やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク) 作:ヒラメもち
海浜側がアポを取ってくれ、駅のすぐ近くの小学校から6年生女子8人を連れてコミュニティセンターまで来た。もちろん引率の先生も来てくださっているが高校生側に基本任せるつもりらしい。
「クリスマスってサンタさん来てくれるんだよね!」
「え、そうなの?」
「ねぇー、なにをすればいいのー?」
どこまで話が伝わっているか確認すれば これである。何を言って集まってくれたのか分からないが、現状説明もなく放置というわけにもいかない。まだ具体的なことが何も決まっていないことが心苦しい。小学生たちの意見も聞こうという理由だろうが、あの会議に巻き込んだところで、この子たちは黙って聞いてくれるだけにすぎないだろう。
視線の高さを合わせたまま口を開く。
「クリスマスイブにね、地域のおじいちゃんおばあちゃん、保育園のみんながパーティーに来てくれるから、そのお手伝いをしてほしいんだ。今日は……飾りつけの準備かな。」
「「へぇー」」
すでに場の雰囲気を読むスキルまたは癖があるようで ヒソヒソ話を始める。
「どうする?」とか「なんか楽しそう。」とかぶっちゃけ丸聞こえなのだが、待っていれば1人の子が代表して口を開いてくれる。
「いいよ。」
「ありがと。」
タイミングよく本牧さんと藤沢さんが荷物を抱えてやってきた。折り紙や色画用紙やはさみ、のりなどを生徒会室からかき集めてきてくれたのだ。そろそろ始まるだろう会議については途中参加することにして、俺と藤沢さんで子どもたちの面倒を見ることにする。小学生たちの対応は総武側が受け持っているし 海浜側はすでにディスカッションで忙しいようだし。
「おにいちゃん下手―」
「もー、貸して」
紙飛行機しか自信がなく、十年以上前に折った花をぎこちなく折っていたら、ぶんどられる。パーティーでよくある輪っかを作るためにぎこちなくハサミを使っていれば、ぶんどられる。絵を描こうとする前に、色鉛筆をぶんどられる。俺の図工の成績は意欲関心だけで成り立っていたとだけ言っておこう。
どこか遠慮していた彼女たちも作業を始めれば 生き生きとしている。固定された作業をすることはなく、豊かな表現力を存分に発揮し多種多様な装飾物を作っていく。上手にできたと思えば見せてくれて、褒めることで彼女たちのやる気は連鎖的に向上していった。同姓だからすでに おねぇちゃんとなった藤沢さんは囲まれて逃げ出せない。
「あのお兄さんとは知り合い?」
「そうだけど。」
独り黙々と作業をしていた子に話しかけたが、会話は続きはしない。たぶん比企谷先輩をチラチラ見ていたため 話題として提供してみたが上手くいかなかった。一度離れてパソコンと、はさみと折り紙を持って側に座りこむ。
「みんなのとこ行ってきたら?」
「見返す方法ないかなって探してる。なにかない?」
テザリング機能でネット回線を繋げたパソコンを開く。
『クリスマス 飾りつけ』と画像検索して、材料と技術的にできそうなものを探す。
「これ。」
「おお、雪の結晶か。」
指差してくれたのは切り絵だった。あらかじめ4つ折りしておいて、書いた線通りにハサミで切って開けば完成しているという簡単なものだ。「よし。」と声に出して意気込んで、鉛筆で折り紙に書きこみ始める。これは線でできた図形の応用だと思えば なんか行ける気がする。
「できたよ。……え?」
「留美ちゃんすごい!」
「みんな見て見て!」
俺よりも早く完成した物を見た子どもたちは、はしゃぎ出す。
カンニングした俺が言うのもなんだが、それは盲点ともいえる装飾物だった。時間と労力をかければいいものができる可能性は高くなるだろう。しかし柔軟に考えることができたなら、簡単にいいものが完成するのだ。会議の様子を見れば ブレインストーミングで並べられた案が目に入ってしまう。
ともかく、その完成品を見て「教えて。」の嵐に彼女は巻き込まれた。
困惑から立ち直り 慣れないながらも教えているし、きっかけさえあれば大丈夫そうだ。
「月村君、すごいですね。」
「藤沢さんも、立派なおねぇちゃんやってたな。」
