やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク)   作:ヒラメもち

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第13話 『本物』

 

もうクリスマスイブまで残り1週間を切った。

 

海浜側はずっとディスカッションを続けていて、外野から見れば 音楽のジャンルの良さを述べ合っているに過ぎない。もはや『お互いにリスペクトできるパートナーシップ』なんてものはない。パーティーといえば演奏会という話題から派生していったのである。

 

総武側と言えば、

藤沢さんや一色さんが小学生たちと協力して装飾物を製作していった。さらに海浜側から抜け出してきた折本さんも協力してくれている。発注したツリーも無事届いて、すでに会場で飾りつけも順調に進んでいるのだ。

 

俺や本牧さんはといえば息抜きに顔を出す程度だ。比企谷先輩も知り合いの女の子を気に掛けて時折り手伝いに行く。俺たち男子組は、根拠を用意して海浜側に何度も進言するしかない。会議で内容が固まりきっていないので、仕事大好き人間がデスクワークすらできないのだ。小学生たちの様子を見に行ったとき 成果を自慢してくることが何よりも癒しである。

 

 

「6限の体育って マジでないと思うんですよ。」

 

「終われば放課後だからって、ギリギリまでやるしな。」

 

「女の子の放課後って貴重なものなんですけどねー。」

 

「生徒会長ご苦労様です。」

 

「そっちの意味で伝わっちゃったか。」

 

 

 

夕日が照らす特別棟を一色さんと並んで歩く。

海浜側から会合を休みにすることを提案されたため 奉仕部に向かっているのだ。

 

 

比企谷先輩はいつも協力してくれる。

先輩がいれば憂鬱な時間は憂鬱ではなくなるのだ。このままずっと頼ってはいけないのだと思うが、それでも甘えてしまうのは先輩が頼りになるからなのだ。奉仕部の目的はサポートに過ぎないはずなのに同じ時間を過ごしてくれて、傷ついていく。

 

海浜側と言葉がすれ違いながらも会話を続けようとして、時には 独りを選ぼうとする1人の女の子に寄り添っている。先輩がいなければ 状況はもっと滞っていただろう。

 

このまま頼り続けてはよくないと思えたから、雪ノ下先輩と由比ヶ浜先輩に相談しようと思ったのだ。

 

 

 

「待って。」

 

扉からそっと手を離す。

その行動に確かな理由は存在しない。

 

最近開くことのなくなった扉の前に立てば、声が聞こえた。

たぶん比企谷先輩に投げかけた雪ノ下先輩の言葉であって、俺たちに向けた言葉じゃない。

 

 

先輩を呼びに来ただけなのに、なぜだか今は聞かなければいけない気がした。もしここで扉を開いてしまったなら奉仕部という場所は消える気がした。そして俺たちが変わるきっかけとなる気がした。

 

 

「そうじゃないよ。なんで、なんでそういうことになるの?おかしいよ。」

 

「いや、おかしくはねぇよ。……自分のことは自分で。当たり前のことなんだ。」

 

感情の籠った由比ヶ浜の声と違って、あまり大きな声を出さない比企谷先輩の声は扉に近づいてくれたおかげで 奉仕部の外に漏れる。俺や一色さんにとっては話の途中からだ。奉仕部に関わったのも途中からなのだ。

 

それでも、察することはできた。

 

「……そうね。」

 

「違うよ。2人が言ってること全然違うもん。あのね、ヒッキー1人の責任じゃないんだよ。考えたのはヒッキーだし、やったのもヒッキーかもしんない。でも、あたしたちもそうだよ。全部、押し付けちゃったの。」

 

「……いや、それは違うだろ。」

 

「こうなってるのってヒッキーだけが悪いんじゃなくて、あたしも、そうだし………ゆきのんの言ってること、ちょっとずるい思う。」

 

「……今、それを言うのね。……あなたも、卑怯だわ。」

 

たぶん俺たちのように、2人は先輩ならなんとかしてくれると思ったから信頼して、結局は『やり方』を否定して傷つけてしまった。本当はもっと頼ってほしいという優しさを隠して 一定の距離を保ってしまったのではないか。同情とか憐れみとか、安易に近づきすぎることを先輩は拒んでしまう。

 

だって、先輩が大切だから。

だから傷つけたくないし、信じるのだ。

 

「待て、そういう話がしたかったんじゃねぇんだよ。」

 

先輩が2人の言い争いを止めようとする。もし、先輩が口に出さなければ 俺たちは扉を開けてしまっていただろう。扉を隔てて外から聞いているだけでも辛いものだったのは確かなのだ。

 

 

「ゆきのん、言わなかったじゃん……言ってくれなきゃわかんないことだって、あるよ。」

 

「……あなただって言わなかった。ずっと取り繕った会話ばかりしていた。」

 

それは俺の責任でもあるだろう。日常に隠れた本当から目を逸らして、奉仕部の過去も未来も聞こうとしたことなどなかった。ありのままの今を続けることが最善手だと自分に言い聞かせてきたのだ。

 

「だから、あなたが、あなたたちが望んでいるならって、そう……」

 

一気に壊れる可能性から、変わらないことを選んだ。

 

「言わないとわからない、か。でも、言われてもわかんねぇことあるだろ。」

 

