やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク) 作:ヒラメもち
11月も末となり、
今、奉仕部部員4名はバラバラになっている。
どれだけ方法を並べたとしても新しい立候補者を擁立することが最善、いやその方法を選択するしかなかった。しかし、2年生であって交友関係が広い由比ヶ浜先輩ですら、新しい候補者を見つけることは容易くなかったのだ。名誉職であるとはいえ、忙しいイメージが浸透してしまっていることによる影響も少なくはない。それよりも、歴史ある進学校であるからこそ、相応しい人物がなるべきという風潮が漂っているのである。
だから、雪ノ下先輩が立候補することを宣言し、由比ヶ浜先輩も続いて立候補した。2人の胸中は分からないが、確かな決意を持っている。
このままいけば2人のうち1人が一色さんに勝ち、1人が奉仕部から距離を取ることとなるだろう。そして、奉仕部という場所は何か別の場所となってしまうほど脆くて儚いものなのだと入部したばかりの俺ですら理解した。奉仕部に近しい者みんなが感じるのではないか。
「葉山せんぱーい!」
「ナイスシュート!!」
「キャー!!」
黄色い声援が寒空に響く。
こういった応援や歓声もマネージャーたちの仕事であって部員たちを活気づける。
奉仕部は、全国優勝といったチームの目標がないからだろうか。何気なく放課後に集まり、時には依頼を受けて頭を悩ませる。そして成長していく。どちらも人の集まる場所だと言えるのに、こちらには華やかな青春が表面的に表れていた。けれど、青春に優劣をつけることなどできないし、つけようとすることはまちがっている。
比企谷先輩は、何もしない。
俺も奉仕部に顔を出すことはなくなり、サッカー部のサポートを何気なく行う日々である。このままいけば、一色さんの依頼は解決する。だが、この解決策が正解なのだとは言い切ることは奉仕部の一員としてできなかった。
「べー、マジですごいわー」
「あぁ、どうもです 戸部先輩。」
茶髪であって見た目も口調もチャラいのに、ムードメーカーかつ気が利く先輩である。練習終わりで身体が冷えないようにタオルで汗を拭きながら、話しかけてくる。
俺が考え事をしながら行っていたのはサッカー部応援サイトの作成である。先日行われた海浜高校との練習試合の結果を寒空の下のベンチで、膝にマイノートパソコンを置いて纏めていた。マネージャーの人数の多い午後練については1週間に一度様子を見に来る程度である。
「伊月君が来てからホント助かるわー。こういうの得意なのいなかったしー。」
相変わらず独特なイントネーションに対して、軽い会釈を返しておく。
あまりアクセス数がないことはご愛嬌なのだが、部員たちのモチベーションアップに繋がるなら幸いである。元理系大学生として持ち合わせていたスキルを活用したのだ。そういえば最近はプログラミング学習の必修化があったし、こういったスキルが当たり前になってくるのだろうか。かくいう俺も日常生活レベルであって、研究者レベルまでには至っていない。
「じゃ、俺着替えてくるわー。おさきに。」
「はい、お疲れ様です。」
グラウンドを見るにすでに片付けも部員たちが終わらせていて、俺が手伝うこともないだろう。葉山先輩主導の下、洗濯も彼ら自身で行うようになったのである。なんてホワイトな環境なのだろう、マネージャーたちは歓喜していた。
パソコンを鞄に入れ、1年の駐輪場へゆっくりと向かう。すでに自転車はほとんどない、そこに灯りに寂しく照らされた一色さんがいた。今日はサッカー部の方へ顔を出しておらず、帰ったものとばかり思っていたのだが。
「お疲れ様。」
そう告げた彼女の声はどんよりとしていた。
俺を待っていたかどうかなんて自惚れたことは聞かない。
家族にも教師にもサッカー部の先輩にも言えない悩みを誰かに聞いてほしいのだ。比企谷先輩たちはその誰かに当てはまりうる人であったが、聡い彼女は彼ら自身が問題を抱えていると分かったのだろう。平塚先生も仕事で忙しかったのかもしれない。顔が広くて聡い彼女は、いつも『独り』抱え込む。味方を作ろうとして敵を増やし、加えてある一定の味方に対して迷惑がかかりすぎることを嫌う。
「帰ろうか。」
「はい。」
自転車を手で押しながら門を出る。