俺たち高校生及び大学生は子どもたちからすれば、特殊な年齢層なのだ。友達とも違って 親や先生とも違う、一期一会のお兄さんお姉さんである。頼りになるおねぇちゃんとも、どこか頼りないおにいちゃんとも、時には遊ぶ機会ってあっていいと思う。兄弟姉妹のいない子どもも増えているしな。
「○○先生、そろそろですかね?」
「ええ、貴重なお時間をありがとうございました。」
「いえいえ、こちらこそです。……よーし、外も暗いし帰る時間だ!」
「「「えー。」」」
「今度来たらクリスマスツリーの飾りでも作るか?」
こうして、目を輝かせてくれる子どもたちとの時間はあっという間に過ぎるのだ。別れを惜しむ声と笑顔が何よりも報酬で、楽しんでくれた証明を自然とくれる。ボランティアは楽しいという『実感』は確かにあったのだ。
「それで、どこまで決まりましたか?」
しかし本来の仕事が終わったとは言っていない。○○先生と手分けして子どもたちを送っていった後、会場まで戻ってくる。子どもたちとの楽しい時間をいい感じに締めたと自負しているのだが、こっちの状況はまだ芳しくないらしい。子どもたちが作ってくれた『成果』を丁重にダンボールに詰めながら、状況を尋ねる。
「……悪い。一色たちに聞いてくれ。」
比企谷先輩はどこか浮かない顔をして 会議室から出ていく。
本牧さんからメモを見せてもらえば、前回よりはマシに思えてしまう。
何を悩んでいたかは俺には分からないが、悩んでいるという事実だけは分かる。しかし先ほどのように独りを孤立させないようにすることはできなかった。先輩たちにどんな言葉をかけてあげればいいのか、事情を深く聞くこともしない俺にはできなかったのだ。依頼というきっかけを遠ざけた奉仕部の関係は壊れることもないが変わることはない。
このままじゃいけないとは思うし、雪ノ下先輩と由比ヶ浜先輩に会ってみようか。
その後、俺たちも会議室を出て今日は各自帰ることになった。
飾りつけの入ったダンボールや文房具などを借りている会議室に置いていくわけにはいかない。もちろん、明日には場所を確保してもらうつもりである。この際、もう会場設営を始めることで会議に発破をかけてみるのもいいかもしれない。
「それで伊月はいつもどんな様子ですか?」
「そうですねー、授業もちゃんと受けてますよ。生徒会もバリバリ働いてくれています。今日なんか子どもたちの面倒見よかったですかねー。あれ、もしかして 年下好き?」
「ここで好きって言ってもロリコンとか言うなよ? いや、好きだけどな。」
「そうですか。」
「なんで残念そうなんですかねー……」
仕事帰りの親に連絡して来てもらったのである。
すでに暗くなっていることもあって、一色さんも送り届けることになった。知り合いの親って緊張するものだろうに すでに意気投合しているのである。今や俺を置いてきぼりに三者面談するまでに至っている。
「本当に昔から手間のかからない子で。」
「へぇー。」
実を言えば、俺に『昔』なんてない。
似た青春を送ってきたようだが 出身地も違うし、人間関係も違うのだ。高校入学前というのはタイミング的にちょうどよかったのかもしれない。1度目の青春で得た繋がりを全てリセットして、ここに俺がいるのだ。
「もっと頼ってくれていいんですけどね。頼ってくれていいのよ?」
「ですね。もっと頼ってくれていいんですよ?」
「え、これ俺が外野なの?……ま、何かあればな。」
あらかじめ言っておいた公園で車は停まる。
「本当にここでいいの?」
「はい、ありがとうございました。」
「いえいえ、伊月のことよろしくお願いしますね。」
「はーい。任せてください♪」
足早に帰宅していったのを見届けて、車は発進する。
「好きなんでしょ?」
「まあな。やっぱり気づくか。」
「あなたのお母さんですもの。がんばりなさいよ。」
どれだけ年を取っても、俺は母親には敵わないらしい。
「で、一色さんのどこが好きなの?」
母さんとはよく似ていると 父さんには言われる。
心配かけまいとしていても 親には心配をさせてしまうものだ。
こうしていつも顔を合わせていても、
たとえ遠く離れていても、
安心させてやりたいと思うのは 俺が息子だからだ。