ストレンジ・ソルジャー(ゼロの使い魔×FF7)   作:mu-ru

24 / 31
Chapter 17

ストレンジ・ソルジャー

 

 

PM7:49

 

「ガリア王に“異邦人”を捕らえるよう依頼したのはこの私だ。私には、お前を見つけだす必要があった」

 ビダーシャルと名乗るエルフは羽つき帽子の奥から鋭い眼光でクラウドを睨みつけている。

 

 “世界の敵”

 エルフから告げられたその言葉に、クラウドは困惑する。

 ハルケギニアに来てから異邦人だと珍しがられることはあれど、その様な敵視の言葉を向けられたことはなかった。

 

——こいつは、異世界から来た俺のことを、何か知っているのか。

 

「我らエルフは、古よりこの世界の秩序を保ってきた。それは精霊の力の源であり、あらゆる運命と事象を司る“大いなる意志”の導きに従い行われてきた。

 その“大いなる意志”が新たなる大災厄が迫っていると啓示を示した。我らが長年監視を続けてきた”シャイターンの悪魔”とはまるで別のモノ。ハルケギニアとは異なる世界からやってくる脅威であると。“異世界”などと……、いくら“大いなる意志”の啓示とはいえど我らエルフの同胞も信じる者は少なかったがな」

 クラウドから眼を離さずに、ビダーシャルは続ける。

 

「災厄の兆候を見つけるために、私が派遣された。そしてガリア王国の協力を得てラグドリアン湖で起きた異変のことを突き止めたのだ。あの地の精霊の力はひどく弱っていた。まるで力を吸い取られたかのようだった。そして、あの場所には何かおぞましいものがいたという、気配の痕跡が残されていたのだ」

 

「おぞましいもの……?」

 タバサが反応する。

 クラウドと初めて出会ったラグドリアン湖での一件。

 あの時、タバサの使い魔であるシルフィードは、湖の異変を見て、精霊の力が弱まっていることを感じ取っていた。

 彼女は“大いなる意志”を信奉する古き韻龍の一族である。シルフィードの所感と、このエルフが話していることは一致している。

 

「あの時、ラグドリアン湖で何が起きたのか、あなたは知っているの?」

 ビダーシャルは首を横に振る。

 

「残されていたのは気配のみだ。だから、異変があったあの場所にいた者達から情報を聞き出す必要があった。だが……その必要はもう無くなった」

「なんだと?」

「“世界の敵”だと、そう言っただろう」

 ビダーシャルは怒りを表す。

 

「お前の気配を直に感じることで、私は全てを理解した。あの時ラグドリアン湖から現れたお前こそが、これから起こる大災厄の原因そのものであると。ここでお前を滅すれば、災厄は未然に防げるだろう」

 

 タバサはビダーシャルの言葉に呆気にとられる

 このエルフは一体何を言っているのだ。

 そんな訳の分からない因縁でクラウドを滅ぼすなどと言い出したのか。

 

「……生憎だが、俺は、この世界をどうするつもりもない。あんたの勘違いもいいところだ」

 クラウドの言葉にタバサも同意して頷く。

 彼が大災厄をもたらすなど、タバサにはたちの悪い妄想にしか思えない。

 だが、ビダーシャルは指差し断罪するように言い立てる。

 

「ならば、貴様がその躰の内に()()()()()化け物は、一体何だというのだ?」

「……!」

「クラウド?」

 クラウドの僅かな動揺を、タバサは感じ取った。

 

「貴様の内にある“それ”こそ災いの根源。この世界の秩序を破壊する悪魔に他ならない。お前の存在を この世界(ハルケギニア)は許容しない。」

 クラウドは驚いていた。こいつは、自分の躰に埋め込まれた”怪物(モンスター)”に気付いている。

 

——ジェノバの存在に。

 

「話は終わりだ。ここで滅べ、異邦人」

 ビダーシャルが口語を唱え始める。

 

「森の木々よ。我は古き盟約により命令する。矢となりて、我が敵を貫け」

 風もないはずの森が、ザァッと一斉にざわついた。

 

「なんだ……?」

「気をつけて。先住魔法が来る!」

 タバサが警戒を飛ばす。

 パキパキパキ……と森の樹木の枝がひとりでに次々と折れ、ぶわッ!と大きな唸りをあげて、暗闇の中一斉に向かってきた。

 

「私が……ッ!!」

 タバサが杖を振り、風を起こして枝の矢を振り払った。

 だが、次々と矢が降り注いでくる。その数は百や二百どころではない。

 タバサの風の防壁はあっという間に突破され、無数の矢が彼女に襲いかかった。

 クラウドがタバサに被さり、身を挺して庇う。彼女を抱きかかえたクラウドの背中に木枝が深々と突き刺さった。

 

「クラウド!!」

 クラウドは痛みにも怯まず、身体を捻りながら魔法を唱えた。

 

『ブリザガ!!』

 地面から巨大な氷の結晶がせり上がった。

 氷柱は降り注ぐ無数の枝矢を防ぐ盾となり、クラウド達を覆った。

 

