんとタバサに跳ね返ってきたのだ。
タバサは『浮遊』の呪文で避けようとするが、動けない。いつのまにか足下が粘土のような泥に変わり、がっちりと足下を固定されていたのだ。
これも先住魔法……!
もはや手だては無く、直撃は免れないかと思われた。
だが、タバサの眼前で大剣が振るわれ、氷の槍を打ち砕く。
「無事か」
「クラウド!」
タバサが思わず叫ぶ。また、彼に助けられてしまった。
「次から次へと、こいつもガリアの刺客か」
「その気配……。そうか、貴様が……!」
クラウドを見て何かに気が付いたのか、ビダーシャルの表情が険しいものに変化する。
「大いなる意志よ。わたしをこの地に導いてくれたことに感謝する」
男は祈りを捧げると、敵意を剥き出しにしてクラウドを睨んだ。
「私はお前を滅ぼしにきたのだ。この“世界の敵よ”」
ビダーシャルもリミットカット強化版となっています。