やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク)   作:ヒラメもち

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第7話 彩られる青春

月村伊月はよくできている後輩である。

同情や憐れみを抱かずに、俺なんかを慕ってくれる。

 

ここに第一の違和感があるのだが、今は置いておこう。

 

ラノベやアニメの雑談にも乗ってくれるが、俺たちの抱える問題については深く追求してこない。周囲の空気を読んで人に合わせようとするところは昔の由比ヶ浜に似ている。だが言うべきところを察して、ところどころで本音を出す。トップカーストに入れるだろうコミュニケーション力をわざと隠している。

 

よくできすぎていて、だから違和感の塊なのだ。

自覚を抱いて青春をわざとまちがいつづける。

 

俺自身がまちがうことだらけなので、後輩を助けることはできないし、向き合うつもりもない。

 

 

しかし、うわべだけの馴れ合いよりは、ボッチ先輩とボッチ後輩の関係が何倍もマシだと思う。あいつなら特別サービスで、特別棟1階横という俺の昼休みの定位置に招待してもいいだろう。

 

あの後輩もほろ苦い人生でもう少し甘さを感じてもいいのではないか。

千葉のソウルドリンク マッカン好きに悪いやつはいない。

 

あの後輩をもう少し分かりたいと思うことは傲慢であるだろうか。

 

 

棚にあった1冊の本がふと目に入る。

 

スライムに転生したという創作物のラノベ。

転生ものの話題にだけはどこか深く触れないようにしていたのだ。

 

気づけばあの後輩に感じていた違和感は少なくなっていた。

本棚からラノベを鞄の中に入れる。

 

 

文化祭の時の、借りを返そう。

 

 

 

***

 

選挙予想を稼働させて、すでに3日経って金曜日。

今日の放課後で勝負を決めなければならない。

 

まず、予想を超えて多くの票が集まってくれた。前提として葉山先輩が出ないことをコメントしたら見事に炎上してくれたこともある。現在の状況としては見事に一色さんへ票が集まったのだ。傾向としては1、3年生が中心である。

 

理由を考えてみよう。

葉山先輩が出ないことで候補者に信憑性が薄れた上に、今のところ公示されているのは一色さんだけなのである。元々の知名度に加えて、1年生で立候補した話題性もある。人気投票に過ぎない状況で、軽い気持ちで投票してみた人が多いのだろう。

 

もちろん、雪ノ下先輩や由比ヶ浜先輩とこのまま当日争ったとしたら、本人のやる気や公約といった面で勝ち目は薄い。応援演説に葉山先輩まで出てこられたら、大敗である。

 

 

 

昼休み、現状を比企谷先輩に説明する。

ポツンとある1つのベンチに2人で座って昼食を食べながらだ。親が作ってくれた弁当であることに対して、先輩は購買で買ったパンだということに少し申し訳なさを感じる。しかし本人は気にしていないようで、途中自動販売機でコーヒーを奢ってくれた。その甘さと温かさは寒空の下でも心地よかった。

 

いくつか作成したデータ資料という名の武器を手渡す。

 

「それで?一色の方は任せていいのか?」

 

「はい、ちゃんと伝えます。」

 

「そうか。お前も暇なときはちゃんと部活来いよ。」

 

先輩なりの応援は心に響いた。

がんばれ という取り繕った言葉ではなく、戻ってくる場所があることを教えてくれた。そして、雪ノ下先輩と由比ヶ浜先輩のことは任せろという意味を含んでいた。その一言は俺にとっては何よりも励みになる。

 

「いつもありがとうございます。」

 

「……先輩だからな、こんなんでも。」

 

先輩の自然さは本当に心地いい。本人は俺を助けた自覚などないのだろう。いつもはどこか捻くれているのに、たまに本気の顔をするのだ。一定の距離を保ちながらも、自然と親身になってくれる。頼りになるかどうかを言えば 葉山先輩や雪ノ下先輩たちの方が上手だけれど、自然と慕ってしまう。