「異世界の魔法か。だがその程度で防ぐことはできん」

 枝矢はまるで雨のごとく押し寄せ、ブリザガで創られた分厚い氷の壁をみるみるうちに削っていく。

 崩壊は時間の問題だ。

 

「ここにいろ、タバサ!」

 

——狙いが俺だというのなら、矢はタバサよりこちらを狙うはず。

 クラウドが氷の壁から飛び出すと、案の定、矢の群は狙いを彼に定めて襲いかかった。

 彼は“バリア”のマテリア、その最上級魔法を発動させる。

 

『ウォール!』

 クラウドの周囲を淡いグリーンの膜が覆う。

 物理、魔法の両方を妨げる防御魔法だ。

 枝矢の群がその膜に接触すると、矢の勢いが著しく衰える。

 クラウドはそれを大剣のひと薙ぎで振り払う。

 後続の矢が飛んでくる前に、クラウドは全力で地面を駆ける。

 その速さは矢の追跡を置き去り、走った道を辿るように地面に枝矢が突き刺さった。

 

 己の間合いに到達したクラウドが大剣を振るった。

 だが、ビダーシャルには届かなかった。

 エルフの周りの空気が、まるでゴムの塊にくい込んだように歪み、大剣を跳ね返したのだ。

 

「無駄だ」

「なに——!?」

 

 クラウドの身体は大きく弾かれて、後方へ吹き飛んだ。

 酷く打ち付けたような痛みが全身を走る。

 ビダーシャルに加えようとした攻撃が、そのまま全て跳ね返ってきたかのようだった。

 

——攻撃を反射する魔法。

 すぐに連想したのは、クラウドの世界にある『リフレク』という魔法だった。

 あらゆる魔法をことごとく跳ね返す魔法障壁。しかしリフレクでは物理攻撃を防ぐことは出来ない。

 このままでは攻撃が通らない。だが、似通った防御魔法であれば、それを打ち消す魔法もある。

 

 クラウドは大剣を構える。

 “しょうめつ”のマテリア。ありとあらゆる魔法の効果を解除する魔法。

 これならば、ビダーシャルの周りを囲う防御壁を解除できるはず。

 

『デスペル!』

 しかし、驚愕に顔を染めることになるのはビダーシャルではなく、クラウドの方だった。

 パリィイイン、とガラスが激しく割れるような高い音と共に、クラウドの周囲にあった『ウォール』に亀裂が走り、バラバラに崩壊して消し飛んだのだ。

 

「!?」

 何が、起こった?

 ビダーシャルに変化はない。

 

——信じられない。まさか、()()()()()()()()

 そう、それはつまり、ビダーシャルの障壁を打ち消す為に放ったはずの『デスペル』が自身に跳ね返り、クラウドが掛けていた『ウォール』が解除されてしまったということだった。

 

「“反射(カウンター)”は全ての攻撃を跳ね返す。私に何を仕掛けようと、すべてお前自身に返ってくる」

 

 ビダーシャルが再び口語を唱え始める。

 地面がまるで粘土のように盛り上がり、巨大な二本の腕がビダーシャルの両側に出現し、クラウドに向けて殴りかかった。

 クラウドは巨大な腕を潜り抜け、大剣に内蔵されたマテリアの力をビダーシャルに解放しようとする。

 

『三連——』

「駄目だ。奴には何もかも全部、跳ね返されちまうぞ!兄ちゃん、俺を拾え!」

 地面に突き刺さったデルフが刀身を揺らして叫ぶ

 クラウドは一瞬、デルフに目を向け——そのまま魔法を解き放った。

 

『三連・サンダガ!!』

 巨大な雷撃が続けて三つ放たれる。

 しかし、それはビダーシャル相手にではない。

 その手前の地面に向けて直撃する。

 

 三つのサンダガの雷光が地面に炸裂して、大きな爆発を起こした。

 その電熱も風も、ビダーシャルが創りだした見えない障壁により彼に届くことはなかったが——。

 光と煙が、しばらくの間、彼の眼を遮った。

 

 視界が晴れたとき、クラウドの姿はなかった。

 辺りを見回すと、地面に刺さっていたデルフリンガー、氷の壁の下にいたタバサ、ビダーシャルが昏倒させた才人やキュルケ、コルベール達、そしてアニエスまで。全て消え失せている。

 

「退いたか」

 己の攻撃が通じぬとわかり、即時撤退。判断の早いことだ。

 対策を講じて反撃に出るつもりかもしれないが、それも無駄なこと。

 この魔法に対抗する手段はエルフの恐れる“悪魔(シャイターン)”の力以外にはない。

 

 ビダーシャルはクラウドの内にある気配を感じ取り、そちらを見やる。

 トリステイン魔法学院の方角である。

 あれだけの人数を連れて動けるとは人並みはずれた膂力だが、そう遠くには行けまい。

 このまま逃がすつもりはなかった

 

「やれやれ助かったよ。シェフィールド女史も人が悪い。あなたの様な隠し玉を持っているとはね」

 ダミアンがビダーシャルに声をかけるが、彼は一瞥もしない。

 

