やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク) 作:ヒラメもち
6限目 オールイングリッシュの授業後、机に突っ伏す。
英語の授業を英語だけで行うというもので、グローバル社会で必須の実践的英語を身に付けることができるのは確かだ。しかし、かつての青春ではライティングとリーディングに溜まった英語スキルを全振りしてきたので、コミュニケーション英語にスキルポイントが溜まっていないのだ。英会話が苦手という固定観念がガチガチに固まっているまである。
助けてドラ〇もん、ほんやくこんにゃく出してー
「またどうでもいいこと考えてません? はやく行きますよー?」
「そうだった、休んでる暇なかった……」
荷物を持って席を立ち、一色さんと一緒に教室から出ていく。もちろん比較的話す男子に挨拶を忘れない。また明日、部活頑張れよという意味の定型文を言えば、また明日 生徒会頑張れよという意味の定型文が返ってくるに過ぎない。それでも、挨拶を欠かさないのは日本人として教育を受けたからではないだろうか。
廊下に出れば俺たちが生徒会役員であることは周知されているし、男子と女子が並んで歩いていても浮いた話をされることはない。せいぜい、一色の可愛さを求める男子がチラチラ見るだけだろうか。悪意や嫉妬といった感情を表面的とはいえ向けられなくなっただけで、生徒会長になったメリットはあったのではないか。
「英語苦手なんですねー? いつもいつも弱りきってますし。」
「どうしてあの授業を受けて平然としていられるんだ。あれ、もしかしてサボってるとか。」
「やだなー。生徒会長なわたしが集中してないわけないじゃないですかー。」
「集中して……」
「ました。」
特別棟まで行けば あまり人もいなくなってくるので、会話を始める。今日は生徒会室ではなく、奉仕部へ向かっているのである。一色さんが奉仕部に行くことは普段はない。つまり目的があって行くのであって、生徒会は奉仕部に依頼をしたいのである。対立どころか、こうも早く頼ることになるとは思わなかった。
一色さんがニヤリと笑って扉をノックして、「どうぞ。」という部長の声がする。怒られない程度に勢いよく扉を開けば、急に半べそをかきはじめる。この一瞬でなにかあったのかと思うほどの豹変ぶりである。
「せんぱーい、やばいですやばいです……本当にやばいんですぅ。」
「いろはちゃん、どうしたの? とにかく座って。」
まずは甘える声で庇護欲をそそる。加えてブレザーから出ているカーディガンの余った袖で涙を吹くふりをする。この一連のあざとさを受けて、由比ヶ浜先輩の純粋な優しさが報酬として手に入った。雪ノ下先輩は眉間に手を当てていて、比企谷先輩はギリギリ踏みとどまったようだ。
「あ、結衣先輩ありがとうございます。」
けろりとした表情で用意された椅子に座ったところはちょっとポイント低いんじゃないだろうか。俺もいつも通りの挨拶を交わして奉仕部にある特等席に座る。今日も本を持つ比企谷先輩はどこか浮かない顔をしている。
「とりあえず、話を聞きましょうか。」
冷静ッ!
