ストレンジ・ソルジャー(ゼロの使い魔×FF7)   作:mu-ru

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Chapter 19-1

「一週間前に、我がトリステイン王国に文が届きました」

 

 “宣戦布告“。

 アンリエッタによる突然の発言に、その場にいた者達は呆然とするしかなかった。

 彼女は淡々と事実だけを述べていく。

 

「内容はたった一文だけ。『ガリア王国ハ、トリステイン王国へ宣戦ヲ布告ス』と……。たったそれだけの通告文でした」

 

 そこには戦争を仕掛けるに至った理由は何も書かれていなかった。

 戦いを起こす動機、自国の正当性を主張する言葉……トリステイン王国に対する非難すら、何も。

 ただ、一方的な宣戦布告のみが書かれた短い通告であった。

 

「最初はもちろん何かの間違いだと思いました。ガリアは我が国との同盟国。攻められる理由など何一つ思い当たる事がありません。すぐに国内にあるガリア領事館と連絡を取り、領事館は事実ではないとの回答を即座に返しました。それを聞いて我々はこれはタチの悪い悪戯の類であろうと考えていたのです。しかし……」

 

「その数時間後に、ガリア国内のサン・マロン軍港で両用艦隊(バイラテラル・フロッテ)が出撃準備に移ったとの報告が、我がロマリアの諜報機関から入った」

 

 ジュリオの言葉にアンリエッタは頷いた。

 

「ロマリアより緊急で伝達されたその情報に、トリステイン王政府は騒然となりました。再度ガリア領事館に厳しく問いただしましたが、彼らの反応は、我々以上に動揺するだけでした。『何かの間違いだ』と。それしか答えられなかったのです。

 ……彼らにも、何も知らされていないことは明白でした。その後も幾度となくガリア本国へと問い合わせていますが未だに返答はありません。そしてこうしている今も、ガリアでは着々と戦争の準備だけが進められています」

「まさか……信じられませんぞ。ガリアは一体何を考えているのだ」

 

 コルベールの戸惑いに、アンリエッタは力なく首を振った。

 

「わかりません。お互い国内の政情はあるとしても、我が国とガリアは上手くやってきた筈でした。実際、外交上の問題や国家間の紛争も現在は何も起きていません。それにも関わらずガリアはトリステインに宣戦布告してきたのです。二国間に定められた不可侵条約も、先のアルビオン戦争後に制定された王権同盟さえもすべて無視して、です」

「女王陛下。現在の情勢はどうなっておるでしょうかの?」

 

 オールド・オスマンが尋ねる。

 

「そうですね。ミスタ・ストライフの為にも、我々のおかれている状況を説明しておいた方が良いでしょうね」

 

 アンリエッタは頷くと杖を振った。

 杖先から水が溢れ出し、空中にゆらゆらと漂いだした。

 次にアンリエッタは虹色の液体が入った小瓶を取り出す。

 そして小瓶の液体を一滴、手元に漂う水に落とした。

 すると変化が起こる。水の中で様々な色が混ざりあい、その液体は空中で大きく広がったのだ。

 そこに展開されたのは色付いた水の地図であった。

 地図を作り表す……。そういう類の魔法なのだろう。

 アンリエッタはその地図を杖で示しながら説明する。

 

「ガリアの主力艦隊、“両用艦隊(バイラテラル・フロッテ)“は現在サン・マロン軍港に駐留しています。この港は外海に面しており、アルビオン戦争の折にもガリアはこの港から艦隊を出撃させています。ここから最も近いトリステインの港は世界樹(イグドラシル)の上に作られた空港ラ・ロシェールです。交戦が起こるとすれば国境となるこの位置でしょう」

 

 ガリアのサン・マロン軍港。

 その名前はクラウドにも聞き覚えがあった。

 以前にタバサの北花壇騎士の任務で訪れた軍港である。

 サン・マロン軍港とトリステインのラ・ロシェール港の二つが空中の地図に表され、そこから伸びた半透明な水の線が交わる箇所にアンリエッタはマーキングを示した。

 

「トリステインの軍部には艦隊を集結させる理由を名目上ただの訓練ということにさせています。ガリアが本当に戦争を仕掛けてくるのか、軍部では未だに確証が持てていないからです。ですが、私はその万が一が起こることを考えなければなりません。対抗する為の備えが必要です」

「しかし女王陛下。その場合我が軍の戦力では……」

「そうです。圧倒的に足りません」

 