「勘違いをするな。ガリア王に仕える形になってはいるが、今の私は、自身の考えによって行動している」

「そのようだね。僕らはあの“異邦人”を生け捕りにするように言われていたからね。一応僕はまだ動けるけれど、何か手伝いは必要かい?」

「無い。お前達の仕事はもう終わった」

「ああ、そうかい。じゃあ大人しく退散させてもらうよ。エルフの先住魔法の力、じっくり拝見させて貰うとしよう」

 ビダーシャルがダミアンをじろりと睨む。

 

「……何か?おっとそうか”精霊の力”だったね。すまない、悪く言ったつもりはないんだ。僕ら人は君たちエルフへの畏敬と畏怖を込めて、君たちの魔法を"先住”と呼ぶのさ」

「……」

「まだ何か?」

「お前は、何故”蛮人のふり”をしているのだ」

 ダミアンは口を噤んだ。それは彼の本当の正体を見透かしたものだったからだ。

 

「大いなる意志への信仰を捨て、人の俗世に染まることを良しとしたのか。夜を生きる種族の末裔よ」

「……末裔ね。残念ながら、僕は半端者なんだ。君たちエルフの価値観なんて知ったことではないよ」

 ビダーシャルの咎める言葉に、ダミアンはふてぶてしく居直る。

「僕には手に入れたいものがある。その夢を実現させるためなら、手段なんて選んでいられないのさ」

「……そうか」

 それ以上は何も言わず、ビダーシャルは学院の方へ向かった。

 

 ダミアンはただ、その背中を見つめて考える。

 

 エルフ達の行使する先住魔法。

 それはメイジ、——人の系統魔法が生まれるはるか昔から存在する”生の力”である。

 メイジの唱える系統魔法は個人の意志の力によって世界の”理”を変えることで力を発揮する。先住魔法はそれとは反対に”理”に沿い、自然の力を利用することで発現する。

 生命力、風、火……自然の力はあまりにも強大であり、それは人の意志を軽々と凌駕する。

 この六千年、人間は砂漠(サハラ)にある”聖地”を巡って幾度と無く争い、ことごとく敗れてきた。

 エルフの先住魔法の力はそれほどまでに強力なのだ。

 

 ダミアンはため息を吐く。ビダーシャルの言った言葉を考えていたのだ。

 確かに彼は“大いなる意志”に対する信仰心を持っていない。だがそれは別に、先住魔法を捨てたという意味ではない。

 

 ダミアンは先住、系統魔法の垣根を越え、あらゆる魔法の研究を行ってきた。

 肉体に先住魔法を植え付けた身体強化の術、杖なしで系統魔法を操る方法……。彼の研究は口語で魔法を発現する先住魔法が基礎となっている。

 それらは二種類の魔法の間にある常識も境界も全て無視したからこそ得た成果だった。

 

 日々の研究の中で、ダミアンには気づいたことがあった。

 それは、系統魔法の源である“人間の意志の力”の可能性だ。

 自然の力は確かに強大だ。だが、“人間の意志”には無限の力がある。それはやがて自然の力さえも凌駕し、この世界の何もかもを支配するまでに成長するだろう、そう確信していた。

 

 エルフならそんな論説を傲慢と捉えるに違いない。だがその傲慢さこそが、まさに人の力なのだ。

 人はこの世界で最も欲深く、その欲には底がない。だからこそ限界もなく、どこまでも強くなれる。

 

——だが、まあ。ビダーシャルを見る限りでは、系統魔法が先住魔法を越えるにはまだ時間を要するだろうとも思った。

 先住魔法を行使する為には、その場にある精霊との契約が必須となる。拠点の防衛など、相手を迎え撃つ時には最大限の力を発揮するが、契約に時間を要するため、侵攻には本来不向きである。

 しかし、ビダーシャルは異邦人達と対峙した短時間の間に、この森中の精霊と広範囲に渡って契約を交わしていた。

 一口にエルフといっても、操る先住魔法の力量には個々の技量が不可欠となる。

 ダミアンから見ても、ビダーシャルは恐るべき先住魔法の使い手だった。おそらくエルフの中でも最高位の「行使手」だろう。

 

「六千年経た今となっても、人間とエルフの力の差はまだまだ縮まらない、か」

 

 だが、あの異邦人を相手にしたら、どうなるだろうか。

 彼は、その存在そのものがこの世界にとっての“未知”である。

 彼の魔法は、どうやらあの大剣に埋め込まれた何かを媒体に使用できるようだ。あらゆる系統の魔法を簡単に行使できることを鑑みるに、彼のそれは、系統魔法や先住魔法のように個々の素質に頼るものではない。

 この世界でいう、精霊石——精霊の力を凝縮した魔石のようなものを使っているのではないかと推測できるが、詳細はまだわからない。

 

 そして、彼の身体には何か、あのエルフすら警戒する、それ以上の秘密があるようだ。

 

