やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク) 作:ヒラメもち
次の日も会議。
海浜総合高校は距離が離れていることもあって 放課後すぐに始まるわけではない。生徒会室でいくつか仕事を終わらせる。残念ながらクリスマスイベントのことは何も具体的に決まっていないため進められない。会議が滞れば、こうしてどんどん仕事は溜まっていくのだろう。
「今日は会議進むといいですね。」
「そうだね。」
向かう途中口を開けば、本牧さんは苦笑いで言葉を返してくれた。一色さんと藤沢には先に買い出しに行ってもらっている。冬の夕暮れ時とはいえ、まだ完全に暗くはなく学校帰りで賑わっているから大丈夫なはずだ。
「発言しなきゃなーって思うんですけど、雰囲気に呑まれてしまうんですよね。」
「うん、ちゃんとしないとな……」
本牧さんも藤沢さんも、そして俺も場の雰囲気を読むことには長けている。雰囲気に求められれば意見を述べることはできるが、人が多くいる場では会話の主導権を譲ってしまうのだ。
自転車を停めて 戦場に赴く。
「一色さんに、その、俺って嫌われてたりする?」
「学年違いで遠慮はしていますけれども、そういうことはないですよ。……もしかして狙ってないですよね?」
「え、狙ってたんだ。俺は藤沢さんが少し気になっているかな……ごめん忘れてくれ。」
「え、気になってたんですか……はい、心に留めておきます。」
草食系男子2人だけの恋バナとか誰得である。しかし秘めていた想いを誰かに告げたことで、少しだけ心が軽くなったのを実感した。『がんばろう』という言葉はお互い口には出さないけれども、勇気がもらえたのは確かだった。
「2人とも、おっそーい!」
「ふふっ、それほど待ってませんよ。」
コミュニティセンターの玄関で待っていた2人に『お待たせ』を伝える。
「あっ……。ありがとうございます。」
本牧さんが自然と手を出せば、自然と重い袋を手渡しした。
慣れないことをするから 2人とも顔真っ赤である。
「そこは気の利いたセリフ欲しいとこなんですけどね。テイク2やってみます?」
「熱が悪化するでしょうが。」
茶化しながらも 俺にも自然と手渡ししてくれる。
締まらないけれど、たまには草食系男子もカッコつけたいものなのだ。またいつか彼女たちのどこが『好き』なのか、男同志で密かに語り合ってみるのも悪くないだろう。
「うーん、まだちょっと固まりきってないから昨日のブレストの続きからやっていこう。」
先ほどまでの俺たちの甘酸っぱい青春物語を返してください。比企谷先輩も無事現地集合し 会議が始まった途端、この一言だ。ちょっとどころではなく全く固まりきっていないドロドロの泥沼状態である。
「せっかくだし、もっと派手なことしたいよね。」
「それっ!あるある。やっぱり大きいことっていうか。」
高校生も大学生もすぐに机上の空論を出す。こうして突発的で面白いアイデアが出てくるのだと元理系学生としては肯定的に思ってしまう。ただしもう少し時間と余裕があるときにしてほしい。
折本さんの発言に玉縄さんのキーボードを叩く音が止まる。
「確かに、小さくまとまりすぎてたかもしれないな。……というわけで、ちょっと規模感を上げようと思うんだけど、どうかな?」
「そうですね、ちょっと微妙かなとは思うんですけどー?」
視線を向けられた一色さんは言葉を濁す。しかし言葉は上手く伝わらず、肯定として受け取られてしまう。どこまでポジティブシンキングなのか分からないが、そもそも形式的な確認を取っただけなのかもしれない。
「日程的にキツくないですか?」
「だな。規模を大きくするには時間も人手も足らないぞ。」
「ノーノー。そうじゃない。ブレインストーミングはね、相手の意見を否定しないんだ。時間的問題と人員的問題で大きくできない、それじゃあどう対応していくか。そうやって議論を発展させていくんだよ。すぐに結論を出しちゃいけないんだ。だから君たちの意見はだめだよ。」
俺と先輩の援護も躱されてしまった。
理屈っぽい理由で言い訳して、自分の中でいろいろ考えて完結してしまうのだ。こうして実際に聞く側に回れば、自分の醜い部分を実感してしまい思考の渦に巻き込まれそうになる。だが今はそんな場合じゃないし、憤りという感情をいつものように隠す。
「どう可能にするかを話し合おう!」
先ほどの長々とした発言で否定することは許されず、本来の目的である言葉を並べるどころか 賛成しか許されない雰囲気となったのだ。今は人員的問題の解決のために、組織を巻き込もうとしている。まさに数の暴力であって、そう簡単には盛り上がる馴れ合いに割って入ることはできない。
「これはフラッシュアイデアなんだが、さっきの提案へのカウンターとして、2校のより密接な関係を築いて連携をとることで、最大限のシナジー効果を期待する方がいいと思うんだが、どうだろう?」
先輩は玉縄さん1人に対して言い切った。この場を取り仕切っている者にのみ意見をぶつけることで、先ほどのように味方を増やさせないようにしたのだ。簡潔に言えば、「これ以上組織を増やすな。」という否定的意見なのだが、相手の土俵に上がることで言い逃れできないようにする。
言葉を弄して 策略的に自分の考えを伝えることを選んだ。
「……なるほど。じゃあ、高校じゃないほうがいいね。大学とか。」
「マジレスすると大学生は自重しませんし、俺たち
「そうだな。イニシアティブをとれない。ステークホルダーとコンセンサスを得るにしても、ブレないマニフェストをはっきりとサジェスチョンすることができるパートナーシップをだな……」
「何言ってるんですか……」
実際にやってみると、ぶっちゃけ言った本人も何を言おうとしたか分からなくなってくるものなのだ。大柴さんってすごい人だったんだな。あと、いい子はネットスラングをリアルで口に出しちゃダメだぞ。
「確かに。それじゃあ……すぐ近くにある小学校はどう?僕たち高校生だけじゃなく、違う方向性も取り入れられるかもしれない。」
ビシッと指を掲げていきなり代替案を提示されたなら、俺も先輩も準備が間に合わない。頭の中、カタカナ単語でいっぱいになって言葉にできなかった。
「うんうん、ゲームエデュケーションだね。」
「WinーWinだね。」
「ウィンウィン! それある!」
「よし!小学生のアポイントとネゴシエーションはこっちがやるよ。その後の対応を総武高校にお願いできると嬉しい。どうかな?」
あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!