 

徐にブックカバーを外せば、アニメ化もされたWebサイト小説のラノベが現れる。

 

俺が最も避けていたジャンルだ。

 

「転生して、チートをもらってハーレムを作るのも、1つの青春なんだろうな。リア充爆発しろとは思うが否定はしない。」

 

 

心臓がドクンと音を立て鼓動は速くなる。

 

 

「思い思いの青春を謳歌するくらい、認めてやる。」

 

もし一言で表すのなら、先輩は『たまにカッコいい』。

 

 

風が枯れ葉を運んでいった。

この『傷み』が、少し和らいだ。

 

「そうですか。」

 

 

前に広がる景色に目を向けて答える。

イチョウの葉を全て失った枯れ木はどこか軽そうに見えた。

 

 

 

心臓の鼓動は確かな音色を奏で始めた。

この音色が俺の青春は虚像ではないことを証明してくれる。

 

なら、1度目の青春はもう思い出でいい。

 

 

 

****

 

 

 

5限目の数学をどうにかやり過ごし、

6限目の国語には緊張を感じ続けていた。

 

最後のチャイムが鳴ったと同時に騒がしくなる。

 

「放課後、ちょっといい?」

 

「はぁ……いいですよ。」

 

疑問を抱いたまま、荷物を持って席を立ってくれる。一色さんを伴って教室から出ながら、話す場所を考えていなかったことに気づく。奉仕部は先輩たちが話し合うだろう。

 

 

平塚先生の姿が見えて生徒指導室を借りることで事なきを得た。

 

ここに来るのは2度目だが、生徒だけが使用するというのは珍しいのではないか。鞄をソファに置いて向かい合って座る。各種資料を出す準備をしようとして、手が止まる。

 

本当にまちがっていないのかと。

些細な違和感や疑念は棘となり、しこりとなり、いつか彼女を傷つける。未来に不確かな懸念事項を残すことはもうしたくない。近づくことも遠ざかることも選ばず、どっちつかずという逃避を俺はずっと選んできたのだ。自分から逃げることで彼女を傷つけてきたのである。

 

「どうかしました?」

 

「一色さんはなんで生徒会長になりたくないんだ?」

 

それなら、やることは決まっている。

今までちゃんと向き合っていると自分に言い聞かせておいて、本気で向き合ったことなどなかったのだ。自分に言い訳をして、そしてまちがいつづけたのだ。うわべだけの関係など俺は求めてはいない。

 

「えー、それはもうメンドくさそうだし、そもそも出たくて出たんじゃないですしー。」

 

彼女は本音を俺に語ってくれているのに、俺は本音を彼女に隠し続けていたのだ。同意を示して会話に合わせるだけで、俺自身の本音から逃げていたのである。

 

「平塚先生にこっぴどく叱られたみたいだよな。でも、まだ腹が立ってる。」

 

「え?」

 

俺が負の感情を口に出したことを、彼女は驚く。

 

「勝手に嫉妬して、勝手に悪戯して、ここまでやられたしやりかえしたくならない?」

 

「たしかにこのままじゃ納得いかないですけどー?」

 

それも彼女の本音である。

このまま生徒会長になることから回避したとして 現状は変わることはない。問題を後回しにして、さっきまでの俺のように停滞しているだけに過ぎない。雪ノ下先輩と由比ヶ浜先輩に負けたという結果がつき、問題は悪化するかもしれない。このままでは彼女が傷つくことは変わらないのである。

 

 

「できる なんて不確かなことは言わない。俺がやりたいからやる。だから、力を貸してほしい。」

 

「……でも、自信ないよ。」

 

紛れもない彼女の核の本心が見えた。

理由を与え、そして初めて俺が頼ったから見せてくれたのだろうか。いいイメージを守ることや勝ち気な部分がいつも先に出るけれど、確かに不安も感じていないわけではないのだ。

 

 