「やれやれ、興味深いね」

 系統魔法と先住魔法、国家と——そして種族。あらゆる「境」を越えた先に、ダミアンの夢はある。

 

 エルフと異邦人の戦いの中で、なにかのヒントが得られるかもしれない。

 

 

PM8:11

 

 

 魔法学院の正面。アウストリの広場には教師陣や使用人、手伝いを志願した生徒達が集まっていた。

 中央塔の一階入り口では、負傷したギトー教授の手当をモンモランシーとシエスタが行っている。

 

「ギーシュ、ギトー先生の手当が終わったわ!」

「ようし、水精霊(オンディーヌ)騎士隊、先生を二階に運べ!いいか慎重にだぞ」

 

 水魔法による応急処置を終えたモンモランシーに応じて、ギーシュが命令を出した。

 隊員の魔法で宙に浮いた担架に乗せられて、ギトー教授が階段を運ばれていく。”元素の兄弟”によって散布された『スリープクラウド』によって気絶した人間の数がとにかく多く、医務室では狭すぎるため、倒れた人間はひとまず二階の食堂に集められることになったのだ。

 

「これで、負傷者の搬送は一通り済んだようだね」

「助からなかった人もいるけどね……」

 モンモランシーが悲しそうに嘆く。ギトー教授の側で倒れていた衛兵の亡骸には布が被せられ、マリコルヌが祈りを捧げていた。

 

「君は精一杯やってくれたよ、モンモランシー。しっかし、派手に暴れたもんだ。何をどうやったんだか」

 ギーシュは扉が木っ端みじんに無くなった入り口から外に出た。

 地面には熱を帯びた黒焦げの大穴が開き、学院の周囲を囲む外壁に巨大な亀裂が刻まれている。

 まるで戦争でもあったかのような酷い有様だ。どんな魔法を使ったらこんなことになるのだろうか。

 

 魔法学院を襲撃した元素の兄弟なる一味の内、学院の教師達に捕らえられたのは大男とギーシュと同年代と思われる少年の二人だけだ。残りの二人の行方はわかっていない。

 

「サイトさん達大丈夫でしょうか……」

 心配そうにシエスタが呟いた。

 

「ううむ。奴ら、サイトの剣が言っていたとおり、相当強そうだったからな。心配だが、ここは待つしか……ん?」

 気配に気付いて顔を上げると、何やらギーシュの真上に大きな物体が落ちてくる。

「うわあ!!」

 慌ててギーシュは後ろに退いて、尻餅をついた。

 大きな音を立てて着地をしたのはクラウドだった。右腕に才人とコルベール、左腕にキュルケとアニエスを抱えているため、よけいに大きく見えたのだ。続いて、タバサが『レビテーション』の魔法を使いゆっくりと地上に降りてきた。

 

「き、きみは……」

「こいつらを頼む」

 クラウドは抱えていた四人を降ろし、ギーシュ達に託す。

 

「サイトさん!!」

 シエスタとモンモランシーが才人達の元に駆け寄る。

 

「キュルケ!コルベール先生!それにこの人、銃士隊の人だわ……みんな酷い怪我!」

「タバサ!こ、これは一体何があったんだ!て、敵はもうやっつけたのかい?」

 ギーシュの質問にタバサが首を振る。

 

「まだ終わっていない。敵にエルフがいた。じきにこちらを追ってくる」

「エ、エルフだって!?」

 ギーシュが驚いて大声を上げる。

 

「エルフ?」

「エルフがいるのか?」

 周囲にいた他の人間も、声を聞いて不安にざわめき始めた。

 

「ミス・タバサ。ミス・ヴァリエールがいません。ミス・ヴァリエールは一体どこに……?」

 才人を抱えながら、シエスタが震える声でタバサに尋ねた。

 

「奴らに、連れて行かれた……」

「そんな……!」

 ショックを受けるシエスタ達一同を横目に、クラウドは背中に突き刺さった枝矢を引き抜いた。

 血が吹きだし、クラウドは顔をしかめる。

 

「ちょっとあなた、そんな無造作に抜いちゃ駄目よ!今”治癒”をかけるわ」

 モンモランシーの申し出をクラウドは手で遮って断った。

 今は悠長にしている時間がない。奴はクラウドに執着している。直ぐにでも追いかけてくるだろう。

 先住魔法……、話には聞いていたが、「デスペル」を無効化するとは、まさかそこまで強力なものだとは思いもしなかった。

 クラウドは背中のホルダーのひとつにしまい込んでいたデルフリンガーを引っ張り出す

 

「ああ、まったく……とんでもねえことになっちまったもんだぜ」

 握りしめたデルフリンガーが切なげにカタカタと刀身を揺らした。

 

「嘆くのは後だ。あいつの魔法について、教えてくれ」

「……ありゃあ、”反射(カウンター)”って魔法だよ。あらゆる攻撃、魔法を跳ね返す。エルフの厄介でえげつねえ先住魔法さ。あれを展開されてる限り、お前さんの攻撃は何一つ通らねえ」

「対策はないのか」

「ついさっきまではあったんだけどな。ルイズの”虚無”の魔法。その中の一つに『解除(ディスペル)』ってやつがあってな。それなら先住魔法の障壁を打ち消しちまうことができた。エルフの先住魔法に対抗する手段は虚無しか存在しねえ。だが……」

 

「ルイズはもう、ここにはいない……」

 タバサが力なく言葉を繋げた。

 タバサは才人を見る。彼は意識がないまま、うなされている。

 

——私のせいだ。あの時、私が何とかしていれば……!