「そんなこと……」

 

ない という断言を由比ヶ浜先輩はできなかった。

 

「……言われても、たぶん俺はそれに納得できないと思う。なんか裏があるんじゃないかって、事情があってそう言ってるんじゃないかって勝手に考えるかもしれない。」

 

「でも、そのぶんちゃんと話せば、ヒッキーともっと話せば、あたしは……」

 

「そうじゃないんだ。」

 

伝わらなかった1人1人の感情。

すれ違いが起きた。

大切に思うからこそ 傷つけ合った。

 

 

「言ったからわかるっていうのは傲慢なんだよ。言った本人の自己満足、言われた奴の思い上がり……。いろいろあって、話せば必ず理解し合えるってわけじゃない。だから、言葉が欲しいんじゃないんだ。」

 

「だけど、言わなかったらずっとわかんないままだよ…」

 

「そうだな……。言わなくてもわかるっていうのは、幻想だ。でも……。でも、俺は……」

 

言わなくても伝わるとか心が通じ合うとかっていうのは、この現実で『理想』のままなんだろう。

 

比企谷先輩とのラノベの雑談、由比ヶ浜先輩との日常会話、雪ノ下先輩との勉強の話、藤沢さんとの生徒会、本牧さんとの恋バナ、平塚先生の授業、戸部先輩との部活の話、葉山先輩との相談、クラスメイトとの定型文、小学生との遊び、玉縄さんたちとの会議、そして『一色さんとの青春』。

 

話したい。仲良くしたい。一緒に過ごしたい。安心させたい。頼ってほしい。分かってほしい。傷つけたくない。そうやってどれだけの時間と回数を重ねても何かが足りない。

 

「それでも…」

 

先輩が声を絞り出せば、俺も身体が震えた。

 

「それでも、俺は…」

 

「俺は、『本物』が欲しい」

 

先輩にとっての『本物』が何であるかははっきりしない。

自分にとっての『本物』を探しにいくことが重要なのだ。

 

 

考える。

 

安らぎを貰いたい。頼りたい。甘えたい。デートしたい。好きと伝えたい。そして、ずっと側にいたい。しかしそもそも、『異物』が人を愛するなんて自己中心的でひどくおぞましいことなのだ。だから、俺という転生オリ主は醜い感情を隠すし ちゃんとすることはない。

 

それでも、

めんどくさい俺を望んでくれるのなら―――

俺も『本物』を求める。

 

真剣に聞いていた一色さんもどこか腑に落ちた顔をしている。

 

 

 

 

「私には、……分からないわ。ごめんなさい!」

 

雪ノ下先輩が部屋から飛び出してくる。

俺たちのことに気づかないほど冷静さを失っていた。

 

「ヒッキー行かなきゃ!一緒に行くの! ……ゆきのん、わからないって言ってた。どうしていいかも分かんないんだと思う。あたしだって全然分かんない!でも、でも分かんないで終わらせたらダメなんだよ!今しかない。あんなゆきのん、初めて見たから……今、行かなきゃ……」

 

「1人で歩けるからいい。……行くぞ。」

 

 

先輩と由比ヶ浜先輩が続いて出てくる。

 

「先輩、雪ノ下先輩なら上です 上。」

「雪ノ下先輩のこと よろしくお願いします。」

 

「……ああ。」

「うん、ありがとう。」

 

「「それじゃあ、また明日です!」」

 

俺たちは先輩たちの後輩である。

しかしまだ俺たちは本当の奉仕部を知らない。

 

扉が開いたままの奉仕部という場所には、今は誰もいない。しかし先輩たちなら また3人でこの『本物』と呼べる場所に戻ってきてくれるはずだ。そんな先輩たちに過去の依頼でも今度聞いてみることにしよう。そして奉仕部の未来については自分で見てみることにしよう。

 

 

澄んでいる夕暮れの空は奉仕部を確かに照らしていた。

しかしまだ夜は訪れない。

 

「その、いろはさん、俺と友達になってくれない?」

 

場の雰囲気によって勢い任せに 口に出しただけであって、カッコつけることなどできず自信なさげに伝えてしまう。こういう重要なところで締まらないのが、俺らしさなのかもしれない。それでもようやく一歩は踏み出すことができた。

 

 

「なんですかもしかして口説いてるんですか 今ちょっと感慨深いシーンなんで今度出直してきてくださいごめんなさい。」

 

「いや、今は口説いてないから!!」

 

いや、いつかは口説こうと思っていますけどね。

本当に心臓をバクバクさせてくれる。

 

「ていうか、伊月君とはすでに友達ですよ。」

 

やはり彼女の可愛さに振り回されるのが好きなのだろう。

 

 

 

「さ、お仕事終わらせちゃいましょうか。」

「うちの生徒会長がまさか自分からとは……」

「はーい 失礼なこと言ったので、ノルマ増やしまーす。」

「任せな。」

「いやその年ですでにワーカホリックなんですか。今から将来心配しちゃいますよ。」

 

夕日の下、2つの影は確かに少しずつ近づいていた。

 

「あ、そうだ。」

 

隣で見上げてくる小悪魔は綺麗だった。

 

「今は、友達なんですよね。だから―――

 

覚悟しておいてくださいね。

 

 

 

 

 

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