「あ、言ってなかったけど生徒会副会長として立候補するから。その、もう推薦人集めて提出しちゃったし……」

 

「え?……はぁー、意外と抜けてるとこあるんですね。」

 

夕日に照らされた彼女の苦笑いは眩しかった。

それは初めて見る表情だったのだ。

 

「月村君に乗せられてあげます。こき使うので覚悟してくださいね。」

 

とびきり底意地の悪そうな笑みも可愛いと思ってしまう。

 

「ああ。見返してやろう、生徒会長」

 

「いや、選挙まだなんですけど。」

 

何も言い返すことはできない。

俺は本来どうにも締まらない奴らしい。

クスっと笑ってくれる一色さんは本当に表情豊かだ。

 

この小悪魔の表情にはいつも振り回されている。

無色透明だった世界に色をつけてくれたのだ。

 

 

 

 

***

 

12月になってすぐ といっても例年よりずいぶん遅くだが、生徒会役員選挙が行われた。比企谷先輩が話して、雪ノ下先輩も由比ヶ浜先輩も立候補を取り下げた。一色さんは都合よく葉山先輩に応援演説を頼み、無事に生徒会長として信任された。公約に関しては完全に雪ノ下先輩のすばらしき案であった。進学研究室の創設と部活動部費給付基準の緩和である。俺や比企谷先輩が意図せず、最強タッグが組まれたのだ。

 

俺は比企谷先輩に頼もうかとも思ったんだけど、残念ながら上手いこと回避されたため、由比ヶ浜先輩に頼んだ。演説は雪ノ下先輩が推敲したものだったし、顔が広いことは長所であるから人選としては合っていたのだろう。

 

そうそう、今年の生徒会選挙も地味で無難な信任投票だった。どっちでもいいけど、とりあえずマルつけとくか、的な。

 

 

そして、今日から新生徒会が始動するわけだ。

会長 一色いろは

副会長 月村伊月

会計 本牧牧人

書記 藤沢沙和子

 

元生徒会メンバーはおらず、最低限の人数だ。この学校の生徒会にはそれほど発言力はなく、一般的な委員会活動に近いものだ。めだかボ〇クスの生徒会を基準にしないでほしい。

 

 

本牧さんは、モチベーションが高くて真面目な男子だ。

唯一の2年生ながら、俺たちを同僚として扱ってくれる。さぞ優秀な会社員となることだろう。

 

藤沢さんは、眼鏡で三つ編みな文学少女だ。

なにかと気を使ってくれる。さぞ優秀な事務員となるだろう。

 

 

 

そして、活動初日。

部屋の模様替えが行われていた。

 

前生徒会メンバーの私物を回収してもらい、歴代置いて行かれた私物は処分してしまう。元メンバーもいないし、心機一転ゼロから始める生徒会活動なのだ。一色さん主導のもと、一色さん好みの部屋を作っているのである。

 

ふと考える。

生徒会室の私物化っていいのかと。

 

第一に文房具や印刷機は完備されている。生徒会メンバーの家を中心に集めてきた小さめの冷蔵庫や暖房器具を設置していった。あまり家具の必要ない大学生なら一人暮らしできるまである。一色さんは俺を通してずいぶん比企谷先輩に懐いたもので、先輩を働かせながらお喋りしながら作業の指揮をする。  

 

 

ここも俺がいていい場所になるのだと思えば、自然と働くスピードは速くなっていた。

 

空欄を埋め、いくつもの定理を用いて、俺の青春をゼロから証明するのだ。ただし連立方程式の解を求めることができたかどうかより、『わが生涯に一片の悔いなし』って言える青春こそが理想なのだ。

 

つまり簡潔に分かりやすく言えば、2度目の青春を謳歌しているのだと確かに今、実感しているのだ。

 

いや結局、自分の感覚任せなのかよ。

ホント締まらない締め方である。

 

とある転生オリ主のたった1つの物語はまだまだ続くし、それでいいのかもしれない。

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