 後悔を強く滲ませるタバサの肩に、クラウドの手が添えられる。

 

「クラウド……」

 クラウドは考える。先程使った魔法『デスペル』は、この剣が言っている虚無とやらの魔法と同じく、相手の魔法効果を打ち消す効果を持っている。だが、それは奴の”反射”によって跳ね返されてしまった。これは一体どういうことなのか。

 

 クラウドは魔法の方式の違いによるものではないか、と仮説を立てた。

 クラウドの使う魔法は、マテリアの中に眠る古代種の知識を介在することによって行使できる。それがクラウドの世界の方式による魔法の基本だ。

 対するこの世界の魔法にはこの世界の方式がある。系統魔法と先住魔法、ハルケギニアの魔法は大まかに分けてこの二種類だ。

 判断する材料は少ないが、クラウドが目の当たりにした事実から鑑みるに、ハルケギニアの魔法を打ち消すには、ハルケギニアの方式に則った魔法ではないと出来ないのではないだろうか。

 鍵のかかった部屋をあけるためには、それに対応する(カードキー)が必要となる。鍵穴(パス)の形状が違えば、開鍵はできない。「デスペル」で打ち消せるのはクラウドの世界の魔法効果だけであり、ハルケギニアの魔法には効果がないと考えるべきだろう。

 

「ヒラガ・サイトの剣」

「デルフリンガーだ、兄ちゃん」

「奴の“反射”を突破する方法はそれだけか?あんたは、『俺を拾え』と言った。俺でも出来る策が何かあるんじゃないのか」

「……ひとつだけある。だがそりゃあ可能性の話だ。お前さんなら出来るかもしれねえ、っていう程度のもんだぞ」

「教えてくれ」

 デルフはカタカタと逡巡する。

 

「なあ、兄ちゃん。こんなことお前さんに言うのもアレなんだけどな、頼みがあるんだ。

……サイトは、俺の相棒は、目が覚めたらきっと死に者狂いでルイズを取り戻そうとすると思う。けどな……奴ら、俺っちの考えていた以上に強すぎる。相棒は考えなしだから、きっと一人でも突っ走っちまう。俺は相棒を死なせたくねえ。ルイズも、死なせたくねえ。俺は二人とも大好きなんだ。……だから、頼む。相棒の力になってやってくれないか」

 

「わ、私からもお願いします!ミスタ・ストライフ。どうか……、どうか!ミス・ヴァリエールを助けてください!!」

 デルフに続いて、シエスタも嘆願する。

 

「言われなくても、そのつもりだ」

 さも当然というように、クラウドが答える。

「そうだろう、タバサ」

 クラウドに問われ、タバサが迷わず頷いた。

 

「ルイズは、必ず助け出す」

「ありがとうよ……。へへ、お前さん。取っ付きにくい面してるけど、実は結構お人好しだろう?俺っちみたいな剣の頼みを聞いてくれるんだからな」

「御託はもういい、対策を聞かせてくれ」

 クラウドが遮るように言うと、デルフはおっと、そうだったなと言って、話を進めた。

 

「“反射”は相手の力が強ければ強いほど効果を発揮する先住魔法だ。だが、それには想定している威力ってもんがある。あのエルフが“反射”に設定している限界値を越えた一撃をぶち込めば、おそらく、破壊できるはずだ。残された方法はもうそれしかねぇ」

「要は力づくで、ということか」

「こんなの別に策でもなんでもねぇ、言っちまえばただのゴリ押しだ。そもそも、この世界(ハルケギニア)にエルフの“反射”を打ち破れるような威力のある魔法や武器なんか存在しねぇんだからな。普通ならまず不可能な方法だ。だが、お前さんの力ならもしかしたら……」

 

 デルフはクラウドがダミアンと戦っていた姿を目撃している。

 一撃で地面を崩壊させる程の膂力……。エルフにとって存在自体が想定外であるクラウドであればその不可能を突破できるかもしれない、と考えたのだ。

 

「危険すぎる。あのエルフの先住魔法は”反射”だけではない。接近するだけでも困難」

 タバサが難色を示す。

「だが、他に方法が無いならやるしかない。……それに、どうやらもう来たみたいだしな」

 

 クラウドが上空を見る。

 二つの月が昇る空に、ビダーシャルが浮かんでいた。

 宙に浮かぶその姿を見て、学院の人間達が騒然となっていた。

 

「おい、なんだあいつ。杖も持っていないのに何で飛べるんだ!?」

「まさか、ほ、本当にエルフなのか?」

「見ろよ、あいつの耳!!あの長く尖った耳は!」

「エルフ!!」

「本物のエルフだ!」

「エ、エルフが攻めてきたぞ!!」

 