こうして2人並んで帰宅することは初めてではない。クラスメイトへの愚痴を傾聴したことから始まった。友達とも言えず、知り合いとも言えない、この関係は言葉にはできない。強いて言うなら、クラスメイトを超える何かだ。
もし名付けたのなら、そこで崩れさるかもしれない。
「今日、担任に呼ばれました。是が非でも生徒会長にしたいみたいですね。」
「あの熱血担任は 話を聞かないからな。」
「ですよね。」
静寂が訪れるが、俺から話題を提供することはない。
今、彼女と向き合っているのは確かだ。
「今日なんか、生徒指導室に呼び出して演説の練習させられたんですよ、いい迷惑です。」
「それは最悪だったな。」
「あー、それに、そもそも私に確認しないからこうなったんですー!」
「ああ、マジでそうだよな。俺もよく苦労させられてる。」
再び静寂が訪れたが、彼女の表情は少しだけ穏やかなものになっている。ただ彼女の話にきちんと耳を傾け、同じ立場として確かな同意を示していっただけなのである。一定の距離を保ちつつ、傾聴というアプローチを自然と行ったのだ。彼女の言い分は理解できるところが多いし。
「ふぅ、ホント、楽でいいです。」
「それはなにより。」
今一瞬だけ素を見せてくれた。
必要以上に踏み込まないけれど、俺から離れることはない。近しい者と遠い者、どちらでもない存在というのは時には必要になってくる。彼女は近しい者を増やすことを誰よりも求めてしまうから、遠い者がどんどん増える。
「それで、依頼はどうなったんですかー?」
声色が変わり、よく学校で見せる笑顔となった。
だから、普段の話し方に切り替える。
「雪ノ下先輩と由比ヶ浜先輩が立候補するのは確かだぞ。」
「なら大丈夫そうですね。でも、何かあったりします?」
「これが正しい解決策なのかなって。比企谷先輩も乗り気じゃないし。」
「……そうですか。」
一色さんから見れば、今の俺は浮かない表情をしているらしい。
奉仕部の先輩たちの関係を続けさせるには、俺が立候補する手がある。もちろん一色さんや先輩たちに勝つことは容易くないだろう。それでも、選ぼうとしている俺がいる。
「立候補するなーんて言わないでくださいね。月村君が生徒会長になっちゃったらこういう時間もなくなるかもですし。」
「お見通しなんだな。確かに俺も嫌だな。」
「です……っ!ほんとうに頼りになる人だとはおもいますけどこのまま付き合うのは好きな人がいるので無理ですごめんなさい。」
「お、おう。」
しどろもどろに俺は返事をする。
一色さんが納得する最善手を思考しながらであったため、またも彼女の早口を聞き取ることはできなかった。加えて、すでにいつも別れることとなっている公園まで来たので聞き返すことはできない。
「そ、それじゃあ、また明日です!」
「ん、また明日。」
彼女は手を振って公園から出ていった。
おそらくこの近くに住んでいるのだろうが、詳しい場所は知ることはない。彼女がここまでは同行させてくれているのだから、応えることはまちがっていない。
この一定の距離は寂しく、この信頼は心地よかった。
自転車に跨って反対方向に向かおうとしたところ、走ってくる足音に対してゆっくりと振り向く。
「いつもありがとう。」
儚い表情を浮かべる1人の女の子はそれだけ告げて去っていく。
彼女にとって俺は特殊な人物なのだ。
通常、彼女は助けてくれる人を自分で作る。自分の長所を活用して多くの人から愛されるように気を使うのだ。しかし世渡り上手に思えて、いいイメージを守ることを誰よりも頑張っている。例えば、自分磨きや人脈づくりがあてはまる。
俺と彼女の出会いはクラスで隣の席になったことに過ぎない。生きることを頑張ることを諦めかけていた俺にとって彼女は次第に眩しく見えていった。そんな彼女のいろいろな姿を知りたいと思ったのはいつだったか。
計算高い女子、一喜一憂する女子、真剣な女子、素の女子、1人の女の子、すべてが合わさって『一色いろは』である。
『○○伊月』と『月村伊月』のように揺れることはない。さっきだって、俺は寂しさと喜びがそれぞれ溢れてきた。
やはり転生オリ主の青春ラブコメはまちがっている。
離れることと近づくことを同時に行ってしまうのだ。この違和感が彼女にとって、ちょうどいい安心感をもたらしているのだと思う。なぜなら、彼女は人が離れすぎることも人が近づきすぎることも嫌うから。
しかし、先日出した勇気のおかげで喜びの方が
だから俺にとっての最善手を考え始めてしまう。