先ほどまでの小悪魔の小悪魔的行動を完全にスルーして、早く本題に入るよう部長は促す。
「それがですね。今の仕事が超やばいんですよー……」
「どうやばいんだ?」
口を開いた瞬間 テンションが一気に下がってしまった、ように見える。もちろんこれも小悪魔の技で、先ほどは屈しなかった比企谷先輩が庇護欲を刺激されてしまう。
「もうすぐクリスマスじゃないですかー?」
「ああ、そうだな。……いや、話飛びすぎだろ。」
「え、飛びましたか?」
「そうだよ、ヒッキー。」
まさか俺には耐性があると思ったのか、そう そんなものはない。分かっていて思わず擁護してしまうほど、副会長は生徒会長に甘いのである。俺は悪くないと話の腰を折りたいはずの比企谷先輩は諦めて 腐った目で先を促す。
「で、クリスマスってことで、近くの高校と合同で地域のためのクリスマスイベントをやろうって話になってまして、なんかお年寄りとか小さい子相手のイベントっぽいんですけど。」
「へぇ、どこの学校と?」
「海浜総合高校の生徒会から学校側に連絡が来てしまって 平塚先生に丸投げされ……平塚先生に頼まれましたね、はい。」
運悪く逃げ道を塞がれてしまったのだ。先輩から聞いた拳の味を俺はまだ知らないが、言い訳をして腐った根性を見せてしまえばすぐに味わうことになるだろう。
「それで始めてみたものの、なんていうんですかねー。うまくまとまらないっていうか……」
「完全に主導権は握られていて、会議は滞っています。」
「まぁ、別の高校と一緒ならそんなもんだろ。気にすんなよ。」
「ですよねー?」
他校との合同イベントなど意見がすれ違うに決まっている。親睦を深めたいのなら せめてその2校だけで完結するものにしてほしい。そもそも初のイベント運営なのに荷が重すぎる。まだ生徒会発足したばかりかつ少人数の俺たちは地域との連携だけで精一杯になってしまうだろう。
「ていうか、こっち来る前に城廻先輩に相談しろよ。」
「えっと、ほら、受験生に迷惑かけるわけにはいかないじゃないですか!」
指をビシッと掲げて 思いついた言い訳を言う。前生徒会長である城廻先輩は一色いろはの天敵であって、小悪魔には純粋無垢な天使の光は眩しすぎた。彼女は指定校推薦みたいだし 快く力を貸してくれるだろうが、敵を考えるなら先輩たちが適任なのである。ちなみに比企谷先輩を生贄として、魔王 陽乃さんをアドバンス召喚してもいいが、敵の殲滅とともに俺たちへ胃痛をもたらすだろう。
「もう先輩たちしか頼れないんですよー?」
「そうね……。だいたい状況はわかったけれど……どうかしら?」
今まで沈黙を続けていた雪ノ下先輩がようやく口を開く。
「いいじゃん。やろうよ。ツッキーも入ったしさ、前みたいにみんなで頑張ってもいいかなって、思う、んだけど……」
だんだんと声は尻すぼみになっていった。
由比ヶ浜先輩は依頼をきっかけとして この雰囲気を解消したいのだと思う。互いにどこか遠慮し合って、言葉を使った馴れ合いをつづけているのが現状だ。バラバラに動いた生徒会選挙の時と違って みんなで動けば変わるかもしれないから。
「そう。なら、それでもいいと思うわ。」
「いや、やめといたほうがいいんじゃねぇの。」
一色さんが感謝を述べるより先に比企谷先輩は口を開く。良い方向に変わるか悪い方向に変わるかはっきりしないからではないか。だから 変わらないことを選ぼうとしている、いや、変わることを選ばないと言うべきだろうか。
「え?なんで?」
「これは生徒会の問題だ。それに、一色も最初から奉仕部を頼るのはいいことじゃない。月村がいるからなんとかなるかもだろうが。それに俺たちはあくまで手助けするだけだから、本当に困った時に来い。」
「えー?なんですかそれー」
文句を言いながら先輩に促されて 一色さんは奉仕部の外へ出ていく。
「ツッキー、本当に大丈夫なの?」
「幸い、まだ時間はありますからね。あれ、このままだとクリスマスも働かなきゃいけないのでは。当日に有給休暇とか取れないよな。あー、マジで海浜の生徒会はブラック企業だー。」
「ツッキーがヒッキーみたいになってる!?」