 ビダーシャルがゆっくりとヴェストリの広場に降り立っただけで、人々は散り散りとなり、パニックとなった。

 ハルケギニアに住まう人々にとって、エルフとは恐怖の象徴にほかならなかった。

 

「教師たちよ、生徒と使用人たちを早く中へ避難させるのじゃ!」

 老人が大声で指示を叫んでいる。学院長のオールド・オスマンのものだ。

 

「蛮人はいつの時代も騒がしい」

 ビダーシャルが苛立つように言った。

 

「お前達に興味はない。ここに金髪の”異邦人”がいるはずだ。出て来い!!どこに隠れても貴様の気配はわかるぞ!!」

 

「ご指名だぞ、兄ちゃん」

「そうみたいだな」

「お、おい君、ほんとにやるつもりなのか!?相手はエルフだぞ!」

「あいつの狙いは俺だ。あんた達は、他の人間の避難を頼む」

 呼び止めるギーシュにクラウドはそう答える。

 

「私も行く」

 タバサがクラウドに詰め寄った。

「こんな事態になったのは、全て私の責任。私がみんなを巻き込んだせい。それに……あなたに、もしもの事があったら、私——」

 

「大丈夫だよ、タバサ」

 

 不安な心の内を訴えるタバサに対し、クラウドは彼女の青い髪を不器用に、そっと撫でて告げる。

 

「何もかも一人で背負い込む必要はない。ここは俺がやる。頼む、任せてくれ」

 その声は、他のどんな言葉よりもタバサに優しく響いた。

 タバサは自分の内からこみ上げてくる感情を押さえつけることができず、その顔をくしゃくしゃに歪めた。

 

「あなたは、怖くないの?何でそんな強くいられるの?どうして私のために、ここまで戦ってくれるの?」

 絞りだすように問いかける彼女に、クラウドは静かに告げる。

 

「俺は、強くなんてない。以前にも言っただろう。俺が戦うのは、自分の為でしかない。だが、理由をつけるのなら……そうだな。この世界に列車はあるか?」

「それは、あなたの世界の乗り物?」

「敷かれた線路の上を辿る、鉄の乗り物だ。大地を力強く走るそれは、目的地に辿り着くまで決して止まることはない。俺の仲間の口癖でな。この世界に来た俺は……タバサ、お前と同じ列車に乗った」

 

 実際には馬車だったか、とクラウドは苦笑し、タバサに背を向ける。

 ビダーシャルと戦うために。

 

 背中に大剣を携えて、彼は言う。

 それは、共に戦う仲間達の合い言葉となっていた台詞。

 

「途中下車は出来ないのさ」

 

 

PM8:26

 

 

 クラウドは、先程ジャック達と戦いを繰り広げたばかりのアウストリの広場に再び足を踏み入れる。

 本塔、土塔、水塔、寮塔の四つの建造物と外壁に囲まれ、正門とも直接繋がるそこはトリステイン魔法学院の中で最も開けた場所であった。

 そのアウストリの広場の中心で、ビダーシャルは学院の正門を背にして待ち構えていた。

 学院の人々が建物の中へと逃れ、息を潜めてその様子を見守る中、二人は対峙する。

 

「姿を現したな、異邦人。この地を己の死に場所と定めたか」

 

「そのつもりはない。あんたこそ、どうするつもりだ。ここには何もない。その”反射”とやらはともかくとして、さっきのように魔法は使えないぞ」

 

「使えない?どうやら何か勘違いをしているようだな」

 ビダーシャルが口語を唱える。

 

「森の精霊よ。我らの敵を討つため、ここに集いたまえ」

 

 その瞬間、学院の周囲から地響きが鳴り、暴風が巻き起こった。

 暴風は学院の上空に集結して夜空を隠し、巨大な渦となった。

 渦の中にある途方もない数の黒い影は、学院の周囲を囲む森の木々から根こそぎかき集められた枝矢の群れであった。

 

「私は既に、この環境にある精霊との契約を終えている。森も、土も石も、渦巻く風も、この“世界”の全てが私の味方だ。どこに逃げようとお前に勝ち目はない」

 

 ビダーシャルは先住魔法の圧倒的な力を見せつける。

 だが、それを前にしても、クラウドは動じない。

 両目の青の瞳は揺らぐことなく、前を見据えている

 

 ・ ・ ・

 

「な、何だよ……あれ。たった一人の人間相手に使う規模の魔法じゃないぞ」

「あんなものが降り注いだら、例え軍隊だって全滅しちまう。エルフに勝つにはその十倍以上の戦力が必要だって聞いたが……これじゃあ、あまりにも」

 本塔の中から覗き見ていたマリコルヌとギーシュが、その絶望的な光景を見て青ざめる。

 

「あ、あんなものにミスタ・ストライフは勝てるのですか……?」

「無理よ、絶対勝てっこないわよ。ねえタバサ。本当に彼、大丈夫なの!?」

「…………」

 タバサは、シエスタにもモンモランシーにも答えられなかった。

 デルフリンガーを胸元で強く握り、只々、クラウドの無事を祈ることしか出来ない。

 