『さらに規模を大きくするため協力者を増やすこととなる。大学生や高校は阻止することができたが、代替案として小学校を提示して盛り上がった。折本さんのグッジョブが入ったことで今まで意見を選ぶことを避けていた彼が決断したのだ!!』
「えっと……」
「これは大切な2択で、だから自分で決断するんだ。どちらでも月村たちは付いてきてくれる。ここは生徒会長である一色の判断に任せる。」
不安そうに俺たちに一色さんが視線で尋ねれば、先輩が『魚そのもの』を渡すのではなく『魚の獲り方』を教える。
「お任せします。」
藤沢さんも微笑みながら小さな声で伝える。
それは生徒会長に全てを丸投げしたのではなく、もっと堂々と命令してほしいからだ。俺たちは生徒会長の指示に従うし、もし間違っていたら正すし、責任も一緒に負う。本当に一色さんが生き生きと自分を出せていない'状況'がずっと気に入らなかった。引っ込み思案の俺たちをもっと引っ張っていってほしい。
一色さんの『決断力』で魅せてほしい。
「はい、小学生の対応は任せてください!」
小学生の協力というのはメリットが確かにあるし、迷うよりもいっそ賛成したのだ。海浜側は協力者を増やすという意見は変えることはないだろう。更に中学校が提案されるどころか、また他高校や大学まで意識が戻ってしまい会議が滞ってしまったら堪らない。
「小学生を呼ぶとして、どれくらい呼ぶのかな?」
そして本牧さんも、場に意見を述べる。
「そのためにも、保育園やデイサービスの人たちの人数も確認しないといけませんね。」
「じゃあ、俺たちは保育園の方に行きますが、どうします?」
一気に状況を動かすために畳みかける。
場の雰囲気を読むことに長けているということは武器である。うちの生徒会長が場さえ整えることができたなら、俺たちは実力を発揮できるのだ。俺は私利私欲のために比較的交渉しやすいだろう保育園を一早く選択した。
「そうだね。こっちでデイサービスの人たちには確認しておくよ。」
今日の会議はこうして終わる。具体的なことはまだ何も決まっていないが、今はまだまだ働けることは確かだ。少しとはいえ俺たち生徒会が前に進んだからなのだろう。
「ではでは、二手に分かれますねー!私と沙和子ちゃんは保育園に行きます。ここはよろしくでーす!」
「よろしくお願いしますね。」
「了解。」
「わかった、気をつけて。」
手持ち無沙汰な比企谷先輩には、もちろん重要な『依頼』があるのである。
「じゃ、先輩。俺たちが行くまでボディーガードよろしく頼みますよ。」
「へいへい、お前も頑張れよ。」
美少女2人の護衛は役得だろうに、あまり乗り気じゃないところは先輩らしい。3人が部屋から出ていくのを確認して 作業に入る。パソコンで箇条書きにされたメモをもとに、議事録を纏めていく。
ふと考える。
先輩って知らない人から見れば不審者に見えないか と。
制服を着ているとはいえ、2人の美少女を侍らせているとはいえ、保育園の子どもたちから恐れられるかもしれない。しかしあれでいて、意外と年下の面倒見がいいことはギャップ萌えするのだろう。例えば、迎えの来ない園児の女の子と時間を潰していたら、実は同級生の妹でしたみたいなドキドキの展開があるかもしれない。
纏めたプリントを玉縄さんに物理的に叩きつけてやりたいのをこらえて、確認をしてもらえばさっさと退散することにする。海浜側は閉館時間ギリギリまでディスカッションを続けるようであるし、巻き込まれたくないのである。
「で、藤沢さんのどこが好きなんで?」
「世の中には言い出しっぺの法則ってものがあるんだよ。」
あれこれ言い合いながらも結局恋バナに達することはなく、保育園前で彼女たちと合流したのだった。いつものように二手に別れて、夜道をドキドキしながら帰宅していく。
草食系男子は今日も想いを密かに抱いて、選ぶことはしない。