比企谷先輩が話をつける時間稼ぎをする。
「お二人は冬休みどうするので? 部活の方はいつまで?」
「年末は予定があるの。だから、終業式までかしらね。」
「なるほどです。」
「ゆきのんと年越しとか初詣行きたかったなー」
「ごめんなさいね。」
扉が開く音がすれば 一色さんと合流しますと挨拶をして、先輩と入れ違う。どうやら依頼を遠ざけることには成功したようだ。しかし時間を稼げたとして、変わらないことはいつまで選び続けることができるのだろう。俺自身選ぶことから避けているので答えは見つからないままである。
「先輩はどうするって?」
「恥ずかしいらしいんで、現地集合らしいです。」
どうやら先輩だけは協力してくれるようで、憂鬱さが少しは晴れてくれる。
実を言えば、あまり時間はなくて30分後には海浜との会議がある。防寒の準備を整えた俺たちは自転車で駅近くのコミュニティセンターに向かう。学校指定の上着を羽織っただけの俺と違って、一色さんは水色のマフラーを首に巻いている。
俺は自転車を押して歩く。
一色さんは基本的に徒歩であって、よくある恋愛物語なら2人乗りをするだろう。生徒会役員だからトラブルを起こしたくないのもあるが、あれって危ないのだ。注意して運転したとしても、いつ車や自転車が飛び出して来て転倒及び横転するか分からない。
「ロマンないですねー。」
「ロマンより俺は安全を選ぶから。」
「それってまさか―――
交通事故で入院した経験はない。だがしかし交通事故で気づくこともなく転生したのだ。一色さんの小悪魔的頼み方をされてもこれは譲らない。実際、半年くらい経つまでビクビクしながら超超安全運転をしていた。今も住宅街の曲がり角に見かけるカーブミラーで車の有無を確認することは多い。
「って!! その、もしかして聞いてましたか?」
「ヴェアア!?……ごめん、 聞いてなかった。」
「大丈夫です気にしないでください。というかヴェアアってなんですかそれ……」
本人がいいと言うなら気にしなくていいのだろう。
あー、心臓がぴょんぴょんした。
道路沿いにあったカ〇チに自転車を停めて店内に入る。以前来た時と同じくやはり仕事帰りの人や大学生で賑わっている。今回の目的は菓子類であって会議に持っていくものである。もちろんあちら側もお菓子やジュースを用意しているが、合同だからこそ甘えるばかりではなく対等だということを示さなければならない。
香りが強いものや音がするものは選ぶことはなく、個別包装かつ食べたい物を籠に入れていく。どうせ会議のこういう菓子類は余ってしまって持ち帰りになるのだし、必要経費として学校側に請求するのだ。条件さえ満たせば、残りは好みの問題だ。
とりあえず、ビスケットとココア風味のチョコが最高のアル〇ォートを買っておく。ファミリーサイズはミルクチョコといちごしかないのが残念である。今年発売された黒胡麻は今度自分で買うことにしよう。しかし、キャッチコピーである『午後の、楽しい時間に』は全くあてはまらないだろうな。ところでそもそも、このフレーズを知っている人ってどれくらいいるのだろう。
一色さんの選んだものが入っている籠を受け取ってレジに運ぶ。レジ打ちが終われば領収書をくれるように店員さんに言って、一色さんには支払いを任せて、籠を運び袋に詰めていく。
丁寧さを深くは求めず、嵩張る2つの袋を持つ。
「えっと、なんか 慣れてますね。」
「……あー、ほら、中学でこういうことやってたから。」
時間もあまりないことだったし自然にテキパキと動いたことが、不自然に見えてしまったらしい。前世に生徒会活動をしていたわけではなく、大学のサークル活動では何度も買い出しの機会があったのだ。文化祭のときなど自動車がいっぱいになるまで飲料を買ったこともある。
「へぇー。―――本当、頼りになりますね。」
ニコッと笑いかけてくれれば顔に熱を感じる。
しかし、どこか寂しげであったことは気のせいだろうか。
「せんぱーい!お待たせしましたー!」
自転車の前籠に荷物を乗せてコミュニティセンターまで向かえば、階段に腰掛ける先輩が見えた。俺は片手を挙げ、一色さんは走って向かっていく。