 ・ ・ ・

 

「最後に、聞いておきたいことがある」

 クラウドは再び、ビダーシャルに語りかける。

 

「あんたは俺を“災厄”と呼んだ。だが、さっきも言った通り、俺にはこの世界に危害を加える意志はない。俺はただ元の世界に帰りたいだけだ。それでも、あんたとここで戦う必要があるのか?」

 

「だから見逃せというのか?論外だ。お前は己の存在がどれだけ歪であるのか、気付いていない訳があるまい」

 

 ビダーシャルはクラウドを否定し、責め立てる。

 

「お前の躰の内にある“それ”は極めて危険な存在だ。共存できる生命など、何処の世界にもありはしない。私にはわかる。残虐かつ狡猾……。破壊の先の創造もなく、自身以外のものを滅ぼそうとする邪悪な本能のみがある。お前がたとえ元の世界に戻ろうとも、“それ”はお前の世界に必ずや災いを撒くだろう。なればこそ、お前はここで死ぬべきなのだ」

 

「死ぬべき、か……、何度も思ったさ。俺は何故生きているんだろう、とな」

 自嘲するようにクラウドは言う。

 

 そう……、何度も考えたのだ。

 

 ——燃えていく故郷で

 ——友の亡骸が打ち捨てられたあの戦場の荒野で

 ——彼女を永遠に失った、あの祭壇で。

 

 死ぬべきだったのは自分ではなかったのか、と。

 

 荒れ果てた世界、壊された日常、失われた命。

 過去は消えず、時間だけが過ぎていく。

 後悔と罪が滓のように躰に蓄積し、心を蝕む。

 

 今でも、不思議に思う。

 どうして俺は、生きているのだろうか。

 大切なものを次々と失って、それでもなお、何故。

 

「俺が弱かったから……。だから良い様に使われて、操られて、みんな見殺しにしてしまった。俺には誰も助けられない。そう思っていた。……忘れていたんだ。俺が、俺達が戦っていた理由を。あの時の強い気持ちを」

 

 右腕を覆う黒いベールを手で掴む。

 その下には、戒めと誓いの、赤いリボンが捲かれている。

 

「幻想はもういらない。俺は俺の現実を生きる。生きて、前に進む。引きずってでも、泥にまみれても。俺の中にある“怪物”が災いを招くというのであれば、俺が何度でも倒す。俺はこれからも、ずっと戦い続ける」

 

——約束の地、そこで再び巡り合うその日まで。

 その為に、俺はここにいる。

 命を賭して「試し」続けることが、存在の証明。

 

「だから死ぬわけにはいかない。あんたが俺を阻むというのなら」

 クラウドが剣を構えた。

 

「そこを退いてもらうぞ!」

 

 

 全身から青白いオーラが勢いよく沸き上がる。

 それは次第に、燃え上がる炎のような橙色へと変化していく。

 彼は大剣を額の前に掲げる。

 親友から受け継いだ、祈りの構え。

 凄まじい魔晄の迸りが、その全てが、大剣へと集まる。

 全ての力が大剣の先端に凝縮されて、白く光り輝いた。

 光は、先住魔法で創り出された暴風を貫くような、金属の異常発振を鳴り響かせる。

 

「何だ、その力は……」

 

 その純粋な力の結晶たる光を見て、ビダーシャルは恐怖した。

 

「限界を越える」

 

 クラウドが跳ぶ。

 その脚力に、大地が弾け飛んだ。

 大剣を下段に構えて、ビダーシャルに急接近する。

 輝く大剣は地面を深く抉り進み、真横に、直線に、一本の光の線を描く。

 

——あの剣に、絶対に触れてはならない!

 ビダーシャルの本能が、そう告げていた。

 

「我は古き盟約により命令する。我が敵を貫き、滅ぼせ!!」

 

 ビダーシャルの口語により、上空の黒い渦が、触手を伸ばすように地上へと降りてくる。

 途方もない数の矢が、クラウドを討たんと大雨の如く襲い掛かる。

 

「愚かな!遮るものもない此処は貴様の死地だ。このまま肉塊となれ!!」

 

 だがクラウドが止まることはない。

 攻勢を崩さないまま、大剣に内蔵されていた二つのマテリアを発動させる。

 

 

 

『三連ファイガ』そして、『まほうみだれうち』

 

 

 

 十数発もの『ファイガ』が一度に発動し、巨大な炎の塊が上空で次々と炸裂した。

 それはさながら戦争の空爆であった。

 爆発に次ぐ爆発が、夜の魔法学院を照らし出す。

 建物を揺らす激しい爆音に、学院の人々がわけもわからぬまま悲鳴を上げる。

 連発する業火は地上への攻撃を妨げる弾幕となり、矢がクラウドに届くことを完全に防いだ。

 

 

「…………ッ!!石の精霊よ、固き我らの守り手よ!!!」

 