 アニエスの進言に、アンリエッタは深刻な様子で頷いた。

 

「現在、我がトリステイン王国もラ・ロシェールにヴュセンタール号、レドウタブール号をはじめとした主力艦船を集結させるよう命じています。ですが、我が国の航空戦力は先のアルビオン戦争で負った痛手からまだ回復していません。トリステイン統治下にあるアルビオンの一部領土から船をかき集めたとしても……せいぜい十数隻が限度でしょう。

 対するガリアの両用艦隊は艦数約百隻を超える大艦隊。かつて無敗を誇ったアルビオン艦隊が消滅した現在となっては、このハルケギニアにおいて世界最強の艦隊です。勝敗は火を見る前から明らかです」

「……戦となればまず勝ち目はありませぬな。陛下、このことを国民には?」

 

 オスマンが尋ねる。

 

「事実を把握しているのは王政府と各地の有力貴族のみです。国民にはまだ公表していません。未だ対応を決めかねている現状では無駄にパニックを引き起こすだけでしょうからね」

 

「……あんた達の事情はわかった。だが、なおさら俺に会いにきた理由がわからないな。ガリアが戦争を仕掛けてくる事が俺にどう関係がある」

 

 クラウドの問いを聞いて、アンリエッタは彼の方を向いて答える。

 

「私はアニエスから話を聞いて、ラグドリアン湖での異変を知りました。貴方がその現場にいたこと……その一件にガリアが関わっている事もです。貴方はガリアの裏組織である“北花壇騎士“に追われていた。一週間前にこのトリステイン魔法学院で起こった事件と、そのすぐ後にガリアが宣戦布告を行なった事はどれも偶然とは思えません。私が知りたいのはガリアの真意です。かの国がどうして我が国に戦争を仕掛けようとしているのか。それを探るには、結論の出ない会議の場に座るより貴方に話を伺った方が真実に近い……そう考えたのです」

 

 クラウドはアンリエッタの顔を、そしてその眼の奥をじっと見つめた。

 

「あんたは嘘をついていない。だが、それだけじゃないな。他にもここに来た理由があるんだろう。そっちが本題か」

 

 アンリエッタは思わず息を呑む。それが核心を突いた問いであったからだ。

 かつて、クラウドと初めて出会った時、アンリエッタは彼にに失った大切な恋人の面影を重ねていた。……だが、今のクラウドの青い眼には、心の底まで見透かされているような得体の知れない恐怖を感じたのだった。

 

「……ええ、そうです。だから私は先程、問題を解決する鍵が“貴方達“にあると言ったのです」

()()?」

「ミス・タバサの事だね。いいや、ここは『シャルロット・エレーヌ・オルレアン』様と言った方が正確かな」

 

 アンリエッタの代わりにジュリオが答える。

 

「彼女がガリアの王族である事は承知している。現国王ジョゼフに殺された弟君、オルレアン公シャルル様の忘れ形見……。彼の残した大切な一人娘であることもね」

「……あんた達は、タバサに何をさせるつもりだ」

「彼女には国家間を結束で繋ぎ導く存在になってもらいたいのさ。我らの“王権同盟“のためにね」

「王権同盟?」

「アルビオン戦争後に締結された同盟の事です」

 

 クラウドの問いにアンリエッタが答えた。

 

「先の大戦、アルビオン戦争における貴族派(レコン・キスタ)が王政府を滅ぼすまでに勢力を拡大させたのは、国内で共和制を掲げる貴族達の台頭を防げなかった事が大きな要因でした。各国政府はその反省から王権を守るべく王国間で特殊な同盟を結びました。それが“王権同盟“です。

 トリステイン、ロマリア、ゲルマニアそしてガリアの四カ国によるこの同盟は、締結された各国で新教徒や共和主義者の反乱者達が王権に反旗を翻した場合、同盟国に軍事介入を仰ぐことができるのです」

 

「この場合、相手は新教徒や共和主義者ではない。だがガリアのトリステインに対する宣戦布告は各国の王権を脅かす重大な脅威と言えるだろう。……ただ、それでもガリアは始祖の血筋を紡ぐ正統な王政府だ。それだけじゃあ”王権同盟”を発動するには足りない。

 だから、シャルロット様の協力が必要なのさ。彼女はガリアの王位を継ぐ資格を持つ者だ。ロマリア皇国はブリミル教の総本山。始祖の名の元に彼女をガリア王国の真の王位継承者と認めれば、その正当性を示すことができる。──そうなれば現ガリア政府を”反乱軍”として扱うことができるのさ」