 学院教師達のかけた『固定化』の魔法を上書きした精霊との契約により、学院の外壁がめくれて、次々と宙に浮かび上がった。

 石の塊は激しくぶつかりあい、結集し、石の巨人が創り上げられた。

 巨人はクラウドの前に立ちはだかり、防御の体制を固めた。

 

「いいだろう。受けてやる!異邦人、異世界より来た災厄よ。我が精霊の守りは、お前のいかなる刃も通しはしない!!」

 

 剣の間合いに、クラウドが到達した。

 彼は解き放つ。

 かつて宿敵を討ち倒した、その力の全てを。

 

 

 

 

 

 

「超究武神覇斬」

 

 

 

 

 

 

 

——振り下ろされた刃が石の巨人を両断して粉砕し、“反射”へと接触した。

 

 その瞬間、閃光が瞬き、風の大爆発が巻き起こった。

 大地を陥没させる衝撃波が、円周状に外側へと広がっていく。

 それは一度で収まらず、クラウドとビダーシャルの位置を中心に、光と風の爆発は何度も連続して発生し続けた。

 立っていられない程の風圧が、魔法学院の建物まで押し寄せる。

 

 

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

「どうなっているのよ!これええええええええええええええええええええええ!!!!?」

 

 本塔にいたギーシュ達は、気絶した才人達が吹き飛ばされないように必死になって押さえていた。

 

「これは、一体ッ!?」

「“反射”の衝撃波だ!奴さん、兄ちゃんの攻撃が強すぎてそのまま跳ね返すことが出来ねえんだ。だから、全方位に向けて衝撃を反射させることで、なんとか受け流して耐えてやがる!!」

 

 タバサが握るデルフリンガーが叫ぶ。

 

「じゃあ、これは……、彼の!?」

「ああ、そうだ。分散させても尚この威力とは、まったく信じられねえ。どっちも化物だ!だが、分散していても攻撃のダメージは兄ちゃん自身にも跳ね返ってきているはずだ。奴の“反射”が限界を迎えるまで持つか。我慢比べだぞ、こりゃあ!」

 

 爆発はまだ続いている。あの中心に、クラウドがいるのだ。

 

「……クラウド!!」

 

 タバサは彼の名前を呼び叫んだ。

 

 

 ・ ・ ・

 

 

——左横から右斜め上への斬り上げ

 

——左斜め上への斬り返し

 

——身体を捻る袈裟斬り

 

 

 連続する斬撃の全てが、一撃必殺であった。

 大剣が反射に接触する度に、凄まじい衝撃の環が周囲に発散される。

 一つでもまともに浴びれば、それは致命的なものとなる。

 ビダーシャルは衝撃の“反射”を全方位に発散させることで、猛攻に耐えていた。

 もはや“反射”以外の魔法に意識を集中することは、出来るはずもなかった。

 

 

——左下から上へ斬り払い

 

——垂直に渾身の斬り下ろし

 

——勢いのまま回転斬り

 

 

 防戦一方。否、そうではない。

 分散されているとはいえ、“反射”によりその攻撃は異邦人自身に跳ね返っている。

 これだけの恐るべき破壊力だ。先に限界が来るのは異邦人であることは明白だ。

 私は耐えるだけでいい。

 だが……、終わらない。終わらないのだ。

 

 

——左下への逆袈裟

 

——右横へ水平に薙ぎ斬り

 

——その逆へ左薙ぎ斬り

 

 

 猛攻は止まない。刃により空間を隔てる“反射”の境界が少しずつ削られていく。

 手が震える、抑えきれなくなっている。彼に焦りが生まれる。

 

「ぬぅ……ぐ、ぐっううううううう!!」

 

 ビダーシャルの口から呻き声が漏れる。

 彼の限界が近いのだ。

 何故だ、何故止まらない。

 精霊の守りは絶対不可侵だ。

 私は大いなる意志の加護を、この“世界”を味方に付けている。

 災厄であり、世界の敵対者である異邦人が私に勝てる道理などある筈がない。

 なのに——何故だ。

 この男は、どうして折れない。

 一体何が、この男を動かしている——?

 

 

 速度が加速する。止める術は、どこにもない。

 

 

——全身を捻り斬り下ろし

 

——斬り上げて後転。

 

——突進して刺突。

 

——そのまま引き裂くように斬り上げ、上空へ跳ぶ。

 

 大剣を天高々に振り上げる。

 光が大剣の先端に集積し、力強く輝く。

 金属の鳴音が、激しく高鳴った。

 異邦人の顔が見える。

 その蒼い眼が見える。

 

 その眼に宿るものを、ビダーシャルは見た。

 

 

 それは——世界の理をも超える、人の意志。

 

 

 最後の一撃が放たれる。

 

 “反射”を完全に破壊した刃が、ビダーシャルと、その何もかも全てを吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 




投稿済分はここまでとなります。
とにかく筆が遅いので、次回更新がいつになるかわかりませんが、頑張って続けていこうと思ってます。(もしかしたらタバサの冒険の短編になるかも)

今後ともよろしくお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。