 

 ジュリオが繋いだ言葉にアンリエッタは頷いた。

 

「私の言葉だけでは、この件を単なる二国間の国家紛争と捉えられかねません。アルビオン戦争後の現状、どの国の戦力も消耗が大きいですから……。今回の争いに無関係なゲルマニアなどは無視を決め込む可能性もあります。

 ですからシャルロット様には、私が同盟発動を宣言する場に同席し、”王権同盟”の正当性を保証していただきたいのです。

 ”王権同盟”さえ発動できれば、我がトリステイン王国は他の二国に援軍を仰ぐことができます。現状の絶望的な数の差に対抗することができるのです」

「ガリア国内には現政府への不満分子が多い。ジョゼフが王になった時、オルレアン派の貴族を悉く粛清したからね。事が生じればおそらく国の半分が我々の側に寝返ると僕らロマリアは見ている。戦況はひっくり返るだろう。そうなれば勝機は僕らに──」

「もういい。黙れ」

 

 得意げに語るジュリオをクラウドの言葉が遮った。

 冷たく凍るような、静かな怒りを込めた声であった。

 

「あの子を戦争の火種にするつもりなのか」

「……ああ、言い方を変えれば、そうなるだろうね。それで、それを聞いて君に何かできるとでも?」

「さあな。だが、あんたたちの思惑を壊すことくらいは、この場でも出来る」

 

 クラウドの放った言葉にジュリオは緊張し、思わず冷や汗を流す。

 この男は、たった一人で”元素の兄弟”と高位のエルフを打ち倒す力を持っているのだ。

 もしシャルロットを連れて逃げようとでもすれば、それは誰にも止めることはできないだろう。

 

「貴方の怒りは当然です。ルイズの学友を国家の事情に巻き込むなど……。ですが、今は他に方法がないのです」

 

 クラウドの怒りを受け止めてアンリエッタが弁明する。

 

「以前、あなたにはお話をしました。私は先のアルビオン戦争で国民を巻き込み、多くの人々を犠牲にしてしまいました。その罪は私が背負わなければならない。……そして、また同じ過ちを繰り返すわけにはいかないのです。私はこのトリステイン王国の女王です。この国の”今”を生きる人たちを守る義務があるのです」

「……」

 

 ──”犠牲”。そして、”罪”。

 その言葉の重さが、クラウドを沈黙させる。

 アンリエッタはクラウドに近づき、正面から対面する。

 

「この事をサイト殿にお話しても……おそらく貴方と同じ反応をするでしょうね。ですが、この先他国の協力を仰げれば、ガリアからルイズを奪還する機会も必ず得られるはずです。私達の現状を包み隠さずお話ししたのは、これが貴方にお示しできる最大限の誠意だったからです。異世界から来た貴方には、無理なお願いであることはわかっています。それでも……ミスタ・ストライフ。どうかこの国を守る為に貴方と、そしてシャルロット様の力をお貸し頂けないでしょうか」

 

 アンリエッタは頭を深く下げて頼み込んだ。

 国家元首である彼女のその行動がどのような意味を持つのかは、異邦人であるクラウドにも分からない筈がない。

 

「……やめてくれ。あんたはそんな易々と頭を下げて良い立場じゃないだろう」

「協力してくださる、ということでしょうか」

「国家間の諍いに俺が出来ることなんてない。今の話はタバサに直接頼むんだな。……あいつがあんた達に協力するつもりがなければ、俺はタバサの側に付く」

「今はそれでも構いません。ミスタ・ストライフ……ありがとうございます」

 

 アンリエッタの感謝の言葉に渋い顔をするクラウドだったが……。

 次の瞬間、気配を感じてアンリエッタに告げる。

 

「……アンリエッタ。あんた、ガリアの真意を探りたいと言っていたな。それならこの男に聞いたほうが、何かわかるかもしれないぞ」

「え?」

「あんた。さっきから聞いていたんだろう」

 

 クラウドが牢屋の中に声をかける。

 中で眠っていた男の体が起き上がる。

 腰まで伸びる長い髪、長身の痩せた姿。

 線の細い顔立ちの両端にはエルフであることを示す長い尖った耳が突き出している。

 

 エルフのビダーシャルが眼を覚まし、牢屋の中に立っていた。

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